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素直な気持ちを伝えます
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「すっかり忘れてた」
「だろうな。オマエ、ラスの事ばかり考えてたし」
「正確にはラス様のリボンでしょ」
ユウヤくんが不貞腐れた顔をするので、私はすぐに否定した。
あの出来事から5日後の夜、正装したユウヤくんにエスコートされ、王妃様からお誘いいただいていた食事会の席に向かっていた。
今日の私はさすがにきちんとした身なりで、髪はおろしたままだけれど、香油のおかげでツヤツヤ。
ドレスはレモン色のパニエなしのワンショルダーのドレスで胸元には小花の刺繍がちりばめられていて、とても可愛い。
パニエなしはいいけど、コルセットをつけているから、食事はあまり食べれなさそう。
緊張しているから味なんかわからないだろうし、今日こそは、
「野菜、頑張って食べないと」
と意気込んでみる。
「オマエには野菜は、果物ベースの味ですりおろしのジュースになってるらしいぞ」
「なんか、すいません」
「ちゃんと食えるようになれよ」
子供に言い聞かせるように、優しく頭を撫でられた。
ユウヤくんは優しい、というより、私にあまくなった気がする。
もしかして、ラス様のせいかな。
そんな事を考えているうちに部屋に着き中に入ると、先に行っていたリアとユウマくんがいた。
「わあ、リア可愛い!」
「ユーニも可愛い」
リアを見るなり私が叫ぶと、リアも同じようにそう言って駆け寄ってきてくれた。
リアのドレスは青のプリンセスラインのドレスで、本当にどこかのお姫様みたいに見えた。
もちろんユウマくんも正装だし、いつもと違う感じで素敵だ。
美男美女といった感じだなあ。
と、またもや考えているうちに、アレン王子がやって来て、そして王妃様と陛下が現れ、食事会が始まった。
席の着き方は、前にメイド姿でお邪魔したときと同じで、違うのはリアが私の向かい側に座っていること。
リアが向かい側なのは、なんだか心強い。
穏やかに食事が進んでいたのだけど、王妃様の私への発言により、それどころではなくなった。
「ユーニちゃんはユウヤとの事、前向きに考えてくれてるのかしら」
「うっ」
その言葉を耳にした瞬間、食べていたものが喉につまりそうになった。
「だ、大丈夫か?」
「う、うん、大丈夫」
咳き込む私の背中をユウヤくんがなでてくれる。
しばらく咳き込んだあと、落ち着いて話せるようになってから先程の質問に答えた。
「し、失礼しました。あの、前向きには考えているんですが、まだ、自分に自信が持てなくて」
「ユーニちゃんの言う自信はどんなものなの?」
王妃様が萎縮しないようにか、優しい声色、優しい表情で尋ねてくる。
そう言われてみれば、どんなものだろう。
どうなれば自分に自信が出るか、そう言われてみたらわからなくなった。
私は無礼だとわかっていながらも、俯いた状態で答える。
「礼儀作法とか、そういうものができるようになったら、でしょうか」
「あら、それなら婚約者になった方が、よっぽど覚えられるわよ?」
「そ、そうでしょうか」
顔を上げると、ユウヤくんだけじゃなくリア達が心配そうな表情をしているのが見えた。
「ユーニちゃん」
王妃様は私の名を呼んでから立ち上がると、空いている隣の席までやって来る。
慌てて、王妃様のお付きの人が椅子を引くと、そこに座り、私を優しく見つめて言った。
「私ね、結婚はあと2年後に考えたら良いと思ってるの」
「え?」
「だって、ユーニちゃんはまだ16歳でしょう? 平民の結婚適齢期はもっと遅いと聞いたわ。いくつくらい?」
「18歳から24歳くらいです」
「あら! 長く見れば、まだ8年もあるのね。さすがに8年は待ちくたびれちゃう!」
王妃様は笑うと、膝に置いていた私の手に触れて言った。
「無理にとは言わないわ。けれど、ユウヤにはあなたしかいないようだから、これはいち母親の意見として聞いてちょうだい」
「・・・・・はい」
「ユウヤにチャンスを与えてあげて。ユウヤはあなたが本当に妃教育が辛くて逃げ出したいというのなら、平民になっても良いと思ってるくらい、あなたが好きみたいなの」
「は、母上」
言葉を発しようとするユウヤくんを目で黙らせると、王妃様は続けた。
「あなたと一緒になって平民として暮らす事になっても困らないように、賞金稼ぎだなんて危ない仕事をしているのよ?」
「申し訳ありません」
「違うの。責めてるんじゃないのよ」
「ユウヤにはあなたしかいないの。だけど、ユーニちゃんはどう? 自信がないとか関係ないわ。あなたがユウヤとこれからも一緒にいたいかどうか。これからも一緒にいたい、そう思ってくれるならマナーなんて気にしなくていいわ」
