【完結】この出会いはきっと偶然じゃなかった

風見ゆうみ

文字の大きさ
11 / 47

10 ノボウ伯爵家のメイドの後悔 ③

しおりを挟む
「おねえちゃん、どうかしたの?」

 人の声で目を覚ましたのか、シドは私の所に駆け寄ってきたが、メイド長がいるとわかると、すぐに私の後ろに隠れた。
 彼を見たメイド長は、目を吊り上げて話し始める。

「あなたたちのせいで、私は旦那様からお叱りを受け、メイド長の座から下ろされたのです。ああ、本当に忌々しい!」
「それはお気の毒に。あなたのおかげでシドと会えたから、私はあなたに褒美をあげたいくらいだけどね」
「出会わせたのではありません! 世話をしろと言ったのです! 小屋から出すだけならまだしも、お客様に見られるだなんて!」
「自分が悪いことをしていたという自覚がないのは問題だわ。それに、ただのメイドになったのに、相変わらず偉そうにしてるのね」

 子供を小屋に閉じ込めて、食事もろくに与えず、体だって臭いがするまで洗わないなんて信じられない。
 私たちが住んでいる国は毎日、体を洗うという習慣の人が多い。貴族は特にそうだ。シドはロロミナ様の子供なんだから、アリドと同じように扱われるべきなのに!

「私はメイド長ではありませんが、あなたよりも上であることは確かです。目障りですから消えなさい」
「私だってあなたの顔なんて見たくない。言われなくても、ここから去るつもりだったわ」
「まあまあ、どうされました?」

 ルーミーが笑顔で近寄ってくると、元メイド長に話しかける。

「もうお支払いも済みましたから、わたくしたちは出ていきますよ。それから、ここは大声を出す場所ではないことを覚えておきなさいね」
「ふん。子爵家はお金がないから、こんな年寄りまで働かせているのね」
「いい加減にしなさいよ」

 元メイド長の態度に腹が立った私が、彼女に文句を言おうとした時、セオドア様の側近が割って入ってくる。

「この方を馬鹿にするとはいい度胸だな」
「ふん。ただのおばあさんじゃないの」
「なんだと?」
「いいのよ。年寄りであることに間違いはないわ。だけど、フォガード子爵家を悪く言われるのは困ったものね」

 側近をなだめたルーミーが、右頬に手を当ててため息を吐いた。すると、殺気立っている側近がルーミーに尋ねる。

「処分いたしますか?」
「子供の前よ。物騒なことを言うのはおやめなさい」
「申し訳ございません」

 側近の様子だと、ルーミーはやっぱり偉い人なんだわ。
 セオドア様といい、ルーミーといい、私にどうして身分を隠すのかしら。

 そう思った時、店の扉が開き、黒のチェスターコートに身を包んだ大柄の男性が入ってきた。男性は入り口付近で足を止め、私たちに声をかけてくる。

「ノボウ伯爵夫人がこの店に来ていると聞いたんだが、いたら手を挙げてくれ」
「……私ですが」
 
 入ってきたのはジンシ侯爵だった。
 セオドア様に言われて来てくれたのかしら。
 
 ゆっくり手を挙げると、シドがもう片方の私の手を強く握った。すると、元メイド長が私を指さす。
 
「ルファラ様を探しに来ただなんて! あなたはジンシ侯爵と恋仲だったのですね!? だから、ロロミナ様は捨てられたんだわ!」

 ……恋仲なのに、顔を知らないなんてないでしょう。

 呆れ返って何も言えないでいると、シドが元メイド長に話しかける。

「ちがうよ。おかあさまがうわきばっかりしているから、あいそをつかしたんだ。ぼくとおにいさまは、おとうさまとちがつなかっていないって、おかあさまからきいたよ。それって、うわきなんだよね?」
「あのアマ」

 ジンシ侯爵は整った顔を歪め舌打ちすると、元メイド長に目を向けた。

「ノボウ伯爵夫人とシドに話をする前に、お前に話がある」
「な……なんでございましょうか」
「お前は俺のことを何も知らないよな? それなのに浮気をしていたと決めつけるのか? 間違っていた時の覚悟はできているんだろうな」
「……ち、違うのですか!?」

