15 / 16
15.霊王の従僕
しおりを挟む
アドリスから北へ約三キロ。
そこにルンベルという小さな村がある。
人口は七百人くらいで、住人の半数が子供と老人ということもあって、とても穏やかでのんびりとした村だった。
その村が今――火に包まれている。
「ほらほら~ 逃げないと食われるぞ~」
「た、助けてくれぇ!」
「命乞いなんていらないから逃げ回れよ。じゃねーとオレが殺すぞ」
「ぅう……」
建物は焼け焦げ、村人たちは一か所へ集められている。
モンスターの群れに囲まれ、数名が見世物としてモンスターに追い回されていた。
すでに殺されてしまった人の死体が、いくつか転がっている。
次は自分かもしれないという恐怖と、親しい者を失った悲しみで、涙の湖が出来上がりそうだった。
「はぁーあ、もう飽きたな」
見物していたガーベルトが大きな欠伸をして、重い腰を持ち上げる。
「腹も減ったしな~ 半分くらい食ってもいいか。どうせ後で全部食うんだし」
集められた村人は、彼にとって餌だ。
極上の魂をおびき寄せるため、そして終わった食らう。
どちらにせよ腹に入れるなら、後でも今でも変わらないだろう。
そう考えたガーベルトが、村人に剣を向ける。
「「ガーベルト!」」
そこへ木霊する二人の声に、ガーベルトは笑みを浮かべる。
「ようやく来たか死神ども! 待ちくたびれたぜぇ!」
歓喜の声をあげるガーベルト。
彼より村人を救出する方が先だと判断して、僕らは村人を囲むモンスターへ走る。
が、そこへガーベルトが立ちはだかる。
「おいおい! 待ちくたびれたって言ったろぉ~? お前らの相手はオレだぜ」
「イル!」
「任せて!」
合図の後、僕は霊炎を足元に放つ。
舞い上がる土煙を祓うように、ガーベルトが剣を振るった。
土煙が晴れた先に、僕しか残っていないことに気付く。
「ちっ、女は向こうへ行ったか。まぁ良い、先にお前から殺してやるよ」
ニヤリと笑みを浮かべるガーベルト。
その笑顔は、初めて会った時と同じだ。
見ただけで寒気がするほど不気味で、気色が悪い。
「お前の魂も美味そうな色してるな~ この間の女も美味かったが、お前のはもっと美味そうだ」
「……本当に見えているんだね。他人の魂が」
「は? 当たり前だろ、オレは捕食者なんだぜ?」
自分で自分を捕食者と呼ぶ。
元は人間だったはずの彼が、どうしてその名前を知っているのか疑問を感じる。
「しっかし死神の魂ってのは格別だな。初めて食べたがもっと食いたくてたまんねーよ。聞いてた以上、病的な美味さだぜあれは」
聞いていた以上……
「死神のことを誰から聞いたのかな?」
「そいつは内緒だぜ。名前は出すなって言われてるからな~」
「そう」
協力者、あるいは黒幕が他にいる。
それがわかっただけでも、十分な成果だ。
「一つ聞くけど、今までに何人の魂を食べたんだ?」
「あ? そんなもん覚えてるわけねーだろ。強いて言えば数えきれないほどだよ」
「……わかった。それを聞いて安心したよ」
確認するまでもなかった。
この男は紛れもなく、疑いようのない悪だ。
僕がこれまでに会ってきた中で、もっとも汚れた魂が、その証拠だった。
「いいね~ オレも腹が減ってきた所だ」
「食べさせる気はないよ」
僕は大剣を構える。
ガーベルトの背後から、モンスターの群れが現れる。
「モンスターを操れるのか」
「何だ知らなかったのかよ。オレとモンスターの魂は似てるからな~ 力さえ示せば、こいつらも簡単に従ってくれたぜ?」
「……それも、名前は教えられない誰かに聞いたの?」
「まぁな」
モンスターを従えるガーベルトを見て、僕は大きくため息をもらす。
「どうした? まさかもう戦意喪失したわけじゃねーよなー」
「違うよ。ただ、腹立たしく思っただけだ」
「あ? オレが村人を人質にしたことか?」
「違う。いや、違わないけど、今はそっちじゃない」
ガーベルトは意味がわからず首を傾げる。
「大丈夫、意味はすぐわかるよ」
僕は構えていた大剣を地面に突き刺し、空っぽになった両手を左右に広げる。
「モンスターを操れる。そう、あなたは得意げに言うけど……」
生成される無数の炎。
霊炎ではない。
罪人の魂に似た赤い炎は、これまでに刈り取ったモンスターの魂だ。
「何だ……何でお前がモンスターの魂を持ってる?」
「だから言ったでしょ? 腹立たしいことに、僕とあなたの能力は似ている」
モンスターの魂に、霊炎の青い炎を纏わせる。
形は変化し、胸に赤い魂がともす……青い炎の狼へと。
「モンスターを操るのは、僕にとっても十八番だよ」
霊王の従僕、発動。
僕は青き獣を付き従える。
そこにルンベルという小さな村がある。