王妃様はそこまで一気に話し切ると陛下を見て言った。
「陛下。良いですわよね?」
「エレナのような事にはしたくないからな」
陛下は女性の名前をあげたあと、静かに頷いた。
リアがその名前に反応したのが少し気になったけど、今はそれを気にしている場合ではない。
「ゆっくり決めても良いと言ったくせに急かしてしまってごめんなさいね。でも、最近のユウヤが必死すぎて見ていられなくて」
「いえ、そんな! 私が悪いんです」
「食事中にごめんなさいね」
王妃様は私の手を優しく握り直してくれたあと、席に戻られた。
その後の私は、何を食べても味がわからなかった。
その日の晩、寝付けなくて私は魔力を流せば灯りがつくランタンを持って、寝間着姿のまま、城の敷地内にある噴水を見に来ていた。
夜中はやはり温度が低くなっていて、もう季節が変わるのだな、と実感する。
なんだか肌寒くなって噴水近くのベンチにランタンを置き、靴を脱いで座ると膝を抱えた。
頭の中では今日の王妃様の言葉がぐるぐるまわる。
どうしたらいいの?
断れば、たとえユウヤくんが望んだとしても、私は彼に会う資格はないと思う。
離れたくないのなら、婚約者になるしかない。
でも、私が?
ふと、人の気配を感じて頭を上げると、背中に重みを感じた。
誰かの上着だと気が付いて、確認しようとする前に声がかけられた。
「風邪ひくぞ」
「ユウヤくん」
彼は私の隣に座るとジャケットを私の体に巻き付けた。
「ユウヤくんが風邪ひくよ」
「こうしてれば問題ない」
そう言って、ユウヤくんが私を抱き寄せた。
今の状態が心地よくて、目を閉じてしまいそうになる。
「こんな時間にどうしたの?」
「寝付けなかったんだよ」
「ユウヤくんも?」
「そりゃそうだろ。あんな事あったし、断られたらとか思うだろ。気持ちを落ち着けようと思って、外に出たらオマエがいたしビックリした」
ユウヤくんも王妃様の発言で私が答えを出すのがわかったんだろうな。
それも早くに。
「ユウヤくんは私がいないと寂しい?」
「寂しいどころじゃねぇよ。いないと死ぬ」
「大げさだよ」
「大げさじゃねぇよ」
ユウヤくんは私の頭に頬を寄せて続けた。
「こんな事言うのは卑怯だとわかってるけど、断られても嫌われない以上諦めないし、放すつもりもない。だから、前にオマエに言った事を実行するかも」
「閉じ込めるの?」
「駄目か?」
「普通に考えて駄目でしょ」
彼の悪気のない発言に笑ってしまう。
この人からはもう逃れられないんだろうな。
そして、私はそれが嫌じゃない。
「もう限界、ってなったら逃げていい?」
「連れて逃げるよ」
「ユウヤくんの事、嫌いになったら?」
「そんな事させない」
抱きしめる腕の力が強くなる。
今を逃せば、言えなくなってしまいそう。
覚悟を決めて深呼吸したあと、腕の中で顔を上げて言った。
「私、ちゃんと、ユウヤくんの婚約者になりたい」
「・・・・・・」
暗闇に目が慣れたせいか、ユウヤくんの表情もしっかりとわかって、ついつい笑ってしまった。
「笑うな」
「だって、あまりにもぽかんとしてたから」
「そうなるだろ。ってか、嬉しい。すげー嬉しい。顔ゆるむ」
ユウヤくんがそう言って、私を抱きしめなおす。
なんだろう。
すごく幸せで、すごく心地よい。
今だけかもしれないけど、今後の事なんて、どうでも良くなった。
そう思い私も体制を変えて、ユウヤくんを抱きしめ返した。
次の日に、ユウヤくんから王妃様達には連絡がいき、リアには自分から話をした。
あまりの急展開にリアは驚いていたけど喜んでくれた。
これから忙しくなるし、リア主催で寒くなる前にピクニックに行こうという話になり、護衛としてジンさんをお願いし、ミランダ様も呼ぶ事にした。
私の答えが出た事でミランダ様達も別邸から出ていける事になったけど、残りたければ残れるようにラス様がしてくれたため、ミランダ様は別邸に残る事になった。
そして、1週間後、ピクニックに行く日がやってきた。
「だろうな。オマエ、ラスの事ばかり考えてたし」
「正確にはラス様のリボンでしょ」
ユウヤくんが不貞腐れた顔をするので、私はすぐに否定した。
あの出来事から5日後の夜、正装したユウヤくんにエスコートされ、王妃様からお誘いいただいていた食事会の席に向かっていた。
今日の私はさすがにきちんとした身なりで、髪はおろしたままだけれど、香油のおかげでツヤツヤ。
ドレスはレモン色のパニエなしのワンショルダーのドレスで胸元には小花の刺繍がちりばめられていて、とても可愛い。
パニエなしはいいけど、コルセットをつけているから、食事はあまり食べれなさそう。
緊張しているから味なんかわからないだろうし、今日こそは、
「野菜、頑張って食べないと」
と意気込んでみる。
