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ifストーリー(クズーズの王位継承権が剥奪された場合)

第30話 エイナの本音

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「若くて美しい女性ばかりが狙われる事件をご存知でしょうか…」

 フォーリン子爵が私とアレク殿下に尋ねると、エイナと子爵令息が反応した。

「その話は今は関係ないと思います! ここでする話でもないですわ!」
「そうです、父上! そんな話をここでしたら、誤解されて大変な事になりますよ!」

 2人は子爵が何を話そうとしているのかわかっているらしく、エイナが珍しく切羽詰まった様な表情になっていた。

 よっぽどの事を話そうとしてくれているのかもしれないわ。

 そう思ってアレク殿下と顔を見合わせあってから、先を促す。

「痛ましい事件の事ですわよね? 新聞記事にもなりましたし、犯人も捕まっておりませんから特に気になっておりました」
「俺もそうだ」
「その事について、告白したい事があります」

 フォーリン子爵が話そうとしてくれているのは、ここ最近は落ち着いているけれど、1年以上前に何度か起きた通り魔事件の話をしている様だった。
 見目麗しい女性が複数人の男性に顔を傷つけられるという事件が多発した時期があり、顔を傷つけると犯人は満足して去っていくという事と毎回同じ人数で同じ見た目の男性だという事、仮面の様なものをかぶっていて、はっきりと顔はわからないという事で、捜査は難航していた。

 その事件にまさか、エイナが関わっているんじゃないでしょうね?

 嫌な予感がしたけれど、ここでやっぱり聞きたくないですとは言い出しにくい。
 その為、黙って話を促すと、フォーリン子爵夫妻は、その件に自分の息子が関わっているかもしれない事、そして、エイナに遠回しに指示をされたのではないかという話をしてくれた。

 フォーリン子爵夫妻の考えはこうで、エイナが自分の思い通りにならない相手の男性の婚約者を見ながら、あの人が羨ましいと親衛隊に伝え、その女性を襲うように遠回しに指示をしているのではないかというものだった。

 その言葉を聞いて、嫌になるけれど安易にその時のエイナが想像できた。

『あちらのご令嬢、私なんかよりもとても素敵よね。婚約者にも愛されていて、とても羨ましいわ』

 その言葉を聞いた親衛隊達はこう思う。

『エイナ様よりも幸せな人間がこの世にいてはいけない』

 かといって彼らはエイナの幸せが第一優先であって、必要以上に人を不幸にしようとは思っていない。
 だから、顔を傷つけるだけで済ませてあげていると思っているんじゃないかしら。

 そして、腹が立つ事に、今までそのやり口で全ての男性が顔に傷付いた婚約者を捨てて、エイナの取り巻きになっているから、余計に親衛隊達の自信に繋がってしまったのではないかと思われる。

 卒業をして親衛隊と顔を合わす事もなくなった上に、エイナも他の人と会う事がなくなったから、最近、通り魔事件が起きていなかったのかもしれない。

「そんなのただの想像です! こんなにも可愛いエイナ様がそんな酷い事を考えるわけないでしょう! もし親衛隊の仕業だったとしても、エイナ様のせいではありません!」

 フォーリン子爵令息はエイナを庇うように立って叫んだ。

「罪を認めるのか?」
「そ、そんな事はしていません…」

 アレク殿下に聞かれ、フォーリン子爵令息は視線を斜め下に落として唇を噛む。

 どう言い逃れしようか考えているのかもしれないわ。

 エイナの方をちらりと見ると、私と目があって慌てて口を開く。

「私はそんな事はしていないわ! だって、そんな事をしてもらわなくても私の方が可愛いんだから!」

 エイナの言葉に会場内が静まり返った。

 本当に勘弁してほしいわ。
 どうしてここまで、頭がお花畑になってしまったのよ。

 学園の勉強は悪くはなかったはずなのに、こんな感じだという事は、まさか、親衛隊にカンニングさせてもらっていたとかいう訳じゃないわよね…。

 考えただけで頭が痛くなるのと、こんな所でする話でもない為、フォーリン子爵令息とエイナに促す。

「疑いがある事は確かなのだから、警察で話をしてもらってもいいかしら? 無実なら無実だとそこで証明してもらえますか? エイナ、あなたもよ」
「どうして、私が!?」
「あなたの名前があがっているんだから当たり前でしょう!」
「そんな事をしたら、公爵家の名に傷がつくわよ!」
「あなたがそんな事を言える立場じゃないでしょう! そんな事になる事をしたかもしれないと言われているのはあなたじゃないの!」

 頭にきて言い返すと、エイナも言葉を返してくる。

「大体、エリナは酷いわ! 実の姉妹である私が違うって言っているのに信じてくれないなんて! 皆さん、酷くないですか!?」
「あなたが指示したかどうか、私は何も言っていないわ! 正直に話しなさいと言ってるの!」

