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〖魔王〗がインストールされました②

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 深く、安心できる睡眠はいつぶりだろうか。
 俺の身体はゆっくりと目覚める。
 暗闇に差し込む光に手を伸ばすように。
 確かな軌跡をたどって。

「……ぅ……ここは……」

 見慣れぬ天井。
 それに、かすかに甘い香りが残っている。

「お、お目覚めですか? レオルスさん」
「フィオレ……」

 顔を横に向けると、恥ずかしそうにフィオレが俺を見ている。
 うっすらと思い出し始める。
 彼女に部屋に呼ばれて、アロマの香りに誘われてベッドで横になった後……。

「ああ……寝てたのか」
「は、はい」

 俺はゆっくりと起き上がる。
 フィオレに確認する。

「どのくらい寝てたんだ?」
「に、二時間くらいです」
「意外と短いな。もっと長く寝てたように感じる」

 俺は手をグーパーさせたり、肩を回したりして動きを確認する。
 いつもより身体が軽い。
 夜から朝までぐっすり眠れた後みたいに、疲労が一気に抜けた気がする。

「これもアロマの効果なのか?」
「は、はい。疲労回復効果のポーションも、少し混ぜました」
「そうか。ありがとう、おかげで疲れがとれたよ」
「お、お役に立てたのなら光栄です。えへへ」

 彼女は嬉しそうに微笑む。
 暗い表情をしていることが多い彼女が、顔を隠しながら笑っている姿は新鮮で、少し安心した。
 あの一件で塞ぎこんでしまうか心配していたけど、杞憂だったようだ。
 エリカやクロエのおかげだろう。
 俺は大きく背伸びをする。

「う、うーん! 本当に助かったよ。何かお礼をさせてくれ」
「そ、そんな! レオルスさんには助けて頂いてばかりなので、お礼なんて……ただ、その……」

 フィオレはもじもじしながら視線を低回させる。
 何かしてほしいことでもあるのだろう。
 俺は微笑み、彼女に言う。

「遠慮しなくていいよ」
「えっと、じゃ、じゃあ……あ、頭を……」
「頭?」
「な、撫でて……もらえないでしょうか?」

 頭を撫でてほしい。
 もじもじしながらお願いされたのは、とても簡単なことで、少し拍子抜けする。
 俺はもちろんと答えて、彼女の頭に手を乗せる。

「フィオレは凄いな」
「ぁ……」

 軽く優しく、頭を撫でる。
 すると、フィオレの表情はうっとりして、本当に気持ちよさそうだ。
 あまりに幸せそうな顔をするから、なんだかこっちまで嬉しくなる。

「頭撫でられるの、好きなのか?」
「はい。レオルスさんに撫でてもらえるの……す、好きです。褒めてもらえるのも」
「そっか。なら、これから褒める時はこうしていいか?」
「い、いいんですか?」
「もちろん。こんなことで喜んでもらえるなら、いくらでもするよ」

 俺も幸せそうな顔を見ていたい。
 フィオレは雨上がりに顔を出す太陽のように、眩しいほど笑顔になる。
 
「わ、私、もっと頑張ります。レオルスさんにもっと、褒めてもらえるように」
「ああ、でも無理しちゃダメだぞ? 悩み事があったら相談するんだ」
「はい! か、隠し事はもうしません。エリカ様とも約束しました」
「そうしてくれ」

 俺は頭から手を離すと、ものすごく悲しそうな表情を見せる。
 名残り惜しいが、いつまでも撫でているのも違う気がした。
 続きは次の機会に。

「じゃあ俺は行くよ。ありがとうな」
「はい。い、いつでもいらしてください。レオルスさんなら、いつでもいいです」
「ああ。また眠れなかったら相談するよ」
「待っています」

 俺はフィオレの部屋を後にする。
 廊下に出て、少し歩いたところで立ち止まる。

「いつから見てたんだ……ライラ」
「む、気づいておったか」

 彼女は廊下の分かれ道からひょこっと顔を出す。
 ニヤリと笑みを浮かべ、跳ねるように俺の前にやってくる。

「攻略が捗っているみたいで何よりだな」
「何の話だか」
「惚けるなー、フィオレにも好かれて、ついにレオルス大好きハーレムギルドの誕生だな!」
「そんな悪趣味な組織を作った覚えはない」
 
 俺は大きくため息をこぼす。
 
「フィオレは純粋に慕ってくれているだけだと思うぞ。クロムはあれだが」
「甘いな、お前さんは。あれはもうお前さんにほの字で間違いない。お前さんが寝てる間も、ずっとお前さんの寝顔をニコニコしながら見ておったぞ。二時間ずっと」
「そ、そうだったのか……というかお前、そんな前から見てたのか」
「うむ」

 暇人か。
 俺も今日は似たようなものだけど。

「いい傾向だな。英雄らしくなってきたではないか?」
「どこがだよ」
「何を言う! 英雄とは異性に好かれる者だぞ? 英雄の隣には美女と相場が決まっている! 女子に好かれるのも、英雄の素質の一つだからな」
「素質ねぇ……」

 確かに俺がスキルで見た英雄の記録も、女の子に囲まれていたり、必ず一人以上、英雄に好意を寄せている女性がいたか。
 ライラの言っていることがあながち的外れでないことが、微妙に悔しい。

「悔しがることはないだろ? 私も鼻が高い! それに、お前さんはこれから世界の危機を救うんだぞ? それくらい贅沢しておかねば損だ」
「そうだな。世界の……ん?」

 一瞬、時間が止まった。
 何やらさらっと重要なことを言われたような……。

「ライラ」
「なんだ?」
「世界の危機ってなんだ?」
「あれ? 言ってなかったか? 近い将来、この世界を崩壊させる何かが起こる。それを止めるのが、私とお前さんの役目だ」
「……」

 初耳なんだが?
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