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6 初めての旅と企む精霊たち
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抵抗しても無駄だと諦めて、荷造りを始めた人たちに何を持っていくか指示をしているうちに、テッジ殿下はいなくなっていた。
部屋には女性しかいなくなったので、寝巻きからいつものワンピースに着替え、簡単な身支度をすると、荷造りに参加した。……といっても、お手洗いとお風呂場、それ以外は一部屋しかない小屋なので、荷造りはすぐに終わった。
「ありがとうございました」
荷造りをしてもらった礼を言うと、メイドたちは頭を下げて家から出て行き、今度は騎士たちが中に入ってきた。
「おめでとうございますと言っていいのか、どうなのかわからないな」
仲の良い騎士たちだったからか、わたしがここから出ていけることは良いことだと思うけど、王子たちの勝手で隣国に嫁がされるのは複雑だと思ってくれているらしい。
「おめでとうで良いと思うわ。嬉しい出来事だもの。だけど、お姉さまのお墓が気になるの。きっと、お墓参りはできなくなるから」
「墓参りならオレたちに任せてくれ。それくらいしかできなくてごめん」
「ありがとう。本当に助かるわ」
隣国のクリエル王国まで、仲の良い騎士たちが護衛してくれると聞いた時は嬉しかった。知らない人に命を預けるよりも、信用している人のほうが良いと思うのは、当たり前のことよね。
わたしの新しい婚約者の名前は、ラファエル・ルッツ様という名前だそうだ。今まで、ここでの生活しか知らないから、他国の王子様の名前も知らなかった。
何も知らないというのも失礼だろうから、向こうに着くまでに話を聞いておこうと思った。
用意された馬車に乗り込む前に、お姉さまのお墓に花を手向けた。墓守りを騎士たちに頼んだことや、これからクリエル王国に旅立つことを報告した。名残惜しいけれど、出て行くのが遅くなると、護衛騎士たちが怒られてしまうので、別れの挨拶は簡単なものになってしまった。
でも、お姉さまのお墓の周りに咲いている、色とりどりの花たちが風もないのに左右に揺れたので、行ってらっしゃいと言ってくれているように思えた。
馬車に乗り込む前に、騎士の1人に尋ねる。
「クリエル王国のラファエル様がどんな方か聞いたことはある?」
「あるよ。精霊と話せるという噂の人だろう」
ベルベッタ様の言っていたことは、有名な話らしい。
「……あなたは精霊を信じる?」
「信じるよ。リーンの力だって、精霊の力が関与していると思うんだ」
「……それって、どういうこと?」
「だって、リーンの力は普通の人間がどれだけ努力したって身につくものじゃないだろう」
「そうね。そうよね。教えてくれてありがとう」
礼を言うと、騎士は頷き、馬車の扉を静かに閉めた。
******
クリエル王国の王城までは馬車で5日ほどかかった。10年以上ぶりに外に出ることができたわたしには、王城の塀の外は物珍しいものが多くて、休憩するたびに騎士たちに質問攻めをした。
あまりにもわたしが世間を知らないものだから、騎士の何人かが餞別代わりに、歴史書や貴族のマナーの書かれた本などを買ってくれた。
クリエル王国は自然の多い国で、エゲナ王国と比べて澄んだ空気が流れているように感じた。
農業や畜産業が盛んな国でマナーを守り、助け合いの精神があり、穏やかな性格の持ち主の人が多いと本に書かれていた。ちなみに、エゲナ王国は代々、若返りの水や治癒の水で利益を上げて、王家だけが潤っていて、平民の暮らしは良くも悪くもないという説明だった。
テッジ殿下たちは、自分たちが得た利益を国民のために使おうという頭はないらしい。
クリエル王国の城に着いたところで、騎士たちと別れた。人とのお別れはいつも死別だった。でも、今回はそうじゃなかったから『また、いつか会いましょう』と約束をして別れることができた。