「オマエには野菜は、果物ベースの味ですりおろしのジュースになってるらしいぞ」
「なんか、すいません」
「ちゃんと食えるようになれよ」
子供に言い聞かせるように、優しく頭を撫でられた。
ユウヤくんは優しい、というより、私にあまくなった気がする。
もしかして、ラス様のせいかな。
そんな事を考えているうちに部屋に着き中に入ると、先に行っていたリアとユウマくんがいた。
「わあ、リア可愛い!」
「ユーニも可愛い」
リアを見るなり私が叫ぶと、リアも同じようにそう言って駆け寄ってきてくれた。
リアのドレスは青のプリンセスラインのドレスで、本当にどこかのお姫様みたいに見えた。
もちろんユウマくんも正装だし、いつもと違う感じで素敵だ。
美男美女といった感じだなあ。
と、またもや考えているうちに、アレン王子がやって来て、そして王妃様と陛下が現れ、食事会が始まった。
席の着き方は、前にメイド姿でお邪魔したときと同じで、違うのはリアが私の向かい側に座っていること。
リアが向かい側なのは、なんだか心強い。
穏やかに食事が進んでいたのだけど、王妃様の私への発言により、それどころではなくなった。
「ユーニちゃんはユウヤとの事、前向きに考えてくれてるのかしら」
「うっ」
その言葉を耳にした瞬間、食べていたものが喉につまりそうになった。
「だ、大丈夫か?」
「う、うん、大丈夫」
咳き込む私の背中をユウヤくんがなでてくれる。
しばらく咳き込んだあと、落ち着いて話せるようになってから先程の質問に答えた。
「し、失礼しました。あの、前向きには考えているんですが、まだ、自分に自信が持てなくて」
「ユーニちゃんの言う自信はどんなものなの?」
王妃様が萎縮しないようにか、優しい声色、優しい表情で尋ねてくる。
そう言われてみれば、どんなものだろう。
どうなれば自分に自信が出るか、そう言われてみたらわからなくなった。
私は無礼だとわかっていながらも、俯いた状態で答える。
「礼儀作法とか、そういうものができるようになったら、でしょうか」
「あら、それなら婚約者になった方が、よっぽど覚えられるわよ?」
「そ、そうでしょうか」
顔を上げると、ユウヤくんだけじゃなくリア達が心配そうな表情をしているのが見えた。
「ユーニちゃん」
王妃様は私の名を呼んでから立ち上がると、空いている隣の席までやって来る。
慌てて、王妃様のお付きの人が椅子を引くと、そこに座り、私を優しく見つめて言った。
「私ね、結婚はあと2年後に考えたら良いと思ってるの」
「え?」
「だって、ユーニちゃんはまだ16歳でしょう? 平民の結婚適齢期はもっと遅いと聞いたわ。いくつくらい?」
「18歳から24歳くらいです」
「あら! 長く見れば、まだ8年もあるのね。さすがに8年は待ちくたびれちゃう!」
王妃様は笑うと、膝に置いていた私の手に触れて言った。
「無理にとは言わないわ。けれど、ユウヤにはあなたしかいないようだから、これはいち母親の意見として聞いてちょうだい」
「・・・・・はい」
「ユウヤにチャンスを与えてあげて。ユウヤはあなたが本当に妃教育が辛くて逃げ出したいというのなら、平民になっても良いと思ってるくらい、あなたが好きみたいなの」
「は、母上」
言葉を発しようとするユウヤくんを目で黙らせると、王妃様は続けた。
「あなたと一緒になって平民として暮らす事になっても困らないように、賞金稼ぎだなんて危ない仕事をしているのよ?」
「申し訳ありません」
「違うの。責めてるんじゃないのよ」
「ユウヤにはあなたしかいないの。だけど、ユーニちゃんはどう? 自信がないとか関係ないわ。あなたがユウヤとこれからも一緒にいたいかどうか。これからも一緒にいたい、そう思ってくれるならマナーなんて気にしなくていいわ」
王妃様はそこまで一気に話し切ると陛下を見て言った。
「陛下。良いですわよね?」
「エレナのような事にはしたくないからな」
陛下は女性の名前をあげたあと、静かに頷いた。
リアがその名前に反応したのが少し気になったけど、今はそれを気にしている場合ではない。
「ゆっくり決めても良いと言ったくせに急かしてしまってごめんなさいね。でも、最近のユウヤが必死すぎて見ていられなくて」
「いえ、そんな! 私が悪いんです」
「食事中にごめんなさいね」
王妃様は私の手を優しく握り直してくれたあと、席に戻られた。
その後の私は、何を食べても味がわからなかった。
その日の晩、寝付けなくて私は魔力を流せば灯りがつくランタンを持って、寝間着姿のまま、城の敷地内にある噴水を見に来ていた。
夜中はやはり温度が低くなっていて、もう季節が変わるのだな、と実感する。
なんだか肌寒くなって噴水近くのベンチにランタンを置き、靴を脱いで座ると膝を抱えた。
頭の中では今日の王妃様の言葉がぐるぐるまわる。
どうしたらいいの?
