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19 どういう意味です?

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 私の太ももの上に顎をのせた旦那様は、頭を撫でてさしあげていると、すぐに寝息を立ててしまわれたので、ジャスミンに頼んで本を持ってきてもらい、私は本を読んで時間を潰す事にしました。
 起こしても良かったのですが、気持ちよさそうに眠っておられますし、眠りを妨げてはいけませんよね。
 
 考えてみれば、昨日はベッドが違うから眠れなかったりしたのでしょうか?
 せめて、旦那様の枕を部屋から持ってくるべきだったのでしょうか。
 昨日の晩は寝不足になってしまって、そのせいで今、こんな風に寝ておられるのかもしれません。

 今度からはもっと気を遣う様にしないといけませんね。

 正直、政略結婚なのですから、心を通わせる必要はないと思っていましたが、旦那様はそこまで軽く考えていらっしゃらないようなのが驚きでした。

 本当に根が真面目な方なのですね。
 
 可愛い寝姿なので、ついつい触りたくなってしまいますが駄目だと自分に言い聞かせます。

 眠っている時に触られたりするのを嫌う人もいますし、私達は、相手がこんな時にどう思うかなど、話し合ったりした事もありません。

 仲良くしたいと言ってくださいましたが、後々、旦那様が、その発言を後悔しなければいいのですが…。

 自分で言うのもなんですが、私は変わっておりますからね。

 しばらくそうしていると、旦那様の身体がピクピクと動いたと思うと、勢いよく飛び起きられました。

「おはようございます、旦那様」
「お、おはよう? 俺は、どうしてた?」

 ふわふわの毛を左右に揺らしながら、旦那様が辺りを見回しますので、お答えします。

「旦那様は眠っておられましたよ。ゆっくり眠れたのなら良いのですが…」
「お、俺とした事が…」
「どうされました?」
「犬の姿で寝るわけにはいかないだろう」
「どうしてです?」
「人に変わるところを誰かに見られたら困る」
「大丈夫ですよ。今は私と旦那様しかいませんし」

 そこまで言って、前から思っていた事を旦那様に聞いてみます。

「あの、旦那様」
「なんだ?」
「秘密を知らない人間が少ないのは良い事だと思うのですが、ジャスミンには話をしても良いでしょうか?」
「それは、俺も眠る前に考えていた」
「そうなのですか?」
「ジャスミンは君と違って、空気が読めるだろう?」
「そうですね。それは否定しません」

 首を縦に振ると、旦那様は小さく息を吐いてから答えてくれます。

「伝えておけば、さっきみたいに邪魔をしたりしてこないだろう。もちろん、彼女は何も知らないから、邪魔をしたつもりはないだろうし、いや、邪魔という言い方は、さすがに言葉が悪いか…?」
「旦那様、どうかされましたか?」
「いや。それよりも、ジャスミンは絶対に裏切らないだろうか」
「キックス様の様に、途中から声が聞こえなくなる事を懸念していらっしゃるのですか?」
「ああ。俺の言葉が通じる人間が、ずっとそうではない事がわかったからな」

 旦那様はしゅんと顔を下に向けられました。
 実の弟に裏切られたのが、よっぽどショックだったのでしょうね。
 私も基本は家族しか味方はいないと思っていましたし、旦那様の気持ちはわかります。

「私の知っているジャスミンはとても良い人です。きっと、旦那様の事を受け入れてくれて、人に話したりもしないと思います」
「なら、話す事にしよう。ただ、信じてくれるだろうか」
「お兄さまも最終的に信じて下さいましたし、何よりまずは、旦那様の言葉が通じるか試してみましょう」
「そうだな」

 旦那様の覚悟が決まったようなので、旦那様と一緒に私の部屋に戻る事にして、彼女の部屋にいたジャスミンを呼んで、私の部屋に来てもらいました。

「あのね、ジャスミン。驚かないでほしいんですが」
「どうされました?」
「旦那様、お願いします」
「ジャスミン、俺の話している事がわかるか?」
「………」

 ジャスミンは目をキョトンとさせた後、周りを見回します。

「旦那様の声が聞こえた様な…」
「ジャスミン、こっちだ」
「……?」

 ジャスミンは不思議そうな顔をして、犬の旦那様を見つめます。

「俺が話をしているんだ」

 旦那様が右の前足を上げて言いました。

「奥様、またイタズラですか?」
「違いますよ! さすがにジャスミンにイタズラしたりしません!」
「そ、そうですよね…。もう、ご結婚もされましたし、そんな子供じみた事はされませんよね…」
「うう。そこまで迷惑をかけていたとは…。申し訳ないです」
「いえ。それが奥様でしたから。楽しく毎日を過ごしていただけていたなら満足です」

 ジャスミンは微笑んで、そう言ってくれた後、黙って彼女を見上げている旦那様に話しかけます。

「屋敷の人達が言っていましたが、旦那様がいなくなったと同時に現れる犬というのは、旦那様、本人だったという事ですね?」
「そうだ」
「屋敷の人達も薄々気付かれている様ですが…。でも、まさか、そんな事があるはずもないとも…。ですが、本当にそうだったのですね」

 驚くジャスミンに事情を説明すると、彼女は神妙な面持ちで言います。

「これはローラ様に知られたら大変そうですね…」
「すでに知られている」
「そうなんですか…。ですから、ローラ様はあんなに大きな態度を取っておられるのですね」

 ジャスミンは冷静に判断して頷くと、微笑して言います。

「こんなにも大事な事をお話していただき、メイド冥利につきます。秘密はお守りいたしますので、ご安心ください」

 綺麗なお辞儀をするジャスミンを見て、旦那様が満足そうに口を開きます。

「これからもエレノアの事を頼む。君というセーブ役がいるから、彼女は今までやってこれたのだろうしな」
「有り難いお言葉です」
「それに関しては、私からもお礼を言います。いつも、ありがとう、ジャスミン」
「奥様の幸せが私の幸せです」
「ジャスミン…、私もあなたに幸せになってほしいので、何かあれば、いつでも言ってくださいね?」

 感動していますと、ジャスミンが笑顔で言います。

「では、旦那様ともっと、コミュニケーションを取る様にしてくださいませ。朝の旦那様の様子を見て、気持ちに気付かれないなんて驚きですから」
「え? どういう意味です?」
「お茶をお持ちしますので、旦那様が元に戻られる間は、お部屋でお二人でゆっくりなさって下さい」
「ジャスミン…?」

 ジャスミンはなぜかニコニコ笑顔で、お茶の用意をする為か部屋から出ていきます。

「旦那様、どういう事でしょう? 朝の旦那様の気持ちとは?」
「お茶がきてからゆっくり話そう」

 旦那様はそう仰ったのですが、お茶を飲まれた後は、私のベッドですやすやと眠られてしまいましたので、私も歯を磨いてから、旦那様のお隣で眠る事にしたのでした。
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