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第一章 転生したけど死にそう
結婚、二人目②
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ジーナからの告白に背筋がピンと立つ。
隣に座っているカナタも驚いている様子だった。
彼女の思いが伝わってくるようだ。
表情から、声色から、その言葉に込められた意志がわかる。
嘘やハッタリ、その場のノリでの告白ではないことが、彼女の迫力から理解できた。
ジーナは自分の胸に手を当てながら続ける。
「この気持ちは紛れもない本心だ。私は……心からタクロウに惚れている」
「な、なんで……」
どこに惚れるイベントがあった?
何か特別なことをした記憶はないんだが……。
「タクロウには、私の姉上のことを話しただろう?」
「ん、ああ」
騎士アイギス。
王国騎士団の大隊長の一人で、ジーナよりも優秀らしい。
そのことでジーナは劣等感を抱いていた。
「私はずっと、姉上の影を追い続けていた。姉上の教えは絶対だ。姉上が言っていることは全て正しい。盲目的に信じていた私に、タクロウは教えてくれた。私は、私でしかないということを」
ジーナは嬉しそうに微笑み、目を瞑る。
俺も思い出す。
今のセリフは、ヘドロモンスターと戦闘後、俺がジーナに伝えた言葉だった。
何気なく、思ったことを伝えただけなのだけど……彼女には深く心に響いていたようだ。
「私は私で、姉上にはなれない。それでもいいと……向き不向きがあって、私にもちゃんと長所があると、タクロウは言ってくれた。嬉しかったんだ。本当に」
「そ、そうか」
そこまで深い意味があってのセリフじゃなかったんだけどな。
なんだか逆に申し訳ない気分と、悪くないという気持ちで背反している。
「いつだって私は姉上と比べられた。仕方がないことだし、皆が私よりも姉上に期待する気持ちもわかる。でも……一度いいから、私のほうを見てほしかった。姉上じゃなくて、私に期待してほしかった。私だって頑張っているのに……」
「ジーナ……」
「こんな弱音を吐いたら、姉上は失望するだろうな」
「いいだろ別に、弱音くらい」
無意識に出た言葉は、彼女を慰めるものだった。
ジーナは優しく微笑む。
「タクロウが初めてだよ。姉上じゃなくて、私がいてくれてよかったと言ってくれたのは……タクロウが初めてだったんだ」
ジーナは手を伸ばし、俺の手に触れる。
温かい手だった。
元々体温が高いのか、それとも胸に触れて温められていた結果なのか。
彼女の熱が、思いが伝わってくる。
「あの瞬間、私のことを肯定してくれたお前に、私は恋に落ちたんだと思う」
「――!」
ごくり、と息を飲む。
本気の告白、女の子からの本気の思いに触れる。
カナタの時のように俺からじゃない。
俺より先に好意を示し、求めてくる女性に、俺の心は大混乱を起こしかけていた。
「だから結婚したいんだ。わ、私は不器用だから……変な言い方になってしまったけど。責任とか、本当はどうだっていい。胸くらい、タクロウならいくらでも見せられる」
「い、いくらでも……」
「この状況でおっぱいのこと考えられるなんて、さすが変態クズタクロウですね」
「っ、お前は無関係だからあっち行ってろ。邪魔すんな」
「私も関係者ですよ! いいんですかジーナ! こんなサイテー男ですよ!」
空気を読まずにぷんすか怒るサラスに、ジーナは慈愛に満ちた表情で言う。
「構わない。人間誰しも欠点はある。私はタクロウのいいところを知っているし、そこに惚れているんだ」
「ジーナ……」
「ガチじゃないですか……よかったですね。嫁二人目ゲットですよ」
「お前はもう少し空気読むことを覚えろ」
いい雰囲気が台無しじゃないか。
でも、彼女は本気だ。
本気で俺のことを思ってくれている。
俺はどうだ?
ジーナのことを本心ではどう思っている?
「タクロウ」
俺の名を呼ぶジーナの顔をじっと見つめる。
嫌いでは……ない。
最初こそ嫌な奴だと思っていたけど、関わるうちに人間らしさとか、弱さみたいなのを感じて。
彼女なりの葛藤があったり、不器用なだけで根はいい奴だと知ったら、急に放っておけなくなった。
好きか嫌いの二択なら、たぶん好きなほうだろう。
ただ……。
カナタに視線を向ける。
目が合い、彼女はキョトンと首を傾げる。
俺はカナタのことが好きだ。
だから結婚したし、女神様にも認められた。
カナタに対する好きと、ジーナに対する好きは同じだろうか?
