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16.僕たちは死神だ

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 霊印には能力が付与されている。
 イルのフクロウへ化身する力のように、能力は個人の特性によって異なる。
 俺の能力の名は『霊王』。

 その力は――

「刈り取った魂を使役する。それが僕の……霊印に刻まれた能力だ」
「魂の使役だと?」
「そう。この狼たちは、僕が殺したウルフの魂をウィスプの炎で肉付けしたものだよ。ほら、胸に赤い魂が宿っているのが見えるでしょう?」

 僕は魂をストックできる。
 本来、刈り取られた魂は冥界か地獄へ送られるものだが、僕の能力はそれをコントロールしている。
 そして、自らに従順な僕として、彼らの魂を行使できるんだ。
 めぐる前の魂には、宿っていた頃の形状が記憶されている。
 ウィスプの炎はその形を再現している。

「これで、数の不利はなくなったよ」
「……なるほどなぁ~ だったらこれで勝負を決めようぜ」

 ガーベルトは剣を生成する。
 イルが言っていた。
 彼の剣は、刈り取った魂の一部を寄せ集めて作られた霊装擬きであると。
 奇しくもそれは、僕に与えられた霊装と似ている。

「つくづく嫌な気分だ」

 僕はそうぼそりと呟き、大剣を取り出す。

「いくぜぇ!」

 ガーベルトが地面を蹴る。
 すさまじい速力で接近し、怒涛のような連撃を加える。
 それらすべてを躱し、受け流し、反撃する。

「はっは! やるなてめぇ! この動きについてこられるとはよぉ!」
「それはどうも」

 彼に褒められても嬉しくないな。
 それに、僕が凄いんじゃなくて、この大剣が凄いだけだ。
 この霊装は、冥界に下った剣士たちの魂を材料に作られた物らしい。
 握るだけで、彼らの研鑽が、戦いの記憶が流れ込んでくる。
 お陰で僕みたいな才能のない人間でも、これだけ戦えるようになったんだ。
 僕は彼らの力を借りているに過ぎない。
 そしそれは、彼も同じはずだ。
 違いがあるとすれば、その自覚があるのかどうか。

「そんだけの力があるのに死神なんてやってんのか?」
「どういう意味?」
「つまんねーだろって言ってんだよ! こっちは楽しいぜ~ やりたい放題出来るからな~」
「そう。生憎そんなものに興味はないよ。僕たちは死神だからね」
「そうかよ。じゃあ――」

 突然、ガーベルトが大きく後退する。
 逃げる気ではなさそうだ。
 何かを企んでいる予感がして、急いで後を追う。
 草が生い茂る中へ手を突っ込み、何かを掴んで取り出した。

「死神ならこういうのは捨て置けねぇよな?」
「お前は……」
「た、助けてぇ」

 涙を流す少年の頭を、ガーベルトが掴んでいる。

「気付けなかっただろ? こんだけ魂が周りにありゃーしたかねーよ」
「……」
「そんでどうする? 動けばこいつも食っちまうぞ」
「……」
「そうだよな~ 動けねぇーよな~」

 人質をとられ、僕は剣を下ろす。
 ニヤリと笑うガーベルトは、少年を掴んだまま徐に近づく。

「大人しく食われろ。そうすりゃー楽に行けるぜ」
「……どうやらわかっていないようだね」
「は?」
「言っただろう? は――死神だ」

 ガーベルトの背後に、一羽のフクロウが降り立つ。
 姿を隠し、殺気を隠し、姿を変えて――

「させない!」
「なっ……」

 イルの大鎌が、ガーベルトの胴を斬り裂く。
 すかさず僕も大剣を振り、ガーベルトの手を切断。
 解放された少年を抱きかかえる。

「もう大丈夫だよ」
「うん」
「あ、ありえねぇ……なんで……」
「見ればわかるでしょ? イルはとっくに、モンスターを全滅させていたんだよ」
「あの数を……」
「そう。あなた敗因は、僕たち死神を侮ったことだ」

 ガーベルトの身体が燃え上がり、悲痛な叫び声をあげる。
 地獄へ導かれるというのは、どんな気持ちなのだろう。
 きっと苦しくて、寂しくて、辛いのだろう。
 僕は一生、知りたくないけどね。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 捕食者との戦いが終わり、一夜明けた今日。
 ヘルメイア様に呼び出され、僕とイルは冥界を訪れていた。

「イルカルラ、あなたを地区長に任命するわ」
「え、わ、私が地区長?」
「そうよ。クローネが担当していた地区を任せるわ。ウェズ、あなたは補佐ね」
「わかりました」

 念願だった地区長に任命され、イルは喜んで……はいなかった。
 驚きと疑問のほうが勝っていて、それどころではないという表情をしている。
 
「イルカルラ」
「は、はい!」
「あなたは捕食者を倒したのよ。もっと胸を張りなさい」

 そんな彼女を励ますように、ヘルメイア様は優しく微笑む。

「……はい! 頑張ります!」
「ええ」
「良かったね、イル」
「うん! ありがとうウェズ」

 ガーベルトと裏で繋がっていた人物が誰なのか。
 捕食者がまだ潜んでいるかもしれない。
 問題は山済みだけど、一歩ずつ、目標に近づいている。
 死神として、今日も――

「さぁ、お仕事をしよう」
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みんなの感想(1件)

さと
2022.10.23 さと

面白かったです!
続きが読みたいです。
楽しみにしています。
とりあえず、ありがとうございました。
他の作品も含めて、また期待しています。

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