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 馬車に揺られて十数分。
 グレイン家を乗せた馬車は王城へと踏み入る。
 貴族であっても、王城の中に入れる機会は多くない。
 さらに王家の血筋と交流をもてる場など、このパーティーを逃せば一年はないかもしれない。
 必然、皆気合が入っている。

「到着いたしました」
「ああ、では行こうか。エレナ」
「はい。お父様」
 
 父の隣をエレナが歩く。
 その後ろにひっそりと、隠れる様にして私も続く。
 予想はしていたけどすごい数の人たちが集まっていた。

 定刻になるパーティーが始まる。
 王城のホールに集まった貴族たちと、その中心にいる王家の人間。
 王位継承権を持つ者たちの周りに、取り入ろうとする貴族たちも集まっていた。
 興味のない私には、正直誰が誰なのかわからない。

「エレナ、あそこに見えるお方がエレクシール様だ」
「はい」

 二人の視線の先には人だかりができている。
 私の身長だと、背伸びしても中心にいる人物は見えない。
 別に興味もないから、無理して覗く気もないけど。

「なんとかして近づこう。こんな機会は二度とないんだ」
「頑張ります」

 人だかりに近づく二人。
 その後ろに続く私に、周囲の視線が集まる。

「あの方がそうなのでしょう?」
「ええ。双子なのに無能な妹……あらあら可哀そうなこと」
「見た目はとってもそっくりなのに、不憫ですわ」
「……」

 私の事情は、貴族の中でも広まっていた。
 元々グレイン家は、貴族の中でもそれなりの地位を持っている。
 それ故に次代を担う存在は注目もされていた。
 代々優秀な異能者が生まれる家系で、初の無能力者の誕生は、グレイン家の外でも衝撃的だったに違いない。

「……リアリス」

 久しぶりに父に名前を呼ばれた。
 二人が私のほうへ振り向く。
 
「お前はどこかに離れていなさい。私たちはエリクシール様の元へ行く」

 邪魔だから近くにいるなと、父は私に言った。
 悪い意味で注目されては、エリクシール様と対面した時に不利になるからだろう。
 エレナも無言で私を睨んでいる。
 邪魔をするなと。
 離れた後も余計なことはするなと訴えかけるように。

「わかりました」

 一言だけ返す。
 すると二人は正面を向き、そそくさと行ってしまう。
 私は一人になった。

「さて……」

 せっかくのパーティーだ。
 場違いだけど来てしまった以上は楽しもう。
 一人になったことで私は自由に動ける。
 さっそく近くにあるテーブルの食事に手を付ける。
 豪華な料理が用意されているのに、誰も見向きもしないのは可哀そうでしょう?
 みんなの目的は王族たちとの謁見だから、料理なんて食べもしない。
 もったいないから私が食べてしまいましょう。

「美味しっ」

 食事は好きだ。
 食べている間、幸福な感覚に満ちるから。
 食べ物は文句を言わないし、美味しさは平等に感じられる。
 さすが王家のパーティー。
 食事も一流のシェフに作らせたに違いない。
 このまま無限に食べられそうなくらい美味しい。
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