笑い方を忘れたわたしが笑えるようになるまで

風見ゆうみ

文字の大きさ
7 / 26

6   初めての旅と企む精霊たち

しおりを挟む
 抵抗しても無駄だと諦めて、荷造りを始めた人たちに何を持っていくか指示をしているうちに、テッジ殿下はいなくなっていた。

 部屋には女性しかいなくなったので、寝巻きからいつものワンピースに着替え、簡単な身支度をすると、荷造りに参加した。……といっても、お手洗いとお風呂場、それ以外は一部屋しかない小屋なので、荷造りはすぐに終わった。

「ありがとうございました」

 荷造りをしてもらった礼を言うと、メイドたちは頭を下げて家から出て行き、今度は騎士たちが中に入ってきた。

「おめでとうございますと言っていいのか、どうなのかわからないな」
 
 仲の良い騎士たちだったからか、わたしがここから出ていけることは良いことだと思うけど、王子たちの勝手で隣国に嫁がされるのは複雑だと思ってくれているらしい。

「おめでとうで良いと思うわ。嬉しい出来事だもの。だけど、お姉さまのお墓が気になるの。きっと、お墓参りはできなくなるから」
「墓参りならオレたちに任せてくれ。それくらいしかできなくてごめん」
「ありがとう。本当に助かるわ」

 隣国のクリエル王国まで、仲の良い騎士たちが護衛してくれると聞いた時は嬉しかった。知らない人に命を預けるよりも、信用している人のほうが良いと思うのは、当たり前のことよね。

 わたしの新しい婚約者の名前は、ラファエル・ルッツ様という名前だそうだ。今まで、ここでの生活しか知らないから、他国の王子様の名前も知らなかった。
 何も知らないというのも失礼だろうから、向こうに着くまでに話を聞いておこうと思った。

 用意された馬車に乗り込む前に、お姉さまのお墓に花を手向けた。墓守りを騎士たちに頼んだことや、これからクリエル王国に旅立つことを報告した。名残惜しいけれど、出て行くのが遅くなると、護衛騎士たちが怒られてしまうので、別れの挨拶は簡単なものになってしまった。

 でも、お姉さまのお墓の周りに咲いている、色とりどりの花たちが風もないのに左右に揺れたので、行ってらっしゃいと言ってくれているように思えた。

 馬車に乗り込む前に、騎士の1人に尋ねる。

「クリエル王国のラファエル様がどんな方か聞いたことはある?」
「あるよ。精霊と話せるという噂の人だろう」

 ベルベッタ様の言っていたことは、有名な話らしい。

「……あなたは精霊を信じる?」
「信じるよ。リーンの力だって、精霊の力が関与していると思うんだ」
「……それって、どういうこと?」
「だって、リーンの力は普通の人間がどれだけ努力したって身につくものじゃないだろう」
「そうね。そうよね。教えてくれてありがとう」

 礼を言うと、騎士は頷き、馬車の扉を静かに閉めた。



******


 クリエル王国の王城までは馬車で5日ほどかかった。10年以上ぶりに外に出ることができたわたしには、王城の塀の外は物珍しいものが多くて、休憩するたびに騎士たちに質問攻めをした。
 あまりにもわたしが世間を知らないものだから、騎士の何人かが餞別代わりに、歴史書や貴族のマナーの書かれた本などを買ってくれた。
 
 クリエル王国は自然の多い国で、エゲナ王国と比べて澄んだ空気が流れているように感じた。

 農業や畜産業が盛んな国でマナーを守り、助け合いの精神があり、穏やかな性格の持ち主の人が多いと本に書かれていた。ちなみに、エゲナ王国は代々、若返りの水や治癒の水で利益を上げて、王家だけが潤っていて、平民の暮らしは良くも悪くもないという説明だった。

 テッジ殿下たちは、自分たちが得た利益を国民のために使おうという頭はないらしい。

 クリエル王国の城に着いたところで、騎士たちと別れた。人とのお別れはいつも死別だった。でも、今回はそうじゃなかったから『また、いつか会いましょう』と約束をして別れることができた。

 クリエル王国の王城はエゲナ王国に比べて、一回り以上小さかった。丸い塔が左右に2つあり、白亜の壁は最近建てられたのかと思うくらいにとても綺麗だ。

「リーン様、お待ちしておりました」

 エントランスホールで多くの人に丁重に迎えられて戸惑っていると、失礼な態度をとっているにも関わらず、笑顔を絶やさずにメイドたちはわたしを部屋に案内してくれた。

「お疲れでしょうから、今日は食事とお風呂のあとは、お部屋でゆっくりしてほしいとのことです」
「で、でも、ご挨拶は必要でしょう?」
「両陛下もラファエル殿下もこれからここで暮らすのだから挨拶は急がなくても良いとのことです。それから、迎えに出れないことを謝っておられたそうです」

 元々、この城に着くのは昨日の予定だったから、遅刻したのはわたしだから、謝らなければならないのはこちらのほうだった。
 今日は1日中会議らしく、王妃陛下も参加されているそうだ。終わるのは夜になるから、挨拶は明日で良いと話だったので、お言葉に甘えることにした。
 
 一体、どんな人たちなのかしら。

 緊張と疲れもあり、食事をして体を洗われたあとは、ふかふかのベッドに横になると、まだ、夜になったばかりだというのに眠ってしまったのだった。



◇◆◇◆◇◆
(視点変更)


 リーンが今まで、水を汲んでいた滝の周辺では、透明で蝶のような羽をもった、人間の手のひらサイズの小さな精霊たちが話をしていた。

『リーンは無事にラファエルのいる国に着いたらしいわ』
『どうする? ベルベッタの髪を戻して力をなくす?』
『もう少し待ちましょう。馬鹿な人間たちがリーンを返せだなんて言い出したら困るもの』
『僕たちのせいで、リーンは悲しい思いばかりしてるんだ。幸せになってもらわないと』

 精霊たちはおしゃべりで、次から次へと話題が飛ぶ。

『もう、この王家に精霊なんて必要ないわ!』
『違うところに行ったら、邪気にやられずに済むかなあ』
『あ、ベルベッタが来るよ。リーンがいなくなって嬉しそうだね』

 精霊たちの会議は、ベルベッタが来たことで中断された。

しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi(がっち)
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他

猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。 大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。

〖完結〗その愛、お断りします。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚して一年、幸せな毎日を送っていた。それが、一瞬で消え去った…… 彼は突然愛人と子供を連れて来て、離れに住まわせると言った。愛する人に裏切られていたことを知り、胸が苦しくなる。 邪魔なのは、私だ。 そう思った私は離婚を決意し、邸を出て行こうとしたところを彼に見つかり部屋に閉じ込められてしまう。 「君を愛してる」と、何度も口にする彼。愛していれば、何をしても許されると思っているのだろうか。 冗談じゃない。私は、彼の思い通りになどならない! *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

処理中です...