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13 信じています
次の日の朝早く、アンジェリカの元に義母のルマが訪ねてきた。来訪で起こされたため、寝間着姿だった彼女がルマに時間をくれと言うと、そのままでいいから話をさせてくれと言われてしまった。
仕方がないのでノーメイクの状態で部屋に通し、ソファに掛けてもらうと、ルマは深々と頭を下げた。
「昨日も娘たちが馬鹿なことをしていたみたいね。本当にごめんなさい。恥ずかしながら、あの時間は眠っていたの」
「ルマ様が謝ることではありませんわ。二人共、もう大人なのです。あの行為が常識から逸脱していることに、自分たちで理解できるはずです」
「……あなたは私をお義母様と呼ぶ気はないの?」
「結婚式の日から私のヒウロへの愛情は薄れています。それに自分の妻よりも妹を優先する夫と、結婚生活を長く続けられるとは思えません」
「……それはそうよね」
肩を落としたルマを見たアンジェリカは、この人になら話が通じるかもしれないと思い、シルバートレイの話をする。
「昨日、ワミーの部屋からこんなものを見つけたんです」
「シルバートレイ? ま、まさかこれは」
アンジェリカからシルバートレイを受け取ったルマは、驚きで目を見張り言葉をなくした。そんな彼女に、アンジェリカは問いかける。
「これはティアトレイですわよね?」
「あ、あの子、こんな高価なものをどうやって手に入れたの? 欲しがっていたのは知っていたけれど、あまりにも贅沢品だから認めなかったのに!」
「ヒウロはこれが何だかよくわかっていない様子でした。ですが、高額商品を買った覚えはないようです。ルマ様は領民に使うためのお金が紛失していたことはご存知でしたか?」
「紛失というよりか、数人の有力者が横領していたという話は聞いたことがあるけれど……」
アンジェリカの言わんとしていることがわかったルマは声を震わせて続ける。
「ワミーが盗んだっていうの? でも、どうやって?」
「最初は現物を見せてもらい、出来心で盗んだのではないかと思っています。まったくバレる気配がないので、エスカレートしたのではないかと思います。ヒウロはワミーのことを一切疑っていませんし」
「そんな……っ、そこまで馬鹿なことをする子に育てた覚えはないわ! それにヒウロだってどうして疑わなかったの?」
「ルマ様、金庫の鍵は誰が持っているのですか?」
「私とヒウロの二人だけよ」
ルマは答えたあと、両手で顔を覆う。
「ああ。あの子、ヒウロから鍵を借りて合鍵を作ったのかもしれないわ。自分の部屋の合鍵を私とヒウロに持っていてほしいと言って鍵屋を呼び寄せていたの」
「側近から聞いた話では、有力者にお金を渡す前日に名前と金額を書いて袋に入れて、金庫に保管していたようです。そして、次の日に中身の確認はせずに渡していたようです。あまりにも金額の差異が続くので、当日の朝に仕分けするようにしてみたところ、お金が足りなくなるといったことはなくなったそうです」
「……ワミーじゃないと信じたいけど、状況証拠としては、あの子は黒ね」
ルマは大きなため息をつき、アンジェリカを見つめる。
「どうするつもりなの?」
「告発するかどうかはルマ様にお任せします」
「私に任せていいの? このまま握りつぶしてしまうかもしれないわよ?」
「それがワミーのためになるかわかりませんが、ご自由に。ただ、私はあなたが正直に話してくださると信じています」
「……まずはヒウロと話し合ってみるわ」
「お願いします。あ、ルマ様、申し訳ございません。ご自由にとお伝えしましたが、一つお願いがあります」
「何かしら」
居住まいを正したルマに、アンジェリカは厳しい表情で頼みごとを話す。
「ワミーのせいで有力者が数人、冤罪を着せられています。その人たちがどんなことを望むのか確認してください」
「……わかったわ」
大体のことはお金で解決できるものだろうが、名誉を優先する人間もいる。ライキ伯爵家は終わりとは言えないまでも、かなりのイメージダウンになるはずだ。
(真実を公にしろと言われた場合、次の幸福度調査は目も当てられないものになるでしょうね。本当ならば私が公表すべきかもしれないけれど、証拠固めにもう少し時間がかかりそうなのよね。それに、証拠固めをしている間に、ここを抜け出せるようになったのなら、誰かに引き継がなければならないことになる。それなら、最初から適任者に任せておいたほうがいいでしょう)
ルマとの話し合いを終え、アンジェリカは身支度を整えて朝食をとろうと考えて部屋を出た時、メイドが慌てた顔をして彼女に駆け寄ってきた。
「アンジェリカ様! アイヒ伯爵代理がいらっしゃっています!」
「お兄様が?」
「はい。アイヒ伯爵がルズマ公爵の遣いに連れて行かれたのは、アンジェリカ様の仕業だと怒り散らしておられて、応接室にご案内しようとしたのですが、動いてくださらないのです」
「迷惑をかけてごめんなさいね」
「とんでもないことでございます」
