ただ誰かにとって必要な存在になりたかった

風見ゆうみ

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第12話 懺悔と豹変の朝

 ビューホ様が帰ってきたのは夜が明けてすぐの事だった。
 フィナさんやシェーラ様達はずっと彼の帰りを待ち続けていた様で、彼女達の叫ぶ声で目が覚めた。

「………」

 妻として出迎えるべきなのか迷ったけれど、誰かが起こしに来るまでは起きない事にした。
 すると、騒がしい声と共に足音が聞こえて、どんどんこちらに近付いてくるのがわかった。

 そして、私の部屋の扉が激しく叩かれる音。
 身を起こして、返事を返す。

「こんな時間になんの御用でしょうか?」

 寝間着の上にショールを羽織って扉を開けると、疲れ切った表情のビューホ様と寝間着姿のシェーラ様、そして、ビューホ様を探しに出かけるつもりだったのか、メイクもきっちり、服も普段着姿のフィナさんが立っていた。

 ビューホ様が一歩近付いてきたので、罵られると警戒していたけれど、ビューホ様はその場に座り込んだかと思うと、私に向かって頭を下げた。

「すまなかった…」
「……はい?」
「俺は君に酷い事を要求して、酷い言葉ばかり投げて、酷い態度を取った」
「何を言っていらっしゃるんです…?」

 困惑したのは私だけではなかった。
 後ろに立っていたシェーラ様が叫ぶ。

「何をしているの、ビューホ! 立ちなさい! こんな女に謝らなくていいのよ!」
「ビューホ、一体、パーティーで何があったの? 私以外に愛人がいるなんて嘘よね…?」
「……すまない…」

 ビューホ様は今度はフィナさんを見て謝る。

「本当にすまない。俺にはフィナ以外に付き合っている女性がいる…。もちろん、これから別れるつもりだけど…」
「ちょっと待ってよ、ビューホ! 私だけじゃなかったの!?」
「本当にすまない。でも、本当に好きなのは君だけなんだ」
「浮気男は皆、そういう事を言うのよ!」

 フィナさんは叫ぶと、ビューホ様の頬を平手打ちした。

「信じられないわ! 私は嘘をつかれたり裏切られたりする事が嫌いなの!」

 ほとんどの人がそうだと思うけれど…。
 
 冷静にそんな事を思ったけれど、口にするのはやめておいた。

「本当に悪かった! だから、改めて3人でやり直そう!」

 ビューホ様は殴られた頬をおさえながら、私とフィナさんを交互に見る。

「俺が愛しているのはフィナだが、これから、ラノアの事も大事にしようと思う! だから、今までの俺を許してほしいんだ!」
「ビューホ様、どなたかにそう言うようにでも言われたんですか…? それとも、その方が自分の利益になる何かがあるんですか?」

 ビューホ様がそう簡単に反省する様には思えない。
 だから、何か裏があるはずだわ…。
 
 そう思って尋ねると、ビューホ様は視線をそらした。
 許すつもりもないけれど、このまま何も聞かずに終わるつもりもなかった。

「ビューホ様、ちゃんとお答え下さい」
「誰かに言われたとかじゃない…。ただ、自分で考えて判断しただけだ…」
「どう判断されたのですか?」
「だから、言っただろう。君を大切にすると…」
「そんな言葉を私が信じるとお思いですか?」
「信じてもらえる様に努力をするから時間をくれないだろうか?」
「時間をですって…?」

 一体、この人は何を考えているのかしら?
 あれだけ私に酷いことをしておいて?
 
「ビューホ様、あなたが変わると仰っておられる様に、人は変わることが出来るかもしれません。なぜなら私自身が変わったからです」
「ど、どういう事だ?」
「ここに嫁に来た以上、あなたのお役に立てれば良いと思っておりましたが、やはり、感情を押し殺すだけの人生は辛いと感じました。ですので、その考えを改める事にしたんです。もちろん、我慢しなければいけないところや譲歩しなければいけない時は多々あると思います。ですが、間違っている事は間違っている、嫌な事は嫌と言う事にしたんです。ですから、あなたに許してくれと言われましても、今の段階では許せません。ですから、離婚を望んでおります」
「わかってる! わかってるよ! だけど、変わっていく僕を見ずに別れるのもおかしいんじゃないか? 猶予が欲しい! お前…、いや、君が僕を信じられるように頑張るから…」

 ビューホ様がどうして私と離婚したがらないのかがわからない。
 フィナさんと一緒に住めなくなるから?
 そんな事は関係ないわよね。
 愛人の件に関しては、すでに知っている人は知っているんだから、隠す必要なんてなかった。
 きっと、フィナさんとの子供を跡継ぎにしたかっただけ。

 だから、お飾りの妻になってくれる人を求めていたんだわ。

 そして、今、ふと思い浮かんだ。
 ビューホ様が離婚したがらない理由…。

 私のお金を狙っているんだわ。
 最悪、実家からとれば良いと思っている…?

 そういえば、私の実家はどうなっているのかしら?
 私がいなくなってもすぐには困らないように段取りはしてきたから、まだ大丈夫かしら?

 離婚に関しては、今日、明日に出来るとは思っていなかった。
 離婚準備を進めつつ、その期間をビューホ様の猶予期間にしましょう。
 
「では、10日間の猶予でいかがでしょう?」
「待ってくれ、短すぎる! せめて50日はどうだろう!?」
「私の精神が耐えられない可能性が高いです」

 慰謝料の請求だって、そこまで待ってもらえないわ。

「せめて20日! 20日で頼む!」

 どうしようか迷った時だった。

「あーー、最悪」

 黙って聞いていたフィナさんが、先程までとはまったく違う低い声で呟いた。

「……フィナ?」

 驚いたのは私だけではなく、ビューホ様もシェーラ様もだった。

「ビューホ、なんか、あんたと一緒にいても楽に暮らしていけそうにないし、もう出てくわ! バイバーイ!」

 フィナさんはにっこりと笑ってビューホ様に手を振ったかと思うと、くるりと踵を返したのだった。

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