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12. 不吉の聖女
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アッシュと共に神官長の所へ行き、リリアナがフェナンの話を伝えると、話を聞いた神官長は頭を抱えてしまった。
そんな彼を見つめながら、他人事の様にリリアナは思う。
(神官長も大変ね。聖騎士と聖女っていうくらいだから、特に問題も起こさない性格の良い人間だと思っていたでしょうに、実際はそうでもなかったんだから)
「一体、どうなっているというのでしょう。ここ最近の聖女と聖騎士の様子がおかしすぎます」
「リリアナは普通だろ。おかしいのは他の4人だ」
黒く艶のある長いストレートの髪を後ろにおろした、白の祭服姿の中年の神官長は、アッシュの言葉を聞くと頭から手をはなし、大きく息を吐いた後に口を開いた。
「皆、ここにやって来た時は純粋な良い子でした。オーブリーは成人して、二人目の子供が生まれた時でした。それはもう幸せそうにしていたのに…」
「いつから、変わってしまったんですか?」
「少し前だと思います。そう言われてみれば、3の数字を持つ聖女様も、その時くらいからおかしくなられた気がします」
「おかしくなった…?」
リリアナが聞き返すと、神官長は無言で頷いた。
(そう言われてみれば、先代の聖女様は闇落ちしたってアッシュが言っていたわよね。もしかして…)
「オーブリー達は闇落ちしているわけではないんですよね?」
「はい。そうではありません。闇落ちした聖女様から数字は消えますし、正気を保ってはいられません。神の加護が一切ありませんから」
「闇落ちしてしまったら、神様に見捨てられるという事ですか?」
「そうですね…。救う必要がなくなったと判断されるのはないでしょうか」
「……どういう事でしょうか?」
リリアナが聞き返すと、神官長は悲しげに目を伏せて首を横に振る。
「私には真相はわかりません。ぜひあなたが直接、神様に問いかけてみて下さい」
「……わかりました」
「それから、婚約破棄については、私の方からもフェナン様と話をしておきます」
婚約についての契約書には相手が不義を働いた場合は、婚約破棄が可能と書かれており、最初から調べておけば良かったとリリアナは後悔したが、とにかくこれで婚約は解消されたわけなので、神官長の部屋を出た時にはスッキリした気分になっていた。
「婚約の契約書の件、神官長も知ってて言わなかったなんて悪いだろ。こっちは相談しに行ってんのに」
「ううん。私がちゃんと契約書を表面しか見てなかったのが悪いのよ」
「しっかりしろよ。変な契約させられたらどうすんだ」
「ご、ごめん。あんな注意事項が書かれてたなんて知らなかったの。言い訳にしかならないけど、注意事項が書かれていたのは裏側で、フェナンからはそれを見せてもらっていないの」
「何やってんだよ」
「だって、契約書なんて初めて書いたんだもの」
「ガキだな」
「うっ。次からは気を付けます!」
本来ならリリアナはまだ保護者が必要な年齢で、婚約に関しての話も親の同意が必要だったのだが、フェナンの家である公爵家が全て勝手に進めてしまっていた。
リリアナも「ここに名前を」と言われて書いてしまったのも悪いが、名前を書かなければフェナンに解放してはもらえなかっただろうと思うと、アッシュもそこまで厳しく言う気にならなかったらしく、眉根を寄せて言う。
「というか、俺もちゃんと確認しておくべきだった」
「アッシュは私よりも年下じゃないの」
「俺はお前の保護者でもある」
「これからはちゃんと確認するようにするから心配しないで」
リリアナの部屋がある塔に向かって話しながら歩いていると、向かっていた方向からオーブリーの声が聞こえた。
「リリアナ! リリアナはいないの!?」
「……私はここだけど!」
オーブリーの姿は見えないが、リリアナが言葉を返すと、塔の扉が開き、中から衣服がボロボロになり傷だらけになったオーブリーが現れた。
「リリアナ! 早く来て! このままでは皆が死んでしまうわ!」
「何の話?」
「いいから来て! アッシュ! 今から言う場所に転移してちょうだい!」
アッシュは何か言いたげに口を開こうとしたが、オーブリーの必死の形相を見て、諦めて彼女の言う通りにした。
オーブリーに言われてやって来た場所は野営の大きなテントの中で、その中は悲惨な状態になっていた。
