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13 付与された効力
手持ち無沙汰みたいだからと言われて、わたしは王妃陛下から刺繍を習うことになった。習うのが目的ではなく、刺繍をしながら雑談をするのが王妃陛下の目的のようだった。わたしはわたしで刺繍を覚えられるし、ラファの話も聞けてちょうど良かった。
ラファは手先は器用だが、美的センスが人と違うそうだ。
「あの子は運動が得意で小さい頃は城内や庭を走り回っていたのよ。でも、大きくなってから、そういう行動は落ち着きがないと言われるようになったの。だから、陛下がとても絵を描くことがお上手だから描かせてみたのよ。そうしたら、すごいものが出来上がったから、お菓子作りや刺繍を教えることにしたの」
「違うものに興味を向けさせたんですね」
「ええ。あの子はそういうつもりで書いていないのだから、気持ちが悪いだとか怖いだとか言うのは良くないでしょう? それにあの子なりの気持ちはこもっているのよ」
そう言って、王妃陛下が見せてくれたのは、ラファが小さい頃に描いたという王妃陛下の肖像画だった。
予想していた通り、◯が顔でその中に目と口と鼻が書かれていた。精霊たちと違うなと思ったのは、口が顔からはみ出していないことや、目が大きな黒目だけではないこと。そして、ちゃんと髪があることだった。といっても、髪は生えているというよりも乗せられている感じではあるが。
「すごく似ていると言われて見せられた時は、ラファの目には私がこんな風に見えいているのかしらと思って怖くなったわ。だけど、画家に描いてもらった肖像画を見て、やっぱり、画家は違いますね。こちらのほうが母上にそっくりですと言ってくれたから、どうなっているのか困惑したわ」
「やはり、王妃陛下も同じことを考えていらしたのですね」
両陛下の肖像画は城に入ってすぐの壁に飾られてあるから、ラファにどう思うか聞いてみたところ「そっくりだ」と言っていた。それは、わたしも同感だった。
それなのに、ラファが自分が描いた絵を上手く描けなかったというのならまだしも、似ていると断言するから不安になるわよね。
「精霊たちに馬鹿にされて、ここ最近は、描くことを嫌がっていたのだけど、あなたが来てから描くようになったの。あなたがラファの絵を見ている時は感情を顕にしていることが多いから描くようになったみたい」
「……では、ケーキなどに顔を描くのも、わたしが来てからですか?」
「ええ。あなたの反応が見たいみたいね」
「じゃあ、わざと下手に描いている可能性もあるということでしょうか」
「それはないわ」
王妃陛下は笑顔できっぱりと否定した。
******
ベルベッタ様の力がなくなってから、10日以上が経った。さすがに、エゲナ王国内では買った水の効果があらわれないと騒ぎ始めているらしい。精霊からの報告では、グロールがなんとか誤魔化しているみたいだけど、それにもそろそろ限界がきそうだということだった。
今日はラファの仕事が休みの日で、彼と一緒に談話室にいた。ラファは器用に刺繍をしながら、話を続ける。
「精霊たちがリーンにお願いしたいことがあるらしいんだけど、話だけ聞いてもらえるかな」
「かまいませんよ」
「さすがにテッジ殿下もベルベッタ嬢の力を疑い始めている。このままでは、ベルベッタ嬢の命が危ない」
「相手は公爵令嬢ですよ? しかも、グロールの妹です。命まで奪うでしょうか」
「グロールという男は、自分の妹だからといって助けるような人なのかな」
「……ないですね。しかも、彼は除籍されてますから、両親を恨んでいるはずです。となると、やっぱり命の危険はありますね」
大きく息を吐くと、ラファは眉間にシワを寄せる。
「もし、ベルベッタ嬢が助けを求めてきたら、リーンはどうするつもり?」
「命の危険であるのなら助けざるを得ないですよね。グロールに命乞いをされても助けるつもりはありませんが、ベルベッタ様には大して嫌なことをされてはいません。ですから、見捨てるのもどうかと思うんです」
「少しの意地悪くらいなら気にしないといったところかな」
