その発言、後悔しないで下さいね?

風見ゆうみ

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35 あなたはもう終わりですよ

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「ラムダ様との事も気になりますが、まずは、ローラ様の話をさせてもらってもよろしいですか?」
「どうぞ」

 キックス様が頷いてくれたのを確認した後、私は口を開きます。

「旦那様を殺す事によって、ローラ様にメリットはありますか? 自分が追い出される可能性の方が高くなると思うのですが、それについては、どうお考えで?」
「ローラはわかっていないんですよ。もしかしたら、仲間から言われて、僕が爵位を継げるのに、兄さんが嘘をついているんだと吹き込まれている可能性があります」
「ローラ様は、その言葉を素直に受け止めているという事ですか?」
「と、思います。たぶん、ローラはその男の事が好きなんだと思います」

 キックス様が苦笑して言った時でした。
 扉がノックされ、治療が終わったのか、旦那様が部屋に入ってこられました。

「キックス! 大丈夫か!?」
「兄さんこそ、怪我はありませんでしたか?」
「俺の方は大丈夫だ。だが、一体何があったんだ? 今のお前の様子だと、ローラと付き合う前の頃のお前の様子と変わりないんだが…」

 困惑している旦那様に、キックス様が私にしてくださった話をすると、旦那様は眉を寄せられました。

「また、ラムダが関わってくるのか…。まあ、俺が死んでは意味がないだろうからな。それにしても、謹慎だと言っていたのに、外に出たのか?」

 旦那様が吐き捨てる様に言うと、キックス様は首を横に振る。

「薬をもらったのは、その前ですよ」
「ラムダ様はローラ様が何かしようとしているとわかったから、旦那様を助けようと、キックス様を正気に戻そうとして下さったんでしょうか?」
「かもしれないな。ただ、そうなると、それこそラムダが何を考えているのか、全くわからない。どうやって、ローラ達の動きを知ったんだ? それに、キックスが薬でおかしくなっているというのなら、どうして、すぐに対処しなかったのか」
「わからない事が多いですね」

 ふぅ、とため息を吐いた後に続けます。

「ラムダ様は味方なのでしょうか…」
「はっきりとは言えませんが、奥様や旦那様に危害を与えようとしているわけではないようですが、味方とも言えないといったところでしょうか」

 私の言葉にジャスミンが眉を寄せて答えてくれました。

「ただ、さっきも言ったが、ローラのやっている事を、ラムダはどうやって知ったんだろうか?」
「そう言われてみればそうですね。仲間というわけではないんでしょう?」

 旦那様が難しい顔をされて言った後、私がキックス様に尋ねると、キックス様も困った様な顔をされます。

「仲間というわけではなさそうです。ただ、彼が何を考えているかはわかりません」

 キックス様が演技をされているのかも、と思いましたが、それでしたら、犬になった旦那様の声が聞こえないはずです。

「旦那様、キックス様と本当に犬の姿で会話が出来ていたんですね?」
「ああ。だが、やはり、ちゃんと改めて確認した方が良さそうだな」

 結局、その日の晩に旦那様は犬化されて、キックス様に旦那様の声が聞こえるかを確認され、やはり聞こえるとわかった為、キックス様は嘘をついていないと判断されました。

 そして、その日からキックス様は、ローラ様との寝室には戻らず、キックス様に用意された部屋で、監視をつけられた状態で過ごされたのですが、ローラ様は夜に大きな荷物を抱えて出ていってから、朝になっても、帰ってこられる事はありませんでした。

 そして、次の日、今日は旦那様もお仕事があるので、私がラムダ様と話をする事に決めました。

 連絡を入れると、こちらに来てもらえる事になり、昼過ぎにやって来てもらえる事になりました。

 その時は、私一人では危険ですので、キックス様にも付いていてもらう事にしました。

 約束の時間が近付き、そろそろかと外を見ていると、一台の辻馬車が門の前に停まっていたかと思うと、敷地内に入ってくるのがわかりました。

「来られたのかもしれません。お迎えにいきましょうか」
「はい」

 ジャスミンを誘い、下へ降りていくと、エントランスホールに、いつもならいる騎士達の姿が見当たらない事に気が付きました。

 交代の時間なのかもしれませんが、誰一人、姿が見えないというのもおかしいです。

 すると、外が騒がしい事に気付きました。
 叫び声や剣と剣が重なり合った時に響く音も聞こえてきて立ち止まっていると、扉が開かれ、ローラ様らしき姿が、一瞬見えたかと思うと、すぐに扉は閉じられました。

「ジャスミン、人を呼んできて下さい」
「承知しました。奥様はお部屋にお戻り下さい」
「わかりました」

 ジャスミンと別れて、部屋に戻ろうと踵を返した時でした。

「お義姉さま! このままだと、たくさんの人間が死にますよ! 死なせたくないのなら、大人しく、私に付いてきて下さい」
「嫌ですよ」
「いいんですか? あなたを守る為に罪のない人間が死にますよ?」
「こんな事をして許されると思ってるんですか…。ローラ様、あなたはもう終わりですよ」
「それはどうかはわかりません。お義姉さまが黙ってついて来て下さるなら、誰一人死ぬ事はないですよ?」

 ローラ様は大きく扉を開け、人質にとられてしまった騎士達を指差しました。
 騎士達は自分達の事は気にしなくて良いし、仕事を遂行できないのが悪いのだと言われましたが、目の前で人が殺されるのを黙って見ている訳にはいきません。

「どうすれば…?」

 尋ねると、ローラ様は言います。

「今すぐ、そこに停めてある馬車に乗って下さい。話があります」
「わかりました」

 ジャスミンが誰かを呼んでくるまで時間をかけようと考えましたが、無理でした。

「早く乗らないと、この人が死にますよ」

 ローラ様が連れてきたらしき、薄汚い格好の男達は、薄ら笑いを浮かべながら、人質の首に軽く剣を押し付けました。

 全ての騎士が捕まっているわけではありませんが、人質がいるため、手が出せません。

 私はしょうがなく、言われるがままに馬車に乗る事になったのでした。

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