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18. 天罰 (アッシュside)
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今までなら1時間もかからなかった作業を半日近くかけた聖女達に魔道士だけでなく、聖騎士達からも不満の声が上がった。
「どうしてこんなに時間がかかるんだ? これもリリアナのせいなのか?」
「というかさ、リリアナの力が強くなってるなら、リリアナに結界をはらせたら早く終われたんじゃね?」
トールの言葉に、さっきまでオーブリー達を非難していたフェナンが頷く。
「そう言われればそうだな。次からは足枷をしてでも連れてこようか。そうすれば逃げたりしないだろうし」
「それは…、良い…かもしれません…」
結界を張り終えて疲れ切った表情のカトリーヌは、フラフラしながらトールに近寄ってくる。
「大丈夫かよ、カトリーヌ。無茶はすんなよ」
「ありがとう…ございます。これも全て…、リリアナの…せいです」
カトリーヌはトールの体によりかかって言った。
そんな彼らのやり取りをアッシュとニールと共に少し離れた場所で見ていたマリリンがアッシュに尋ねる。
「リリアナって、あなたの聖女様の事よね? どうしてリリアナ様のせいになるの?」
「俺の聖女じゃない! 皆の聖女だ!」
「……アッシュにとっての女神」
「もういい! 母さんの質問に答えるけど、不吉の聖女のせいで自分の力が弱まってると思ってる。ただ、本当はそうじゃないんだ」
アッシュの言葉を聞いたニールが頷く。
「……それは僕もそう思う。あんな事を聖女が言うべきじゃない。だから、力が弱まってるんじゃないかな」
そこからまた、アッシュ達は聖女達の会話に集中する。
「リリアナがどうにかなれば、私達の力も戻るのかしら?」
「本当に…、迷惑…です」
「でも、力が使えるんなら彼女をこき使えばいいんじゃないか?」
「そうだな。前線に出してもいい」
オーブリー、カトリーヌ、フェナン、トールは好き勝手に言いたい事を言っていた。
「どうせなら…、魔物に…殺されてしまえば…、不吉の聖女は…この世から…いなくなります」
「本当だわ。そうできないかしら」
カトリーヌの言葉にオーブリーが笑いながら同意した。
「ふざけた事言いやがって!」
アッシュがさすがに黙っていられずに、彼女達に向かっていこうとした時だった。
(何だ…?)
アッシュは立ち止まって息をのんだ。
それと同時にアッシュが気付いた異変に、聖騎士達が気付く。
「お、おい、カトリーヌ! 髪がっ――」
トールに叫ばれて、カトリーヌは自分のツインテールをしている髪に触ろうとして叫んだ。
「わ、私の髪がっ!」
カトリーヌの髪が髪先から少しずつ、彼女の髪色であるピンク色の砂になって地面に落ちていく。
それはオーブリーも一緒だった。
「どうして!? 一体何なの!?」
オーブリーが半狂乱になって叫び、フェナンにしがみつく。
「どうにかして! どうにかしてよ! このままじゃ、私、消えてしまうんじゃないの!?」
(どういう事だ…? リリアナに対して聖女にあるまじき発言をしたからなのか?)
アッシュが困惑した時だった。
『アッシュ、まだ間に合う。自分達の過ちに気付かせろ』
何度も祈りの間で会話した事がある聖騎士の声が頭の中で響き、アッシュはオーブリー達に向かって叫ぶ。
「懺悔しろ! 早く!」
「懺悔…!? な…何に…対して…?」
「リリアナに対しての発言だ! 聖女が言葉にしたり思ったりするような感情じゃない!」
カトリーヌとオーブリーは涙を流しながら顔を見合わせて、その場に跪いて祈りはじめる。
「神様! 申し訳ございませんでした。リリアナに対しての発言は聖女としてあるまじきものでした! お許し下さい!」
「神様…、もう…、あんな、発言は…いたしませんっ!」
すると、髪の毛が消えていく事はなくなった。
砂になって落ちた髪の毛は復元はされない様で、2人の髪の毛はかなり短くなっており、背中まであったロングヘアが今では肩あたりの長さになっていた。
「どうして…? リリアナは不吉の聖女なのに、どうして神様は庇うの…?」
「オーブリー、やめろ! 次は髪の毛だけじゃ済まされないぞ!」
困惑しているオーブリーにアッシュが叫ぶと、オーブリーはアッシュを睨んでくる。
「アッシュ、どうして、懺悔しろだなんて言ったの? もしかして、さっきのは神様のせいじゃなく、あなたの仕業なの!?」
「人を消滅させるような魔法は、この世界では存在していません」
いつもなら間をおいて話すニールが強い口調で言葉を返すと、オーブリーは眉を寄せた。
「リリアナの…ところへ…行ってみましょう…」
「そ、そうだな。何か知っているかもしれないしな」
カトリーヌが言うと、トールが怯えた表情になりながらも頷く。
(神様がかなり怒ってるな。リリアナは神様が俺と一緒に他の聖女達を助けろと言っていたと言ってたが、さっきの声はその意味合いもあるのか?)
