捨てたものに用なんかないでしょう?

風見ゆうみ

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13 エマオ・イランデスの焦り ② 〜エマオ視点〜

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 アドルファスの即答に驚いたフラワは、現実を受け入れられず「今、なんとおっしゃいました?」と聞き返した。

「断ると言った。俺は別にフラワ嬢と話をしにきたわけじゃない。リミアリアの件と、イランデス伯爵に聞きたいことがあって来たんだ」
「そ、そうです! フラワ! お前は余計なことを言うな! アドルファス殿下、申し訳こざいません。事情を説明いたします!」

 不機嫌そうなアドルファスを見たエマオは、慌ててメイドに叫ぶ。

「アドルファス殿下を応接室にご案内しろ!」
「……承知いたしました」

 エントランスホールには数人のメイドがいたが、すべてフラワが連れてきていたメイドだった。
 メイドは一瞬表情を歪めたが、すぐに笑顔でうなずき、アドルファスや彼と共にやって来ていた侯爵令息たちを連れて歩きだした。
 
 応接室は南側の一階の奥にある。アドルファスが応接室に入ると、エマオはフラワに叫んだ。

「アドルファス殿下の顔を見たか? お前などまったく相手にしていないじゃないか!」
「まだ、警戒しているだけだと思います! 絶対に落としてみせますから信じてください!」
「絶対だな?」
「絶対です!」

 戦地にフラワがやってきて、リミアリアが浮気をしていると聞いた時は、裏切られたというショックでリミアリアを殺してやろうと思った。
 だが、自分の身を捧げてまで妹を必死にかばおうとするフラワに心を打たれて、リミアリアを許し、フラワと結婚することに決めたのだ。

 今のフラワの様子があの時の彼女の姿と重なり、エマオはなぜか嫌な予感がした。

(なんなんだ、この胸騒ぎは?)

「エマオ様、行きましょう」

 情けない表情で立ち尽くしていたエマオを、フラワが笑顔で促した。

「フラワ」
「……何でしょうか」

 先に歩き出していたフラワは名を呼ばれて立ち止まり、眉根を寄せて振り返った。

「お前は嘘をついたりしていないだろうな?」
「……どういうことですか?」
「お前はリミアリアが側近や使用人たちと浮気をして、仕事はしていないと言っていた。だが、帳簿や書類の控えを確認すると、ほとんどがリミアリアの字だった!」
「それがどうしたんですか?」
「……それがどうしただと?」

 聞き返したエマオに、フラワは微笑む。

「仕事をしながら浮気をしていたってことでしょう?」
「お前は仕事をしていないと言ったじゃないか!」
「エマオ様は何をおっしゃりたいんです? リミアリアが浮気をしていたことに変わりはないでしょう?」
「そうじゃなかったら?」

 フラワはまるで見下しているかのような冷たい目を、エマオに向けた。

「今さら、何を言っても遅いですし、私を責めないでいただきたいですわ。リミアリアを捨てたのはあなたです。それに私はエマオ様のために自分の身を捧げるつもりなんですよ。今はリミアリアのことより、健気な私のことを考えてくださいませ」
「だ、だが……」
「……私を信じてくださらないんですか?」

 胸の前に手を当て、目を滲ませているフラワを見て、エマオの胸には愛しいという感情よりも、不安感が広がっていく。 

(本当にリミアリアは浮気をしていたのだろうか。もし、違っていたら、俺はアドルファス殿下の信頼を失うのか?)

 戦場にいた頃は欲求不満だったこともあり、フラワの誘惑に勝てなかった。
 姉が妹を裏切る可能性があるだなんて思ってもいなかった。

(そうだ。もし、リミアリアが浮気をしていなかったのなら、俺はフラワに騙された被害者だ。悪いのはフラワだとアドルファス殿下に伝えよう)

 エマオは自分自身を勇気づけると、アドルファスが待つ応接室に向かった。






改めて新年に近況ボードでご挨拶させていただきますが、本年は大変お世話になりました。
良いお年をお迎えくださいませ。
来年もよろしくお願いいたします!

 

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