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次女カリナ
九
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「博士」
「何か見つけたか?」
「はい」
引き出しの中に、紫色の押し花を見つけた。
よく見ると、一緒に紫色の何かが入った小瓶もある。
「ほう。あまり見かけない花だな」
「そうですね。でも関係があるか……」
紫色の花、小瓶。
それを見て、事前に調べておいた情報の一つを思い出す。
「紫蓮草……」
「ん?」
「この村の人たちが普段薬として使っている薬草です。紫色の花をつける草で、すり潰して他の薬草と混ぜて使っていたと聞きました」
「なるほど、だが紫蓮草か。あれは普通に薬草だ。毒性は持ち合わせていない……ただ、無関係ではなさそうだな。他の民家も調べてみようか」
「はい」
一件ずつ、民家の棚や机を調べていく。
すると、全ての建物から同じ小瓶が見つかった。
どうやら常備薬として重宝されていたようだ。
「同じですね」
「いや……」
わたしには全て同じ小瓶に見える。
だけど博士は、その違いに気づいたようだ。
小瓶の一つをじっと見つめて言う。
「なるほど、そういうからくりか」
「博士?」
「この二つをよく見ろ」
博士は二つの小瓶をわたしに見せた。
どちらも紫色の液体が入っている。
「わからないか?」
「……色の、濃さ?」
「正解だ」
二つの小瓶に入っている液体。
色は同じだが、その濃さがわずかに異なる。
「右は紫蓮草から作られた薬だが、左似て非なる毒草――紫吞花で作られている」
「紫吞花、ですか?」
「見た目がよく似た毒草だ。同じ環境下で生えるから、素人はよく間違える」
「じゃあ村の人たちは、その二つを間違えて?」
「おそらくな。見た目で二つを判断することは不可能。判断したければ、直接摂取するしかないが、その時点で毒が回る」
そう言いながら、博士は自分のカバンから小さな魔道具を取り出す。
「それは?」
「毒素を検出する魔道具だ。こういうこともあろうかと、念のために持ってきておいて正解だったな」
博士が小瓶を開ける。
色の濃いほうを一滴だけ、その魔道具に垂らす。
すると、魔道具が毒素を検出し、赤い光を放った。
「当たりだ」
小瓶の薬から毒素が検出された。
博士の予想通り、村の人たちは二つの草を間違えていたらしい。
薬だと思って飲んだものが毒だったなんて、笑えない冗談だ。
「さて、では次へ行くか」
「次? もうこれで終わりでは」
「何を言っている。本当に周辺で採取できるのか、確認しなくては終わらない。もしもこれが外部から持ち込まれた物だったのなら、話はもっとややこしくなるぞ」
「確かに……」
「わかったら行くぞ。日が沈む前にクレンベルへ戻りたいからな」
博士はそそくさと家を出て行く。
わたしは遅れないように後に続いて走る。
博士が向かったのは、村を覆っている森の中。
道という道はなく、草木をかき分けて進まなくてはならない。
「あの……こっちであっているんですか?」
「ああ」
「何でわかるんですか?」
「周りを見ろ」
見ても森の風景。
何の変哲もない森の緑だ。
「村の者は薬としてあれを使ってたのだろう? ならば自分たちで採取しているはずだ。普段から行き来している道なら、その痕跡が残る。僕はそれを辿っているだけだ」
「なるほど」
そうこう言っている間に、開けた空間に出る。
「わぁ」
「ほう、中々に絶景だな」
そこに広がっていたのは、一面紫色の花のじゅうたん。
紫蓮草がびっしりと咲いている。
「この中に毒草が混ざっているのか……」
「博士?」
「これが一番早い」
マスクを外し、徐にしゃがむ博士。
一輪の花を千切り、なんと切り口を……
舐めた。
「甘いな」
「なっ……何してるんですか?」
「おう、そんな大きな声も出たのだな」
「そんなこと言ってる場合じゃないです! 毒は?」
「心配いらない。これは紫蓮草、茎が甘いのがその証拠だ。ちなみに紫呑花は苦いらしい」
平然とした表情で説明する博士に、さすがのわたしも声を荒げる。
「らしいじゃないですよ! もしも毒だったらどうするつもりだったんですか?」
「安心したまえ。僕には君がいる」
「えっ?」
「もしも何かあっても、君がいれば死なない。一人なら僕だってこんな無茶はしないさ。君が一緒にいるから出来ることなのだよ」
それは信頼なのだろうか。
ちょっぴり納得のいかない理由だけど、やっぱり嬉しいから始末に負えない。
博士の言葉はまっすぐで、穢れのない本心。
「さっきの魔道具を使えばいいじゃないですか」
「あれは植物には使えん。手っ取り早くが最優先……うっ」
「博士!?」
どうやら当たりを引いてしまったらしい。
止める間もなく一舐めして、博士は膝をついてしまう。
「当たり……だな」
「しっかしりてください! 今治療しますから」
わたしは久しぶりに祈りを捧げた。
どんな毒でも、祈りの力なら癒すことが出来る。
「ありがとう。君がいてくれて良かったよ」
「そ、そんなこと言っても、勝手に無茶したことは同じですから」
「そうだな……だが、お陰で僕は生きているよ」
素で言っている。
博士はお世辞を言わないから。