「……ごめん。やっぱり違う。ジーナのことは嫌いじゃないけど、恋愛的な好きとは違うというか。まだ足りないというか」
「そ、そうか……」
「本当にごめん。気持ちは嬉しいし、あと一歩って感じなんだけど」
「一歩……か」
「そういう時こそデートですよ!」
陽気に提案したのはサラスだった。
立ち上がり、指をピント立てて俺とジーナに宣言する。
「あと一歩はデートで近づけばいいんです! カナタの時もそうでしたからね!」
「なるほど、デートをすればいいんだな!」
「そうです! デートでタクロウを意識させるんです! この男は惚れやすいので簡単に落ちると思いますよ!」
「おい、人を優柔不断な奴みたいなこと言うんじゃない」
惚れやすいのは事実だが。
「タクロウ! デートをしよう! 今からだ!」
「え? 今からって今日はクエストを……」
「いいじゃないですか。クエストよりデートのほうが優先です! しっかり惚れて結婚して、さっさと童貞捨ててください。じゃないと私が死にます」
「結局自分のためかよ!」
まぁ俺も死ぬから無関係じゃないわけで……。
ジーナとサラスは乗り気だった。
俺もジーナのことは嫌いじゃないし、この一歩が踏み出せるならデートもやぶさかじゃない。
あとは彼女の同意だけだ。
「……いいか?」
「……仕方ないな! 行ってきてもいいよ」
「カナタ……」
「そうしないとタクロウが死んじゃうしな! 頑張ってこい!」
カナタが俺の背中を叩く。
なんて健気で優しい妻なんだ。
彼女と結婚して本当によかった。
浮気するようで後ろめたい気持ちもあったが、彼女に背中を叩かれて多少吹っ切れる。
「ありがとう、カナタ」
「おう」
「では行こう! デートだ!」
「お、おう。ちょっ、プランは?」
「私に任せてくれ! 必ずタクロウを振り向かせてみせる!」
俺はジーナに手を引っ張られ、半ば強引に冒険者ギルドを出ていく。
二人は残り、サラスは手を振って見送っていた。
「いってらっしゃーい」
「……」
ふいに見えてカナタの表情は、少し寂しそうだった。
隣に座っているカナタも驚いている様子だった。
彼女の思いが伝わってくるようだ。
表情から、声色から、その言葉に込められた意志がわかる。
嘘やハッタリ、その場のノリでの告白ではないことが、彼女の迫力から理解できた。
ジーナは自分の胸に手を当てながら続ける。
「この気持ちは紛れもない本心だ。私は……心からタクロウに惚れている」
「な、なんで……」
どこに惚れるイベントがあった?
何か特別なことをした記憶はないんだが……。
「タクロウには、私の姉上のことを話しただろう?」
「ん、ああ」
騎士アイギス。
王国騎士団の大隊長の一人で、ジーナよりも優秀らしい。
そのことでジーナは劣等感を抱いていた。
「私はずっと、姉上の影を追い続けていた。姉上の教えは絶対だ。姉上が言っていることは全て正しい。盲目的に信じていた私に、タクロウは教えてくれた。私は、私でしかないということを」
ジーナは嬉しそうに微笑み、目を瞑る。
俺も思い出す。
今のセリフは、ヘドロモンスターと戦闘後、俺がジーナに伝えた言葉だった。
何気なく、思ったことを伝えただけなのだけど……彼女には深く心に響いていたようだ。
「私は私で、姉上にはなれない。それでもいいと……向き不向きがあって、私にもちゃんと長所があると、タクロウは言ってくれた。嬉しかったんだ。本当に」
「そ、そうか」
そこまで深い意味があってのセリフじゃなかったんだけどな。
なんだか逆に申し訳ない気分と、悪くないという気持ちで背反している。
「いつだって私は姉上と比べられた。仕方がないことだし、皆が私よりも姉上に期待する気持ちもわかる。でも……一度いいから、私のほうを見てほしかった。姉上じゃなくて、私に期待してほしかった。私だって頑張っているのに……」
「ジーナ……」
「こんな弱音を吐いたら、姉上は失望するだろうな」
「いいだろ別に、弱音くらい」
無意識に出た言葉は、彼女を慰めるものだった。
ジーナは優しく微笑む。
「タクロウが初めてだよ。姉上じゃなくて、私がいてくれてよかったと言ってくれたのは……タクロウが初めてだったんだ」
ジーナは手を伸ばし、俺の手に触れる。
