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4 お飾りの妻の決意
フェルリアのために用意された部屋は、2階の東側の突き当たりにあった。
キングサイズのベッドが5個以上置かれていたとしても余裕がある広さで、家具が置いてあってもまだスペースが余っている。
部屋に置かれている調度品は、天蓋付きのキングサイズのベッドにサイドテーブル。ドレッサー。引き出し付きの書き物机と、空っぽの本棚が二つ。火の点いていない暖炉の横には黒の安楽椅子があり、ティーテーブルやソファはない。
部屋の隅には、フェルリアが持ってきていた荷物がまとめて置かれており「荷物に触れる許可をいただけるのであれば、すぐに中身を出します」とメイドは言った。
「あとでお願いするわ」
そう答え、フェルリアは再度、部屋の中を見回す。
窓は全て出窓式になっていて、バルコニーなどはない。
「何か必要なものがございましたら、遠慮なくわたくし共にお申し付けください」
部屋まで案内してくれた若いメイドが深々と頭を下げた。
「そうね。必要なものではなく、いくつか質問したいことがあるんだけどいいかしら」
「……どのようなことでございましょう」
メイドの声が先程よりも低くなったように感じた。
警戒した様子のメイドに、フェルリアは緊張をほぐすように微笑みかける。
「話せないことを質問したのなら、言えません。話したくなかったら言いたくありませんと答えるのはどうかしら?」
「よろしいのですか?」
「ええ。無理強いはしたくないの。とりあえず、質問だけさせてくれない?」
「もちろんでございます」
「じゃあ、そうね。あ、長くなりそうだから、そちらに座ってくれる?」
メイドがうなずくと、フェルリアは安楽椅子に触れて言った。
「そ、そんな! わたくしはこのままで結構でございます! どうぞ、奥様がお座りになってください!」
扉の前に立っていたメイドは、慌てた様子でかぶりを振った。
(公爵家のメイドだもの。一般的な常識があって当たり前よね。それなら、ミレイラ様のことやジェラス様の愛人たちのことは、どう思っているのか探ってみましょう)
「じゃあ、私が椅子に座るから、あなたも部屋の奥へ来てくれる?」
「承知いたしました」
扉付近では立ち聞きされてしまう恐れがある。念のために鍵を閉めて、部屋の奥へと移動した。
まずはミレイラのことについて尋ねると、メイドは自分が言ったと言わないでほしいと前置きしてから続けた。
「私がここに来たのは三年前からなのですが、その時からすでにミサファー様はミレイラ様を貶めるようなことばかりしていました」
「……例えばどんなこと?」
「ゼッシュ様が部屋の中を走り回り、花瓶を落とした場合、ミサファー様はミレイラ様のせいにするのです。そして、旦那様はその言葉を信じ、叱るだけでなく罰を与えていました」
「現在も続いているということね。ミレイラ様は無実を訴えなかったの?」
赤ちゃんの時は無理だろうが、最近なら無実を訴えることができたはず。
そう思ったフェルリアだったが、メイドの悲しそうな表情を見て、自分の考えが甘かったとわかった。
「ミレイラ様がどれだけ無実を訴えても、ミサファー様とゼッシュ様はミレイラ様のせいだと言いました。旦那様は二人の話だけ信じ、ミレイラ様に罰を与えたのです」
「……そうだったの」
(使用人たちも口出しすれば、自分の身が危ないし、何も言えなかったのね)
クビになったと知られれば、問題がある使用人として、どの貴族も雇わない。そうなると死活問題だ。
見て見ぬふりをして、黙って仕事を続けるしかなかった。
メイドはそう話すうちに、罪悪感に襲われて泣き出してしまった。
「泣かないで。申し訳ないと思うなら、これからの行動を変えればいいのよ」
「ですが、旦那様になんと言われるか……」
「使用人の多くは、ミレイラ様に同情的なのかしら」
「……もちろんでございます」
メイドは白いエプロンの裾で涙を拭って答えた。
「それは良かったわ」
フェルリアは微笑んで宣言する。
「私はカダマオ公爵夫人になったの。夫が間違った道に進むなら正さないといけない。それから、虐げられているミレイラ様は私が守るわ」
「……ありがとうございます」
メイドの目から、止まっていた涙がまた溢れ出した。
(互いを愛することはない。この結婚は契約結婚みたいなもの。彼が私を利用しようとするのなら、利用されてあげましょう。だけど、全てを受け入れるわけじゃない。私は私のやり方でやらせてもらうわ)
大事に持っていた小袋を握りしめてフェルリアはそう決意すると、まずは、ジェラスに許可を取ってからミレイラに会いに行くことにした。
