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34 許すなんてやっぱり無理ね
幸福度調査の期間の間は、領主たちが領民たちと接触することは禁止になっている。その間に何か緊急で話をしなければならない事案が発生した場合は、外部から委託されている監視員に連絡をする。状況を把握した監視員から領主に報告がいくことになっている。
調査期間中の領主は、表向きは長期休暇になっているが、溜まっていた仕事を裁く日が続く。
アンジェリカは馬車で半日ほどのルズマ公爵家に通い、遅くなる時は客室に泊まるなどして、リーアムの仕事を手伝っていた。
公爵家というだけあって、実家にいた時と比べて仕事量が桁違いに多い。普通ならうんざりするところではあるのだが、アンジェリカは仕事が好きだった。
休憩どころか、食事まで抜いて仕事をする彼女にリーアムがストップをかけた。
「仕事を手伝ってもらえるのはありがたいが、過労になるほど仕事をしてもらいたくない」
「喉が渇いたら栄養のある野菜ジュースを飲んでいますから大丈夫ですよ」
「そういう問題じゃない」
リーアムの執務室の隣に用意された部屋で仕事をしているアンジェリカに、彼は呆れた顔をして続ける。
「君は前からこんな調子だったのか?」
「こんな調子というのは、どういう意味でしょうか」
「前からこんな風に仕事をしていたのかと聞いているんだ」
「……そう言われてみればそうかもしれません。ですが、お父様が伯爵領を管理している時はここまでやっていません」
「兄が頼りにならないからやっていたというわけか」
「……そうです」
「ということは、俺は頼りにならないということか」
眉間に皺を寄せたリーアムに、アンジェリカは立ち上がって頭を下げる。
「申し訳ございません! そういう意味ではないんです! ただ、私が仕事を頑張れば頑張るほど、領民の暮らしが少しでも早く楽になるのではないかと思いまして……」
「そう考える気持ちは立派だがやりすぎだ。休憩も兼ねて食事を一緒にとらないか」
「ご一緒させていただけるのなら光栄です」
アンジェリカが微笑むと、リーアムは安堵したような笑みを浮かべた。
それもそのはず、朝から現在に至るまでアンジェリカは何も食べていなかったからだ。
ダイニングルームに向かう途中の廊下の窓から外を見ると、綺麗な夕焼けが見えた。
(朝から夕方になるまで何も食べていなかったのね。そう思うと、お腹が減ってきたわ。というか、今日も泊まりになりそうね)
リーアムとアンジェリカの婚約が決まったことで、邸の料理人たちは彼女の食の好みを知ろうと必死だった。
何が好きかと聞かれても「毒じゃなければ何でも好きよ」としか答えないアンジェリカに色々な料理を食べさせて、どの料理をよく口にするか調べようとしていた。
そんなこともあって、ダイニングルームの長方形の机の上には、まるで立食パーティーの会場のように色々な種類の食べ物が並んでいた。
「君がいる時はかなり豪華になるな」
「どれも美味しそうです!」
アンジェリカは目を輝かせて料理を見つめながら、自分の席に着いた。
「今日のスープはミネストローネになります」
「ありがとう」
目の前にミネストローネを置いてくれたメイドにお礼を言ったアンジェリカは、メイドの手に包帯が巻かれていることに気がついた。
「怪我でもしたの?」
「……はい。手紙の封を切る際に深く切ってしまいました。お見苦しい姿をお見せして申し訳ございません」
「謝らないで。悪い意味で言ったんじゃないのよ」
「ご心配いただきありがとうございます」
触れられたくない話題だったのか、メイドは一礼してそそくさと部屋を出ていった。
(どういうことなのかしら。もしかして、私に関係すること?)
