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第一章
8.地味だけど
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「ねぇエミリア、最近何だか楽しそうね」
「そ、そう?」
放課後、突然システィーが私にそう言った。
「そうよ。この間は死にかけの魚みたいな目をしてたのに。次の日から急に元気になっててビックリよ」
「あははははっ、その節はご心配をおかけしました」
私は丁寧にお辞儀をする。
システィーは小さくため息をこぼし、優しく笑って言う。
「まぁいいわよ。元気になってくれたなら何でも」
「ふふっ、ありがとうシスティー」
「私は何もしてないわ。で、何か良いことがあったんでしょ?」
「う、うん、実は――」
「それオレも知りたいなぁ~」
野暮ったい口調で私たちの会話に入り込んできたのは、見上げる程大きな体の男の子。
「レオン君」
「よっ! エミリア」
レオン君はピシッと右手を挙げて挨拶をしてきた。
彼はレオン・ブライト君。
システィーの婚約者で、私の家とも昔から縁があり、三人でよく遊んだりしていた。
いわゆる幼馴染という関係だ。
「珍しいわね。そっちから迎えに来るなんて」
「おう。オレのほうが先に終わったからな」
「そう。というより、婚約者の私には挨拶もないわけ?」
「別にいいだろ? お前とは朝から顔合わせてるんだからさ」
「良くないわよ! ちゃんと挨拶しなさい! ほらやり直し!」
「うるさいな……もっと小さい声でしゃべってくれ」
「あなたに言われたくないわね」
ガミガミガヤガヤ。
二人は良い争いを始めてしまった。
見ての通り、婚約者だけど二人は仲が悪い……ように見えてとても良い。
仲が悪く見えるのは、付き合いが長い分遠慮がないからで、本当はお互い信じあっている。
たぶん私だけじゃなくて、周りのみんなも気づいているはず。
二人の絡みを見ていると、こっちも楽しくなるわ。
「あーもういいわ! その話はあとにして」
「そうだな。エミリアの話に戻ろうぜ」
二人そろってこっちを向く。
急な話題転換にドキッとした私は、戸惑いを表情に見せる。
「良いことがあったんでしょ?」
「うん」
「何があったんだ?」
「実は……」
「あーもしかしてそれ――」
「好きな人が出来たの」
「「えっ?」」
二人の声がシンクロして、数秒間ピタリと動きを止めた。
そして、思い出したかのように動き出す。
「ええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
「ちょっ、うるさいわよレオン!」
「いやだってさ! お前も驚いただろ?」
「驚いたに決まってるでしょ! エミリア、それ本当なの?」
「えっへへへ~」
システィーに聞かれたとき、私の頭にはユートのことが思い浮かんでいた。
自然ににやけた顔を見て、二人がごくりと息を飲む。
「この反応はマジだな……」
「そ、そうみたいね。ねぇ相手は誰なの?」
「三組のユート・バスティアーノ君よ。レオン君は同じクラスだし、知ってるわよね?」
「ユート……ああ! あの黒髪の地味なやつな」
私は地味という単語にピクリと反応する。
「そ、そうね」
「えぇ! あの隅っこで本読んでる地味な子!?」
「何だよ、お前も知ってたのか」
「ま、まぁ何度もあなたの教室には行ってるし、顔は見たことあるわ。けどあんな地味な子だとは……」
地味と連呼されて、さすがの私もちょっぴり怒っていた。
それに気づいたシスティーが、やってしまったという表情をしている。
「ご、ごめんエミリア! 別に悪い意味で言ったわけじゃないのよ?」
「いや、良い意味の地味って何だよ」
「うるさいわねレオン! あなたも早く謝りなさい! 怒ったエミリアの怖さは知ってるでしょ!」
「知ってるけど、つーか手遅れだろこれ」
「う……エミリアさん?」
「確かに……」
私が口を開くと、システィーはビクリと身体を震わせる。
「確かに彼は地味だと思うわ。見た目も、雰囲気も普通だし……でもそこが素敵なの!」
「……え?」
「一人木の下で本を片手にページをめくる姿が、あんなにも似合う人は他にいないわ!」
風になびく黒い髪も素敵だし、赤い目も格好良い。
それに物静かなのもクールだし、声も優しくて大好き。
「見た目が悪くなったお弁当も気にせず食べてくれるし! ちゃんと美味しいって言ってくれるのよ? それに泣いてる私を慰めてくれて、とっても優しいの!」
「あ、あれ?」
「何か変なスイッチ入ったな……」
「それからね!」
「ちょ、ちょっとストップ!」
システィーの声が聞こえて、私は話すのを止める。
「もう十分よ。十分わかったから落ち着いて」
「ご、ごめん二人とも!」
今さらペラペラとしゃべり過ぎていたことに気付いて恥ずかしくなる。
ユートのことを考えると、他が見えなくなるのは悪い癖ね。
ふと、時計の針が目に入る。
「あ、もうこんな時間なのね。ごめんなさい二人とも、私今日はお買い物をしてから帰るから、そろそろ行かないと」
「そっか。んじゃオレたちもボチボチ帰るよ」
「気を付けてね」
「うん! また今度ユートのことを教えるわ」
「え、ええ……待ってるわ」
私は手を振って教室を出た。