断れば、たとえユウヤくんが望んだとしても、私は彼に会う資格はないと思う。
離れたくないのなら、婚約者になるしかない。
でも、私が?
ふと、人の気配を感じて頭を上げると、背中に重みを感じた。
誰かの上着だと気が付いて、確認しようとする前に声がかけられた。
「風邪ひくぞ」
「ユウヤくん」
彼は私の隣に座るとジャケットを私の体に巻き付けた。
「ユウヤくんが風邪ひくよ」
「こうしてれば問題ない」
そう言って、ユウヤくんが私を抱き寄せた。
今の状態が心地よくて、目を閉じてしまいそうになる。
「こんな時間にどうしたの?」
「寝付けなかったんだよ」
「ユウヤくんも?」
「そりゃそうだろ。あんな事あったし、断られたらとか思うだろ。気持ちを落ち着けようと思って、外に出たらオマエがいたしビックリした」
ユウヤくんも王妃様の発言で私が答えを出すのがわかったんだろうな。
それも早くに。
「ユウヤくんは私がいないと寂しい?」
「寂しいどころじゃねぇよ。いないと死ぬ」
「大げさだよ」
「大げさじゃねぇよ」
ユウヤくんは私の頭に頬を寄せて続けた。
「こんな事言うのは卑怯だとわかってるけど、断られても嫌われない以上諦めないし、放すつもりもない。だから、前にオマエに言った事を実行するかも」
「閉じ込めるの?」
「駄目か?」
「普通に考えて駄目でしょ」
彼の悪気のない発言に笑ってしまう。
この人からはもう逃れられないんだろうな。
そして、私はそれが嫌じゃない。
「もう限界、ってなったら逃げていい?」
「連れて逃げるよ」
「ユウヤくんの事、嫌いになったら?」
「そんな事させない」
抱きしめる腕の力が強くなる。
今を逃せば、言えなくなってしまいそう。
覚悟を決めて深呼吸したあと、腕の中で顔を上げて言った。
「私、ちゃんと、ユウヤくんの婚約者になりたい」
「・・・・・・」
暗闇に目が慣れたせいか、ユウヤくんの表情もしっかりとわかって、ついつい笑ってしまった。
「笑うな」
「だって、あまりにもぽかんとしてたから」
「そうなるだろ。ってか、嬉しい。すげー嬉しい。顔ゆるむ」
ユウヤくんがそう言って、私を抱きしめなおす。
なんだろう。
すごく幸せで、すごく心地よい。
今だけかもしれないけど、今後の事なんて、どうでも良くなった。
そう思い私も体制を変えて、ユウヤくんを抱きしめ返した。
次の日に、ユウヤくんから王妃様達には連絡がいき、リアには自分から話をした。
あまりの急展開にリアは驚いていたけど喜んでくれた。
これから忙しくなるし、リア主催で寒くなる前にピクニックに行こうという話になり、護衛としてジンさんをお願いし、ミランダ様も呼ぶ事にした。
私の答えが出た事でミランダ様達も別邸から出ていける事になったけど、残りたければ残れるようにラス様がしてくれたため、ミランダ様は別邸に残る事になった。
そして、1週間後、ピクニックに行く日がやってきた。
応援ありがとうございます!
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