人口は七百人くらいで、住人の半数が子供と老人ということもあって、とても穏やかでのんびりとした村だった。
その村が今――火に包まれている。
「ほらほら~ 逃げないと食われるぞ~」
「た、助けてくれぇ!」
「命乞いなんていらないから逃げ回れよ。じゃねーとオレが殺すぞ」
「ぅう……」
建物は焼け焦げ、村人たちは一か所へ集められている。
モンスターの群れに囲まれ、数名が見世物としてモンスターに追い回されていた。
すでに殺されてしまった人の死体が、いくつか転がっている。
次は自分かもしれないという恐怖と、親しい者を失った悲しみで、涙の湖が出来上がりそうだった。
「はぁーあ、もう飽きたな」
見物していたガーベルトが大きな欠伸をして、重い腰を持ち上げる。
「腹も減ったしな~ 半分くらい食ってもいいか。どうせ後で全部食うんだし」
集められた村人は、彼にとって餌だ。
極上の魂をおびき寄せるため、そして終わった食らう。
どちらにせよ腹に入れるなら、後でも今でも変わらないだろう。
そう考えたガーベルトが、村人に剣を向ける。
「「ガーベルト!」」
そこへ木霊する二人の声に、ガーベルトは笑みを浮かべる。
「ようやく来たか死神ども! 待ちくたびれたぜぇ!」
歓喜の声をあげるガーベルト。
彼より村人を救出する方が先だと判断して、僕らは村人を囲むモンスターへ走る。
が、そこへガーベルトが立ちはだかる。
「おいおい! 待ちくたびれたって言ったろぉ~? お前らの相手はオレだぜ」
「イル!」
「任せて!」
合図の後、僕は霊炎を足元に放つ。
舞い上がる土煙を祓うように、ガーベルトが剣を振るった。
土煙が晴れた先に、僕しか残っていないことに気付く。
「ちっ、女は向こうへ行ったか。まぁ良い、先にお前から殺してやるよ」
ニヤリと笑みを浮かべるガーベルト。
その笑顔は、初めて会った時と同じだ。
見ただけで寒気がするほど不気味で、気色が悪い。
「お前の魂も美味そうな色してるな~ この間の女も美味かったが、お前のはもっと美味そうだ」
「……本当に見えているんだね。他人の魂が」
「は? 当たり前だろ、オレは捕食者なんだぜ?」
自分で自分を捕食者と呼ぶ。
元は人間だったはずの彼が、どうしてその名前を知っているのか疑問を感じる。
「しっかし死神の魂ってのは格別だな。初めて食べたがもっと食いたくてたまんねーよ。聞いてた以上、病的な美味さだぜあれは」
聞いていた以上……
「死神のことを誰から聞いたのかな?」
「そいつは内緒だぜ。名前は出すなって言われてるからな~」
「そう」
協力者、あるいは黒幕が他にいる。
それがわかっただけでも、十分な成果だ。
「一つ聞くけど、今までに何人の魂を食べたんだ?」
「あ? そんなもん覚えてるわけねーだろ。強いて言えば数えきれないほどだよ」
「……わかった。それを聞いて安心したよ」
確認するまでもなかった。
この男は紛れもなく、疑いようのない悪だ。
僕がこれまでに会ってきた中で、もっとも汚れた魂が、その証拠だった。
「いいね~ オレも腹が減ってきた所だ」
「食べさせる気はないよ」
僕は大剣を構える。
ガーベルトの背後から、モンスターの群れが現れる。
「モンスターを操れるのか」
「何だ知らなかったのかよ。オレとモンスターの魂は似てるからな~ 力さえ示せば、こいつらも簡単に従ってくれたぜ?」
「……それも、名前は教えられない誰かに聞いたの?」
「まぁな」
モンスターを従えるガーベルトを見て、僕は大きくため息をもらす。
「どうした? まさかもう戦意喪失したわけじゃねーよなー」
「違うよ。ただ、腹立たしく思っただけだ」
「あ? オレが村人を人質にしたことか?」
「違う。いや、違わないけど、今はそっちじゃない」
ガーベルトは意味がわからず首を傾げる。
「大丈夫、意味はすぐわかるよ」
僕は構えていた大剣を地面に突き刺し、空っぽになった両手を左右に広げる。
「モンスターを操れる。そう、あなたは得意げに言うけど……」
生成される無数の炎。
霊炎ではない。
罪人の魂に似た赤い炎は、これまでに刈り取ったモンスターの魂だ。
「何だ……何でお前がモンスターの魂を持ってる?」
「だから言ったでしょ? 腹立たしいことに、僕とあなたの能力は似ている」
モンスターの魂に、霊炎の青い炎を纏わせる。
形は変化し、胸に赤い魂がともす……青い炎の狼へと。
「モンスターを操るのは、僕にとっても十八番だよ」
霊王の従僕、発動。
僕は青き獣を付き従える。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
94
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる