没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしてきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!

日之影ソラ

文字の大きさ
38 / 43

その刃は誰が為に①

 ミトス様のご病気について知った私は、空いた時間を使って亜人種について調べることにした。
 亜人種にもたくさんの種類がある。
 同じ獣人であっても動物の特徴が異なるように。
 その種類は細かく分けると二十を超えると言われていた。

「吸血鬼、吸血鬼……」

 ミトス様の状態は、まさに吸血鬼種と酷似していた。
 驚異的な再生能力と、日の光に極端に弱い肌。
 あの異様に白い肌も、太陽の元に出ることができない吸血鬼の特徴と一致する。
 彼らはなぜ、太陽の下に出られないのだろうか?

「皮膚が弱い? 私たちだって日焼けはするし……」

 そういう特徴だから、と理由をつければおしまいだ。
 けれどそれじゃ足りない。
 何事にも明確な理由が存在する。
 彼らの特徴にも、医学的根拠、もしくは魔法学的な要因があると推測した。

「うーん……ダメだ。これじゃ足りない」

 王城の書斎にあった本を漁ったけど、吸血鬼について記されているものは少ない。
 亜人種について書かれた本自体が少なかった。 

「これ……」

 ページがすり減っている。
 明らかに何度も開き、読まれた形跡があった。
 きっと殿下だろう。
 ミトス様のご病気を治したくて、どうにかしたくて調べていたに違いない。
 あの殿下が、書斎にある資料に目を通していないはずがないだろう。
 つまり、ここにある資料では答えにたどり着けなかったということだ。

 休憩を終えて、私は殿下の元へと帰還する。
 執務室に入ると、殿下はすでに椅子に座り、テーブルに積まれた資料と対峙していた。

「遅かったな」
「書斎に行っていました。遅れてはいませんよ?」
「……調べものか?」
「はい。亜人種について」

 私は殿下の仕事を手伝いながら話す。

「あまり多くありませんでした」
「当然だ。亜人種についての書物など、一般には出回らない。あそこにあるものは、あくまで一般書物だけだ」
「つまり、一般じゃない書物は別にあると?」
「ある。が、見たところで結果は同じだがな」

 それらの資料も、すでに殿下が熟読した後なのだろう。
 その上での結論なら正しい。
 私が見たところで、大した情報は得られない。

「それでもいいなら、そのうち持ってくるが?」
「お願いします」

 一応、目は通しておきたい。
 私は殿下の助けになりたいのだ。
 ならまずは、殿下と同じ地点まで進まなくてはならない。
 
「他人事なのに熱心な奴だな」
「他人事じゃありません。殿下の将来は、私の将来に直結します!」
「ふっ、俺は王になる気はないぞ」
「殿下……」

 まだ意見は変わらないらしい。
 私はショックを受ける。

「今のところは、な」
「今のところ?」
「俺には王としての明確なビジョンがない。そんな状態で王を目指すのは、国民に対して失礼だ。ならばまず、それを見つけるのが先決だろう」
「ミトス様のため、ではダメなのですか?」
「いいわけあるか。この国を統べる王だぞ? 肉親のためだけに目指すものじゃない。それこそ国民に対して失礼だ」
「なるほど……」

 考えが及んでいなかった。
 殿下はしっかり、国民の未来を考えた上で、今の自分では不釣り合いだと判断している。
 それは逃げではなく、冷静な分析だった。
 
  ◇◇◇

「殿下、少し明るくなりましたね」
「そう見えますか?」
「はい」

 夕刻。
 仕事が一旦落ち着いたので、ステラのほうを手伝うことにした。
 殿下はミトス様の顔を見てくるそうだ。

「ミスティアさんをミトス様に紹介された日からです。あの時、急いで戻られましたけど、何を伝えられたのですか?」
「えっと……色々と差し出がましい真似をしました」

 今から思うと、なんて大それたことを口にしたのだろう。
 二人の時間に割って入り、王子に対してあのような意見を強い口調で……不敬罪になっても不思議じゃない。
 殿下が優しい方でよかったと、胸を撫でおろす。