怪我人であふれ返り、血の匂いがテント内に充満し、うめき声がそこら中に飛び交っていた。
リリアナ達が入ったテント以外にも同じようなテントがいくつもあると聞いて、リリアナは呟く。
「一体、どういう事?」
(どうして、こんなに治療が出来ていないの? オーブリーやカトリーヌなら、一度で10人以上は治癒できるはずなのに…)
誰から手を付けたら良いのか迷っていると、騎士らしき若い男の治療をしていたカトリーヌが急かすように、リリアナに向かって手招きした。
慌ててカトリーヌの所に向かうと、彼女はリリアナを睨みつける。
「何を…やっていたんですか…。来るのが、遅すぎますっ」
「ご、ごめんなさい」
リリアナが素直に謝るとアッシュが文句を言う。
「別にリリアナは遊んでたわけじゃねぇんだ。それよりも何だよこのザマ。聖女2人で治せないのか」
アッシュはそこまで言ったあと、リリアナに顔を向ける。
「こいつは俺が相手するから、リリアナは俺の近くで治療を開始しろ。俺から離れんなよ」
「了解!」
リリアナもアッシュも制服姿のままだったが、そんな事は言っていられなかった。
汚れるのを覚悟で、リリアナは地べたに寝かされた男性の体に、今まで通り治癒魔法をかける。
いつもの彼女の場合、大きな怪我を治す時は、その部分に集中して最大限の力を振り絞る形なので、今回も同じようにしたつもりだった。
しかし、今回はいつもと様子が違った。
リリアナが手に力を集めた途端、閃光が走ったため、彼女は思わず目を閉じた。
そして、ゆっくりと目を開けると、周りも同じ様に目を閉じていた目をゆっくりと開け始めていた。
そして気付き、騎士達から声が上がる。
「治ってる…! 聖女様、ありがとうございます!」
「俺もだ!」
「俺の傷も治ってる!」
先程まで暗かったテント内の雰囲気が一気に明るくなり、喜びの声で溢れた。
このテント内だけでなく、他のテントの人間も治癒してしまったらしく、リリアナ達のいるテントには多くの人が集まり、無事を喜び合っている。
しかし、リリアナやオーブリー、カトリーヌとアッシュだけは、この喜びの場にふさわしくない表情をしていた。
しばらくして、傷を治癒する為に地面にしゃがみこんでいたカトリーヌが立ち上がり、呆然としているリリアナの前に立ち、汚物を見るような目をして言った。
「……不吉の聖女」
そんな彼を見つめながら、他人事の様にリリアナは思う。
(神官長も大変ね。聖騎士と聖女っていうくらいだから、特に問題も起こさない性格の良い人間だと思っていたでしょうに、実際はそうでもなかったんだから)
「一体、どうなっているというのでしょう。ここ最近の聖女と聖騎士の様子がおかしすぎます」
「リリアナは普通だろ。おかしいのは他の4人だ」
黒く艶のある長いストレートの髪を後ろにおろした、白の祭服姿の中年の神官長は、アッシュの言葉を聞くと頭から手をはなし、大きく息を吐いた後に口を開いた。
「皆、ここにやって来た時は純粋な良い子でした。オーブリーは成人して、二人目の子供が生まれた時でした。それはもう幸せそうにしていたのに…」
「いつから、変わってしまったんですか?」
「少し前だと思います。そう言われてみれば、3の数字を持つ聖女様も、その時くらいからおかしくなられた気がします」
「おかしくなった…?」
リリアナが聞き返すと、神官長は無言で頷いた。
(そう言われてみれば、先代の聖女様は闇落ちしたってアッシュが言っていたわよね。もしかして…)
「オーブリー達は闇落ちしているわけではないんですよね?」
「はい。そうではありません。闇落ちした聖女様から数字は消えますし、正気を保ってはいられません。神の加護が一切ありませんから」
「闇落ちしてしまったら、神様に見捨てられるという事ですか?」
「そうですね…。救う必要がなくなったと判断されるのはないでしょうか」
「……どういう事でしょうか?」
リリアナが聞き返すと、神官長は悲しげに目を伏せて首を横に振る。
「私には真相はわかりません。ぜひあなたが直接、神様に問いかけてみて下さい」
「……わかりました」
「それから、婚約破棄については、私の方からもフェナン様と話をしておきます」
婚約についての契約書には相手が不義を働いた場合は、婚約破棄が可能と書かれており、最初から調べておけば良かったとリリアナは後悔したが、とにかくこれで婚約は解消されたわけなので、神官長の部屋を出た時にはスッキリした気分になっていた。
