この治癒術師には秘密がある ~400年隠していた正体がロクデナシ王子にバレて万事休す……え、王宮に来ないか? さよならブラック冒険者ギルド~

日之影ソラ

文字の大きさ
3 / 6

3

しおりを挟む
 路地に差し込む月明かりに照らされた銀髪と、ルビーのように赤い瞳。
 街で見かけるには珍しい貴族っぽい服装をした青年だ。
 腰には剣を携えている。
 
「な、なんでこんな所に人が……」
「ん? それはお互い様だろ。こんな夜中に女が一人で出歩くなんて普通じゃないぞ」
「そ、それは……言われてみればそうだった」

 深夜帰りが当たり前になっている弊害だ。
 この時間に出歩いている人なんて私くらいだろう。
 と思っていたからこそ、他に人がいたことに驚いた。
 いや問題はそこじゃない。
 
「えっと……どこから見てたの?」
「子猫を見つけて駆け寄るあたりからかな?」
「さ、最初からなんだね……」
「まぁな。優しい奴もいるんだなって感心してたら、治癒術師だったとはな。良い腕だったよ」
「……どうもありがとうございます」

 最初から見られてて気づけなかったんだ……。
 でも良かった。
 この様子だと、私が魔女だってことには気付いていないみたい。
 手元が見えていなかったのか、それとも魔導器が服に隠れていると思ったのか。
 よく考えたら、現代で魔女はおとぎ話になってるし、いるなんて思うわけも……。

「ところでお前、どうやって魔導器もなしに治癒術を使ったんだ?」
「え……」

 ば、バレてたー!
 
「な、なんのことでしょう?」
「惚けても無駄だぞ? 言っただろ? ちゃんと最初から見ていたんだよ。お前が治癒を発動させたとき、魔導器の光はなかった。魔術を使えば魔導器が光る。その光がなかったのに、子猫の傷はちゃんと治癒してた」
「うっ……」

 こ、この人ちゃんと見てる。
 魔術行使に放たれる魔導器の光のことも。
 普段は魔法で魔導器が光っているように見せて誤魔化してるけど、今は物もないし誰も見てないと思って油断していた。

 で、でもまだ大丈夫! 
 相手もまだ疑ってるだろうし、言い逃れする方法はいくらでもある……はず!

「き、気のせいじゃないかな? ほ、ほら暗くて見間違えたとか」
「暗いほうが光は見えるぞ?」
「うっ……じゃ、じゃあ角度が悪くて見えなかったとか?」
「割と全身見えてたぞ? そもそも、どこか光ってたらわかるだろ? 暗いんだからな」

 ニコリと微笑む彼の表情がなんだか怖い。
 言い訳は全て論破されてしまった。
 全部ごもっともなので言い返すことも出来ない。
 魔女の私相手に口で勝つなんてこの人なかなかに……とか言ってる場合じゃないよね。
 言い訳は通じないし、私への視線は疑いから確信に変わりつつある。
 もうこうなったら、あの手を使うしかない。

「……わ、」
「わ?」
「忘れてください!」

 全力で逃げる!
 有無を言わさずこの場から立ち去ろうとする。
 だけど、そんな私よりも早く彼は動き、逃げる私の両手を掴んで壁に詰め寄る。

「おっと!」
「なっ……」

 速すぎる。
 人間に出せる速度じゃなかった。
 彼も魔術を使っているの?
 そんな様子はなかったけど、明らかに異常なスピードだ。
 加えて……。

「は、放して!」
「暴れても無駄だぜ」
「っ……」

 なんて力なの?
 まったく振りほどけない。
 男女の身体的力の差があるとはいえ、普通じゃない力だ。
 体型も細身で筋肉質には見えないのに、どこからこんな力が湧いて出るの?
 さっきから全力で振りほどこうとしてるのに微動だにしないなんて……。

「残念だが逃がさないぞ。せっかく見つけたんだ」

 魔女は存在自体が悪であり、罪である。
 だから見つかれば殺されるか、捕らえられて実験の材料にされるか。
 どう転んでも最悪の未来しかない。

 こうなったらもう……魔法を使って逃げるしかないか。
 目立つから使いたくなかったけど、もうバレちゃったしこの街にはいられないよね。
 
 私は小さくため息をこぼす。
 辞めたいとは思っていたけど、まさかこんな形で終わりが来るなんて……。
 まぁ良いか。

「風よ――」
「待った待った! 逃げるな話を聞け! お前に危害を加えるつもりはないんだよ!」
「え……え?」
「俺はただ話をしたいだけだ。だから魔法を使って逃げようとするな」