クリエル王国の王城はエゲナ王国に比べて、一回り以上小さかった。丸い塔が左右に2つあり、白亜の壁は最近建てられたのかと思うくらいにとても綺麗だ。
「リーン様、お待ちしておりました」
エントランスホールで多くの人に丁重に迎えられて戸惑っていると、失礼な態度をとっているにも関わらず、笑顔を絶やさずにメイドたちはわたしを部屋に案内してくれた。
「お疲れでしょうから、今日は食事とお風呂のあとは、お部屋でゆっくりしてほしいとのことです」
「で、でも、ご挨拶は必要でしょう?」
「両陛下もラファエル殿下もこれからここで暮らすのだから挨拶は急がなくても良いとのことです。それから、迎えに出れないことを謝っておられたそうです」
元々、この城に着くのは昨日の予定だったから、遅刻したのはわたしだから、謝らなければならないのはこちらのほうだった。
今日は1日中会議らしく、王妃陛下も参加されているそうだ。終わるのは夜になるから、挨拶は明日で良いと話だったので、お言葉に甘えることにした。
一体、どんな人たちなのかしら。
緊張と疲れもあり、食事をして体を洗われたあとは、ふかふかのベッドに横になると、まだ、夜になったばかりだというのに眠ってしまったのだった。
◇◆◇◆◇◆
(視点変更)
リーンが今まで、水を汲んでいた滝の周辺では、透明で蝶のような羽をもった、人間の手のひらサイズの小さな精霊たちが話をしていた。
『リーンは無事にラファエルのいる国に着いたらしいわ』
『どうする? ベルベッタの髪を戻して力をなくす?』
『もう少し待ちましょう。馬鹿な人間たちがリーンを返せだなんて言い出したら困るもの』
『僕たちのせいで、リーンは悲しい思いばかりしてるんだ。幸せになってもらわないと』
精霊たちはおしゃべりで、次から次へと話題が飛ぶ。
『もう、この王家に精霊なんて必要ないわ!』
『違うところに行ったら、邪気にやられずに済むかなあ』
『あ、ベルベッタが来るよ。リーンがいなくなって嬉しそうだね』
精霊たちの会議は、ベルベッタが来たことで中断された。
部屋には女性しかいなくなったので、寝巻きからいつものワンピースに着替え、簡単な身支度をすると、荷造りに参加した。……といっても、お手洗いとお風呂場、それ以外は一部屋しかない小屋なので、荷造りはすぐに終わった。
「ありがとうございました」
荷造りをしてもらった礼を言うと、メイドたちは頭を下げて家から出て行き、今度は騎士たちが中に入ってきた。
「おめでとうございますと言っていいのか、どうなのかわからないな」
仲の良い騎士たちだったからか、わたしがここから出ていけることは良いことだと思うけど、王子たちの勝手で隣国に嫁がされるのは複雑だと思ってくれているらしい。
「おめでとうで良いと思うわ。嬉しい出来事だもの。だけど、お姉さまのお墓が気になるの。きっと、お墓参りはできなくなるから」
「墓参りならオレたちに任せてくれ。それくらいしかできなくてごめん」
「ありがとう。本当に助かるわ」
隣国のクリエル王国まで、仲の良い騎士たちが護衛してくれると聞いた時は嬉しかった。知らない人に命を預けるよりも、信用している人のほうが良いと思うのは、当たり前のことよね。
わたしの新しい婚約者の名前は、ラファエル・ルッツ様という名前だそうだ。今まで、ここでの生活しか知らないから、他国の王子様の名前も知らなかった。
何も知らないというのも失礼だろうから、向こうに着くまでに話を聞いておこうと思った。
用意された馬車に乗り込む前に、お姉さまのお墓に花を手向けた。墓守りを騎士たちに頼んだことや、これからクリエル王国に旅立つことを報告した。名残惜しいけれど、出て行くのが遅くなると、護衛騎士たちが怒られてしまうので、別れの挨拶は簡単なものになってしまった。
でも、お姉さまのお墓の周りに咲いている、色とりどりの花たちが風もないのに左右に揺れたので、行ってらっしゃいと言ってくれているように思えた。
