【完結】捨てたものに用なんかないでしょう?

風見ゆうみ

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43 エマオ・イランデスの後悔④ 〜エマオ視点〜

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『死にたくありません!』

 今となっては顔は思い出せない誰かの悲痛な声が、エマオの頭の中で何度も繰り返される。

(そういえばそうだった。命乞いをしてきた奴もいたな)

 その後、エマオが何をしたか。

 一太刀で息の根を止めるのではなく、助けてと涙する男をいたぶり殺した。

(あれは何が理由だったんだろうか。そうだ。たしか、酒場で俺好みの女が部下の男に色目を使ってたんだ。だから殺してやった)

「エマオ様、聞いていますか?」

 リミアリアの冷たい声で、エマオは現実に引き戻された。

 目の前に立っている元妻は、よく見ると美しい顔立ちをしていた。
 汚物を見るような目で自分を見つめる視線に快感を覚え、手を伸ばそうとしたが、殺気を感じてすぐにやめた。

(アドルファス殿下がここまでリミアリアを大事にしていたとは……。もっと早く知っていれば!)

「おい、何をボーッとしてる。さっさと、リミアリアの質問に答えろ」

 アドルファスの声に怒気が含まれていることに気づき、慌ててエマオは答える。

「もちろん聞いています。あの、部下を助けたかどうかですよね? もちろん助けています」

 エマオにとって自分が助かる道は、嘘をつき続けるしかないと思っていた。

 だが、こんな嘘はリミアリアたちに通じるわけもなく、怒りを買っただけだった。

 少しの沈黙の後、リミアリアは静かに口を開く。

「質問を変えます。あなたは戦場で怪我をし、歩けなくなった人を助けようとした人に対して、見捨てるように指示しましたね?」
「そ、それは、仕方がないことだ。そんな足手まといのために、他の誰かが犠牲になるかもしれないんだぞ!」
「それが戦闘の真っ最中なら、自分や他の人の命を守ることに精一杯だったとまだ理解できますが、そうではなかったですよね?」

 エマオはその時の状況を思い浮かべた。

(たしか、相手が兵を引いた時だったな。あの男はたしか国内にいたが、ちょうどイライラしていたから、見捨てるように指示したんだ)

 どうしてリミアリアがそんなことを知っているのか、エマオは考えずに答える。

「いや。戦闘の真っ最中だった。足を怪我した奴には悪いが、他の兵の命を守るのも俺の役目だ。そいつも理解してくれているはずだ」
「いいえ。理解していませんよ」
「は? 何を言ってるんだ? 死んだ奴の心などお前にわかるわけがないだろう!」
「その方は生きています」
「……は?」

 エマオの頭の中で警鐘が鳴り始めた。
 
(どういうことだ? 民家も近くにない平原に置き去りにしたんだぞ? 歩けないあいつが助かるわけがない!)

「どうしてその方が生きているのか不思議みたいですね」

 リミアリアは冷笑すると、エマオに答えを伝える。

「敵国側が捕虜として彼を連れ帰ったのです」
「何だって!?」
 
 エマオは目を大きく見開いて聞き返した。

 置き去りにした男を連れ帰ったということは、知らぬ間に国内に侵入されていたということだからだ。

「他の兵士がその人を助けないようにするために、あなたは全ての兵を引き上げさせ、監視を怠ったのでしょう?」
「あ、ありえない」

 リミアリアの言ったことは間違っていなかった。

 負けを悟った敵国がそこまでしてくるわけがないと思い込んでいたのだ。

 何度も首を横に振るエマオに、アドルファスが告げる。

「今回は勝ったから良かった。だが、お前は一時の感情に左右され、国民を危険にさらしたんだ。伯爵位を剥奪されてもおかしくないだろう」
「え、あ、いや、その」
「そして、お前は命乞いをした相手を助けてなんかいない。だから、お前に相手の気持ちを知る機会を作ってやる」
「……ううっ!」

(嫌だ。助けてくれ!)

 恐怖で声が出せないエマオは祈るように手を合わせ、アドルファスとリミアリアを見つめた。
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