僕の結婚相手は――拗らせカラス様!?

雷音

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第2章 嫌われ者のカラス

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『え……カラス……ですか?』

電話口の担当者の困惑した声と、向こう側でヒソヒソと話し合う声が全てを物語っているようだった。

『カラスは害獣扱いになりますからねぇ。狂暴ですし、保護したとしても、病院が診察に応じてくれるかどうか……。それに、一度人が手を出してしまえば、自然に還すことは難しくなりますよ。単に寒さで弱っているだけでしょう?ここは自然の成り行きに任せておくのが得策だと思いますけどねぇ』
「そんな……。この子、怪我をしているんですよ?もし明日、死んじゃったら……」

カラスの雛ならまだしも、成鳥の個体だと告げたことで、一気に雲行きが怪しくなる。僕としては今すぐにでも病院へ連れて行きたいと指示を仰いだのに、担当者は途方に暮れた声で“それは出来ない”と繰り返すばかり。挙句、『見なかったことにして、立ち去れば良いじゃないですか。自然の摂理ですよ』なんて偉そうに語るから、スマホを持つ手にも力が入る。

(この子が何をしたって言うんだよ……)

僕はただ……目の前で助けを求めている相手を残して、逃げたくなかった。自身に動物愛護の心があったとは思えないのだが、すぐにでも救い出せる命があるのに、手出し出来ない自分が情けなくて、涙が画面を濡らす。

(――餌付け禁止、だなんてもう遅いんだけど……)

ガサガサと音のする方向を見やると、この子はどうやら中身の全てを平らげてしまったらしく、菓子袋を逆さに被っていた。お腹を壊さないかと肝を冷やしたものの、袋一杯のお菓子を食べた相手は、少しだけ元気を取り戻したように見える。猫のように喉をゴロゴロと鳴らすと、傷んだ羽を小さく広げた。その姿は僕に“ありがとう”と述べているようにも見えた。

「病院が駄目であれば……保護の許可だけでも頂けませんか?この寒波が過ぎるまで――1週間だけでも構いません!どうか……どうかお願いします!!」

見えない相手に向かって何度も頭を下げる。何故だか分からないが、僕は真剣にこの子を守ってやりたくて仕方なかった。

その結果――。

『……わかりました。野鳥保護に関して詳しく説明致しますから、窓口にいらして頂けますか?それまでは空気穴を空けた段ボールにカラスを入れてあげてください。あ、くれぐれも素手では触れないようにしてくださいね』

と担当者の方が折れてくれたのだった。

◇◆

「も~クロったら!また口の周りにいっぱい食べこぼし付いてるよ?カラスは綺麗好きって聞いたのになぁ……」

カラス――真っ黒な見た目から、僕は相手を“クロ”と名付けた。

1週間だけ一緒に過ごすことの出来る僕の大切な友達は、タオル敷きの段ボール部屋を案外気に入ってくれたようで、ピョコピョコとジャンプを繰り返している。

窓口の担当者は僕に保護したカラスの飼育に関して、事細かな指示を出してくれた。そこでペットショップで購入した小鳥用のペットフードをふやかして与えてみたり、ブドウ糖液をスポイトで与えてみたりしたのだが――弱る前は恐らく贅沢三昧を送ってきたのだろう。相手は当初、くちばしに近付けてやった餌に見向きもしなかった。

「ほら~クロ!いい子、いい子!!カッコいいねぇ!!」

苦肉の策として相手を褒め殺しながら、手袋をした手で傷んだ羽を優しく撫でてやる。そうするとクロは人間の言葉を理解しているかのように“えっへん”と胸を膨らませ、スナック菓子のときと同様に餌を頬張るようになった。そして食事を終えると僕の手の平の甲に頭を擦りつけ、“もっと撫でて”とせがむようになっていた。

(本当に可愛いな、クロ……。それなのに、カラスってだけで皆にけ者扱いされて――。なんだか学校にいるときの僕みたい)

とはいえ、クロが野生で暮らす姿を僕は知らない。メスかオスなのかも分からないのだ。カラスの世界で友達はいるのだろうか……もしかして、家族や子供もいるのかもしれない。それなのに僕が勝手に“可哀想”と決めつけて、連れ帰ってしまったのだ。

(クロ、お家に帰りたがっているかな……?ごめんね……)

これは全部僕のエゴだ。
相も変わらず先輩にコキ使われる日々を送っていた僕だったのだが、クロと出会ってからの数日は毎日が充実していた。

誰にも相談できないような悩みや愚痴を相手に溢し、その度に嘴で軽く突かれる。まるで『元気だせよ』と励まされているようで、僕の方が彼に夢中になっていた。

こんな毎日が永遠に続けばいいのに――そう願う程、別れまでの時間は目まぐるしく過ぎていくのだった。
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