温かい手だった。
元々体温が高いのか、それとも胸に触れて温められていた結果なのか。
彼女の熱が、思いが伝わってくる。
「あの瞬間、私のことを肯定してくれたお前に、私は恋に落ちたんだと思う」
「――!」
ごくり、と息を飲む。
本気の告白、女の子からの本気の思いに触れる。
カナタの時のように俺からじゃない。
俺より先に好意を示し、求めてくる女性に、俺の心は大混乱を起こしかけていた。
「だから結婚したいんだ。わ、私は不器用だから……変な言い方になってしまったけど。責任とか、本当はどうだっていい。胸くらい、タクロウならいくらでも見せられる」
「い、いくらでも……」
「この状況でおっぱいのこと考えられるなんて、さすが変態クズタクロウですね」
「っ、お前は無関係だからあっち行ってろ。邪魔すんな」
「私も関係者ですよ! いいんですかジーナ! こんなサイテー男ですよ!」
空気を読まずにぷんすか怒るサラスに、ジーナは慈愛に満ちた表情で言う。
「構わない。人間誰しも欠点はある。私はタクロウのいいところを知っているし、そこに惚れているんだ」
「ジーナ……」
「ガチじゃないですか……よかったですね。嫁二人目ゲットですよ」
「お前はもう少し空気読むことを覚えろ」
いい雰囲気が台無しじゃないか。
でも、彼女は本気だ。
本気で俺のことを思ってくれている。
俺はどうだ?
ジーナのことを本心ではどう思っている?
「タクロウ」
俺の名を呼ぶジーナの顔をじっと見つめる。
嫌いでは……ない。
最初こそ嫌な奴だと思っていたけど、関わるうちに人間らしさとか、弱さみたいなのを感じて。
彼女なりの葛藤があったり、不器用なだけで根はいい奴だと知ったら、急に放っておけなくなった。
好きか嫌いの二択なら、たぶん好きなほうだろう。
ただ……。
カナタに視線を向ける。
目が合い、彼女はキョトンと首を傾げる。
俺はカナタのことが好きだ。
だから結婚したし、女神様にも認められた。
カナタに対する好きと、ジーナに対する好きは同じだろうか?
「……ごめん。やっぱり違う。ジーナのことは嫌いじゃないけど、恋愛的な好きとは違うというか。まだ足りないというか」
「そ、そうか……」
「本当にごめん。気持ちは嬉しいし、あと一歩って感じなんだけど」
「一歩……か」
「そういう時こそデートですよ!」
陽気に提案したのはサラスだった。
立ち上がり、指をピント立てて俺とジーナに宣言する。
「あと一歩はデートで近づけばいいんです! カナタの時もそうでしたからね!」
「なるほど、デートをすればいいんだな!」
「そうです! デートでタクロウを意識させるんです! この男は惚れやすいので簡単に落ちると思いますよ!」
「おい、人を優柔不断な奴みたいなこと言うんじゃない」
惚れやすいのは事実だが。
「タクロウ! デートをしよう! 今からだ!」
「え? 今からって今日はクエストを……」
「いいじゃないですか。クエストよりデートのほうが優先です! しっかり惚れて結婚して、さっさと童貞捨ててください。じゃないと私が死にます」
「結局自分のためかよ!」
まぁ俺も死ぬから無関係じゃないわけで……。
ジーナとサラスは乗り気だった。
俺もジーナのことは嫌いじゃないし、この一歩が踏み出せるならデートもやぶさかじゃない。
あとは彼女の同意だけだ。
「……いいか?」
「……仕方ないな! 行ってきてもいいよ」
「カナタ……」
「そうしないとタクロウが死んじゃうしな! 頑張ってこい!」
カナタが俺の背中を叩く。
なんて健気で優しい妻なんだ。
彼女と結婚して本当によかった。
浮気するようで後ろめたい気持ちもあったが、彼女に背中を叩かれて多少吹っ切れる。
「ありがとう、カナタ」
「おう」
「では行こう! デートだ!」
「お、おう。ちょっ、プランは?」
「私に任せてくれ! 必ずタクロウを振り向かせてみせる!」
俺はジーナに手を引っ張られ、半ば強引に冒険者ギルドを出ていく。
二人は残り、サラスは手を振って見送っていた。
「いってらっしゃーい」
「……」
ふいに見えてカナタの表情は、少し寂しそうだった。
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