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14 頼りない夫 ①
ジェラスの部屋を出たフェルリアは、自室に帰る前に、ミレイラの様子を見に行くことにした。
食事を一緒にとった際は元気そうにしていたが、やはり心配だった。ミレイラの部屋の前には兵士を二人付けて、ミサファーたちが勝手に入れないようにしているから安心だ。
(子供にしては遅い時間かしら)
現在は夜の九時前。寝ていたら、顔だけ見て帰ろうと決めて、兵士に小声で話しかけた。
「ミレイラ様はもうお眠りになったかしら」
「先程、メイドが絵本を読み聞かせ始めたところです」
「ありがとう」
静かに扉を開けると、部屋の中は薄暗かった。ミレイラのベッドの周りにだけランタンが置かれており、メイドがベッドの上で絵本を広げている。
ミレイラはまだ起きていて「だあれ?」とメイドに尋ねた。
メイドにとっても、廊下の光が逆光になるため見えづらかったが「お邪魔をしてごめんなさいね」と謝る声で、フェルリアだと察した。
「ミレイラ様、フェルリア様が来てくださいましたよ」
「フェルリアさん!」
嬉しそうに手を振ってくれるミレイラの横には、犬のぬいぐるみがある。
(そういえば、ミレイヤ様がミレイラ様に遺したものはこれだけだったのかしら)
ミレイヤが亡くなった時期は見当がつくが、ぬいぐるみを用意した時期はわからない。だが、逆にぬいぐるみを用意する時間はあったということになる。
(日記帳とかつけていないかしら。我が子の成長を書き記していてもおかしくないと思うんだけど……)
「フェルリアさん、どうしたの?」
声をかけられて、自分がミレイラの部屋にいることを思い出した。慌ててベッド脇に駆け寄って話しかける。
「何でもありません。もう眠る時間ですよね。お邪魔してしまって申し訳ございません。ミレイラ様のお顔を見られたので、今日はもう帰りますね」
「やだ。いっしょがいい」
つぶらな目で見つめられ、フェルリアは「えっ」と驚きの声を漏らした。
「だめ?」
「……わかりました。着替えてきますね」
「ありがとうございます」
嬉しそうに笑うミレイラを見て、フェルリアの頬も緩んだ。
******
次の日、ミレイラと共に朝食を終えたフェルリアは、ミレイラをメイドに頼んで自室に戻り、執事を呼び寄せた。
そして、ミレイヤがミレイラに遺したものは他になかったのか尋ねてみた。
「……実は、旦那様には伝えないようにとお願いされていることがありまして」
「話しにくいのなら無理にとは言わないわ。個人の意思は大切よ」
「いえ。旦那様にとしか言われておりませんので」
執事は苦笑して続ける。
「ミレイヤ様はミレイラ様宛の手紙を書いておられ、ミレイラ様が物心がおつきになった時に渡してほしいとお願いされておりました」
「そうだったの」
「フェルリア様、よろしければその手紙をあなたにお預けしてもいいでしょうか」
「えっ?」
「ミレイラ様はフェルリア様にとても懐いておられます。それに、これからもミレイラ様と一緒にいてくださるのでしょう?」
「……そうね」
ジェラスとの離婚はありえることだが、ミレイラを残して出ていくことはしたくなかった。
「ところで、ジェラス様宛の手紙はなかったの?」
「……ありませんでした。ですから口止めされていたこともありますが、余計にミレイラ様宛の手紙があることを言えませんでした」
「そうだったの」
廊下が急に騒がしくなり、フェルリアたちは話すのをやめた。すぐに部屋の扉がノックされ、メイドの悲痛な声が聞こえてきた。
「大変です、フェルリア様! ジェラス様がミサファー様たちを伴って、ミレイラ様の部屋に入られました!」
兵士がフェルリアから命令されているから許可できないと伝えたところ、ジェラスが「私が当主だ」と言って、無理矢理、中に入ったということだった。
(一体、何の用事でミレイラ様の所に行ったの? 謝罪するつもり?)
