【完結】捨てたものに用なんかないでしょう?

風見ゆうみ

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30 それはご存知なのかしら

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 メイドが戻ってくるまでは、何を話しかけても、フラワは生返事しかしなかった。

 しばらくしてメイドが戻ってくると、丸い大皿をテーブルの上に置いた。

 皿の上には白い粉が振りかけられた貝殻型のマドレーヌが載っている。
 プリリッツ王国では、洋菓子にかかっている白い粉は粉糖が一般的だ。
 だが、今回は粉糖の上に解毒剤の白い粉が振りかけられている。
 こんなことになった時のために、リミアリアが事前にメイドにお願いしておいたのだ。
 フラワたちが仕入れていた毒草から、どんな物が出来上がるか調べ、粉や液体の解毒剤を事前に作っておいた。

 リミアリアはナンサンに特に恨みはない。
 フラワについても、命を奪うような復讐を望んでいるわけでもなかった。

 毒入りの食べ物を用意した人物が、自分で食べて死んでしまうのは自業自得だ。
 しかし、わかっていて何もしないのは、自分もフラワたちと変わらないような気がして嫌だった。

 唇を噛んで考え込んでいるフラワに、何も知らないナンサンが話しかける。

「どうしたんだよ。大好物なんだろ? 食べればいいじゃないか」
「駄目です! 私はお腹が減っていないんです! それに、これはお父様からリミアリアへの土産です! ナンサン様が食べることは許されません!」
「いや、土産の菓子を持ってきた人に出すのは普通の話だろ」

 そう言って、ナンサンはマドレーヌに手を伸ばした。

「駄目です!」

 フラワはヒステリックな声を上げながら、ナンサンの手を叩いた。

「痛いな! 何をするんだよ!?」
「リミアリアのためのお菓子だって言っているじゃないですか! リミアリア! 早く食べなさいよ!」
「申し訳ございません。私もお腹いっぱいなんです。アドルファス様は甘いものが苦手ですし食べませんよね?」
「ああ。俺は肉が好きだな」
「肉が好きでも甘いものが好きな方もたくさんいますよ」

 リミアリアとアドルファスは、フラワたちがいることを忘れたかのように、和やかに話し始めた。

 その様子がフラワは気に入らないが、相手がアドルファスなだけに文句は言えない。
 すると、ナンサンがフラワに小声で尋ねた。
  
「おい、フラワ。今日は何をしに来たんだ? もう用事は終わったのか?」
「えーと、そうですね。リミアリアと仲直りをするためなんですが、改めて来たほうが良さそうです」

 出直すしかない。

 そう考えたフラワは立ち上がる。

「リミアリア、今日はお父様からのプレゼントを渡しに来ただけなの。改めて伺わせてもらうわね。マドレーヌは持ち帰らせてもらいます」

 プレゼントを持ち帰るというのはどうかと思うが、別にほしいものでもない。

「では包ませますので、少しお待ちください」
「……わかったわ」

 今すぐにでも帰りたかったが、マドレーヌを置いていくわけにもいかない。
 リミアリア以外の人に食べられたら、まったく意味をなさないからだ。

 父が疑われるのはかまわないが、リミアリアに警戒されるのは嫌だった。
 ふくれっ面をして、ソファに座ったフラワにリミアリアが話しかける。

「フラワ様はナンサン様と仲が良いのですね」
「それがどうした? 僕たちは婚約者ではないものの、愛を誓い合っているんだ」

 ナンサンがフラワよりも早く胸を張って答えた。

 ナンサンの回答を聞いたリミアリアは、小首を傾げ、不思議そうな顔をして尋ねる。

「愛し合っているのですか?」
「そうだ! 結婚の約束もしている!」
「そうでしたか」

 リミアリアは微笑んでうなずくと、独り言を呟く。

「フラワ様はエマオ様と関係を持っているようでしたけど、それはご存知なのかしら」
「ちょっと、やめてよ!」

 フラワはリミアリアに叫ぶと、ナンサンの手を握る。

「ナンサン様、私を信じてくださいますよね?」
「……フラワ、本当に関係を持っていないんだよな? 嘘だったりしたら、僕は君を酷い目に遭わせてしまいそうだ」
「ひっ!」

 ナンサンと目を合わせたフラワは、恐怖を感じて悲鳴を上げた。
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