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思えば私の人生は、最初から不幸続きだった。
生まれてすぐに両親を失い、預かってくれた祖父母も病気で亡くなり。
孤児になった私を、先代の宮廷鍛冶師だった師匠が拾ってくれた。
私には鍛冶師としての才能があったこと。
そんな私を見つけて、弟子にしてくれた師匠には感謝している。
鍛冶師になれたことは私にとって唯一の幸福だっただろう。
だけど、二年前に師匠が突然いなくなった。
訳も話さず、どこかへ消えた。
残された私が後を継ぎ、宮廷鍛冶師になってからは、毎日が地獄のようだった。
職場の同僚や上司からは、平民上がりの癖に生意気だと罵られ、一人じゃ終わらない量の仕事を押し付けられた。
毎日サービス残業は当たり前、休日出勤してもギリギリ。
それでも、行き場のない私が生きるためには、ここで頑張って働くしかない。
ずっと耐えてきた。
覚えのない失敗を押し付けられ、注意されて、お給料を下げられたこともある。
必死に頑張って、歯を食いしばって仕事を続けた結果がこれ……?
「は、はは……」
笑ってしまう。
悲しさは感じるけど、それ以上に呆れて涙もでない。
こんなものかと。
宮廷鍛冶師として相応しい振る舞いをするため、苦手な敬語や礼儀作法も勉強して身に着けた。
毎日煤まみれになりながら、病気になっても休まず働き続けた。
それなのに……報われない。
子供みたいな言い訳しかできない勇者と、平民の私が気に入らないという理由で嫌がらせをする王女様。
こんな人たちが、この国のトップにいる。
信じられない。
呆れを通り越して、ふつふつと怒りがこみ上げる。
「あーそう、じゃあもういいよ」
「ん?」
「ソフィアさん?」
どうせ私はクビになったんだ。
だったらもう、変に取り繕ったり頑張る必要はないよな?
いい機会だしハッキリ言おう。
「こんな職場、こっちから願い下げだっての!」
私は叫んだ。
鍛冶場に、その外にも響くような大声で。
二人は驚きビクッと身体を震わせる。
「負けたのは私のせい? 馬鹿かよあんた! 聖剣の力も発揮できないのは自分が弱いからだろ! それを人のせいにして……恥ずかしくないの? このへなちょこ勇者!」
「へ、へなちょこ……」
「平民のこと見下してるけどさ! あんたより平民のほうがよっぽど国に貢献してるよ! このお飾り王女!」
「おか、ざり……」
感情に任せて、今まで言えなかったことを暴露する。
ずっと思っていた。
心の中で怒りと共に蓄えられた言葉が、感情が爆発する。
二人とも予想外だっただろう。
もっと傷心すると思っていたのだろう。
残念だったな。
私はそこまで、宮廷という地位にも場所にも思い入れはないんだ。
むしろせいせいしている。
今日からもう、馬鹿みたいに大量の仕事を熟す必要もない。
睡眠時間を削る必要も、悪くもないのに謝る必要もない。
地獄のような環境から堂々と脱出できる。
悪いことより良いことの多いんじゃないの?
「今までお世話になりました。あたしはもう宮廷鍛冶師じゃないんで、残ってる仕事は他でやってください。新しく雇うことをお勧めしますよ」
私一人でも手に負えなかった仕事量だ。
宮廷鍛冶師の人員は少なく、私を含めて三人しかいなかった。
他二人も手いっぱいだろうし、新しく雇わないと回らない。
もっとも、見合う条件の人材がいれば……の話だけど。
「それじゃ……さよなら」
唖然とする二人を背にして、私は鍛冶場を出た。
宮廷鍛冶師ではなくなり、ただの一般人に戻ることになった。
職を失ったというのに、気分は晴れやかだ。
言いたいことも言えたし満足している。
「はぁースッキリした」
外に出る。
見合えた青空は雲一つなく、とても澄んでいた。
生まれてすぐに両親を失い、預かってくれた祖父母も病気で亡くなり。
孤児になった私を、先代の宮廷鍛冶師だった師匠が拾ってくれた。
私には鍛冶師としての才能があったこと。
そんな私を見つけて、弟子にしてくれた師匠には感謝している。
鍛冶師になれたことは私にとって唯一の幸福だっただろう。
だけど、二年前に師匠が突然いなくなった。
訳も話さず、どこかへ消えた。
残された私が後を継ぎ、宮廷鍛冶師になってからは、毎日が地獄のようだった。
職場の同僚や上司からは、平民上がりの癖に生意気だと罵られ、一人じゃ終わらない量の仕事を押し付けられた。
毎日サービス残業は当たり前、休日出勤してもギリギリ。
それでも、行き場のない私が生きるためには、ここで頑張って働くしかない。
ずっと耐えてきた。
覚えのない失敗を押し付けられ、注意されて、お給料を下げられたこともある。
必死に頑張って、歯を食いしばって仕事を続けた結果がこれ……?
「は、はは……」
笑ってしまう。
悲しさは感じるけど、それ以上に呆れて涙もでない。
こんなものかと。
宮廷鍛冶師として相応しい振る舞いをするため、苦手な敬語や礼儀作法も勉強して身に着けた。
毎日煤まみれになりながら、病気になっても休まず働き続けた。
それなのに……報われない。
子供みたいな言い訳しかできない勇者と、平民の私が気に入らないという理由で嫌がらせをする王女様。
こんな人たちが、この国のトップにいる。
信じられない。
呆れを通り越して、ふつふつと怒りがこみ上げる。
「あーそう、じゃあもういいよ」
「ん?」
「ソフィアさん?」
どうせ私はクビになったんだ。
だったらもう、変に取り繕ったり頑張る必要はないよな?
いい機会だしハッキリ言おう。
「こんな職場、こっちから願い下げだっての!」
私は叫んだ。
鍛冶場に、その外にも響くような大声で。
二人は驚きビクッと身体を震わせる。
「負けたのは私のせい? 馬鹿かよあんた! 聖剣の力も発揮できないのは自分が弱いからだろ! それを人のせいにして……恥ずかしくないの? このへなちょこ勇者!」
「へ、へなちょこ……」
「平民のこと見下してるけどさ! あんたより平民のほうがよっぽど国に貢献してるよ! このお飾り王女!」
「おか、ざり……」
感情に任せて、今まで言えなかったことを暴露する。
ずっと思っていた。
心の中で怒りと共に蓄えられた言葉が、感情が爆発する。
二人とも予想外だっただろう。
もっと傷心すると思っていたのだろう。
残念だったな。
私はそこまで、宮廷という地位にも場所にも思い入れはないんだ。
むしろせいせいしている。
今日からもう、馬鹿みたいに大量の仕事を熟す必要もない。
睡眠時間を削る必要も、悪くもないのに謝る必要もない。
地獄のような環境から堂々と脱出できる。
悪いことより良いことの多いんじゃないの?
「今までお世話になりました。あたしはもう宮廷鍛冶師じゃないんで、残ってる仕事は他でやってください。新しく雇うことをお勧めしますよ」
私一人でも手に負えなかった仕事量だ。
宮廷鍛冶師の人員は少なく、私を含めて三人しかいなかった。
他二人も手いっぱいだろうし、新しく雇わないと回らない。
もっとも、見合う条件の人材がいれば……の話だけど。
「それじゃ……さよなら」
唖然とする二人を背にして、私は鍛冶場を出た。
宮廷鍛冶師ではなくなり、ただの一般人に戻ることになった。
職を失ったというのに、気分は晴れやかだ。
言いたいことも言えたし満足している。
「はぁースッキリした」
外に出る。
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