買い物というのはもちろん、明日のお弁当の食材だ。
張り切って選ばなきゃ。
「そ、そう?」
放課後、突然システィーが私にそう言った。
「そうよ。この間は死にかけの魚みたいな目をしてたのに。次の日から急に元気になっててビックリよ」
「あははははっ、その節はご心配をおかけしました」
私は丁寧にお辞儀をする。
システィーは小さくため息をこぼし、優しく笑って言う。
「まぁいいわよ。元気になってくれたなら何でも」
「ふふっ、ありがとうシスティー」
「私は何もしてないわ。で、何か良いことがあったんでしょ?」
「う、うん、実は――」
「それオレも知りたいなぁ~」
野暮ったい口調で私たちの会話に入り込んできたのは、見上げる程大きな体の男の子。
「レオン君」
「よっ! エミリア」
レオン君はピシッと右手を挙げて挨拶をしてきた。
彼はレオン・ブライト君。
システィーの婚約者で、私の家とも昔から縁があり、三人でよく遊んだりしていた。
いわゆる幼馴染という関係だ。
「珍しいわね。そっちから迎えに来るなんて」
「おう。オレのほうが先に終わったからな」
「そう。というより、婚約者の私には挨拶もないわけ?」
「別にいいだろ? お前とは朝から顔合わせてるんだからさ」
「良くないわよ! ちゃんと挨拶しなさい! ほらやり直し!」
「うるさいな……もっと小さい声でしゃべってくれ」
「あなたに言われたくないわね」
ガミガミガヤガヤ。
二人は良い争いを始めてしまった。
見ての通り、婚約者だけど二人は仲が悪い……ように見えてとても良い。
仲が悪く見えるのは、付き合いが長い分遠慮がないからで、本当はお互い信じあっている。
たぶん私だけじゃなくて、周りのみんなも気づいているはず。
二人の絡みを見ていると、こっちも楽しくなるわ。
「あーもういいわ! その話はあとにして」
「そうだな。エミリアの話に戻ろうぜ」
二人そろってこっちを向く。
急な話題転換にドキッとした私は、戸惑いを表情に見せる。
「良いことがあったんでしょ?」
「うん」
「何があったんだ?」
「実は……」
「あーもしかしてそれ――」
「好きな人が出来たの」
「「えっ?」」
二人の声がシンクロして、数秒間ピタリと動きを止めた。
そして、思い出したかのように動き出す。
「ええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
「ちょっ、うるさいわよレオン!」
「いやだってさ! お前も驚いただろ?」
「驚いたに決まってるでしょ! エミリア、それ本当なの?」
「えっへへへ~」
システィーに聞かれたとき、私の頭にはユートのことが思い浮かんでいた。
自然ににやけた顔を見て、二人がごくりと息を飲む。
「この反応はマジだな……」
「そ、そうみたいね。ねぇ相手は誰なの?」
「三組のユート・バスティアーノ君よ。レオン君は同じクラスだし、知ってるわよね?」
「ユート……ああ! あの黒髪の地味なやつな」
私は地味という単語にピクリと反応する。
「そ、そうね」
「えぇ! あの隅っこで本読んでる地味な子!?」
「何だよ、お前も知ってたのか」
「ま、まぁ何度もあなたの教室には行ってるし、顔は見たことあるわ。けどあんな地味な子だとは……」
地味と連呼されて、さすがの私もちょっぴり怒っていた。
それに気づいたシスティーが、やってしまったという表情をしている。
「ご、ごめんエミリア! 別に悪い意味で言ったわけじゃないのよ?」
「いや、良い意味の地味って何だよ」
「うるさいわねレオン! あなたも早く謝りなさい! 怒ったエミリアの怖さは知ってるでしょ!」
「知ってるけど、つーか手遅れだろこれ」
「う……エミリアさん?」
「確かに……」
私が口を開くと、システィーはビクリと身体を震わせる。
「確かに彼は地味だと思うわ。見た目も、雰囲気も普通だし……でもそこが素敵なの!」
「……え?」
「一人木の下で本を片手にページをめくる姿が、あんなにも似合う人は他にいないわ!」
風になびく黒い髪も素敵だし、赤い目も格好良い。
それに物静かなのもクールだし、声も優しくて大好き。
「見た目が悪くなったお弁当も気にせず食べてくれるし! ちゃんと美味しいって言ってくれるのよ? それに泣いてる私を慰めてくれて、とっても優しいの!」
「あ、あれ?」
「何か変なスイッチ入ったな……」
「それからね!」
「ちょ、ちょっとストップ!」
システィーの声が聞こえて、私は話すのを止める。
「もう十分よ。十分わかったから落ち着いて」
「ご、ごめん二人とも!」
今さらペラペラとしゃべり過ぎていたことに気付いて恥ずかしくなる。
ユートのことを考えると、他が見えなくなるのは悪い癖ね。
ふと、時計の針が目に入る。
「あ、もうこんな時間なのね。ごめんなさい二人とも、私今日はお買い物をしてから帰るから、そろそろ行かないと」
「そっか。んじゃオレたちもボチボチ帰るよ」
「気を付けてね」
「うん! また今度ユートのことを教えるわ」
「え、ええ……待ってるわ」
私は手を振って教室を出た。
買い物というのはもちろん、明日のお弁当の食材だ。
張り切って選ばなきゃ。
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