本物の恋、見つけました ~僕らの恋は偽物だったと言った癖に今さらやり直そうとか無理です~

日之影ソラ

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第一章

7.幸せな時間

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「ご馳走様でした」
「お粗末様でした」

 パンと手を合わせて丁寧にお辞儀をする。
 お弁当の中身は綺麗に空っぽだ。
 お弁当を食べてもらって、こんなにも嬉しいのは久しぶりだ。
 昨日も嬉しかったけど、今日はもっと嬉しい。
 何度も美味しいと言ってくれて、残さず食べてくれて。
 ブロア様はよく残すし、聞かないと感想は言わないから、尚更ニコニコしてしまう。

「そうでした!」
「え、何?」
「今日はユートに聞きたいことがたくさんあるんです!」

 いけないわ。
 浮かれすぎて大事なことを忘れる所だった。
 そうね、まずは好みを聞きましょう。

「ユートの好きな食べ物はなんですか?」
「好きな食べ物?」
「はい! 明日からの参考にしたいので」
「明日も作ってくるつもりなのか?」
「もちろんです!」

 私がそう答えると、ユートは驚いているように見えた。
 その反応で不安になった私は、しょぼんとしながら尋ねる。

「め、迷惑ならやめます……」
「別に迷惑じゃないよ。ただわざわざ作ってくるのも大変なんじゃないかと思って」
「大変じゃありません! ユートが美味しいと言ってくれれば、疲れなんて全部ふっとんじゃいますから」
「むっ……そういうの急に言うな」

 ユートは恥ずかしそうに目を逸らす。
 昨日の告白はサラッと冷たくあしらわれて、好意を伝えるくらいでは何も揺らがないと思っていたけど、今日はよく照れる姿を見せてくれる。
 それってつまり……私を意識してくれてるってことですよね!

「嬉しいです」
「え……今感謝されるようなこと言ったっけ?」
「全部にですよ。ユートに出会えたこと、こうして一緒にお昼を過ごせること、全部が嬉しいんです」
「そ、そうか」
「はい!」

 戸惑うユートも可愛い。

「それで! 好きな食べ物は!」
「え、ああ……そうだな。好きな食べ物か」
「ユート?」

 彼は考え込むように顔を伏せる。
 そんなに難しい質問ではないはずなのに、重い表情を心配する。

「いや悪い、あんまりそういうの考えたことなくてさ。急に出てこないんだよ」
「そ、そうなんですね」

 ユートは申し訳なさそうに答えた。
 不意にした質問だったけど、彼にとってあまり良くなかったのかもしれない。
 もしかして、暗い過去があったり……そう思うと悲しくて、勝手に私がしょんぼりする。
 そんな私に気付いてなのか、ユートは言う。

「だからさ。もし作ってきてくれるなら、君の得意なものが良いよ」
「――はい! 任せてください!」

 今の一言はきっと、ユートなりに気を遣ってくれたんだわ。
 私の些細な変化に気付いて……
 昨日会ったばかりなのに、ブロア様でも出来ないことを、彼は当たり前のようにくれる。
 また一つ、彼のことを好きになる瞬間だ。

「あ、でしたら食べられない物もありませんか?」
「うーん、たぶんないと思うけど。あ、でも極端に苦いのとか、辛いのは苦手だな」
「甘いものは?」
「あんまり食べないけど嫌いじゃないと思う」
「わかりました! じゃあ今度はお菓子も作ってきますね! 私こう見えてお菓子作りも得意なんですよ!」
「ああ、まぁ無理しないようにな」

 遠慮がちな所も素敵だわ。
 ブロア様なら、それくらい当たり前だろみたいな空気を出すところなのに。
 何だか彼と比べると、ブロア様に尽くしていた自分が馬鹿らしく思える。
 
「ユートのクラスは何組ですか?」
「三組だ」
「三組! ということはレオン君と一緒ですね」
「レオン?」
「レオン・ブライト君ですよ! 赤い髪の毛はツンツンで、ちょっと見た目は怖そうだけど良い人です」

 私はレオン君の容姿を真似しながらユートに伝える。
 レオン君はシスティーの婚約者で、私とも小さい頃からの知り合いだ。
 身体も大きいし顔つきがちょっと怖いけど、気を遣えるし優しくて良い人だわ。

「……ああ、あいつか。声が大きい」
「そう! レオン君の声はとっても大きくて響くの」
「初対面であいさつされた時……鼓膜が破れるかと思ったよ」
「ふふっ、それはちょっと見てみたかったです」

 ユートは勘弁してくれとため息をこぼす。
 その後も色々と質問して、彼は丁寧に答えてくれた。

「俺は貴族じゃなくて平民の生まれだからな」
「そうだったのですか? 平民の生まれで三組になれるなんてすごいですよ!」
「別にすごくないだろ。一組のほうが成績は上だ」
「すごいですよ! だって一組は貴族じゃないと入れないっていう暗黙の掟がありますから」
「そうだったのか?」
「はい! あ、でもこれ内緒にしてくださいね」

 この学年でのクラスは男女で分けられ、奇数が男子、偶数が女子となっている。
 全十クラスあり、成績上位者ほど数字の小さいクラスに所属している。
 つまり、男子は一組が特待クラス、女子は二組が特待クラスだ。
 基本的には前年度の成績を元に決まるのだけど、貴族の見栄のためか、一組に平民は入れない。

「秘密ならしゃべっちゃダメだろ」
「ユートだけ特別です!」
「勝手な奴だな……」

 幸せな時間。
 穏やかで、居心地の良い時間も、チャイムと共に終わりを告げる。

「そろそろ戻るぞ」
「はい! 明日も来ますね」
「……好きにしろ」
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