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19 嫌われることしかしない夫 ③
ジェラスの目論見は、ミサファーたちが出ていくという話が出たため失敗に終わった。ミサファーたちとジェラスが話をしている間、ミレイラと朝食をとりながら、フェルリアは悩んでいた。
(どうしてジェラス様は私に子供を生ませる気になったのかしら)
元々は白い結婚の予定で、フェルリアがキックスのことを忘れなくてもいいという条件だった。
(しかも、今日はミレイラ様と出かけようとしていたわよね。今まで酷いことをしておいて、どういうつもりなのかしら)
ジェラスの意図がわからず、フェルリアはこめかみを押さえる。
償いのつもりなのだろうかと思ったが、そんなことを考えるタイプだとは思えないと打ち消した。
それに、そんな誘いはジェラスを遠ざけたいミレイラには逆効果だ。
5日後にはミレイラは4歳の誕生日を迎える。悲しい出来事ばかり経験してきたせいで、人の顔色ばかり窺う子になってしまった。子供らしさを忘れてしまっているミレイラに、その日だけでもジェラスのことは忘れて幸せに過ごしてほしい。
ミレイラの誕生日のことは使用人は皆知っている。しかし、誰一人、ジェラスに教えようとする者はいなかった。
(誕生日を覚えているとか? でも、使用人が言うには今まで一度も祝ったことがないと言っていたし……)
「フェルリア様、ミサファー様たちがここを発たれるようです」
メイドの声で我に返り、食事の途中だったが、一緒に行きたがったミレイラを連れて、エントランスホールに向かった。
すでにジェラスたちが待っており、フェルリアの姿を認めると、ミサファーが微笑んだ。
ミサファーはツバの広いワイン色の帽子をかぶっており、足元には大きなトランクケースが
3つ。その横には紺色のサスペンダーパンツ姿のゼッシュがいた。
ミレイラをメイドに任せ、フェルリアが近づくと、ミサファーは微笑んだ。
「フェルリア様、短い間でしたがお世話になりました」
「こちらこそ」
「しばらくは宿屋を転々とするつもりですので、落ち着きましたら改めてご連絡させていただきます」
「承知いたしました。あなた方に危険が及ばないよう、ジェラス様は護衛をつけてくださるのでしょうね」
フェルリアがわざと大きな声で言うと、ジェラスは慌てた様子で執事に話しかけた。
「本当に良かったのですか」
「ええ。最低な男だとわかりましたから」
「ゼッシュ様を跡取りにしたかったのではないのですか?」
「ふふ。フェルリア様、私はゼッシュの母ですよ。血のつながった娘であるミレイラ様に冷たい態度を取っている男のもとに息子を置いておけるわけがないでしょう」
「……そうですわね」
(ミサファー様は自分だけが可愛いのかと思っていたけれど、ゼッシュ様のことをちゃんと愛していたのね)
ミレイラをいじめていたことは許せない。それを除いては彼女も一般的な母親なのだろうと、フェルリアは思った。
フェルリアがミサファーと話をしている間に、ゼッシュがミレイラに話しかける。
「いままで、ごめん。ゆるしてくれる?」
「……いいですよ」
しょんぼりしているゼッシュを見て、ミレイラが微笑んだ時だった。ゼッシュを押しのけて、ジェラスがミレイラの両頬を掴んだ。
「私のことも許すよな?」
「ふえっ」
ミレイラは恐怖で目を見開き、涙目でジェラスを見つめた。
「旦那様、おやめ」
「うるさい、黙っていろ!」
止めに入ろうとしたメイドを怒鳴りつけ、ジェラスはミレイラに言い聞かせようとした。
「私は反省した。これから、お前のことをちゃんと愛してやる。だから、フェルリアのことをお母様……いや、ママと呼べ。そして、私と仲良くするようにお願いするんだ」
「ジェラス様! ミレイラ様から離れてください!」
押し退けられた衝撃で床に転がったゼッシュが泣き叫ぶよりも前に、ジェラスの動きに気がついたフェルリアが、怒りの形相でミレイラを彼から引き離した。
「「うわあああん」」
ミレイラとゼッシュの泣く声が響き渡る。