今まで、祈りの間以外でアッシュは神様の声を聞いた事などなく、先程の様な事は初めてだったため、そう思った時だった。
フェナンがアッシュの所へやって来た。
「アッシュ、まさか、お前が3の数字を持つ聖騎士じゃないだろうな?」
「3の数字は俺の体のどこにも見つからなかっただろ?」
「それは、まあ、そうかもしれないが…、じゃあ、どうして懺悔すればいいとわかったんだ?」
「2人の髪が消えていくのは、聖女が魔物に触れた時に魔物を一瞬で消滅させる力と同じなんじゃないかと思ったんだ。2人が言ってはいけない事を言ったから、神様の逆鱗に触れたんじゃないかってな」
「あ、ああ…、そう言われてみれば、そうだな…」
(数字に関しては、魔法で見えないようにしてるだけなんだけどな。魔法が色々と使える分に関しては、神様が融通してくれるみたいだが。それにここ最近、俺の力が強まってる気がする。これは不吉の聖女と一緒で、フェナン達の力が俺に集まってるからか?)
アッシュは心の中でそう考えた後、先程の答えで納得した様子のフェナンから離れ、彼の後を付いてきたマリリンとニールに言う。
「俺は先に帰ってリリアナと話をする。父さんと母さんは、聖女と聖騎士が帰るまで見ていてくれないか?」
「かまわないわ! 私達が彼女達を連れて帰ってあげるから、アッシュの聖女様、じゃなくて、アッシュの好きな女の子を紹介してね!」
「……どんな人だろう」
目の前で聖女の髪が砂になっていくというショッキングな出来事を見たというのに、動じた様子を見せない養父母にアッシュは呆れながらも、急いでリリアナの元に戻る事にした。
「どうしてこんなに時間がかかるんだ? これもリリアナのせいなのか?」
「というかさ、リリアナの力が強くなってるなら、リリアナに結界をはらせたら早く終われたんじゃね?」
トールの言葉に、さっきまでオーブリー達を非難していたフェナンが頷く。
「そう言われればそうだな。次からは足枷をしてでも連れてこようか。そうすれば逃げたりしないだろうし」
「それは…、良い…かもしれません…」
結界を張り終えて疲れ切った表情のカトリーヌは、フラフラしながらトールに近寄ってくる。
「大丈夫かよ、カトリーヌ。無茶はすんなよ」
「ありがとう…ございます。これも全て…、リリアナの…せいです」
カトリーヌはトールの体によりかかって言った。
そんな彼らのやり取りをアッシュとニールと共に少し離れた場所で見ていたマリリンがアッシュに尋ねる。
「リリアナって、あなたの聖女様の事よね? どうしてリリアナ様のせいになるの?」
「俺の聖女じゃない! 皆の聖女だ!」
「……アッシュにとっての女神」
「もういい! 母さんの質問に答えるけど、不吉の聖女のせいで自分の力が弱まってると思ってる。ただ、本当はそうじゃないんだ」
アッシュの言葉を聞いたニールが頷く。
「……それは僕もそう思う。あんな事を聖女が言うべきじゃない。だから、力が弱まってるんじゃないかな」
そこからまた、アッシュ達は聖女達の会話に集中する。
「リリアナがどうにかなれば、私達の力も戻るのかしら?」
「本当に…、迷惑…です」
「でも、力が使えるんなら彼女をこき使えばいいんじゃないか?」
「そうだな。前線に出してもいい」
オーブリー、カトリーヌ、フェナン、トールは好き勝手に言いたい事を言っていた。
「どうせなら…、魔物に…殺されてしまえば…、不吉の聖女は…この世から…いなくなります」
「本当だわ。そうできないかしら」
カトリーヌの言葉にオーブリーが笑いながら同意した。
「ふざけた事言いやがって!」
アッシュがさすがに黙っていられずに、彼女達に向かっていこうとした時だった。
(何だ…?)
