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その刃は誰が為に⑤
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私は夢を見ている。
薄れゆく意識の中で……。
「いいぞ、ミスティア! どんどん強くなっているな」
「お父様に追いつきたいんだ!」
「ははっ、お父さんも負けていられないな」
懐かしい夢だ。
大好きなお父様に、私は剣を教わった。
「お父様! どうすればお父様みたいに強い剣士になれますか?」
「理由を持つことだよ」
「そう。お父さんは騎士なんだ。ただの剣士じゃない。お父さんの剣はね? 守る者のために振るう。相手を傷つけたり、勝つための戦うじゃない。騎士として守る者に尽くす……それが、お父さんの誇りだ」
「よくわからない」
「はははっ、いずれわかるさ。ミスティアも、騎士を目指すなら」
優しく頭を撫でてくれた。
お父様……お父様は偉大な騎士だった。
私はお父様のようになりたくて、同じ道を歩んだ。
そうだ。
私が学んだ剣は、何のためにあるのか。
今、思い出した。
◇◇◇
「てめぇらは王を殺せ。俺がこの天才様をぶっ殺すからよぉ」
「……」
(この人数差、さすがに父上を守りながらは不利だ。ミスティアは無事なのか?)
「グダグダ考えてんじゃねーよ。オレだけを見てろ」
「ちっ……!」
私は、誰だ?
何のために剣を振るう?
何のために、ここにいる?
「はははっ」
「なんだ?」
「お前こそ、見る相手を間違えているぞ?」
「何を――!」
彼は振り返る。
そこに立っていた私を見て、笑みを浮かべた。
「立ちやがったか! 女ぁ!」
「私は騎士だ! ここにいるのは、殿下の騎士として!」
だから負けられない。
殿下を、ここにいる人たちを守るために、私は剣を磨いてきた!
怒りに任せて振るう剣に、本物の力は宿らない。
「リミットブレイク!」
今こそ原点を見据えろ!
私の役目は、この男を倒すことだ!
復讐のためじゃなく、殿下に選ばれた騎士として!
「雰囲気が変わったな! 何かしたか!」
「あなたを倒します! 騎士として、全霊をもって!」
「いいぜ! 第二ラウンドというこやぁ!」
切っ先がぶつかる。
鍔迫り合い。
膂力では劣っていたが、リミットブレイクを発動したことで、力が拮抗する。
「重くなりやがったな! 魔力の流れが異常だ! それはあの男は見せなかったぜ?」
「私の全力ですから!」
「そうかよ! 楽しませてみろ!」
「楽しませる気はありません!」
異常だ。
限界突破した私の動きに、素の身体能力で拮抗している。
これが獣人の膂力。
どこが劣等種族だ。
人間よりもはるかに優れている。
人は認めたくないのだろう。
彼らが優れていることを……目を背けているだけだ。
私は背けない。
よく見ろ。
理解しろ。
自分との差を、この男の強さを。
私の父に勝った男の、数十手先の動きを!
「下段、斬り払い」
「――!」
(こいつ……)
「そのまま左袈裟斬り」
私が口にした動きに従うように、男は剣を振るう。
男は口元がニヤつく。
「オレの動きを読んでやがるな!」
「見えていますよ!」
リミットブレイク最大の利点は、脳内処理速度の加速。
それによって相手の動きを極限まで観察し、予測することができる。
殿下との戦いを経て、私はこの力をさらに磨いた。
日頃からいろんな人の動きを観察し、癖を探り、魔法を使っていない間も常に考えて行動する。
予測の精度を上げるために。
そして、上回るために!
(次、横薙ぎから回転――を躱して懐に入る!)
「っ――!」
十七手目。
私は勝負に出た。
リミットブレイクにも限界がある。
私が本気で戦えるのは残り数秒だけだ。
この一撃で決める!
全魔力を集中させるんだ!
「甘ぇよ!」
私の予測よりも一瞬早く、彼は大剣を防御に回していた。
が、それも――
「予測通りです」
「――!」
(こいつ、剣を……)
捨てた。
剣で斬ると見せかけて、魔力を込めていたのは拳だ。
両拳を、がら空きになった腹に叩きこむ。
「ごはっ!」
「まだです!」
獣人のタフさは予測済み。
一発じゃ足りない。
だから連続で、反撃の隙も与えない!
ひたすらに拳で殴る。
打撃と同時に魔力を拡散して、衝撃を内側に響かせる。
「こ、のぉ!」
「おおおおおおおおおおおおお!」
男は私の髪を掴む。
かまうな。
全力で、最後まで叩き込め!
この一撃に、私の全てを注ぐ!
「落ちろ!」
「ぐはっ――!」
私の拳が、男の鳩尾に直撃する。
リミットブレイクが終了した。
もはや立っていることすらやっとの状態だ。
「……いい、拳だったぜ?」
「……」
まだ……。
「悪くねぇ……戦いだった」
男は笑いながら、満足したように倒れ込んだ。
カランと音を立てて大剣が転がる。
私の剣と重なるように。
「勝った……」
「ば、馬鹿な! ルド様が負けるなんて!」
「よそ見していいのか?」
「ぐあ!」
男が負けて動揺し、隙ができたことを殿下は見逃さない。
一瞬にしてラプラスの構成員を凍結し、手足の自由を奪った。
私はふらつきながら、殿下の方へ振り向く。
「……勝ちました、殿下……」
「ああ、見ていた。見事とだった! ミスティア・ブレイブ!」
「……は、い……」
限界に達した私は、そのまま意識を失う。
お父様、私……。
ちゃんと騎士になれましたか?