馬車に乗り込む前に、騎士の1人に尋ねる。
「クリエル王国のラファエル様がどんな方か聞いたことはある?」
「あるよ。精霊と話せるという噂の人だろう」
ベルベッタ様の言っていたことは、有名な話らしい。
「……あなたは精霊を信じる?」
「信じるよ。リーンの力だって、精霊の力が関与していると思うんだ」
「……それって、どういうこと?」
「だって、リーンの力は普通の人間がどれだけ努力したって身につくものじゃないだろう」
「そうね。そうよね。教えてくれてありがとう」
礼を言うと、騎士は頷き、馬車の扉を静かに閉めた。
******
クリエル王国の王城までは馬車で5日ほどかかった。10年以上ぶりに外に出ることができたわたしには、王城の塀の外は物珍しいものが多くて、休憩するたびに騎士たちに質問攻めをした。
あまりにもわたしが世間を知らないものだから、騎士の何人かが餞別代わりに、歴史書や貴族のマナーの書かれた本などを買ってくれた。
クリエル王国は自然の多い国で、エゲナ王国と比べて澄んだ空気が流れているように感じた。
農業や畜産業が盛んな国でマナーを守り、助け合いの精神があり、穏やかな性格の持ち主の人が多いと本に書かれていた。ちなみに、エゲナ王国は代々、若返りの水や治癒の水で利益を上げて、王家だけが潤っていて、平民の暮らしは良くも悪くもないという説明だった。
テッジ殿下たちは、自分たちが得た利益を国民のために使おうという頭はないらしい。
クリエル王国の城に着いたところで、騎士たちと別れた。人とのお別れはいつも死別だった。でも、今回はそうじゃなかったから『また、いつか会いましょう』と約束をして別れることができた。
クリエル王国の王城はエゲナ王国に比べて、一回り以上小さかった。丸い塔が左右に2つあり、白亜の壁は最近建てられたのかと思うくらいにとても綺麗だ。
「リーン様、お待ちしておりました」
エントランスホールで多くの人に丁重に迎えられて戸惑っていると、失礼な態度をとっているにも関わらず、笑顔を絶やさずにメイドたちはわたしを部屋に案内してくれた。
「お疲れでしょうから、今日は食事とお風呂のあとは、お部屋でゆっくりしてほしいとのことです」
「で、でも、ご挨拶は必要でしょう?」
「両陛下もラファエル殿下もこれからここで暮らすのだから挨拶は急がなくても良いとのことです。それから、迎えに出れないことを謝っておられたそうです」
元々、この城に着くのは昨日の予定だったから、遅刻したのはわたしだから、謝らなければならないのはこちらのほうだった。
今日は1日中会議らしく、王妃陛下も参加されているそうだ。終わるのは夜になるから、挨拶は明日で良いと話だったので、お言葉に甘えることにした。
一体、どんな人たちなのかしら。
緊張と疲れもあり、食事をして体を洗われたあとは、ふかふかのベッドに横になると、まだ、夜になったばかりだというのに眠ってしまったのだった。
◇◆◇◆◇◆
(視点変更)
リーンが今まで、水を汲んでいた滝の周辺では、透明で蝶のような羽をもった、人間の手のひらサイズの小さな精霊たちが話をしていた。
『リーンは無事にラファエルのいる国に着いたらしいわ』
『どうする? ベルベッタの髪を戻して力をなくす?』
『もう少し待ちましょう。馬鹿な人間たちがリーンを返せだなんて言い出したら困るもの』
『僕たちのせいで、リーンは悲しい思いばかりしてるんだ。幸せになってもらわないと』
精霊たちはおしゃべりで、次から次へと話題が飛ぶ。
『もう、この王家に精霊なんて必要ないわ!』
『違うところに行ったら、邪気にやられずに済むかなあ』
『あ、ベルベッタが来るよ。リーンがいなくなって嬉しそうだね』
精霊たちの会議は、ベルベッタが来たことで中断された。
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