リーアムに尋ねても答えてくれないだろうと考えた彼女は、次の日、自らが手紙を受け取り開封することにした。そして、メイドがアンジェリカに隠していた理由がわかる。
アンジェリカ宛に匿名でカミソリ入りの手紙が送られてきていたからだ。
(筆跡はワミーの字に似ているわ)
書き方を変えてはいるが、女性らしい文字であること。手紙の内容はアンジェリカを呪うような言葉ばかりで、彼女に深い恨みを持っていることがうかがえた。
しかも、ライキ伯爵家の内部の人間しか知らない話題が書かれていたため、アンジェリカはワミーからのものだと断定した。
(盗みの件は見逃してあげようか迷ったけれど、こんなことをするような相手だもの。許すなんてやっぱり無理ね)
アンジェリカはワミーに罪を償わせる決意を固めた。
調査期間中の領主は、表向きは長期休暇になっているが、溜まっていた仕事を裁く日が続く。
アンジェリカは馬車で半日ほどのルズマ公爵家に通い、遅くなる時は客室に泊まるなどして、リーアムの仕事を手伝っていた。
公爵家というだけあって、実家にいた時と比べて仕事量が桁違いに多い。普通ならうんざりするところではあるのだが、アンジェリカは仕事が好きだった。
休憩どころか、食事まで抜いて仕事をする彼女にリーアムがストップをかけた。
「仕事を手伝ってもらえるのはありがたいが、過労になるほど仕事をしてもらいたくない」
「喉が渇いたら栄養のある野菜ジュースを飲んでいますから大丈夫ですよ」
「そういう問題じゃない」
リーアムの執務室の隣に用意された部屋で仕事をしているアンジェリカに、彼は呆れた顔をして続ける。
「君は前からこんな調子だったのか?」
「こんな調子というのは、どういう意味でしょうか」
「前からこんな風に仕事をしていたのかと聞いているんだ」
「……そう言われてみればそうかもしれません。ですが、お父様が伯爵領を管理している時はここまでやっていません」
「兄が頼りにならないからやっていたというわけか」
「……そうです」
「ということは、俺は頼りにならないということか」
眉間に皺を寄せたリーアムに、アンジェリカは立ち上がって頭を下げる。
「申し訳ございません! そういう意味ではないんです! ただ、私が仕事を頑張れば頑張るほど、領民の暮らしが少しでも早く楽になるのではないかと思いまして……」
「そう考える気持ちは立派だがやりすぎだ。休憩も兼ねて食事を一緒にとらないか」
「ご一緒させていただけるのなら光栄です」
アンジェリカが微笑むと、リーアムは安堵したような笑みを浮かべた。
それもそのはず、朝から現在に至るまでアンジェリカは何も食べていなかったからだ。
ダイニングルームに向かう途中の廊下の窓から外を見ると、綺麗な夕焼けが見えた。
(朝から夕方になるまで何も食べていなかったのね。そう思うと、お腹が減ってきたわ。というか、今日も泊まりになりそうね)
リーアムとアンジェリカの婚約が決まったことで、邸の料理人たちは彼女の食の好みを知ろうと必死だった。
何が好きかと聞かれても「毒じゃなければ何でも好きよ」としか答えないアンジェリカに色々な料理を食べさせて、どの料理をよく口にするか調べようとしていた。
そんなこともあって、ダイニングルームの長方形の机の上には、まるで立食パーティーの会場のように色々な種類の食べ物が並んでいた。
「君がいる時はかなり豪華になるな」
「どれも美味しそうです!」
アンジェリカは目を輝かせて料理を見つめながら、自分の席に着いた。
「今日のスープはミネストローネになります」
「ありがとう」
目の前にミネストローネを置いてくれたメイドにお礼を言ったアンジェリカは、メイドの手に包帯が巻かれていることに気がついた。
「怪我でもしたの?」
「……はい。手紙の封を切る際に深く切ってしまいました。お見苦しい姿をお見せして申し訳ございません」
「謝らないで。悪い意味で言ったんじゃないのよ」
「ご心配いただきありがとうございます」
触れられたくない話題だったのか、メイドは一礼してそそくさと部屋を出ていった。
(どういうことなのかしら。もしかして、私に関係すること?)
リーアムに尋ねても答えてくれないだろうと考えた彼女は、次の日、自らが手紙を受け取り開封することにした。そして、メイドがアンジェリカに隠していた理由がわかる。
アンジェリカ宛に匿名でカミソリ入りの手紙が送られてきていたからだ。
(筆跡はワミーの字に似ているわ)
書き方を変えてはいるが、女性らしい文字であること。手紙の内容はアンジェリカを呪うような言葉ばかりで、彼女に深い恨みを持っていることがうかがえた。
しかも、ライキ伯爵家の内部の人間しか知らない話題が書かれていたため、アンジェリカはワミーからのものだと断定した。
(盗みの件は見逃してあげようか迷ったけれど、こんなことをするような相手だもの。許すなんてやっぱり無理ね)
アンジェリカはワミーに罪を償わせる決意を固めた。
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