これだから本当に……
「馬鹿ですね」
放っておけない。
「何か見つけたか?」
「はい」
引き出しの中に、紫色の押し花を見つけた。
よく見ると、一緒に紫色の何かが入った小瓶もある。
「ほう。あまり見かけない花だな」
「そうですね。でも関係があるか……」
紫色の花、小瓶。
それを見て、事前に調べておいた情報の一つを思い出す。
「紫蓮草……」
「ん?」
「この村の人たちが普段薬として使っている薬草です。紫色の花をつける草で、すり潰して他の薬草と混ぜて使っていたと聞きました」
「なるほど、だが紫蓮草か。あれは普通に薬草だ。毒性は持ち合わせていない……ただ、無関係ではなさそうだな。他の民家も調べてみようか」
「はい」
一件ずつ、民家の棚や机を調べていく。
すると、全ての建物から同じ小瓶が見つかった。
どうやら常備薬として重宝されていたようだ。
「同じですね」
「いや……」
わたしには全て同じ小瓶に見える。
だけど博士は、その違いに気づいたようだ。
小瓶の一つをじっと見つめて言う。
「なるほど、そういうからくりか」
「博士?」
「この二つをよく見ろ」
博士は二つの小瓶をわたしに見せた。
どちらも紫色の液体が入っている。
「わからないか?」
「……色の、濃さ?」
「正解だ」
二つの小瓶に入っている液体。
色は同じだが、その濃さがわずかに異なる。
「右は紫蓮草から作られた薬だが、左似て非なる毒草――紫吞花で作られている」
「紫吞花、ですか?」
「見た目がよく似た毒草だ。同じ環境下で生えるから、素人はよく間違える」
「じゃあ村の人たちは、その二つを間違えて?」
「おそらくな。見た目で二つを判断することは不可能。判断したければ、直接摂取するしかないが、その時点で毒が回る」
そう言いながら、博士は自分のカバンから小さな魔道具を取り出す。
「それは?」
「毒素を検出する魔道具だ。こういうこともあろうかと、念のために持ってきておいて正解だったな」
博士が小瓶を開ける。
色の濃いほうを一滴だけ、その魔道具に垂らす。
すると、魔道具が毒素を検出し、赤い光を放った。
「当たりだ」
小瓶の薬から毒素が検出された。
博士の予想通り、村の人たちは二つの草を間違えていたらしい。
薬だと思って飲んだものが毒だったなんて、笑えない冗談だ。
「さて、では次へ行くか」
「次? もうこれで終わりでは」
「何を言っている。本当に周辺で採取できるのか、確認しなくては終わらない。もしもこれが外部から持ち込まれた物だったのなら、話はもっとややこしくなるぞ」
「確かに……」
「わかったら行くぞ。日が沈む前にクレンベルへ戻りたいからな」
博士はそそくさと家を出て行く。
わたしは遅れないように後に続いて走る。
博士が向かったのは、村を覆っている森の中。
道という道はなく、草木をかき分けて進まなくてはならない。
「あの……こっちであっているんですか?」
「ああ」
「何でわかるんですか?」
「周りを見ろ」
見ても森の風景。
何の変哲もない森の緑だ。
「村の者は薬としてあれを使ってたのだろう? ならば自分たちで採取しているはずだ。普段から行き来している道なら、その痕跡が残る。僕はそれを辿っているだけだ」
「なるほど」
そうこう言っている間に、開けた空間に出る。
「わぁ」
「ほう、中々に絶景だな」
そこに広がっていたのは、一面紫色の花のじゅうたん。
紫蓮草がびっしりと咲いている。
「この中に毒草が混ざっているのか……」
「博士?」
「これが一番早い」
マスクを外し、徐にしゃがむ博士。
一輪の花を千切り、なんと切り口を……
舐めた。
「甘いな」
「なっ……何してるんですか?」
「おう、そんな大きな声も出たのだな」
「そんなこと言ってる場合じゃないです! 毒は?」
「心配いらない。これは紫蓮草、茎が甘いのがその証拠だ。ちなみに紫呑花は苦いらしい」
平然とした表情で説明する博士に、さすがのわたしも声を荒げる。
「らしいじゃないですよ! もしも毒だったらどうするつもりだったんですか?」
「安心したまえ。僕には君がいる」
「えっ?」
「もしも何かあっても、君がいれば死なない。一人なら僕だってこんな無茶はしないさ。君が一緒にいるから出来ることなのだよ」
それは信頼なのだろうか。
ちょっぴり納得のいかない理由だけど、やっぱり嬉しいから始末に負えない。
博士の言葉はまっすぐで、穢れのない本心。
「さっきの魔道具を使えばいいじゃないですか」
「あれは植物には使えん。手っ取り早くが最優先……うっ」
「博士!?」
どうやら当たりを引いてしまったらしい。
止める間もなく一舐めして、博士は膝をついてしまう。
「当たり……だな」
「しっかしりてください! 今治療しますから」
わたしは久しぶりに祈りを捧げた。
どんな毒でも、祈りの力なら癒すことが出来る。
「ありがとう。君がいてくれて良かったよ」
「そ、そんなこと言っても、勝手に無茶したことは同じですから」
「そうだな……だが、お陰で僕は生きているよ」
素で言っている。
博士はお世辞を言わないから。
これだから本当に……
「馬鹿ですね」
放っておけない。
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