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14.君は優しい

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 僕とイルは捕食者ガーベルトの後を追った。
 結論だけ先に言ってしまうと、途中で見失ってしまった。
 騒ぎが広がり、夜だというのに街中がごった返していたから、人混みに紛れてスラスラと消えたのだ。
 いくら魂の色が違うと言っても、目で見なければわからない。
 数百が集まる魂の中から、仲間外れを探すのは、結構大変だったりする。
 騒ぎは夜通し続き、落ち着いたのは翌日の夕方。

「ライネルさん……」
「……」

 僕らは昨夜、捕食者と遭遇した場所を訪れていた。
 昼間は騎士たちが出入りしていたが、この様子では捜査も終わったのだろう。
 もっとも、証拠らしい何かを見つけたとしても、騎士にはどうにもできない。
 僕やイル、死神の問題だ。

「イル、さっきヘルメイア様から連絡があったんだよね?」
「うん」
「何て言ってたの?」
「捕食者の捜索を最優先にするようにって。増援を送るけど、逃げられたら意味ないから、せめて居場所だけでも突き止めるように」

 話の内容的には、捜索だけすれば良いと言っているように聞こえる。
 実際、戦うべきではないのかもしれない。
 捕食者は魂を食らうほど強く。
 しかも死神の魂を食らうことで、その力まで使えるとなれば、下手に挑んで食われるほうが悪手だ。
 増援が来るまで待つことが最善だと、イルも理解しているだろう。
  
 いいや、今はそんなことも考えていないか。

「ごめんなさい……ライネルさん。私がもっと早く気付いていれば……」
「イルの所為じゃない。僕も気付けなかったし、ライネルさん本人も反応が遅れてた。上手く気配を隠していたのか、そういう能力があるのかもしれない」
「うん……」

 イルの表情からは、悲しみと悔しさが伝わってくる。
 ライネルの死に、心を痛めているんだ。
 僕は……そんなにだ。
 正直言うと、ほとんど何も感じない。
 ライネルのことは、第一印象で嫌な先輩だと思ったし、僕を裏切った彼らに似た雰囲気も感じた。
 そんな彼女が死んだところで、悲しいとは思えなかった。
 最低だと思うけど、実際何も感じないのだからどうしようもないだろう。

 だけど、イルは違う。
 僕より多くの死を見てきている彼女が、一つの死に心を動かされている。
 酷い言葉をかけられていたはずの相手だ。
 きっと、僕が知らない所で、もっとたくさん辛い思いをしたはずなんだ。
 それでも彼女は、ライネルの死を悲しんでいる。

 イルは優しい。
 その優しさに、僕も救われたのだろう。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 翌日、街に一報が入る。
 近くの小さな村から、一人の男が息を切らしゼエゼエ言いながら駆け込んできたそうだ。
 彼は入り口を守っていた騎士にこう言った。

 恐ろしい男がきた。
 その男がモンスターを引き連れて、村を襲っている。
 みんなが殺される。
 殺されたくなかったら、死神を連れて来いって言われたんだ。

 騎士たちは話を聞き困惑した。
 死神の存在は、現世では知られていない。
 何かの比喩表現なのかと首を傾げた。

「恐ろしい男って、ガーベルトのことだろうね」
「うん、タイミング的に間違うないと思う。ねぇウェズ、これって……」
「誘ってるね、間違いなく」

 イルがこくりと頷く。
 僕とイルの存在を、ガーベルトは知っている。
 また会おうとも言っていた。
 早く来ないと、村の人間を全員食うぞという脅しだ。

「ヘルメイア様の言ってた増援は?」
「まだかかるみたい」
「そうか……」

 モンスター退治なら、冒険者の仕事だ。
 すでに討伐依頼が出ているらしく、冒険者たちも慌ただしい。
 ただ、僕らとしてはあまり嬉しい展開ではない。
 事情を知らない冒険者が村に行くとこは、獣に餌を放り込むことに等しいから。

「僕は行くべきだと思う」
「ウェズ……」
「放っておけば、もっと力をつける。それにたくさんの人が犠牲になるよ」
「……そうだね。私たちで何とか――」

 待ちなさい。

「今、声が」
「ヘルメイア様?」

 大方の事情は聞いているわ。
 あなたたち、本気で戦いにいくつもりなの?
 増援を待てないの?

「それじゃ手遅れになるんです!」
「ガーベルトの狙いは僕たちです。僕たちがいかないと、村の人が殺される」

 だからこそ危険だと言ってるのよ。
 誘いに乗って、あなたたちの魂が食べられたらどうするの?
 
「それは……」
「大丈夫です。僕たちは一人じゃない。それに勝算もありますから」

 本当なの?

「はい」

 正確には、勝算というより手段なのだが。
 ヘルメイア様も、僕の能力は知っているはずだ。

 ……わかったわ。
 イルカルラ、ウェズ。
 捕食者の討伐を二人に命じます。

「はい!」
「ヘリメイア様……ありがとうございます」

 ただし、危険だと判断したら必ず撤退しなさい。
 これ以上、死神の魂を与えてはダメよ。

「「はい」」

 増援も急がせるわ。
 間に合えば負担も減るでしょう。
 とにかく気を付けなさい。

 そうして僕らは、ガーベルトが待つ村へ向かった。
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