【完結】私はあなたの操り人形ではありません

風見ゆうみ

文字の大きさ
20 / 56

19 嫌われることしかしない夫 ③

 ジェラスの目論見は、ミサファーたちが出ていくという話が出たため失敗に終わった。ミサファーたちとジェラスが話をしている間、ミレイラと朝食をとりながら、フェルリアは悩んでいた。

(どうしてジェラス様は私に子供を生ませる気になったのかしら)

 元々は白い結婚の予定で、フェルリアがキックスのことを忘れなくてもいいという条件だった。

(しかも、今日はミレイラ様と出かけようとしていたわよね。今まで酷いことをしておいて、どういうつもりなのかしら)

 ジェラスの意図がわからず、フェルリアはこめかみを押さえる。

 償いのつもりなのだろうかと思ったが、そんなことを考えるタイプだとは思えないと打ち消した。
 それに、そんな誘いはジェラスを遠ざけたいミレイラには逆効果だ。
 5日後にはミレイラは4歳の誕生日を迎える。悲しい出来事ばかり経験してきたせいで、人の顔色ばかり窺う子になってしまった。子供らしさを忘れてしまっているミレイラに、その日だけでもジェラスのことは忘れて幸せに過ごしてほしい。

 ミレイラの誕生日のことは使用人は皆知っている。しかし、誰一人、ジェラスに教えようとする者はいなかった。

(誕生日を覚えているとか? でも、使用人が言うには今まで一度も祝ったことがないと言っていたし……)
 
「フェルリア様、ミサファー様たちがここを発たれるようです」

 メイドの声で我に返り、食事の途中だったが、一緒に行きたがったミレイラを連れて、エントランスホールに向かった。
 すでにジェラスたちが待っており、フェルリアの姿を認めると、ミサファーが微笑んだ。
 ミサファーはツバの広いワイン色の帽子をかぶっており、足元には大きなトランクケースが
3つ。その横には紺色のサスペンダーパンツ姿のゼッシュがいた。

 ミレイラをメイドに任せ、フェルリアが近づくと、ミサファーは微笑んだ。

「フェルリア様、短い間でしたがお世話になりました」
「こちらこそ」
「しばらくは宿屋を転々とするつもりですので、落ち着きましたら改めてご連絡させていただきます」
「承知いたしました。あなた方に危険が及ばないよう、ジェラス様は護衛をつけてくださるのでしょうね」 

 フェルリアがわざと大きな声で言うと、ジェラスは慌てた様子で執事に話しかけた。

「本当に良かったのですか」
「ええ。最低な男だとわかりましたから」
「ゼッシュ様を跡取りにしたかったのではないのですか?」
「ふふ。フェルリア様、私はゼッシュの母ですよ。血のつながった娘であるミレイラ様に冷たい態度を取っている男のもとに息子を置いておけるわけがないでしょう」
「……そうですわね」

(ミサファー様は自分だけが可愛いのかと思っていたけれど、ゼッシュ様のことをちゃんと愛していたのね)

 ミレイラをいじめていたことは許せない。それを除いては彼女も一般的な母親なのだろうと、フェルリアは思った。

 フェルリアがミサファーと話をしている間に、ゼッシュがミレイラに話しかける。

「いままで、ごめん。ゆるしてくれる?」
「……いいですよ」
 
 しょんぼりしているゼッシュを見て、ミレイラが微笑んだ時だった。ゼッシュを押しのけて、ジェラスがミレイラの両頬を掴んだ。

「私のことも許すよな?」
「ふえっ」

 ミレイラは恐怖で目を見開き、涙目でジェラスを見つめた。

「旦那様、おやめ」
「うるさい、黙っていろ!」

 止めに入ろうとしたメイドを怒鳴りつけ、ジェラスはミレイラに言い聞かせようとした。

「私は反省した。これから、お前のことをちゃんと愛してやる。だから、フェルリアのことをお母様……いや、ママと呼べ。そして、私と仲良くするようにお願いするんだ」
「ジェラス様! ミレイラ様から離れてください!」

 押し退けられた衝撃で床に転がったゼッシュが泣き叫ぶよりも前に、ジェラスの動きに気がついたフェルリアが、怒りの形相でミレイラを彼から引き離した。

「「うわあああん」」

 ミレイラとゼッシュの泣く声が響き渡る。

 ミレイラを抱きしめたフェルリアと、ゼッシュを抱きかかえたミサファー。二人の女性だけでなく、メイドや兵士からも非難の目を向けられたジェラスは「用事を思い出した」と言って逃げるようにこの場を去っていった。

感想 67

あなたにおすすめの小説

結婚式の翌朝、夫に「皇太子の愛人だろう」と捨てられました――ですが私は、亡き国王の娘です

柴田はつみ
恋愛
母の遺した薬草店を守りながら、慎ましく暮らしていたアンリ。 そんな彼女に求婚してきたのは、国内でも名高い騎士にして公爵家当主、アルファだった。 真っすぐな想いを向けられ、彼を信じて結婚したアンリ。 けれど幸せなはずの結婚式の翌朝、夫は冷たく言い放つ。 「君を愛していると本気で思っていたのかい? 」 彼はアンリが第一皇太子と深い仲にあり、自分との結婚は身を隠すための偽装だと誤解していたのだ。 アンリは実は、亡き国王の婚外子。 皇太子にとっては、隠して守らなければならない妹だったのである。

【本編完結】初恋のその先で、私は母になる

妄夢【ピッコマノベルズ連載中】
恋愛
第19回恋愛小説大賞にて、奨励賞を受賞いたしました。読者の皆様のおかげです!本当ありがとうございます。 王宮で12年働き、気づけば28歳。 恋も結婚も遠いものだと思っていたオリビアの人生は、憧れの年下公爵と一夜を共にしたことで大きく動き出す。 優しく守ろうとする彼。 けれどオリビアは、誰かに選ばれるだけの人生を終わらせたいと思っていた。 揺れる想いの中で、彼女が選んだのは―― 自分の足で立ち、自分の未来を選ぶこと。 これは、一人の女性が恋を通して自分を取り戻し、母として、そして一人の人間として強くなっていく物語。 ※表紙画像はAI生成イラストをつかっています。

結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。

しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。 友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。 『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。 取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。 彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。

【完結】ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる── 侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。 だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。 アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。 そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。 「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」 これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。 ⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。過激ざまぁタグあります。 4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

【完結】愛とは呼ばせない

野村にれ
恋愛
リール王太子殿下とサリー・ペルガメント侯爵令嬢は六歳の時からの婚約者である。 二人はお互いを励まし、未来に向かっていた。 しかし、王太子殿下は最近ある子爵令嬢に御執心で、サリーを蔑ろにしていた。 サリーは幾度となく、王太子殿下に問うも、答えは得られなかった。 二人は身分差はあるものの、子爵令嬢は男装をしても似合いそうな顔立ちで、長身で美しく、 まるで対の様だと言われるようになっていた。二人を見つめるファンもいるほどである。 サリーは婚約解消なのだろうと受け止め、承知するつもりであった。 しかし、そうはならなかった。

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。