この悪女に溺愛は不要です!

風見ゆうみ

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6   婚約破棄を許していただけないでしょうか

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 国王陛下に謁見する日は、今日から十日後に決まった。私としてはもっと早くに会いたかったが、陛下の予定が詰まっていて、これが最短とのことだった。国の一番偉い人と会うのだから、十日後でも早いほうなのかもしれない。
 それまでの私はラブに近寄らないようにした。ラブは私に何か言いたいようだったが、レオン殿下の付き人に邪魔をされて、私に近づくこともできなかった。クブス男爵はノルン公爵家にやって来て泣きながら娘の無礼を詫びていたから、さすがに彼女も両親に怒られたのだろう。その文句を私に言いたかったようだが、ラブは気まぐれな性格のようで、休み明けには私には興味をなくし、クラスメイトたちと仲良くなる努力を始めた。

 ラブは最初は一部の女子と上手くいっているように見えたが、三日経った頃には男子生徒と行動を共にするようになっていた。その男子生徒の中にレオン殿下もおり、彼は彼女にデレデレだった。

「ラブは外見も可愛いだけでなく、名前も可愛いんだな」
「はい! でも、愛と書いてラブと呼ぶ名前ですから、可愛いだけじゃなくて愛してくれると嬉しいな! あ! 馴れ馴れしく話してしまって申し訳ございません! こんな話し方をしているのがバレたら怒られちゃう!」
「気にしなくていい。君は特別だ」
「レオン殿下っ! 嬉しいっ!」

 白昼堂々、教室内で見つめ合う二人を、女子生徒は嫌悪感を口には出さないものの、白けた目で見ている。男子生徒は羨ましそうに見る者や、微笑ましく思う者、不快感を現さないようにか、彼らのほうを見ない者など色々だった。

 私のほうは反応するのは負けだと思っていたから、レオン殿下には馬鹿な行動は控えるようにお願いするだけで、ラブには何も言わなかった。私はレオン殿下の婚約者であって、ラブの行動を窘めるのはラブの両親であるクブス男爵夫妻、もしくは当の本人であるレオン殿下だと思っていたからだ。

 そんなある日、レオン殿下の付き人はとうとう愛想を尽かしたようで、私の所へやって来て謝罪した。

「べリアーナ様、申し訳ございません。殿下は僕の手に負えるような方ではありませんでした。来年度からは一つ上のレベルのクラスに移ります。ご迷惑をおかけすることになりますが、ご了承ください」
「そうなのね。あなたは話が通じる方だったから残念だわ。クブス男爵令嬢を上手く操ってくれていたし本当に助かっていたの」

 私は小さく息を吐いてから微笑む。

「あなたのこれからを考えると、レオン殿下と離れることは良い選択だと思うし、私があなたの立場なら同じことをすると思うから気にしないでちょうだい」
「ありがとうございます。べリアーナ様も成績を上げて、殿下と違うクラスになれると良いですね」
「……そうね。ありがとう」

 頷くと、元付き人候補は去っていった

 話が通じる相手だからこそ、レオン殿下を見限ったのだろう。ラブが来てからのレオン殿下の行動は目も当てられないほどに酷いから、国王陛下も反対できなかったのかもね。
 もし、そうだったとしたら、私にもまだチャンスはある。それにクラス替えのことだってそうだ。今まではセーブしていたけれど、べリアーナの頭脳を発揮させればいい。……と思ったけれど、ゲームのシナリオ的には何をしても同じクラスになるような気もする。
 そうなった時はそうなった時で考えよう。元付き人候補の言い方だと、レオン殿下は一つ上のクラスに入れるほどの学力がないはず。

「小さな一歩でも良い。何もやらないよりはましよ」

 そう自分に言い聞かせ、この日から試験に向けての勉強を本格的に始めたのだった。


******

 約束の日の昼過ぎ、登城すると謁見の間ではなく王城内にある客室で話をすることになった。王妃陛下も同席され、今回のレオン殿下の暴走を謝罪された。お二人としては、やはりラブよりも私がレオン殿下の婚約者であるべきだとおっしゃった。

「正直に申し上げてもよろしいでしょうか」
「かまわない」

 許可を得たので、駄目元で話をしてみる。

「レオン殿下にいずれ国王陛下となるという自覚が芽生えなければ、誰が婚約者になっても同じことです。クブス男爵令嬢を婚約者にする代わりにレオン殿下に自身の行動を改めるようにしてもらってはいかがでしょうか」

 大変無礼な発言をしていることはわかっている。怒鳴られるかと思ったが、陛下は目を伏せて話し始める。

「お前の言いたいことはわかる。だが、クブス男爵令嬢を婚約者にしたところで、レオンが大人しくなるかはわからないのだ」
「べリアーナ、ここだけの話にしてほしいのだけれど、クブス男爵令嬢のことを調べたら、あの子は妄想癖があるみたいなのよ」

 妄想癖ですか。

 元の世界だとかヒロインだとかいう話を昔は他の人にしていたのかもしれない。

「夢を見ることは良いことだと思いますわ」

 妄想癖についてはこれ以上は何も言わずに、私は話題を変える。

「両陛下にお願いがございます」
「話してみろ」
「レオン殿下の良き婚約者となれるよう、精一杯努力をいたします。ですが、レオン殿下が王族の品位を落とすような真似を自らされた場合は、こちらからの婚約破棄を許していただけないでしょうか」

 両陛下にも良心があるはずだ。そう信じて訴えてみた。両陛下は顔を見合わせたあと頷き合い、陛下が代表して口を開く。

「わかった。お前にも幸せになる権利はあるからな。もし、婚約破棄を許す場合は、私たちもレオンに何らかの制裁を加える時になるだろう」
「ありがとうございます」

 立ち上がって頭を下げると、王妃陛下がため息を吐く。

「クブス男爵令嬢が来てからのあの子は、人が変わってしまったようだわ」

 もしかすると、ラブの好みの男性に変化しているのかもしれない。王妃陛下の話を聞いた私は、そう思った。

 そして、この日からレオン殿下とラブの暴走が本格的に始まり、新学年になった頃、私は『悪女』と噂されるようになるのだった。

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