「殿下に対して説教じみたことをするなんて……命知らずでした」
「ふふっ、そうですね。殿下も驚かれたと思います」
「もうしません」
「どうでしょう? 殿下は嬉しかったと思いますよ?」
「え?」

 嬉しかった?
 説教されたことが?
 キョトンとする私に、ステラ自身も嬉しそうに笑って言う。

「殿下はあの性格ですし、誰より才能があるお方です。だから常に正しい。誰もあの方に意見しません。陛下ですら、強くは言えないくらいです。誰も……殿下を叱ったりはしませんでした」
「恐れ多いことをした自覚はあります」
「ふふっ、だからこそ、ミスティアさんのように本気で怒ってくれる人は初めてだったはずです。殿下にとってそれは、喜ばしいことだったんじゃないでしょうか」
「そう……なんでしょうか」

 殿下はいつも正しくて、大天才と呼ばれた彼は、誰かに意見を求めない。
 それは無駄だからだろう。
 誰かに頼るより、自分で答えを出したほうが正確だから。
 他人の意見よりも、自分の意見のほうが正しいと知っているから。
 そんな殿下が、ミトス様のことを周りの誰かに縋っていたのは、それだけ追い詰められていたからなのだろう。
 今まで、本気で支えになってあげられる人はいなかった。
 否、きっと誰も思わなかったのだろう。
 あの天才に支えなど、必要ないのだから。

「殿下の騎士がミスティアさんでよかったです。これからも、殿下が間違っていると思ったら、しっかり叱ってください!」
「ぜ、善処します……クビにされたくはないので」
「大丈夫です! 殿下はミスティアさんのこと、信頼しています。そうじゃなかったら、とっくに不敬罪で牢屋行きです!」
「うっ――怖いこと言わないでくださいよ」

 でも、そうなのだろうか?
 殿下は私のことを、少しは信頼してくれているのだろうか。
 もしそうなら、応えたい。
 大天才から向けられる期待に。
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界に逃げたシングルマザー経理は、定時退勤だけは譲れない

木風
恋愛
DV夫から一歳の娘を抱えて逃げた鈴木優子は、光に飲まれて異世界の王宮へ転移してしまう。 生きるために差し出した武器は簿記と経理経験――崩壊寸前の王宮会計を『複式簿記』で立て直すことに。 ただし譲れない条件はひとつ、「午後五時の定時退勤」。娘の迎えが最優先だからだ。 その姿勢に、なぜか若き国王ヴィクトルが毎日経理室へ通い始めて――仕事と子育ての先に、家族の形が芽吹いていく。

『お前の針仕事など誰でもできる』——なら社交界のドレスの裏地を、めくってごらんなさい

歩人
ファンタジー
「地味な針仕事しかできない令嬢は要らない」——公爵家の嫡男にそう言い渡された伯爵令嬢ティナは、 裁縫道具だけを持って屋敷を出た。その翌週、社交界が凍りつく。王妃の夜会服も、公爵令嬢の舞踏会 ドレスも、第一王女の外交用ローブも——仕立てた職人が消えたのだ。しかもティナが十年かけて縫った 全てのドレスの裏地には、二重縫いで隠された署名が残されていて——。 辺境の小さな仕立て屋で穏やかに暮らすティナの元に、王都から使者がやってくる。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

前世で孵した竜の卵~幼竜が竜王になって迎えに来ました~

高遠すばる
恋愛
エリナには前世の記憶がある。 先代竜王の「仮の伴侶」であり、人間貴族であった「エリスティナ」の記憶。 先代竜王に真の番が現れてからは虐げられる日々、その末に追放され、非業の死を遂げたエリスティナ。 普通の平民に生まれ変わったエリスティナ、改めエリナは強く心に決めている。 「もう二度と、竜種とかかわらないで生きていこう!」 たったひとつ、心残りは前世で捨てられていた卵から孵ったはちみつ色の髪をした竜種の雛のこと。クリスと名付け、かわいがっていたその少年のことだけが忘れられない。 そんなある日、エリナのもとへ、今代竜王の遣いがやってくる。 はちみつ色の髪をした竜王曰く。 「あなたが、僕の運命の番だからです。エリナ。愛しいひと」 番なんてもうこりごり、そんなエリナとエリナを一身に愛する竜王のラブロマンス・ファンタジー!

