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「一人も来ていない? 本当かい?」
「はい。まだ一人も」
「もう一週間だぞ? そろそろ次の遠征が始まるというのに……」
時間が経過しても、一考に応募者は現れない。
他の鍛冶師に仕事を頼もうにも、すでにいっぱいいっぱいだと報告を受けている。
しびれを切らしたエレインは、自らの足で鍛冶師を探すことにした。
向かったのは王都で最も有名な武器屋。
鍛冶場も併設され、何人もの優秀な鍛冶師が働いている。
「すまない、少しいいか?」
「ん? あんた……勇者様? どうしてここに?」
「君は鍛冶師だな? ちょうどいい、宮廷で働く鍛冶師を募集しているんだ。興味はないか?」
「宮廷で! それは光栄な話ですね」
鍛冶師は早々に食いつく。
宮廷で働くことは名誉なことだ。
街で働くよりも高級で、さらには地位も得られる。
最高の話に、食いつかない者はいない。
エレインはニヤリと笑みを浮かべ、募集要項を見せる。
「興味があるか。ならばこれが条件だ」
「はい。えっ……と」
鍛冶師の表情が曇る。
先ほどまでの元気は消え、困惑の色に染まる。
「どうかしたか?」
「……勇者様、この内容じゃ無理ですよ」
「なんだと? なにがダメだ? 金が足りないというのか?」
「そうじゃなくて! 聖剣の製造と打ち直しができること? こんなもん鍛冶師ができるわけないでしょ!」
「なっ……」
エレインは理解できずに固まる。
できない?
そんなはずはない。
なぜならずっと……。
「前の鍛冶師はやっていたんだぞ!」
「は? そんな奴いるわけない! いるとすれば間違いなく大天才! この国……いや世界で一番の鍛冶師ですよ! その人は!」
「――!」
勇者エレインは知らなかった。
聖剣を作り、打ち直す。
それを当たり前にやっていたソフィアが、異常な才能の持ち主だったことを。
普通の鍛冶師に聖剣は作れない。
優れた鍛冶師であっても、聖剣を打ち直すなど不可能。
魔剣、妖刀……そういった類の武器は、選ばれた者にしか作れない。
中でも聖剣とは神の加護を受けし一振り。
作れるとすれば神だけ……だった。
そう、彼女はありえないことをしていた。
当たり前のように。
「悪いことは言わないですから、その前の鍛冶師って人にお願いしてください。こんな条件……どれだけ大金を積まれても無理です。誰も引き受けるわけないでしょ」
「くっ……馬鹿な」
ありえない。
そんなはずはない。
彼女が選ばれし存在……だったなど、認められない。
もしそうなら、自分の非を認めることに等しい。
故に勇者エレインは否定する。
自分は悪くない。
悪いのはソフィアだと。
だが、現実は正直だった。
これより先、彼が勇者として戦える時間は有限になった。
聖剣は打ち直せない。
新たに作ることもできない。
聖剣を持たぬ勇者など、勇者とは呼べない。
果たして彼は、いつまで勇者を名乗れるのだろうか。
「はい。まだ一人も」
「もう一週間だぞ? そろそろ次の遠征が始まるというのに……」
時間が経過しても、一考に応募者は現れない。
他の鍛冶師に仕事を頼もうにも、すでにいっぱいいっぱいだと報告を受けている。
しびれを切らしたエレインは、自らの足で鍛冶師を探すことにした。
向かったのは王都で最も有名な武器屋。
鍛冶場も併設され、何人もの優秀な鍛冶師が働いている。
「すまない、少しいいか?」
「ん? あんた……勇者様? どうしてここに?」
「君は鍛冶師だな? ちょうどいい、宮廷で働く鍛冶師を募集しているんだ。興味はないか?」
「宮廷で! それは光栄な話ですね」
鍛冶師は早々に食いつく。
宮廷で働くことは名誉なことだ。
街で働くよりも高級で、さらには地位も得られる。
最高の話に、食いつかない者はいない。
エレインはニヤリと笑みを浮かべ、募集要項を見せる。
「興味があるか。ならばこれが条件だ」
「はい。えっ……と」
鍛冶師の表情が曇る。
先ほどまでの元気は消え、困惑の色に染まる。
「どうかしたか?」
「……勇者様、この内容じゃ無理ですよ」
「なんだと? なにがダメだ? 金が足りないというのか?」
「そうじゃなくて! 聖剣の製造と打ち直しができること? こんなもん鍛冶師ができるわけないでしょ!」
「なっ……」
エレインは理解できずに固まる。
できない?
そんなはずはない。
なぜならずっと……。
「前の鍛冶師はやっていたんだぞ!」
「は? そんな奴いるわけない! いるとすれば間違いなく大天才! この国……いや世界で一番の鍛冶師ですよ! その人は!」
「――!」
勇者エレインは知らなかった。
聖剣を作り、打ち直す。
それを当たり前にやっていたソフィアが、異常な才能の持ち主だったことを。
普通の鍛冶師に聖剣は作れない。
優れた鍛冶師であっても、聖剣を打ち直すなど不可能。
魔剣、妖刀……そういった類の武器は、選ばれた者にしか作れない。
中でも聖剣とは神の加護を受けし一振り。
作れるとすれば神だけ……だった。
そう、彼女はありえないことをしていた。
当たり前のように。
「悪いことは言わないですから、その前の鍛冶師って人にお願いしてください。こんな条件……どれだけ大金を積まれても無理です。誰も引き受けるわけないでしょ」
「くっ……馬鹿な」
ありえない。
そんなはずはない。
彼女が選ばれし存在……だったなど、認められない。
もしそうなら、自分の非を認めることに等しい。
故に勇者エレインは否定する。
自分は悪くない。
悪いのはソフィアだと。
だが、現実は正直だった。
これより先、彼が勇者として戦える時間は有限になった。
聖剣は打ち直せない。
新たに作ることもできない。
聖剣を持たぬ勇者など、勇者とは呼べない。
果たして彼は、いつまで勇者を名乗れるのだろうか。
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