キングサイズのベッドが5個以上置かれていたとしても余裕がある広さで、家具が置いてあってもまだスペースが余っている。
部屋に置かれている調度品は、天蓋付きのキングサイズのベッドにサイドテーブル。ドレッサー。引き出し付きの書き物机と、空っぽの本棚が二つ。火の点いていない暖炉の横には黒の安楽椅子があり、ティーテーブルやソファはない。
部屋の隅には、フェルリアが持ってきていた荷物がまとめて置かれており「荷物に触れる許可をいただけるのであれば、すぐに中身を出します」とメイドは言った。
「あとでお願いするわ」
そう答え、フェルリアは再度、部屋の中を見回す。
窓は全て出窓式になっていて、バルコニーなどはない。
「何か必要なものがございましたら、遠慮なくわたくし共にお申し付けください」
部屋まで案内してくれた若いメイドが深々と頭を下げた。
「そうね。必要なものではなく、いくつか質問したいことがあるんだけどいいかしら」
「……どのようなことでございましょう」
メイドの声が先程よりも低くなったように感じた。
警戒した様子のメイドに、フェルリアは緊張をほぐすように微笑みかける。
「話せないことを質問したのなら、言えません。話したくなかったら言いたくありませんと答えるのはどうかしら?」
「よろしいのですか?」
「ええ。無理強いはしたくないの。とりあえず、質問だけさせてくれない?」
「もちろんでございます」
「じゃあ、そうね。あ、長くなりそうだから、そちらに座ってくれる?」
メイドがうなずくと、フェルリアは安楽椅子に触れて言った。
「そ、そんな! わたくしはこのままで結構でございます! どうぞ、奥様がお座りになってください!」
扉の前に立っていたメイドは、慌てた様子でかぶりを振った。
(公爵家のメイドだもの。一般的な常識があって当たり前よね。それなら、ミレイラ様のことやジェラス様の愛人たちのことは、どう思っているのか探ってみましょう)
「じゃあ、私が椅子に座るから、あなたも部屋の奥へ来てくれる?」
「承知いたしました」
扉付近では立ち聞きされてしまう恐れがある。念のために鍵を閉めて、部屋の奥へと移動した。
まずはミレイラのことについて尋ねると、メイドは自分が言ったと言わないでほしいと前置きしてから続けた。
「私がここに来たのは三年前からなのですが、その時からすでにミサファー様はミレイラ様を貶めるようなことばかりしていました」
「……例えばどんなこと?」
「ゼッシュ様が部屋の中を走り回り、花瓶を落とした場合、ミサファー様はミレイラ様のせいにするのです。そして、旦那様はその言葉を信じ、叱るだけでなく罰を与えていました」
「現在も続いているということね。ミレイラ様は無実を訴えなかったの?」
赤ちゃんの時は無理だろうが、最近なら無実を訴えることができたはず。
そう思ったフェルリアだったが、メイドの悲しそうな表情を見て、自分の考えが甘かったとわかった。
「ミレイラ様がどれだけ無実を訴えても、ミサファー様とゼッシュ様はミレイラ様のせいだと言いました。旦那様は二人の話だけ信じ、ミレイラ様に罰を与えたのです」
「……そうだったの」
(使用人たちも口出しすれば、自分の身が危ないし、何も言えなかったのね)
クビになったと知られれば、問題がある使用人として、どの貴族も雇わない。そうなると死活問題だ。
見て見ぬふりをして、黙って仕事を続けるしかなかった。
メイドはそう話すうちに、罪悪感に襲われて泣き出してしまった。
「泣かないで。申し訳ないと思うなら、これからの行動を変えればいいのよ」
「ですが、旦那様になんと言われるか……」
「使用人の多くは、ミレイラ様に同情的なのかしら」
「……もちろんでございます」
メイドは白いエプロンの裾で涙を拭って答えた。
「それは良かったわ」
フェルリアは微笑んで宣言する。
「私はカダマオ公爵夫人になったの。夫が間違った道に進むなら正さないといけない。それから、虐げられているミレイラ様は私が守るわ」
「……ありがとうございます」
メイドの目から、止まっていた涙がまた溢れ出した。
(互いを愛することはない。この結婚は契約結婚みたいなもの。彼が私を利用しようとするのなら、利用されてあげましょう。だけど、全てを受け入れるわけじゃない。私は私のやり方でやらせてもらうわ)
大事に持っていた小袋を握りしめてフェルリアはそう決意すると、まずは、ジェラスに許可を取ってからミレイラに会いに行くことにした。
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