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40 どうこう言われたくありませんわ
アンジェリカたちがアイヒ伯爵邸に戻ると、伯爵夫人は焦った表情で夫を出迎えた。
「ど、どうしてあなたがダラネクたちと一緒にいるんですか? 帰ってくるならば事前に連絡をいれておいてほしかったわ!」
「ダラネクに任せておけば大丈夫だと思っていたんだが、やはり気になったので急遽戻ることにしたんだ」
「そうでしたか。あの、元気になったのですね! 本当に良かった! 馬車の旅でお疲れでしょう。自室で休まれてはいかがです? すぐに使用人にベッドメイクをさせますわね」
夫人は夫を促したあと、息子のダラネクに意味ありげな視線を送った。ダラネクは無言でうなずくと、エントランスホールの正面にある階段を上り始めた。
二人のやり取りに気がついたアンジェリカは、兄の後ろをついて歩く。すると、ダラネクが階段の途中で足を止めて振り返る。
「アンジェリカ! 付いてくるな! お前は父上と一緒にいろ!」
「私がいなくなってからの財政状況が知りたいのです。お父様には許可を得ていますので、お兄様に拒否されても確認させていただきます」
「お前が見たって意味がない!」
今の間に知られては困るものを揉み消してしまうつもりだったが、アンジェリカがいてはそれができない。
ダラネクはなんとかしてアンジェリカを遠ざけようとしたが、彼の考えていることなど、アンジェリカにはお見通しである。
「意味がないかどうかは自分で確認してから決めますのでお気になさらず」
「僕が先に帳簿を確認する! 付いてきたってすぐに見ることはできないぞ!」
「他に仕事はないのですか?」
「なんだって?」
ダラネクは眉間に皺を寄せて聞き返すと、アンジェリカは大きく息を吐いて答える。
「私が帳簿を確認している間は、他のことをすればいいのではないですか? 帰ってきてすぐに帳簿の確認をするよりも、緊急の仕事がないか確認するのが一般的なのではないでしょうか」
ダラネクは一段飛ばしをして階段の踊り場まで上りきり、途中にいるアンジェリカを見下ろす。
「僕には僕のやり方があるんだ。お前にどうこう言われたくない!」
「では、私は私のやり方がありますので、お兄様にどうこう言われたくありませんわ」
「デイル男爵の後ろにルズマ公爵がいるからって大きな態度に出ているんだろうが、別にお前が偉くなったわけじゃないんだぞ!」
「お兄様も伯爵代理であって、伯爵ではありませんし、今のところ立場的には私と変わりありませんわよね? それとも長男だから偉いとでも言います?」
舌戦ではアンジェリカの圧勝だった。言い返す言葉がなくなったダラネクは、急いで階段を上っていく。
(先に執務室に入って鍵をかけるつもりね。やることが子供じみているわ)
アンジェリカは二人の様子を見守っていたメイドに話しかける。
「悪いけれど、執事から執務室の鍵をもらってきてもらえる?」
「承知いたしました!」
今まではダラネクの言うことをよく聞いていた使用人たちだったが、伯爵が戻ってきたなら話は別だった。
主人が可愛がっているアンジェリカの命令を拒否できるはずもない。
メイドは急いで主人と一緒にいるはずの執事を探しに走っていく。
アンジェリカはそのまま執務室に向かい、ドアノブに手をかけた。引いて開く扉だが、やはり鍵がかけられていて、ガタンと音がしただけだった。
耳を澄ませると、部屋の中でゴソゴソと動く音が聞こえてくる。
(焦っても無駄なのに、どうしてそんな悪あがきをするのかしら)
執務室の前であきれ返っていると、執事と一緒に両親がやってきた。父は不機嫌そうで、母は今にも泣き出しそうな顔をしている。
「おい、ダラネク! 開けろ! すぐに開けなければやましいことがあるとみなし、お前を廃嫡……、いやこの邸から追い出すぞ!」
父の脅しに焦ったダラネクは、渋々といった様子で扉を開く。顔をのぞかせたダラネクの額からは大粒の汗が流れていた。
「ど、どうしてあなたがダラネクたちと一緒にいるんですか? 帰ってくるならば事前に連絡をいれておいてほしかったわ!」
「ダラネクに任せておけば大丈夫だと思っていたんだが、やはり気になったので急遽戻ることにしたんだ」
「そうでしたか。あの、元気になったのですね! 本当に良かった! 馬車の旅でお疲れでしょう。自室で休まれてはいかがです? すぐに使用人にベッドメイクをさせますわね」
夫人は夫を促したあと、息子のダラネクに意味ありげな視線を送った。ダラネクは無言でうなずくと、エントランスホールの正面にある階段を上り始めた。
二人のやり取りに気がついたアンジェリカは、兄の後ろをついて歩く。すると、ダラネクが階段の途中で足を止めて振り返る。
「アンジェリカ! 付いてくるな! お前は父上と一緒にいろ!」
「私がいなくなってからの財政状況が知りたいのです。お父様には許可を得ていますので、お兄様に拒否されても確認させていただきます」
「お前が見たって意味がない!」
今の間に知られては困るものを揉み消してしまうつもりだったが、アンジェリカがいてはそれができない。
ダラネクはなんとかしてアンジェリカを遠ざけようとしたが、彼の考えていることなど、アンジェリカにはお見通しである。
「意味がないかどうかは自分で確認してから決めますのでお気になさらず」
「僕が先に帳簿を確認する! 付いてきたってすぐに見ることはできないぞ!」
「他に仕事はないのですか?」
「なんだって?」
ダラネクは眉間に皺を寄せて聞き返すと、アンジェリカは大きく息を吐いて答える。
「私が帳簿を確認している間は、他のことをすればいいのではないですか? 帰ってきてすぐに帳簿の確認をするよりも、緊急の仕事がないか確認するのが一般的なのではないでしょうか」
ダラネクは一段飛ばしをして階段の踊り場まで上りきり、途中にいるアンジェリカを見下ろす。
「僕には僕のやり方があるんだ。お前にどうこう言われたくない!」
「では、私は私のやり方がありますので、お兄様にどうこう言われたくありませんわ」
「デイル男爵の後ろにルズマ公爵がいるからって大きな態度に出ているんだろうが、別にお前が偉くなったわけじゃないんだぞ!」
「お兄様も伯爵代理であって、伯爵ではありませんし、今のところ立場的には私と変わりありませんわよね? それとも長男だから偉いとでも言います?」
舌戦ではアンジェリカの圧勝だった。言い返す言葉がなくなったダラネクは、急いで階段を上っていく。
(先に執務室に入って鍵をかけるつもりね。やることが子供じみているわ)
アンジェリカは二人の様子を見守っていたメイドに話しかける。
「悪いけれど、執事から執務室の鍵をもらってきてもらえる?」
「承知いたしました!」
今まではダラネクの言うことをよく聞いていた使用人たちだったが、伯爵が戻ってきたなら話は別だった。
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