 元メイド長は涙目になって聞き返した。

 
しおりを挟む
感想 88

あなたにおすすめの小説

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

【完結】恋人との子を我が家の跡取りにする? 冗談も大概にして下さいませ

水月 潮
恋愛
侯爵家令嬢アイリーン・エヴァンスは遠縁の伯爵家令息のシリル・マイソンと婚約している。 ある日、シリルの恋人と名乗る女性・エイダ・バーク男爵家令嬢がエヴァンス侯爵邸を訪れた。 なんでも彼の子供が出来たから、シリルと別れてくれとのこと。 アイリーンはそれを承諾し、二人を追い返そうとするが、シリルとエイダはこの子を侯爵家の跡取りにして、アイリーンは侯爵家から出て行けというとんでもないことを主張する。 ※設定は緩いので物語としてお楽しみ頂けたらと思います ☆HOTランキング20位(2021.6.21) 感謝です*.* HOTランキング5位(2021.6.22)

白い結婚なので無効にします。持参金は全額回収いたします

鷹 綾
恋愛
「白い結婚」であることを理由に、夫から離縁を突きつけられた公爵夫人エリシア。 だが彼女は泣かなかった。 なぜなら――その結婚は、最初から“成立していなかった”から。 教会法に基づき婚姻無効を申請。持参金を全額回収し、彼女が選んだ新たな居場所は修道院だった。 それは逃避ではない。 男の支配から離れ、国家の外側に立つという戦略的選択。 やがて彼女は修道院長として、教育制度の整備、女性領主の育成、商業と医療の再編に関わり、王と王妃を外から支える存在となる。 王冠を欲さず、しかし王冠に影響を与える――白の領域。 一方、かつての夫は地位を失い、制度の中で静かに贖罪の道を歩む。 これは、愛を巡る物語ではない。 「選ばなかった未来」を守り続けた一人の女性の物語。 白は弱さではない。 白は、均衡を保つ力。 白い結婚から始まる、静かなリーガル・リベンジと国家再編の物語。

【完結】旦那様は、妻の私よりも平民の愛人を大事にしたいようです

よどら文鳥
恋愛
 貴族のことを全く理解していない旦那様は、愛人を紹介してきました。  どうやら愛人を第二夫人に招き入れたいそうです。  ですが、この国では一夫多妻制があるとはいえ、それは十分に養っていける環境下にある上、貴族同士でしか認められません。  旦那様は貴族とはいえ現状無職ですし、愛人は平民のようです。  現状を整理すると、旦那様と愛人は不倫行為をしているというわけです。  貴族の人間が不倫行為などすれば、この国での処罰は極刑の可能性もあります。  それすら理解せずに堂々と……。  仕方がありません。  旦那様の気持ちはすでに愛人の方に夢中ですし、その願い叶えられるように私も協力致しましょう。  ただし、平和的に叶えられるかは別です。  政略結婚なので、周りのことも考えると離婚は簡単にできません。ならばこれくらいの抵抗は……させていただきますよ?  ですが、周囲からの協力がありまして、離婚に持っていくこともできそうですね。  折角ですので離婚する前に、愛人と旦那様が私たちの作戦に追い詰められているところもじっくりとこの目で見ておこうかと思います。

【完結】私を裏切った最愛の婚約者の幸せを願って身を引く事にしました。

Rohdea
恋愛
和平の為に、長年争いを繰り返していた国の王子と愛のない政略結婚する事になった王女シャロン。 休戦中とはいえ、かつて敵国同士だった王子と王女。 てっきり酷い扱いを受けるとばかり思っていたのに婚約者となった王子、エミリオは予想とは違いシャロンを温かく迎えてくれた。 互いを大切に想いどんどん仲を深めていく二人。 仲睦まじい二人の様子に誰もがこのまま、平和が訪れると信じていた。 しかし、そんなシャロンに待っていたのは祖国の裏切りと、愛する婚約者、エミリオの裏切りだった─── ※初投稿作『私を裏切った前世の婚約者と再会しました。』 の、主人公達の前世の物語となります。 こちらの話の中で語られていた二人の前世を掘り下げた話となります。 ❋注意❋ 二人の迎える結末に変更はありません。ご了承ください。

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?

秋月一花
恋愛
 本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。  ……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。  彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?  もう我慢の限界というものです。 「離婚してください」 「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」  白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?  あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。 ※カクヨム様にも投稿しています。

【完結】離縁したいのなら、もっと穏便な方法もありましたのに。では、徹底的にやらせて頂きますね

との
恋愛
離婚したいのですか?  喜んでお受けします。 でも、本当に大丈夫なんでしょうか? 伯爵様・・自滅の道を行ってません? まあ、徹底的にやらせて頂くだけですが。 収納スキル持ちの主人公と、錬金術師と異名をとる父親が爆走します。 (父さんの今の顔を見たらフリーカンパニーの団長も怯えるわ。ちっちゃい頃の私だったら確実に泣いてる) ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 32話、完結迄予約投稿済みです。 R15は念の為・・

処理中です...