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3.もしかして夢?じゃない……?
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「え、エリック……?」
「ん? 何か飲みたいものとか食べたいものでもある?」
目を白黒とさせる私に、エリックらしき男は相好を崩して笑った。えっ! やっぱりエリックじゃない?
頬を指の背で優しく撫でられて、戸惑いのあまり言葉に詰まる。はくはくと唇が戦慄くが、あまり動かしすぎるとまた触れてしまうかもしれないと思い、しっかりと閉じた。
「…………」
「心配しただろ? あまり無茶をしないでくれ。心臓がいくつあっても足りない」
しかしその言葉には聞き覚えがある。訓練や実験で怪我をしたり巻き込まれたりで何度も溜息と共にいわれた台詞だ。眉根を寄せた表情も。ただし近い、近過ぎる!
エリックは上体を起こしている私のすぐそばでベッドに座っていた。そりゃそうだろう、さっき唇がくっ付いていた時と変わらず、身体の距離は近いままなのだから。さらに私が背にしているベッドボードに手をついているから、囲い込まれている感がすごい。身動きが取れないよう、狭い檻に閉じ込められた魔獣の気分だ。身体は少しも動かず、視線だけを彷徨わせた。
「ラリア……」
「分かったから! 何をしたのかは分かんないけど! とりあえず、ごめんなさい!」
何に対してか分からないけれど謝罪を口にしながら慌てて目を瞑りながら顔を背けた。直視はできないものの、再びエリックの顔が近づいてきている気配を感じたのだ。
「ひゃっ!」
エリックが首筋に顔を埋めるようにして肩に凭れてきたものだから、思わず変な声を上げてしまった。吐息が鎖骨に当たってこそばゆい。逃げたいけれど、いつの間にか抱きしめられていて叶わなかった。
「ラリアがいなければ、生きてる意味なんてないんだ」
呟かれたのは、らしくないほど小さい声で。重い吐息とともに、これまた重い台詞が吐かれる。見た目によらず心配症だと知ってはいたが、冷静な彼をこれほどまでに心配させてしまったのかと思うと、申し訳ない気持ちで一杯だ。
私の知っているエリックと違うように思えたけれど、やっぱり気のせいなのかもしれない。そう思ってしまうほどには、目の前の男はエリックしか考えられなかった。見た目の違和感はさて置き、声や話し方、なにより纏う魔力は彼以外にあり得ない。
「ごめんね。ちょっと何が起こってこうなったか記憶がないんだけど、多分私が悪かったんだろうなとは理解しているわ」
「覚えていないのか? ……まぁ、今は無理に思い出す必要はない。とりあえずゆっくり休んでくれ」
「うん、ありがとう」
首元のくすぐったさに堪えながら、昔はよく撫でてあげた青みがかった深緑色の髪に手を伸ばす。幼い頃よりも髪質はしっかりと硬くなっているが、相変わらずサラサラだ。前髪は真ん中で分けられて頬辺りの長さだが、それ以外は低い位置で一つに括っている。撫でながら、その括られた部分をなぞるように掌に滑らせた。
(あれ? こんなに髪の毛長かったっけ?)
胸辺りをキープしている私のほうが長かったはず。けれどどう見ても私より長い。
手から深緑色がスルスルと落ちていく。もう一度確認したくて再び撫でようとしたけれど、突然エリックが顔を上げた。え、と声を上げる間もなく、またもや唇を塞がれてしまい手は宙を掻いた。
「……んっ」
何度も食べられるように唇が優しく挟まれて、全身が氷漬けにされたかのように固まった。どうしていいのか分からないのだ。
私の知っているエリックは、こんなに手慣れていないはず。エリックはモテるから、もしかしたら私の知らないところで女の子と遊んでいたのかもしれないけれど、いつも一緒に行動していた彼に、そんな暇などなかった。
それでも共有していない時間はもちろんあるわけで。今まで考えたこともなかったけれど、隠れて経験を積んでいる彼を想像したら胸がムカムカと重苦しくなった。
暑いからと足を出していただけで、頬を染めて直視せずに「見苦しい」と怒るような男なのに。けれど女の扱いに慣れているこの状態では疑わずにはいられない。まるで別人のようだ。
(もしかして! そもそもこの人はエリックじゃない……?)
その方が納得できるけれど、本人としか思えない特徴や会話がスムーズだったのはおかしい。
いやおかしいのは、こんなにも一方的にキスをされていることだ。これは私の願望なのか? 欲求不満すぎて夢まで見ている? あ、もしかしたらこれ自体が夢なのでは? それが一番しっくりくる。
唇が漸く離れたあと、名残惜し気に身体を離して立ち上がったエリックは、いつの間にか部屋に入ってきていたサリィと何か話していた。それをぼんやりと眺めながら、思いっきり頬を抓ってみた。めちゃくちゃ痛い。……やっぱり現実?
