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路地に差し込む月明かりに照らされた銀髪と、ルビーのように赤い瞳。
街で見かけるには珍しい貴族っぽい服装をした青年だ。
腰には剣を携えている。
「な、なんでこんな所に人が……」
「ん? それはお互い様だろ。こんな夜中に女が一人で出歩くなんて普通じゃないぞ」
「そ、それは……言われてみればそうだった」
深夜帰りが当たり前になっている弊害だ。
この時間に出歩いている人なんて私くらいだろう。
と思っていたからこそ、他に人がいたことに驚いた。
いや問題はそこじゃない。
「えっと……どこから見てたの?」
「子猫を見つけて駆け寄るあたりからかな?」
「さ、最初からなんだね……」
「まぁな。優しい奴もいるんだなって感心してたら、治癒術師だったとはな。良い腕だったよ」
「……どうもありがとうございます」
最初から見られてて気づけなかったんだ……。
でも良かった。
この様子だと、私が魔女だってことには気付いていないみたい。
手元が見えていなかったのか、それとも魔導器が服に隠れていると思ったのか。
よく考えたら、現代で魔女はおとぎ話になってるし、いるなんて思うわけも……。
「ところでお前、どうやって魔導器もなしに治癒術を使ったんだ?」
「え……」
ば、バレてたー!
「な、なんのことでしょう?」
「惚けても無駄だぞ? 言っただろ? ちゃんと最初から見ていたんだよ。お前が治癒を発動させたとき、魔導器の光はなかった。魔術を使えば魔導器が光る。その光がなかったのに、子猫の傷はちゃんと治癒してた」
「うっ……」
こ、この人ちゃんと見てる。
魔術行使に放たれる魔導器の光のことも。
普段は魔法で魔導器が光っているように見せて誤魔化してるけど、今は物もないし誰も見てないと思って油断していた。
で、でもまだ大丈夫!
相手もまだ疑ってるだろうし、言い逃れする方法はいくらでもある……はず!
「き、気のせいじゃないかな? ほ、ほら暗くて見間違えたとか」
「暗いほうが光は見えるぞ?」
「うっ……じゃ、じゃあ角度が悪くて見えなかったとか?」
「割と全身見えてたぞ? そもそも、どこか光ってたらわかるだろ? 暗いんだからな」
ニコリと微笑む彼の表情がなんだか怖い。
言い訳は全て論破されてしまった。
全部ごもっともなので言い返すことも出来ない。
魔女の私相手に口で勝つなんてこの人なかなかに……とか言ってる場合じゃないよね。
言い訳は通じないし、私への視線は疑いから確信に変わりつつある。
もうこうなったら、あの手を使うしかない。
「……わ、」
「わ?」
「忘れてください!」
全力で逃げる!
有無を言わさずこの場から立ち去ろうとする。
だけど、そんな私よりも早く彼は動き、逃げる私の両手を掴んで壁に詰め寄る。
「おっと!」
「なっ……」
速すぎる。
人間に出せる速度じゃなかった。
彼も魔術を使っているの?
そんな様子はなかったけど、明らかに異常なスピードだ。
加えて……。
「は、放して!」
「暴れても無駄だぜ」
「っ……」
なんて力なの?
まったく振りほどけない。
男女の身体的力の差があるとはいえ、普通じゃない力だ。
体型も細身で筋肉質には見えないのに、どこからこんな力が湧いて出るの?