ミレイラを抱きしめたフェルリアと、ゼッシュを抱きかかえたミサファー。二人の女性だけでなく、メイドや兵士からも非難の目を向けられたジェラスは「用事を思い出した」と言って逃げるようにこの場を去っていった。
(どうしてジェラス様は私に子供を生ませる気になったのかしら)
元々は白い結婚の予定で、フェルリアがキックスのことを忘れなくてもいいという条件だった。
(しかも、今日はミレイラ様と出かけようとしていたわよね。今まで酷いことをしておいて、どういうつもりなのかしら)
ジェラスの意図がわからず、フェルリアはこめかみを押さえる。
償いのつもりなのだろうかと思ったが、そんなことを考えるタイプだとは思えないと打ち消した。
それに、そんな誘いはジェラスを遠ざけたいミレイラには逆効果だ。
5日後にはミレイラは4歳の誕生日を迎える。悲しい出来事ばかり経験してきたせいで、人の顔色ばかり窺う子になってしまった。子供らしさを忘れてしまっているミレイラに、その日だけでもジェラスのことは忘れて幸せに過ごしてほしい。
ミレイラの誕生日のことは使用人は皆知っている。しかし、誰一人、ジェラスに教えようとする者はいなかった。
(誕生日を覚えているとか? でも、使用人が言うには今まで一度も祝ったことがないと言っていたし……)
「フェルリア様、ミサファー様たちがここを発たれるようです」
メイドの声で我に返り、食事の途中だったが、一緒に行きたがったミレイラを連れて、エントランスホールに向かった。
すでにジェラスたちが待っており、フェルリアの姿を認めると、ミサファーが微笑んだ。
ミサファーはツバの広いワイン色の帽子をかぶっており、足元には大きなトランクケースが
3つ。その横には紺色のサスペンダーパンツ姿のゼッシュがいた。
ミレイラをメイドに任せ、フェルリアが近づくと、ミサファーは微笑んだ。
「フェルリア様、短い間でしたがお世話になりました」
「こちらこそ」
「しばらくは宿屋を転々とするつもりですので、落ち着きましたら改めてご連絡させていただきます」
「承知いたしました。あなた方に危険が及ばないよう、ジェラス様は護衛をつけてくださるのでしょうね」
フェルリアがわざと大きな声で言うと、ジェラスは慌てた様子で執事に話しかけた。
「本当に良かったのですか」
「ええ。最低な男だとわかりましたから」
「ゼッシュ様を跡取りにしたかったのではないのですか?」
「ふふ。フェルリア様、私はゼッシュの母ですよ。血のつながった娘であるミレイラ様に冷たい態度を取っている男のもとに息子を置いておけるわけがないでしょう」
「……そうですわね」
(ミサファー様は自分だけが可愛いのかと思っていたけれど、ゼッシュ様のことをちゃんと愛していたのね)
ミレイラをいじめていたことは許せない。それを除いては彼女も一般的な母親なのだろうと、フェルリアは思った。
フェルリアがミサファーと話をしている間に、ゼッシュがミレイラに話しかける。
「いままで、ごめん。ゆるしてくれる?」
「……いいですよ」
しょんぼりしているゼッシュを見て、ミレイラが微笑んだ時だった。ゼッシュを押しのけて、ジェラスがミレイラの両頬を掴んだ。
「私のことも許すよな?」
「ふえっ」
ミレイラは恐怖で目を見開き、涙目でジェラスを見つめた。
「旦那様、おやめ」
「うるさい、黙っていろ!」
止めに入ろうとしたメイドを怒鳴りつけ、ジェラスはミレイラに言い聞かせようとした。
「私は反省した。これから、お前のことをちゃんと愛してやる。だから、フェルリアのことをお母様……いや、ママと呼べ。そして、私と仲良くするようにお願いするんだ」
「ジェラス様! ミレイラ様から離れてください!」
押し退けられた衝撃で床に転がったゼッシュが泣き叫ぶよりも前に、ジェラスの動きに気がついたフェルリアが、怒りの形相でミレイラを彼から引き離した。
「「うわあああん」」
ミレイラとゼッシュの泣く声が響き渡る。
ミレイラを抱きしめたフェルリアと、ゼッシュを抱きかかえたミサファー。二人の女性だけでなく、メイドや兵士からも非難の目を向けられたジェラスは「用事を思い出した」と言って逃げるようにこの場を去っていった。
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