「ん? 何か飲みたいものとか食べたいものでもある?」
目を白黒とさせる私に、エリックらしき男は相好を崩して笑った。えっ! やっぱりエリックじゃない?
頬を指の背で優しく撫でられて、戸惑いのあまり言葉に詰まる。はくはくと唇が戦慄くが、あまり動かしすぎるとまた触れてしまうかもしれないと思い、しっかりと閉じた。
「…………」
「心配しただろ? あまり無茶をしないでくれ。心臓がいくつあっても足りない」
しかしその言葉には聞き覚えがある。訓練や実験で怪我をしたり巻き込まれたりで何度も溜息と共にいわれた台詞だ。眉根を寄せた表情も。ただし近い、近過ぎる!
エリックは上体を起こしている私のすぐそばでベッドに座っていた。そりゃそうだろう、さっき唇がくっ付いていた時と変わらず、身体の距離は近いままなのだから。さらに私が背にしているベッドボードに手をついているから、囲い込まれている感がすごい。身動きが取れないよう、狭い檻に閉じ込められた魔獣の気分だ。身体は少しも動かず、視線だけを彷徨わせた。
「ラリア……」
「分かったから! 何をしたのかは分かんないけど! とりあえず、ごめんなさい!」
何に対してか分からないけれど謝罪を口にしながら慌てて目を瞑りながら顔を背けた。直視はできないものの、再びエリックの顔が近づいてきている気配を感じたのだ。
「ひゃっ!」
エリックが首筋に顔を埋めるようにして肩に凭れてきたものだから、思わず変な声を上げてしまった。吐息が鎖骨に当たってこそばゆい。逃げたいけれど、いつの間にか抱きしめられていて叶わなかった。
「ラリアがいなければ、生きてる意味なんてないんだ」
呟かれたのは、らしくないほど小さい声で。重い吐息とともに、これまた重い台詞が吐かれる。見た目によらず心配症だと知ってはいたが、冷静な彼をこれほどまでに心配させてしまったのかと思うと、申し訳ない気持ちで一杯だ。
私の知っているエリックと違うように思えたけれど、やっぱり気のせいなのかもしれない。そう思ってしまうほどには、目の前の男はエリックしか考えられなかった。見た目の違和感はさて置き、声や話し方、なにより纏う魔力は彼以外にあり得ない。
「ごめんね。ちょっと何が起こってこうなったか記憶がないんだけど、多分私が悪かったんだろうなとは理解しているわ」
「覚えていないのか? ……まぁ、今は無理に思い出す必要はない。とりあえずゆっくり休んでくれ」
「うん、ありがとう」
首元のくすぐったさに堪えながら、昔はよく撫でてあげた青みがかった深緑色の髪に手を伸ばす。幼い頃よりも髪質はしっかりと硬くなっているが、相変わらずサラサラだ。前髪は真ん中で分けられて頬辺りの長さだが、それ以外は低い位置で一つに括っている。撫でながら、その括られた部分をなぞるように掌に滑らせた。
(あれ? こんなに髪の毛長かったっけ?)
胸辺りをキープしている私のほうが長かったはず。けれどどう見ても私より長い。
手から深緑色がスルスルと落ちていく。もう一度確認したくて再び撫でようとしたけれど、突然エリックが顔を上げた。え、と声を上げる間もなく、またもや唇を塞がれてしまい手は宙を掻いた。
「……んっ」
何度も食べられるように唇が優しく挟まれて、全身が氷漬けにされたかのように固まった。どうしていいのか分からないのだ。
私の知っているエリックは、こんなに手慣れていないはず。エリックはモテるから、もしかしたら私の知らないところで女の子と遊んでいたのかもしれないけれど、いつも一緒に行動していた彼に、そんな暇などなかった。
それでも共有していない時間はもちろんあるわけで。今まで考えたこともなかったけれど、隠れて経験を積んでいる彼を想像したら胸がムカムカと重苦しくなった。
暑いからと足を出していただけで、頬を染めて直視せずに「見苦しい」と怒るような男なのに。けれど女の扱いに慣れているこの状態では疑わずにはいられない。まるで別人のようだ。
(もしかして! そもそもこの人はエリックじゃない……?)
その方が納得できるけれど、本人としか思えない特徴や会話がスムーズだったのはおかしい。
いやおかしいのは、こんなにも一方的にキスをされていることだ。これは私の願望なのか? 欲求不満すぎて夢まで見ている? あ、もしかしたらこれ自体が夢なのでは? それが一番しっくりくる。
唇が漸く離れたあと、名残惜し気に身体を離して立ち上がったエリックは、いつの間にか部屋に入ってきていたサリィと何か話していた。それをぼんやりと眺めながら、思いっきり頬を抓ってみた。めちゃくちゃ痛い。……やっぱり現実?
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