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35 さよならできる
レナリナは、不思議そうにしている子爵たちに話しかける。
「あなたたちは私のことを愛しているのですよね?」
「そ、そうだ。娘として愛している。だからこそ、お前を迎えにここまでやって来たんだ」
子爵は胸に手を当てて訴えた。
そんな言葉を誰が信じるのか。
呆れ返ったレナリナは無言で、子爵を見つめた。
部屋の中が静寂に包まれた時、耐えきれなくなったかのように、ムーディが口を開く。
「レナリナ! 僕は異性として君を愛している。やり直したくてここまで来たんだ。頼むから一緒に帰ろう」
最初はそうだったかもしれないが、ムーディの発言は昨日の発言と矛盾するものになっていた。
レナリナは眉間に皺を寄せて否定する。
「違うでしょう? 今日はここにこの袋をもらいに来ただけ」
袋を掲げて見せると、ムーディはバツが悪そうに視線を逸らした。
また、沈黙の時間が流れる。
ムーディたちの濡れた髪の毛から、一定のリズムを刻みながら雫が滴り落ちる。
レナリナは静かに尋ねた。
「この袋を渡せば、あなたたちは私を諦めてくれるのですか」
男爵夫人と子爵夫妻は無言で顔を見合わせた。
すでに彼らの間では段取りがついている。
三人の目的はお金である。
そのため、レナリナの持っている袋がどうしてもほしかった。
しかし、レナリナがそう簡単に許してくれるとは思えない。それなら、一番希望のある、ムーディを使うことになった。
ムーディが袋を手に入れ、オーリンズ子爵に渡す。子爵が予言をして金儲けをする。
何も言わずに袋を渡してもらえたなら、儲けた金の一部を男爵家に渡す約束になっている。
なぜ、男爵家に金を渡すのか。それは、ノーム男爵側がムーディがレナリナを捨てなければ、真実を知ることができなかったと訴えたからだ。
まったくもって、くだらない話である。
しかし、オーリンズ子爵はムーディの行動を評価し、自ら一部を支払ってもいいと言い出した。
実際は、一部と曖昧にしているように、はっきりとした金額は提示していない。子爵側は男爵家に大した金を渡すつもりはなかった。
「レナリナ、お前がその袋を渡してくれるなら、お前の望みを聞いてやってもいい」
(お金が好きなのは悪いことじゃない。だけど、ここまでくると普通じゃない気がする)
「どうするつもりだ?」
リヴェンがレナリナを見つめて尋ねた。
「そうですね。できれば袋は渡したくないのですが、自由を勝ち取るためには、多少の犠牲を払ってもいいと思っています」
「そうか」
「はい」
レナリナはうなずき、子爵に提案する。
「私の望みは、あなたたち全員と縁を切ることです。もう二度と私に近づかないと書かれた書類に署名することができますか?」
「袋を渡してくれるんだな?」
「……はい」
名残惜しげに袋を撫でて見せる。子爵はレナリナの演技にすっかり騙されたようで、満足気な顔でうなずく。
「わかった。署名をしよう。書類は用意してあるんだな?」
先程まで娘として愛していると言っていた子爵のあまりのかわり身の早さに、レナリナは苦笑した。
(でも、これでやっとさよならできる)
レナリナは今から書類を作成するふりをして、リヴェンと共に応接室を出た。
「あなたたちは私のことを愛しているのですよね?」
「そ、そうだ。娘として愛している。だからこそ、お前を迎えにここまでやって来たんだ」
子爵は胸に手を当てて訴えた。
そんな言葉を誰が信じるのか。
呆れ返ったレナリナは無言で、子爵を見つめた。
部屋の中が静寂に包まれた時、耐えきれなくなったかのように、ムーディが口を開く。
「レナリナ! 僕は異性として君を愛している。やり直したくてここまで来たんだ。頼むから一緒に帰ろう」
最初はそうだったかもしれないが、ムーディの発言は昨日の発言と矛盾するものになっていた。
レナリナは眉間に皺を寄せて否定する。
「違うでしょう? 今日はここにこの袋をもらいに来ただけ」
袋を掲げて見せると、ムーディはバツが悪そうに視線を逸らした。
また、沈黙の時間が流れる。
ムーディたちの濡れた髪の毛から、一定のリズムを刻みながら雫が滴り落ちる。
レナリナは静かに尋ねた。
「この袋を渡せば、あなたたちは私を諦めてくれるのですか」
男爵夫人と子爵夫妻は無言で顔を見合わせた。
すでに彼らの間では段取りがついている。
三人の目的はお金である。
そのため、レナリナの持っている袋がどうしてもほしかった。
しかし、レナリナがそう簡単に許してくれるとは思えない。それなら、一番希望のある、ムーディを使うことになった。
ムーディが袋を手に入れ、オーリンズ子爵に渡す。子爵が予言をして金儲けをする。
何も言わずに袋を渡してもらえたなら、儲けた金の一部を男爵家に渡す約束になっている。
なぜ、男爵家に金を渡すのか。それは、ノーム男爵側がムーディがレナリナを捨てなければ、真実を知ることができなかったと訴えたからだ。
まったくもって、くだらない話である。
しかし、オーリンズ子爵はムーディの行動を評価し、自ら一部を支払ってもいいと言い出した。
実際は、一部と曖昧にしているように、はっきりとした金額は提示していない。子爵側は男爵家に大した金を渡すつもりはなかった。
「レナリナ、お前がその袋を渡してくれるなら、お前の望みを聞いてやってもいい」
(お金が好きなのは悪いことじゃない。だけど、ここまでくると普通じゃない気がする)
「どうするつもりだ?」
リヴェンがレナリナを見つめて尋ねた。
「そうですね。できれば袋は渡したくないのですが、自由を勝ち取るためには、多少の犠牲を払ってもいいと思っています」
「そうか」
「はい」
レナリナはうなずき、子爵に提案する。
「私の望みは、あなたたち全員と縁を切ることです。もう二度と私に近づかないと書かれた書類に署名することができますか?」
「袋を渡してくれるんだな?」
「……はい」
名残惜しげに袋を撫でて見せる。子爵はレナリナの演技にすっかり騙されたようで、満足気な顔でうなずく。
「わかった。署名をしよう。書類は用意してあるんだな?」
先程まで娘として愛していると言っていた子爵のあまりのかわり身の早さに、レナリナは苦笑した。
(でも、これでやっとさよならできる)
レナリナは今から書類を作成するふりをして、リヴェンと共に応接室を出た。
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