 エイナは目に涙を浮かべて、周りに訴えかけたけれど、皆、困った顔をして、すぐに彼女から目をそらすだけだった。

「……どうして?」

 今までなら、皆、エイナの味方にまわっていたはずなのに、反応がない事にショックを受けたエイナは表情を歪ませて訴える。

「どうして皆、知らないふりをするんです!? どう考えたっておかしいじゃないですか! 天使の様な私がそんな事をするだなんて!」
「天使の様な清らかな人なら、自分の事を天使とは言わないだろう」

 アレク殿下が言うと、なぜかクズーズ殿下も同意する。

「そうだ。エイナは決して天使ではない」
「クズーズ殿下!? 酷くありませんか!? 私の事を愛していたんじゃないんですか!? エリナのどこがいいんです!? お金でももらったんですか!?」
「僕はお金に困っていない! 正直に思った事を口にしたんだ! 大体、君も君だろう! 一応、僕が君の婚約者なんだぞ! それなのに他の男性と寄りそうだなんて!」
「そんな事を言うわりには、エリナの事ばかり褒めていらっしゃるじゃないですか!」
「そんな事はない! 僕は国民の事をいつも思って――!」
「嘘ばっかりです! エッチな事しか考えていないくせに!」

 エイナの言葉を聞いたアレク殿下が目を閉じてこめかみを押さえた。
 
 そうしたくなる気持ちはすごくわかるわ。
 
 本来ならこんな話を聞いていたくもないんだけれど、ここはたくさんの人に聞いてもらいたいが為に黙っていると、エイナが決定的な言葉を口にする。

「クズーズ殿下は国民の事なんて考えていないわ! 自分の事ばかりじゃないですか! それなら私の方がましです! 私を支持してくれる人の事は考えていますから!」

 マシの基準が全くわからないけれど、衝撃な発言をしてくれたおかげで、そろそろおさめた方が良いと口を出そうとした時、お父様が騎士を引き連れて現れた。

「せっかくの夜会の雰囲気を壊す事になり申し訳ございませんが、エイナとここにいるフォーリン子爵令息を連れて行ってもよろしいでしょうか」

 お父様がアレク殿下とクズーズ殿下に尋ねると、2人は無言で首を縦に振った。

「どうして私も行かないといけないんですか!?」
「疑いがあるのだから行かなければならないだろう!」
「私は何もしていません!」
「なら、それを警察で話をしてくれ。私も一緒に行くから」

 お父様の表情が辛そうで見ていられなくなった。

 何より、私だって他人事ではない。
 どうしてここまで、考え方が違う姉妹になってしまったの?
 お父様とお母様は私達を同じ様に育ててくれた。

 もし、違ったというのなら学園内での環境としか考えられない。
 そうなると、私の責任だわ。

「クズーズ殿下! 婚約者が連れて行かれそうなのに、何もしないんですか!? 本当に役に立たないんですね!」
「何だと!?」

 文句を言いながらも連れられていくエイナ達を追いかけていくクズーズ殿下を見送った後、どっと疲れが襲ってきた。

 フォーリン子爵夫妻も私達に一礼してから、連れられていく息子を追いかけていく。

「大丈夫か?」
「大丈夫です。申し訳ございません」

 アレク殿下が私の肩を抱いて心配そうに聞いてくれたので、笑顔を作って頷いた後、周りに頭を下げる。

「お騒がせしてしまい、申し訳ございませんでした。もう、この様な事は起こりませんので、ご歓談を楽しんでいただければと思います」

 やりすぎてしまったかもしれない。
 このままだとエイナだけでなく、私も責任を取らないといけないわね。

 エイナが素直に罪を認めるとは思えないけれど…。

「申し訳ございませんでした、アレク殿下」
「どうして謝るんだ?」
「私とエイナは姉妹です。親が気付けなかったのはありえるとしても、姉である私が気付かないといけなかったんです」
「それを言われると俺も兄上に関してはそうだ。放置していたからな」
「クズーズ殿下は犯罪を犯しているわけではありません」
「エイナ嬢を庇うわけではないが、エイナ嬢の場合も彼女が指示したという証拠はない」
「状況証拠があるのでは?」

 アレク殿下は小さく息を吐いてから答える。

「疑わしきは罰せず。決定的な証拠がない限り無理だろう。実行犯は彼女じゃないし、彼女が指示したという証拠もない。それに、あの様子だと彼女は悪い事をしたという感覚はないな」
「そうですね」

 姉である私が言うのもなんだけれど、ああいうタイプは反省しない。
 
 自分が悪いと自覚するまでは…。

 ただ、これは勝手な意見だけれど、ピート兄様を巻き込むわけにはいかない。
 そうなるとモドゥルス家として出来る事は…。

「エリナ、何にしても今回の件ではエイナ嬢は罰せられないだろう。彼女の事だ。上手くやるだろうからな」
「それは素直に喜べないですわ」
「それはそうだな。でも、いつかは罪を償わなければいけない日が来る。ただ、それが彼女にとってだけだ」
「……よくわかりませんが…」

 結局、この日の出来事はたくさんの貴族に伝えられていき、国民の事を考えていない事を公言した人間を王妃にする訳にはいかないという人達が増えていったのだった。
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