「婚約の契約書の件、神官長も知ってて言わなかったなんて悪いだろ。こっちは相談しに行ってんのに」
「ううん。私がちゃんと契約書を表面しか見てなかったのが悪いのよ」
「しっかりしろよ。変な契約させられたらどうすんだ」
「ご、ごめん。あんな注意事項が書かれてたなんて知らなかったの。言い訳にしかならないけど、注意事項が書かれていたのは裏側で、フェナンからはそれを見せてもらっていないの」
「何やってんだよ」
「だって、契約書なんて初めて書いたんだもの」
「ガキだな」
「うっ。次からは気を付けます!」
本来ならリリアナはまだ保護者が必要な年齢で、婚約に関しての話も親の同意が必要だったのだが、フェナンの家である公爵家が全て勝手に進めてしまっていた。
リリアナも「ここに名前を」と言われて書いてしまったのも悪いが、名前を書かなければフェナンに解放してはもらえなかっただろうと思うと、アッシュもそこまで厳しく言う気にならなかったらしく、眉根を寄せて言う。
「というか、俺もちゃんと確認しておくべきだった」
「アッシュは私よりも年下じゃないの」
「俺はお前の保護者でもある」
「これからはちゃんと確認するようにするから心配しないで」
リリアナの部屋がある塔に向かって話しながら歩いていると、向かっていた方向からオーブリーの声が聞こえた。
「リリアナ! リリアナはいないの!?」
「……私はここだけど!」
オーブリーの姿は見えないが、リリアナが言葉を返すと、塔の扉が開き、中から衣服がボロボロになり傷だらけになったオーブリーが現れた。
「リリアナ! 早く来て! このままでは皆が死んでしまうわ!」
「何の話?」
「いいから来て! アッシュ! 今から言う場所に転移してちょうだい!」
アッシュは何か言いたげに口を開こうとしたが、オーブリーの必死の形相を見て、諦めて彼女の言う通りにした。
オーブリーに言われてやって来た場所は野営の大きなテントの中で、その中は悲惨な状態になっていた。
怪我人であふれ返り、血の匂いがテント内に充満し、うめき声がそこら中に飛び交っていた。
リリアナ達が入ったテント以外にも同じようなテントがいくつもあると聞いて、リリアナは呟く。
「一体、どういう事?」
(どうして、こんなに治療が出来ていないの? オーブリーやカトリーヌなら、一度で10人以上は治癒できるはずなのに…)
誰から手を付けたら良いのか迷っていると、騎士らしき若い男の治療をしていたカトリーヌが急かすように、リリアナに向かって手招きした。
慌ててカトリーヌの所に向かうと、彼女はリリアナを睨みつける。
「何を…やっていたんですか…。来るのが、遅すぎますっ」
「ご、ごめんなさい」
リリアナが素直に謝るとアッシュが文句を言う。
「別にリリアナは遊んでたわけじゃねぇんだ。それよりも何だよこのザマ。聖女2人で治せないのか」
アッシュはそこまで言ったあと、リリアナに顔を向ける。
「こいつは俺が相手するから、リリアナは俺の近くで治療を開始しろ。俺から離れんなよ」
「了解!」
リリアナもアッシュも制服姿のままだったが、そんな事は言っていられなかった。
汚れるのを覚悟で、リリアナは地べたに寝かされた男性の体に、今まで通り治癒魔法をかける。
いつもの彼女の場合、大きな怪我を治す時は、その部分に集中して最大限の力を振り絞る形なので、今回も同じようにしたつもりだった。
しかし、今回はいつもと様子が違った。
リリアナが手に力を集めた途端、閃光が走ったため、彼女は思わず目を閉じた。
そして、ゆっくりと目を開けると、周りも同じ様に目を閉じていた目をゆっくりと開け始めていた。
そして気付き、騎士達から声が上がる。
「治ってる…! 聖女様、ありがとうございます!」
「俺もだ!」
「俺の傷も治ってる!」
先程まで暗かったテント内の雰囲気が一気に明るくなり、喜びの声で溢れた。
このテント内だけでなく、他のテントの人間も治癒してしまったらしく、リリアナ達のいるテントには多くの人が集まり、無事を喜び合っている。
しかし、リリアナやオーブリー、カトリーヌとアッシュだけは、この喜びの場にふさわしくない表情をしていた。
しばらくして、傷を治癒する為に地面にしゃがみこんでいたカトリーヌが立ち上がり、呆然としているリリアナの前に立ち、汚物を見るような目をして言った。
「……不吉の聖女」
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