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11 もう忘れてしまったの?
アンジェリカの問いかけに、側近たちは答えはしなかったが、訴えかけるように困った顔をして彼女を見つめた。
(主人の不利になるようなことは言えないといったところかしら。仕方がないわね。改めて明日にでも、この状況をどう思ったか聞いてみることにしましょう)
小さく息を吐いてからヒウロに体を向けると、彼はアンジェリカの肩を両手で掴んで訴えてくる。
「アンジェ、聞いてくれ。誤解だ! ワミーが眠れないと言うから寝かしつけていたんだ! 彼女が眠ったら、今日はちゃんと君の所へ行くつもりだった」
「あなた、私に誓ったことがあったわよね? もう忘れてしまったの?」
「そ、それはっ」
「バレなければ良いとでも思った?」
アンジェリカは眉尻を下げたヒウロを振り払い「ワミー、失礼するわね」と伝え、部屋の入り口で立ち尽くしている側近たちを置いて、ワミーのいるベッドに近づいていく。
すると、ワミーは涙目になって叫ぶ。
「アンジェリカ様! お兄様を責めないで! 私がワガママを言っただけよ! 私、一人じゃ眠れなくて、いつもお兄様に付いてもらっていたの! 決してやましい関係ではないから信じてちょうだい!」
「この状況ですんなりあなたの言葉を信じていたら、私はただの馬鹿じゃない?」
「そんなことはないわ。私たちのことを信じてくれたって皆は思うはずよ! だって、今になって始まったことじゃないでしょう?」
「添い寝していたのは昔からかもしれないけれど、あなたたちの関係性がやましいものではないと信じているようには思えないけど」
アンジェリカは苦笑しながら、部屋の中に目を走らせる。
「さて、浮気の証拠はどこかにないかしら」
「アンジェ! 僕は浮気なんてしていない! 信じてくれ!」
「開き直るか、相手に伝える気にならない限り、浮気していますなんて言う人はいないでしょう?」
近寄ってきたヒウロにそう答え、アンジェリカはまずはベッドの周りを確認する。木目調のサイドテーブルには胸に抱えられるくらいの大きさの丸いシルバートレイと、その上に水差しとコップが二つ置かれている。銀色のシルバートレイを見た瞬間、アンジェリカは声を上げる。
「あら?」
「浮気の証拠なんてないぞ! 浮気なんてしてないんだから!」
ヒウロが彼女の横に立って叫んだ。
(浮気をしたと思っていないのなら堂々としていればいいのに、何をおろおろしているのよ。それに、別に浮気の証拠を探しているわけじゃないし、見つからなくてもいいんだけどね)
この行動はワミーとヒウロの浮気の証拠を探しているように見せかけているだけで、実際は違った。
ワミーがお金を盗んでいるのなら、そのお金をどこかに隠しているか、何かに使っている可能性がある。部屋の中に入ればわかることがあるかもしれないと、アンジェリカは考えたのだ。
そして、彼女の勘は的中し、アンジェリカは盗まれたお金が何に使われていたのかわかった。
「ワミー、このシルバートレイだけど、どうやって手に入れたの?」
「えっ?」
ワミーはびくりと体を震わせ、大きな声を上げた。そんな彼女の代わりにヒウロが答える。
「ただのシルバートレイだろう? メイドが持ってきたに決まっている」
「このシルバートレイを?」
アンジェリカは苦笑して、シルバートレイを手に取った。
ティアトレイという商品名で売られている護身用のシルバートレイは、貴族の女性の間では有名で、高価なものにもかかわらず入荷待ちになっているほどに人気の者だ。『T・T』という文字と製作番号の数字が刻印がされていて、普通のシルバートレイとは区別がつくように工夫されている。転売は禁止されており、購入する際には所有者の氏名と住所を店で記入。その後、審査ののち、家に届けられ代金と交換する。贈答用の場合は先払いで、購入者と贈答者の氏名と住所を知らせなければならない。
普通に購入するよりも面倒な手続きを踏まなければならない上に、金額はアンジェリカも躊躇して手を出せないほどだ。このシルバートレイを手に入れるなら、ヒウロが知らないわけがない。
「ヒウロ、一応確認するけれど、このシルバートレイはあなたがワミーに買ってあげたものではないのね?」
「そうだ。シルバートレイなんてプレゼントする必要ないだろう? ……そういえば、ワミーはシルバートレイをほしがっていたな」
