通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~

日之影ソラ

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プロローグ①

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 妖刀。
 意思を宿した刀のことをそう呼ぶ。
 宿る意思は斬り裂かれた亡者共の怨念か。
 はたまた人を斬り続け、修羅と化した使い手の魂か。
 あるいは刀を打った者の消え去れない後悔かもしれない。
 
 その刃に宿る意思は邪悪であり、使い手の意識を侵食してゆく。
 強大な力を得る代償として、徐々に精神は汚染され、自分は自分でなくなってしまうだろう。
 故に妖の刀である。

 なんて……。
 
「格好いいんだ!」

 大学生にもなってこんなに興奮するのは幼稚だと自覚している。
 けれど、一度興奮してしまったら抑えられない。
 大学終わりの夕方。
 速攻で家に帰り、大好きな漫画の新刊をネットでぽちった。
 最近は本当に便利になった。
 ほしい物はネットで手に入るし、漫画や雑誌なんかも電子版が買えるようになって、購入も保存も楽になったからな。
 しかも最近は、序盤の巻を無料公開している出版社もある。
 俺が今、見つけた作品のその一つだ。
 三巻まで無料になっていて、絵は荒っぽいけど格好いいから気になって試し読み。
 その結果……。

「よーし、全部買うか」

 ド嵌りしてしまった。
 懐かしの中二心をくすぐる設定と世界観。
 主人公のビジュアルも最高で、何より相棒である妖刀が格好良すぎる。
 命と未来を食らって強くなる力。
 強大な力には必ず代償があり、自分を犠牲にしてでも他人を救おうとする壊れた自己犠牲精神。
 まさに俺が求める理想の主人公とその力だった。

 ネットで残りの巻数をチェックする。

「全三十七巻か……金額にして約二万円……」

 いろいろと便利になった世の中だが、物価が上昇傾向にあるのはとても困る。
 バイトで稼がないと生活できない貧乏学生には、二万円の出費はでかい。
 ただ、こういう時に便利なのがこのカードだ!

「大丈夫。俺には魔法のカードがある」

 クレジットカードさえあれば、支払いは翌月末まで伸びる。
 その頃にはバイト代も入っているし、足りなそうなら日雇いのバイトを増やせばいい。
 まったく問題なし!
 今ほしいと思ったものを躊躇わない。
 それが俺、宮本総司のモットーなのだ。

 ぽちっとクリック。
 本当に便利になった。
 たかが一アクションで、二万円が消えてゆく……。
 ネットショッピングって実際の財布からお金が消えるわけじゃないから、お金を使った実感がわきにくいんだよな。
 そのせいでついつい散在してしまう。
 みんなもわかってくれるはずだ。

「さて、読みつくすぞ!」

 明日は休日だ。
 時間はたっぷりあるし、夜更かししても支障はない。
 俺は購入したばかりの漫画を読み始めた。
 三十巻以上もある長編シリーズだ。
 漫画といえど、読むだけでも数時間がかかる。
 多少の眠気を感じつつ、次の巻へと続けているうち、ついに最終巻にたどり着いた。

「こ、ここで終わり? 嘘だろ?」

 最新刊はものすごく気になる展開で終わっていた。
 妖刀の謎に迫り、いよいよ最終決戦。
 続きが読みたくて仕方がないが、次巻の発売は数か月ごと終わりのページに書いてあった。

「まじかぁ……」

 あるあるなのだが、突発的に好きになった漫画が連載中だと、続きが読み経過ぎておかしくなる。
 一気に最新刊まで読んだからこそ、物語に浸っている。
 俺はベッドに倒れ込む。

「眩しっ」

 カーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。
 寝そべりながら時計を見る。

「六時半……」

 気がつけば朝を迎えていた。
 読み始めたのが九時過ぎくらいだったから、随分とかかってしまったな。
 徹夜明けで本来なら睡魔が襲うはずだけど……。

「眠くないんだよなぁ」

 物語に浸って興奮気味だったせいで、朝になってもまったく眠気に襲われない。
 たぶんぼーっとしていれば眠くなるのだろうが、なんとなく時間が勿体ないような気がして、ベッドから起き上がる。
 パソコン画面に再び視線を向けて、他に面白そうな漫画はないか。
 アニメになっていないかなどをチェックし始めた。

「広告うざっ! ん?」

 主張の激しいネット広告の中で、某密林サイト購入ページに視線が向く。
 広告として表示されていたのは一振りの模造刀だった。
 妖刀をメインに扱った漫画を同じサイトで購入した影響だろう。
 それに類似した商品を買いませんかと、広告が主張してくる。
 普段なら無視するところだが、今の俺の脳内は漫画のことでいっぱいだった。

「これ……格好いいな」

 全体的に黒いデザイン。
 ただの模造刀なのだろうけど、どことなく禍々しさを感じる。
 平たく言えば、妖刀っぽかった。

「くっ、ずるいぞア〇ゾン! このタイミングでこんなものを見せるなんて……」

 吸い込まれるように購入ページへ飛ぶ。
 
「はっ! いつの間にか密林のサイトページに! なんていう魔力……」

 徹夜明けでテンションがおかしくなった俺は、自分でも恥ずかしいセリフとリアクションを取りつつ、改めて模造刀に釘付けになった。
 
「格好いい……うん、悪くない」
 
 値段は……一万とちょっと。
 高いな。
 地味に高い。
 ちょうど漫画も購入した後で、すでに二万円以上使ってしまった。
 何度もいうが貧乏学生には痛い出費だ。
 ここは我慢すべきだろう。
 俺もいい加減大人だしな。
 己を律することくらいはできて当然――

「なっ! 馬鹿な! 購入完了だと!?」

 気がつけば模造刀はカートに移動され、そのままの勢いで購入ボタンも押されていた。
 まったく、本当に便利な世の中になったものだ。
 
「ま、まさかこれも妖刀の魔力なのか……」

 自分の手を見つめながら中二くさいセリフを口にして。

 ビビビビビッ!

 目覚ましのアラームが鳴った。
 時刻は七時。
 普段なら起きて大学へ向かう準備を始める頃だった。
 休日なのを忘れて、アラームを設定したままになっていたらしい。
 夢から覚める音を聞いた俺の身体は……。

「……何やってんだ……俺」

 文字通り、現実に引き戻された。
 徹夜で自分のテンションがおかしくなっていたことを自覚する。
 どっと疲れが押し寄せて、眠気がピークになった。

「……寝よう」

 そのままベッドへ倒れ込む。
 漫画の購入と、勢いで買ってしまった模造刀の代金……。
 考えないことにしよう。
 明日の俺が整理してくれるはずだ。
 そう思っているうちに、意識は沈んでゆく。
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