(思った以上に仕事が早い。さすが、ルズマ公爵だわ。できれば、兄がこちらに来ないようにしてほしかったけれど、そこまでお願いするのは厚かましいわね)
兄がどんなことをしてくるかわからないため、護衛を引き連れて、アンジェリカは兄が待っている、エントランスホールに向かった。
仕方がないのでノーメイクの状態で部屋に通し、ソファに掛けてもらうと、ルマは深々と頭を下げた。
「昨日も娘たちが馬鹿なことをしていたみたいね。本当にごめんなさい。恥ずかしながら、あの時間は眠っていたの」
「ルマ様が謝ることではありませんわ。二人共、もう大人なのです。あの行為が常識から逸脱していることに、自分たちで理解できるはずです」
「……あなたは私をお義母様と呼ぶ気はないの?」
「結婚式の日から私のヒウロへの愛情は薄れています。それに自分の妻よりも妹を優先する夫と、結婚生活を長く続けられるとは思えません」
「……それはそうよね」
肩を落としたルマを見たアンジェリカは、この人になら話が通じるかもしれないと思い、シルバートレイの話をする。
「昨日、ワミーの部屋からこんなものを見つけたんです」
「シルバートレイ? ま、まさかこれは」
アンジェリカからシルバートレイを受け取ったルマは、驚きで目を見張り言葉をなくした。そんな彼女に、アンジェリカは問いかける。
「これはティアトレイですわよね?」
「あ、あの子、こんな高価なものをどうやって手に入れたの? 欲しがっていたのは知っていたけれど、あまりにも贅沢品だから認めなかったのに!」
「ヒウロはこれが何だかよくわかっていない様子でした。ですが、高額商品を買った覚えはないようです。ルマ様は領民に使うためのお金が紛失していたことはご存知でしたか?」
「紛失というよりか、数人の有力者が横領していたという話は聞いたことがあるけれど……」
アンジェリカの言わんとしていることがわかったルマは声を震わせて続ける。
「ワミーが盗んだっていうの? でも、どうやって?」
「最初は現物を見せてもらい、出来心で盗んだのではないかと思っています。まったくバレる気配がないので、エスカレートしたのではないかと思います。ヒウロはワミーのことを一切疑っていませんし」
「そんな……っ、そこまで馬鹿なことをする子に育てた覚えはないわ! それにヒウロだってどうして疑わなかったの?」
「ルマ様、金庫の鍵は誰が持っているのですか?」
「私とヒウロの二人だけよ」
ルマは答えたあと、両手で顔を覆う。
「ああ。あの子、ヒウロから鍵を借りて合鍵を作ったのかもしれないわ。自分の部屋の合鍵を私とヒウロに持っていてほしいと言って鍵屋を呼び寄せていたの」
「側近から聞いた話では、有力者にお金を渡す前日に名前と金額を書いて袋に入れて、金庫に保管していたようです。そして、次の日に中身の確認はせずに渡していたようです。あまりにも金額の差異が続くので、当日の朝に仕分けするようにしてみたところ、お金が足りなくなるといったことはなくなったそうです」
「……ワミーじゃないと信じたいけど、状況証拠としては、あの子は黒ね」
ルマは大きなため息をつき、アンジェリカを見つめる。
「どうするつもりなの?」
「告発するかどうかはルマ様にお任せします」
「私に任せていいの? このまま握りつぶしてしまうかもしれないわよ?」
「それがワミーのためになるかわかりませんが、ご自由に。ただ、私はあなたが正直に話してくださると信じています」
「……まずはヒウロと話し合ってみるわ」
「お願いします。あ、ルマ様、申し訳ございません。ご自由にとお伝えしましたが、一つお願いがあります」
「何かしら」
居住まいを正したルマに、アンジェリカは厳しい表情で頼みごとを話す。
「ワミーのせいで有力者が数人、冤罪を着せられています。その人たちがどんなことを望むのか確認してください」
「……わかったわ」
大体のことはお金で解決できるものだろうが、名誉を優先する人間もいる。ライキ伯爵家は終わりとは言えないまでも、かなりのイメージダウンになるはずだ。
(真実を公にしろと言われた場合、次の幸福度調査は目も当てられないものになるでしょうね。本当ならば私が公表すべきかもしれないけれど、証拠固めにもう少し時間がかかりそうなのよね。それに、証拠固めをしている間に、ここを抜け出せるようになったのなら、誰かに引き継がなければならないことになる。それなら、最初から適任者に任せておいたほうがいいでしょう)
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「お兄様が?」
「はい。アイヒ伯爵がルズマ公爵の遣いに連れて行かれたのは、アンジェリカ様の仕業だと怒り散らしておられて、応接室にご案内しようとしたのですが、動いてくださらないのです」
「迷惑をかけてごめんなさいね」
「とんでもないことでございます」
(思った以上に仕事が早い。さすが、ルズマ公爵だわ。できれば、兄がこちらに来ないようにしてほしかったけれど、そこまでお願いするのは厚かましいわね)
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