急いでミレイラの部屋に向かう。部屋が近づいてくると、ジェラスの怒号が聞こえてきた。
「謝っているだろう! どうして許すことができないんだ!」
(その言葉は謝っている人間が言うものじゃないのよ)
フェルリアは開け放たれたままの扉から中に入って、こちらに背を向けているジェラスたちに話しかける。
「一体、何の騒ぎなのです?」
フェルリアが来たとわかった瞬間、ジェラスの体がびくりと震えた。
食事を一緒にとった際は元気そうにしていたが、やはり心配だった。ミレイラの部屋の前には兵士を二人付けて、ミサファーたちが勝手に入れないようにしているから安心だ。
(子供にしては遅い時間かしら)
現在は夜の九時前。寝ていたら、顔だけ見て帰ろうと決めて、兵士に小声で話しかけた。
「ミレイラ様はもうお眠りになったかしら」
「先程、メイドが絵本を読み聞かせ始めたところです」
「ありがとう」
静かに扉を開けると、部屋の中は薄暗かった。ミレイラのベッドの周りにだけランタンが置かれており、メイドがベッドの上で絵本を広げている。
ミレイラはまだ起きていて「だあれ?」とメイドに尋ねた。
メイドにとっても、廊下の光が逆光になるため見えづらかったが「お邪魔をしてごめんなさいね」と謝る声で、フェルリアだと察した。
「ミレイラ様、フェルリア様が来てくださいましたよ」
「フェルリアさん!」
嬉しそうに手を振ってくれるミレイラの横には、犬のぬいぐるみがある。
(そういえば、ミレイヤ様がミレイラ様に遺したものはこれだけだったのかしら)
ミレイヤが亡くなった時期は見当がつくが、ぬいぐるみを用意した時期はわからない。だが、逆にぬいぐるみを用意する時間はあったということになる。
(日記帳とかつけていないかしら。我が子の成長を書き記していてもおかしくないと思うんだけど……)
「フェルリアさん、どうしたの?」
声をかけられて、自分がミレイラの部屋にいることを思い出した。慌ててベッド脇に駆け寄って話しかける。
「何でもありません。もう眠る時間ですよね。お邪魔してしまって申し訳ございません。ミレイラ様のお顔を見られたので、今日はもう帰りますね」
「やだ。いっしょがいい」
つぶらな目で見つめられ、フェルリアは「えっ」と驚きの声を漏らした。
「だめ?」
「……わかりました。着替えてきますね」
「ありがとうございます」
嬉しそうに笑うミレイラを見て、フェルリアの頬も緩んだ。
******
次の日、ミレイラと共に朝食を終えたフェルリアは、ミレイラをメイドに頼んで自室に戻り、執事を呼び寄せた。
そして、ミレイヤがミレイラに遺したものは他になかったのか尋ねてみた。
「……実は、旦那様には伝えないようにとお願いされていることがありまして」
「話しにくいのなら無理にとは言わないわ。個人の意思は大切よ」
「いえ。旦那様にとしか言われておりませんので」
執事は苦笑して続ける。
「ミレイヤ様はミレイラ様宛の手紙を書いておられ、ミレイラ様が物心がおつきになった時に渡してほしいとお願いされておりました」
「そうだったの」
「フェルリア様、よろしければその手紙をあなたにお預けしてもいいでしょうか」
「えっ?」
「ミレイラ様はフェルリア様にとても懐いておられます。それに、これからもミレイラ様と一緒にいてくださるのでしょう?」
「……そうね」
ジェラスとの離婚はありえることだが、ミレイラを残して出ていくことはしたくなかった。
「ところで、ジェラス様宛の手紙はなかったの?」
「……ありませんでした。ですから口止めされていたこともありますが、余計にミレイラ様宛の手紙があることを言えませんでした」
「そうだったの」
廊下が急に騒がしくなり、フェルリアたちは話すのをやめた。すぐに部屋の扉がノックされ、メイドの悲痛な声が聞こえてきた。
「大変です、フェルリア様! ジェラス様がミサファー様たちを伴って、ミレイラ様の部屋に入られました!」
兵士がフェルリアから命令されているから許可できないと伝えたところ、ジェラスが「私が当主だ」と言って、無理矢理、中に入ったということだった。
(一体、何の用事でミレイラ様の所に行ったの? 謝罪するつもり?)
急いでミレイラの部屋に向かう。部屋が近づいてくると、ジェラスの怒号が聞こえてきた。
「謝っているだろう! どうして許すことができないんだ!」
(その言葉は謝っている人間が言うものじゃないのよ)
フェルリアは開け放たれたままの扉から中に入って、こちらに背を向けているジェラスたちに話しかける。
「一体、何の騒ぎなのです?」
フェルリアが来たとわかった瞬間、ジェラスの体がびくりと震えた。
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