アッシュは立ち止まって息をのんだ。
それと同時にアッシュが気付いた異変に、聖騎士達が気付く。
「お、おい、カトリーヌ! 髪がっ――」
トールに叫ばれて、カトリーヌは自分のツインテールをしている髪に触ろうとして叫んだ。
「わ、私の髪がっ!」
カトリーヌの髪が髪先から少しずつ、彼女の髪色であるピンク色の砂になって地面に落ちていく。
それはオーブリーも一緒だった。
「どうして!? 一体何なの!?」
オーブリーが半狂乱になって叫び、フェナンにしがみつく。
「どうにかして! どうにかしてよ! このままじゃ、私、消えてしまうんじゃないの!?」
(どういう事だ…? リリアナに対して聖女にあるまじき発言をしたからなのか?)
アッシュが困惑した時だった。
『アッシュ、まだ間に合う。自分達の過ちに気付かせろ』
何度も祈りの間で会話した事がある聖騎士の声が頭の中で響き、アッシュはオーブリー達に向かって叫ぶ。
「懺悔しろ! 早く!」
「懺悔…!? な…何に…対して…?」
「リリアナに対しての発言だ! 聖女が言葉にしたり思ったりするような感情じゃない!」
カトリーヌとオーブリーは涙を流しながら顔を見合わせて、その場に跪いて祈りはじめる。
「神様! 申し訳ございませんでした。リリアナに対しての発言は聖女としてあるまじきものでした! お許し下さい!」
「神様…、もう…、あんな、発言は…いたしませんっ!」
すると、髪の毛が消えていく事はなくなった。
砂になって落ちた髪の毛は復元はされない様で、2人の髪の毛はかなり短くなっており、背中まであったロングヘアが今では肩あたりの長さになっていた。
「どうして…? リリアナは不吉の聖女なのに、どうして神様は庇うの…?」
「オーブリー、やめろ! 次は髪の毛だけじゃ済まされないぞ!」
困惑しているオーブリーにアッシュが叫ぶと、オーブリーはアッシュを睨んでくる。
「アッシュ、どうして、懺悔しろだなんて言ったの? もしかして、さっきのは神様のせいじゃなく、あなたの仕業なの!?」
「人を消滅させるような魔法は、この世界では存在していません」
いつもなら間をおいて話すニールが強い口調で言葉を返すと、オーブリーは眉を寄せた。
「リリアナの…ところへ…行ってみましょう…」
「そ、そうだな。何か知っているかもしれないしな」
カトリーヌが言うと、トールが怯えた表情になりながらも頷く。
(神様がかなり怒ってるな。リリアナは神様が俺と一緒に他の聖女達を助けろと言っていたと言ってたが、さっきの声はその意味合いもあるのか?)
今まで、祈りの間以外でアッシュは神様の声を聞いた事などなく、先程の様な事は初めてだったため、そう思った時だった。
フェナンがアッシュの所へやって来た。
「アッシュ、まさか、お前が3の数字を持つ聖騎士じゃないだろうな?」
「3の数字は俺の体のどこにも見つからなかっただろ?」
「それは、まあ、そうかもしれないが…、じゃあ、どうして懺悔すればいいとわかったんだ?」
「2人の髪が消えていくのは、聖女が魔物に触れた時に魔物を一瞬で消滅させる力と同じなんじゃないかと思ったんだ。2人が言ってはいけない事を言ったから、神様の逆鱗に触れたんじゃないかってな」
「あ、ああ…、そう言われてみれば、そうだな…」
(数字に関しては、魔法で見えないようにしてるだけなんだけどな。魔法が色々と使える分に関しては、神様が融通してくれるみたいだが。それにここ最近、俺の力が強まってる気がする。これは不吉の聖女と一緒で、フェナン達の力が俺に集まってるからか?)
アッシュは心の中でそう考えた後、先程の答えで納得した様子のフェナンから離れ、彼の後を付いてきたマリリンとニールに言う。
「俺は先に帰ってリリアナと話をする。父さんと母さんは、聖女と聖騎士が帰るまで見ていてくれないか?」
「かまわないわ! 私達が彼女達を連れて帰ってあげるから、アッシュの聖女様、じゃなくて、アッシュの好きな女の子を紹介してね!」
「……どんな人だろう」
目の前で聖女の髪が砂になっていくというショッキングな出来事を見たというのに、動じた様子を見せない養父母にアッシュは呆れながらも、急いでリリアナの元に戻る事にした。
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