薄れゆく意識の中で……。
「いいぞ、ミスティア! どんどん強くなっているな」
「お父様に追いつきたいんだ!」
「ははっ、お父さんも負けていられないな」
懐かしい夢だ。
大好きなお父様に、私は剣を教わった。
「お父様! どうすればお父様みたいに強い剣士になれますか?」
「理由を持つことだよ」
「そう。お父さんは騎士なんだ。ただの剣士じゃない。お父さんの剣はね? 守る者のために振るう。相手を傷つけたり、勝つための戦うじゃない。騎士として守る者に尽くす……それが、お父さんの誇りだ」
「よくわからない」
「はははっ、いずれわかるさ。ミスティアも、騎士を目指すなら」
優しく頭を撫でてくれた。
お父様……お父様は偉大な騎士だった。
私はお父様のようになりたくて、同じ道を歩んだ。
そうだ。
私が学んだ剣は、何のためにあるのか。
今、思い出した。
◇◇◇
「てめぇらは王を殺せ。俺がこの天才様をぶっ殺すからよぉ」
「……」
(この人数差、さすがに父上を守りながらは不利だ。ミスティアは無事なのか?)
「グダグダ考えてんじゃねーよ。オレだけを見てろ」
「ちっ……!」
私は、誰だ?
何のために剣を振るう?
何のために、ここにいる?
「はははっ」
「なんだ?」
「お前こそ、見る相手を間違えているぞ?」
「何を――!」
彼は振り返る。
そこに立っていた私を見て、笑みを浮かべた。
「立ちやがったか! 女ぁ!」
「私は騎士だ! ここにいるのは、殿下の騎士として!」
だから負けられない。
殿下を、ここにいる人たちを守るために、私は剣を磨いてきた!
怒りに任せて振るう剣に、本物の力は宿らない。
「リミットブレイク!」
今こそ原点を見据えろ!
私の役目は、この男を倒すことだ!
復讐のためじゃなく、殿下に選ばれた騎士として!
「雰囲気が変わったな! 何かしたか!」
「あなたを倒します! 騎士として、全霊をもって!」
「いいぜ! 第二ラウンドというこやぁ!」
切っ先がぶつかる。
鍔迫り合い。
膂力では劣っていたが、リミットブレイクを発動したことで、力が拮抗する。
「重くなりやがったな! 魔力の流れが異常だ! それはあの男は見せなかったぜ?」
「私の全力ですから!」
「そうかよ! 楽しませてみろ!」
「楽しませる気はありません!」
異常だ。
限界突破した私の動きに、素の身体能力で拮抗している。
これが獣人の膂力。
どこが劣等種族だ。
人間よりもはるかに優れている。
人は認めたくないのだろう。
彼らが優れていることを……目を背けているだけだ。
私は背けない。
よく見ろ。
理解しろ。
自分との差を、この男の強さを。
私の父に勝った男の、数十手先の動きを!
「下段、斬り払い」
「――!」
(こいつ……)
「そのまま左袈裟斬り」
私が口にした動きに従うように、男は剣を振るう。
男は口元がニヤつく。
「オレの動きを読んでやがるな!」
「見えていますよ!」
リミットブレイク最大の利点は、脳内処理速度の加速。
それによって相手の動きを極限まで観察し、予測することができる。
殿下との戦いを経て、私はこの力をさらに磨いた。
日頃からいろんな人の動きを観察し、癖を探り、魔法を使っていない間も常に考えて行動する。
予測の精度を上げるために。
そして、上回るために!
(次、横薙ぎから回転――を躱して懐に入る!)
「っ――!」
十七手目。
私は勝負に出た。
リミットブレイクにも限界がある。
私が本気で戦えるのは残り数秒だけだ。
この一撃で決める!
全魔力を集中させるんだ!
「甘ぇよ!」
私の予測よりも一瞬早く、彼は大剣を防御に回していた。
が、それも――
「予測通りです」
「――!」
(こいつ、剣を……)
捨てた。
剣で斬ると見せかけて、魔力を込めていたのは拳だ。
両拳を、がら空きになった腹に叩きこむ。
「ごはっ!」
「まだです!」
獣人のタフさは予測済み。
一発じゃ足りない。
だから連続で、反撃の隙も与えない!
ひたすらに拳で殴る。
打撃と同時に魔力を拡散して、衝撃を内側に響かせる。
「こ、のぉ!」
「おおおおおおおおおおおおお!」
男は私の髪を掴む。
かまうな。
全力で、最後まで叩き込め!
この一撃に、私の全てを注ぐ!
「落ちろ!」
「ぐはっ――!」
私の拳が、男の鳩尾に直撃する。
リミットブレイクが終了した。
もはや立っていることすらやっとの状態だ。
「……いい、拳だったぜ?」
「……」
まだ……。
「悪くねぇ……戦いだった」
男は笑いながら、満足したように倒れ込んだ。
カランと音を立てて大剣が転がる。
私の剣と重なるように。
「勝った……」
「ば、馬鹿な! ルド様が負けるなんて!」
「よそ見していいのか?」
「ぐあ!」
男が負けて動揺し、隙ができたことを殿下は見逃さない。
一瞬にしてラプラスの構成員を凍結し、手足の自由を奪った。
私はふらつきながら、殿下の方へ振り向く。
「……勝ちました、殿下……」
「ああ、見ていた。見事とだった! ミスティア・ブレイブ!」
「……は、い……」
限界に達した私は、そのまま意識を失う。
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