ヒウロにとっては何気ない言葉だった。だが、アンジェリカにはワミーが盗んだ金の使い道が確定した瞬間だった。
(主人の不利になるようなことは言えないといったところかしら。仕方がないわね。改めて明日にでも、この状況をどう思ったか聞いてみることにしましょう)
小さく息を吐いてからヒウロに体を向けると、彼はアンジェリカの肩を両手で掴んで訴えてくる。
「アンジェ、聞いてくれ。誤解だ! ワミーが眠れないと言うから寝かしつけていたんだ! 彼女が眠ったら、今日はちゃんと君の所へ行くつもりだった」
「あなた、私に誓ったことがあったわよね? もう忘れてしまったの?」
「そ、それはっ」
「バレなければ良いとでも思った?」
アンジェリカは眉尻を下げたヒウロを振り払い「ワミー、失礼するわね」と伝え、部屋の入り口で立ち尽くしている側近たちを置いて、ワミーのいるベッドに近づいていく。
すると、ワミーは涙目になって叫ぶ。
「アンジェリカ様! お兄様を責めないで! 私がワガママを言っただけよ! 私、一人じゃ眠れなくて、いつもお兄様に付いてもらっていたの! 決してやましい関係ではないから信じてちょうだい!」
「この状況ですんなりあなたの言葉を信じていたら、私はただの馬鹿じゃない?」
「そんなことはないわ。私たちのことを信じてくれたって皆は思うはずよ! だって、今になって始まったことじゃないでしょう?」
「添い寝していたのは昔からかもしれないけれど、あなたたちの関係性がやましいものではないと信じているようには思えないけど」
アンジェリカは苦笑しながら、部屋の中に目を走らせる。
「さて、浮気の証拠はどこかにないかしら」
「アンジェ! 僕は浮気なんてしていない! 信じてくれ!」
「開き直るか、相手に伝える気にならない限り、浮気していますなんて言う人はいないでしょう?」
近寄ってきたヒウロにそう答え、アンジェリカはまずはベッドの周りを確認する。木目調のサイドテーブルには胸に抱えられるくらいの大きさの丸いシルバートレイと、その上に水差しとコップが二つ置かれている。銀色のシルバートレイを見た瞬間、アンジェリカは声を上げる。
「あら?」
「浮気の証拠なんてないぞ! 浮気なんてしてないんだから!」
ヒウロが彼女の横に立って叫んだ。
(浮気をしたと思っていないのなら堂々としていればいいのに、何をおろおろしているのよ。それに、別に浮気の証拠を探しているわけじゃないし、見つからなくてもいいんだけどね)
この行動はワミーとヒウロの浮気の証拠を探しているように見せかけているだけで、実際は違った。
ワミーがお金を盗んでいるのなら、そのお金をどこかに隠しているか、何かに使っている可能性がある。部屋の中に入ればわかることがあるかもしれないと、アンジェリカは考えたのだ。
そして、彼女の勘は的中し、アンジェリカは盗まれたお金が何に使われていたのかわかった。
「ワミー、このシルバートレイだけど、どうやって手に入れたの?」
「えっ?」
ワミーはびくりと体を震わせ、大きな声を上げた。そんな彼女の代わりにヒウロが答える。
「ただのシルバートレイだろう? メイドが持ってきたに決まっている」
「このシルバートレイを?」
アンジェリカは苦笑して、シルバートレイを手に取った。
ティアトレイという商品名で売られている護身用のシルバートレイは、貴族の女性の間では有名で、高価なものにもかかわらず入荷待ちになっているほどに人気の者だ。『T・T』という文字と製作番号の数字が刻印がされていて、普通のシルバートレイとは区別がつくように工夫されている。転売は禁止されており、購入する際には所有者の氏名と住所を店で記入。その後、審査ののち、家に届けられ代金と交換する。贈答用の場合は先払いで、購入者と贈答者の氏名と住所を知らせなければならない。
普通に購入するよりも面倒な手続きを踏まなければならない上に、金額はアンジェリカも躊躇して手を出せないほどだ。このシルバートレイを手に入れるなら、ヒウロが知らないわけがない。
「ヒウロ、一応確認するけれど、このシルバートレイはあなたがワミーに買ってあげたものではないのね?」
「そうだ。シルバートレイなんてプレゼントする必要ないだろう? ……そういえば、ワミーはシルバートレイをほしがっていたな」
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