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

精霊が俺の事を気に入ってくれているらしく過剰に尽くしてくれる!が、周囲には精霊が見えず俺の評価はよろしくない

よっしぃ
ファンタジー
俺には僅かながら魔力がある。この世界で魔力を持った人は少ないからそれだけで貴重な存在のはずなんだが、俺の場合そうじゃないらしい。 魔力があっても普通の魔法が使えない俺。 そんな俺が唯一使える魔法・・・・そんなのねーよ! 因みに俺の周囲には何故か精霊が頻繁にやってくる。 任意の精霊を召還するのは実はスキルなんだが、召喚した精霊をその場に留め使役するには魔力が必要だが、俺にスキルはないぞ。 極稀にスキルを所持している冒険者がいるが、引く手あまたでウラヤマ! そうそう俺の総魔力量は少なく、精霊が俺の周囲で顕現化しても何かをさせる程の魔力がないから直ぐに姿が消えてしまう。 そんなある日転機が訪れる。 いつもの如く精霊が俺の魔力をねだって頂いちゃう訳だが、大抵俺はその場で気を失う。 昔ひょんな事から助けた精霊が俺の所に現れたんだが、この時俺はたまたまうつ伏せで倒れた。因みに顔面ダイブで鼻血が出たのは内緒だ。 そして当然ながら意識を失ったが、ふと目を覚ますと俺の周囲にはものすごい数の魔石やら素材があって驚いた。 精霊曰く御礼だってさ。 どうやら俺の魔力は非常に良いらしい。美味しいのか効果が高いのかは知らんが、精霊の好みらしい。 何故この日に限って精霊がずっと顕現化しているんだ? どうやら俺がうつ伏せで地面に倒れたのが良かったらしい。 俺と地脈と繋がって、魔力が無限増殖状態だったようだ。 そしてこれが俺が冒険者として活動する時のスタイルになっていくんだが、理解しがたい体勢での活動に周囲の理解は得られなかった。 そんなある日、1人の女性が俺とパーティーを組みたいとやってきた。 ついでに精霊に彼女が呪われているのが分かったので解呪しておいた。 そんなある日、俺は所属しているパーティーから追放されてしまった。 そりゃあ戦闘中だろうがお構いなしに地面に寝そべってしまうんだから、あいつは一体何をしているんだ!となってしまうのは仕方がないが、これでも貢献していたんだぜ? 何せそうしている間は精霊達が勝手に魔物を仕留め、素材を集めてくれるし、俺の身をしっかり守ってくれているんだが、精霊が視えないメンバーには俺がただ寝ているだけにしか見えないらしい。 因みにダンジョンのボス部屋に1人放り込まれたんだが、俺と先にパーティーを組んでいたエレンは俺を助けにボス部屋へ突入してくれた。 流石にダンジョン中層でも深層のボス部屋、2人ではなあ。 俺はダンジョンの真っただ中に追放された訳だが、くしくも追放直後に俺の何かが変化した。 因みに寝そべっていなくてはいけない理由は顔面と心臓、そして掌を地面にくっつける事で地脈と繋がるらしい。地脈って何だ?

【完結】クビだと言われ、実家に帰らないといけないの?と思っていたけれどどうにかなりそうです。

まりぃべる
ファンタジー
「お前はクビだ!今すぐ出て行け!!」 そう、第二王子に言われました。 そんな…せっかく王宮の侍女の仕事にありつけたのに…! でも王宮の庭園で、出会った人に連れてこられた先で、どうにかなりそうです!? ☆★☆★ 全33話です。出来上がってますので、随時更新していきます。 読んでいただけると嬉しいです。