さっきから全力で振りほどこうとしてるのに微動だにしないなんて……。
「残念だが逃がさないぞ。せっかく見つけたんだ」
魔女は存在自体が悪であり、罪である。
だから見つかれば殺されるか、捕らえられて実験の材料にされるか。
どう転んでも最悪の未来しかない。
こうなったらもう……魔法を使って逃げるしかないか。
目立つから使いたくなかったけど、もうバレちゃったしこの街にはいられないよね。
私は小さくため息をこぼす。
辞めたいとは思っていたけど、まさかこんな形で終わりが来るなんて……。
まぁ良いか。
「風よ――」
「待った待った! 逃げるな話を聞け! お前に危害を加えるつもりはないんだよ!」
「え……え?」
「俺はただ話をしたいだけだ。だから魔法を使って逃げようとするな」
唐突に意外なことを言われてキョトンとする。
不意に力が抜けてしまった。
呪文も途中でやめたから、私に集まっていた風が散る。
「し、信じられるわけないでしょ!」
「だったら何で俺は剣を抜いてないんだ? 俺にはお前が魔女だって確信があった。逃げようとした時点で斬りかかるだろ普通」
「それは……」
「第一、お前に危害を加えるつもりだったなら、声をもかけずに襲い掛かるだろ? お前は俺のことに気付いてもいなかったんだ。いきなり殺すのはやりすぎても、捕らえるだけなら簡単だった。どうして話しかけたと思うんだ?」
「た、確かに……」
彼の言う通りだ。
私を捕まえるタイミングは十分にあった。
今だって逃げようとする私に攻撃してこない。
彼ほどの速さ、力があれば私を殺すことなんて簡単だったはずなのに。
「……本当に?」
「ああ。だから逃げるな。逃げずに話を聞いてくれるなら、お前の正体も黙っておいてやる」
「え、ほ、本当!? 黙っててくれるの!?」
「ああ、約束しよう。だがもし逃げるなら、お前は明日から指名手配犯だな」
彼は意地悪そうな顔でニヤっと笑う。
なんだか楽しそうに見えるのは気のせいだろうか?
その表情にはちょっとムカつくけど、黙っていてくれるなら有難い。
一度バレてしまうと、ほとぼりが冷めるまで隠居しなくちゃいけないから。
「わ、わかった。わかったから手を放して」
「……逃げないな?」
「に、逃げないよ!」
「本当だな? もし逃げようとしたら足の一本や三本折るぞ」
「逃げないってば! 大体私の足は三本もないよ!」
「……そうか。じゃあとりあえず信じてやる」
そう言ってようやく、彼は掴んでいた手を放してくれた。
少々強く掴まれたから手首が赤くなっている。
街で見かけるには珍しい貴族っぽい服装をした青年だ。
腰には剣を携えている。
「な、なんでこんな所に人が……」
「ん? それはお互い様だろ。こんな夜中に女が一人で出歩くなんて普通じゃないぞ」
「そ、それは……言われてみればそうだった」
深夜帰りが当たり前になっている弊害だ。
この時間に出歩いている人なんて私くらいだろう。
と思っていたからこそ、他に人がいたことに驚いた。
いや問題はそこじゃない。
「えっと……どこから見てたの?」
「子猫を見つけて駆け寄るあたりからかな?」
「さ、最初からなんだね……」
「まぁな。優しい奴もいるんだなって感心してたら、治癒術師だったとはな。良い腕だったよ」
「……どうもありがとうございます」
最初から見られてて気づけなかったんだ……。
でも良かった。
この様子だと、私が魔女だってことには気付いていないみたい。
手元が見えていなかったのか、それとも魔導器が服に隠れていると思ったのか。
よく考えたら、現代で魔女はおとぎ話になってるし、いるなんて思うわけも……。
「ところでお前、どうやって魔導器もなしに治癒術を使ったんだ?」
「え……」
ば、バレてたー!
「な、なんのことでしょう?」
「惚けても無駄だぞ? 言っただろ? ちゃんと最初から見ていたんだよ。お前が治癒を発動させたとき、魔導器の光はなかった。魔術を使えば魔導器が光る。その光がなかったのに、子猫の傷はちゃんと治癒してた」
「うっ……」
こ、この人ちゃんと見てる。
魔術行使に放たれる魔導器の光のことも。
普段は魔法で魔導器が光っているように見せて誤魔化してるけど、今は物もないし誰も見てないと思って油断していた。
で、でもまだ大丈夫!
相手もまだ疑ってるだろうし、言い逃れする方法はいくらでもある……はず!