 唐突に意外なことを言われてキョトンとする。
 不意に力が抜けてしまった。
 呪文も途中でやめたから、私に集まっていた風が散る。

「し、信じられるわけないでしょ!」
「だったら何で俺は剣を抜いてないんだ? 俺にはお前が魔女だって確信があった。逃げようとした時点で斬りかかるだろ普通」
「それは……」
「第一、お前に危害を加えるつもりだったなら、声をもかけずに襲い掛かるだろ? お前は俺のことに気付いてもいなかったんだ。いきなり殺すのはやりすぎても、捕らえるだけなら簡単だった。どうして話しかけたと思うんだ?」
「た、確かに……」

 彼の言う通りだ。
 私を捕まえるタイミングは十分にあった。
 今だって逃げようとする私に攻撃してこない。
 彼ほどの速さ、力があれば私を殺すことなんて簡単だったはずなのに。

「……本当に?」
「ああ。だから逃げるな。逃げずに話を聞いてくれるなら、お前の正体も黙っておいてやる」
「え、ほ、本当!? 黙っててくれるの!?」
「ああ、約束しよう。だがもし逃げるなら、お前は明日から指名手配犯だな」

 彼は意地悪そうな顔でニヤっと笑う。
 なんだか楽しそうに見えるのは気のせいだろうか?
 その表情にはちょっとムカつくけど、黙っていてくれるなら有難い。
 一度バレてしまうと、ほとぼりが冷めるまで隠居しなくちゃいけないから。

「わ、わかった。わかったから手を放して」
「……逃げないな?」
「に、逃げないよ!」
「本当だな? もし逃げようとしたら足の一本や三本折るぞ」
「逃げないってば! 大体私の足は三本もないよ!」
「……そうか。じゃあとりあえず信じてやる」

 そう言ってようやく、彼は掴んでいた手を放してくれた。
 少々強く掴まれたから手首が赤くなっている。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!

月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、 花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。 姻族全員大騒ぎとなった

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」

歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。 「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは 泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析 能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り 続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。 婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」

月読みの巫女~追放されたので、女神様と女子会しながら隣国で冒険者ライフを楽しむことにします~

しえろ あい
ファンタジー
 リュンヌ王国の「月読みの巫女」アリアは、建国以来続くしきたりに縛られ、神殿と王家から冷遇される日々を送っていた。治癒や浄化といった「聖女らしい加護」を持たない彼女は、王太子ギルバートからも「無能」と蔑まれ、ついには身勝手な理由で婚約破棄と国外追放を言い渡されてしまう。  しかし、それこそがアリアの狙いだった。彼女が女神から授かった真の加護は、姿を変え、身体を強化し、無限の荷物を運べる「最強の冒険者セット」だったのである。 「やっと自由になれるわ!」 アリアは意気揚々と隣国へ向かい、正体を隠してBランク冒険者「リア」として第二の人生をスタートさせるのだった。 ※小説家になろう様にも投稿しています※

婚約破棄は構いませんが、私が管理していたものは全て引き上げます 〜成金伯爵家令嬢は、もう都合のいい婚約者ではありません〜

藤原遊
ファンタジー
成金と揶揄される伯爵家の令嬢である私は、 名門だが実情はジリ貧な公爵家の令息と婚約していた。 公爵家の財政管理、契約、商会との折衝―― そのすべてを私が担っていたにもかかわらず、 彼は隣国の王女と結ばれることになったと言い出す。 「まあ素敵。では、私たちは円満に婚約解消ですね」 そう思っていたのに、返ってきたのは 「婚約破棄だ。君の不出来が原因だ」という言葉だった。 ……はぁ? 有責で婚約破棄されるのなら、 私が“善意で管理していたもの”を引き上げるのは当然でしょう。 資金も、契約も、人脈も――すべて。 成金伯爵家令嬢は、 もう都合のいい婚約者ではありません。

処理中です...