「き、気のせいじゃないかな? ほ、ほら暗くて見間違えたとか」
「暗いほうが光は見えるぞ?」
「うっ……じゃ、じゃあ角度が悪くて見えなかったとか?」
「割と全身見えてたぞ? そもそも、どこか光ってたらわかるだろ? 暗いんだからな」
ニコリと微笑む彼の表情がなんだか怖い。
言い訳は全て論破されてしまった。
全部ごもっともなので言い返すことも出来ない。
魔女の私相手に口で勝つなんてこの人なかなかに……とか言ってる場合じゃないよね。
言い訳は通じないし、私への視線は疑いから確信に変わりつつある。
もうこうなったら、あの手を使うしかない。
「……わ、」
「わ?」
「忘れてください!」
全力で逃げる!
有無を言わさずこの場から立ち去ろうとする。
だけど、そんな私よりも早く彼は動き、逃げる私の両手を掴んで壁に詰め寄る。
「おっと!」
「なっ……」
速すぎる。
人間に出せる速度じゃなかった。
彼も魔術を使っているの?
そんな様子はなかったけど、明らかに異常なスピードだ。
加えて……。
「は、放して!」
「暴れても無駄だぜ」
「っ……」
なんて力なの?
まったく振りほどけない。
男女の身体的力の差があるとはいえ、普通じゃない力だ。
体型も細身で筋肉質には見えないのに、どこからこんな力が湧いて出るの?
さっきから全力で振りほどこうとしてるのに微動だにしないなんて……。
「残念だが逃がさないぞ。せっかく見つけたんだ」
魔女は存在自体が悪であり、罪である。
だから見つかれば殺されるか、捕らえられて実験の材料にされるか。
どう転んでも最悪の未来しかない。
こうなったらもう……魔法を使って逃げるしかないか。
目立つから使いたくなかったけど、もうバレちゃったしこの街にはいられないよね。
私は小さくため息をこぼす。
辞めたいとは思っていたけど、まさかこんな形で終わりが来るなんて……。
まぁ良いか。
「風よ――」
「待った待った! 逃げるな話を聞け! お前に危害を加えるつもりはないんだよ!」
「え……え?」
「俺はただ話をしたいだけだ。だから魔法を使って逃げようとするな」
唐突に意外なことを言われてキョトンとする。
不意に力が抜けてしまった。
呪文も途中でやめたから、私に集まっていた風が散る。
「し、信じられるわけないでしょ!」
「だったら何で俺は剣を抜いてないんだ? 俺にはお前が魔女だって確信があった。逃げようとした時点で斬りかかるだろ普通」
「それは……」
「第一、お前に危害を加えるつもりだったなら、声をもかけずに襲い掛かるだろ? お前は俺のことに気付いてもいなかったんだ。いきなり殺すのはやりすぎても、捕らえるだけなら簡単だった。どうして話しかけたと思うんだ?」
「た、確かに……」
彼の言う通りだ。
私を捕まえるタイミングは十分にあった。
今だって逃げようとする私に攻撃してこない。
彼ほどの速さ、力があれば私を殺すことなんて簡単だったはずなのに。
「……本当に?」
「ああ。だから逃げるな。逃げずに話を聞いてくれるなら、お前の正体も黙っておいてやる」
「え、ほ、本当!? 黙っててくれるの!?」
「ああ、約束しよう。だがもし逃げるなら、お前は明日から指名手配犯だな」
彼は意地悪そうな顔でニヤっと笑う。
なんだか楽しそうに見えるのは気のせいだろうか?
その表情にはちょっとムカつくけど、黙っていてくれるなら有難い。
一度バレてしまうと、ほとぼりが冷めるまで隠居しなくちゃいけないから。
「わ、わかった。わかったから手を放して」
「……逃げないな?」
「に、逃げないよ!」
「本当だな? もし逃げようとしたら足の一本や三本折るぞ」
「逃げないってば! 大体私の足は三本もないよ!」
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