「はい。グロールやテッジ殿下がわたしに懇願してくるようなことがあったら、久しぶりに笑えそうな気がします」
「……リーン、それは嘲笑になるから、精霊は好まないよ」
ラファの悲しそうな顔を見て気がついた。
――わたし、お姉さまが亡くなってから、ちゃんと笑ったことはあっただろうか。
その時、扉が叩かれ、ラファが返事をすると、入ってきたのは陛下だった。
「リーン、今日、水を汲んでメイドにかけてあげたのか?」
「……はい。メイドが躓いて転んだみたいで膝から血を流していたのでつい……。いけなかったでしょうか」
「いや。そのメイドが言うには朝から熱があったそうなんだ。だけど、リーンに水をかけてもらってから、熱も下がって体調も良くなったと言っている。精霊に聞いてみたところ、リーンの力を今までよりも良いものにしたとはしゃいでいるんだ」
陛下の話を聞いて、わたしはラファと顔を見合わせた。
ラファは手先は器用だが、美的センスが人と違うそうだ。
「あの子は運動が得意で小さい頃は城内や庭を走り回っていたのよ。でも、大きくなってから、そういう行動は落ち着きがないと言われるようになったの。だから、陛下がとても絵を描くことがお上手だから描かせてみたのよ。そうしたら、すごいものが出来上がったから、お菓子作りや刺繍を教えることにしたの」
「違うものに興味を向けさせたんですね」
「ええ。あの子はそういうつもりで書いていないのだから、気持ちが悪いだとか怖いだとか言うのは良くないでしょう? それにあの子なりの気持ちはこもっているのよ」
そう言って、王妃陛下が見せてくれたのは、ラファが小さい頃に描いたという王妃陛下の肖像画だった。
予想していた通り、◯が顔でその中に目と口と鼻が書かれていた。精霊たちと違うなと思ったのは、口が顔からはみ出していないことや、目が大きな黒目だけではないこと。そして、ちゃんと髪があることだった。といっても、髪は生えているというよりも乗せられている感じではあるが。
「すごく似ていると言われて見せられた時は、ラファの目には私がこんな風に見えいているのかしらと思って怖くなったわ。だけど、画家に描いてもらった肖像画を見て、やっぱり、画家は違いますね。こちらのほうが母上にそっくりですと言ってくれたから、どうなっているのか困惑したわ」
「やはり、王妃陛下も同じことを考えていらしたのですね」
両陛下の肖像画は城に入ってすぐの壁に飾られてあるから、ラファにどう思うか聞いてみたところ「そっくりだ」と言っていた。それは、わたしも同感だった。
それなのに、ラファが自分が描いた絵を上手く描けなかったというのならまだしも、似ていると断言するから不安になるわよね。
「精霊たちに馬鹿にされて、ここ最近は、描くことを嫌がっていたのだけど、あなたが来てから描くようになったの。あなたがラファの絵を見ている時は感情を顕にしていることが多いから描くようになったみたい」
「……では、ケーキなどに顔を描くのも、わたしが来てからですか?」
「ええ。あなたの反応が見たいみたいね」
「じゃあ、わざと下手に描いている可能性もあるということでしょうか」
「それはないわ」
王妃陛下は笑顔できっぱりと否定した。
******
ベルベッタ様の力がなくなってから、10日以上が経った。さすがに、エゲナ王国内では買った水の効果があらわれないと騒ぎ始めているらしい。精霊からの報告では、グロールがなんとか誤魔化しているみたいだけど、それにもそろそろ限界がきそうだということだった。
今日はラファの仕事が休みの日で、彼と一緒に談話室にいた。ラファは器用に刺繍をしながら、話を続ける。
「精霊たちがリーンにお願いしたいことがあるらしいんだけど、話だけ聞いてもらえるかな」
「かまいませんよ」
「さすがにテッジ殿下もベルベッタ嬢の力を疑い始めている。このままでは、ベルベッタ嬢の命が危ない」
「相手は公爵令嬢ですよ? しかも、グロールの妹です。命まで奪うでしょうか」
「グロールという男は、自分の妹だからといって助けるような人なのかな」
「……ないですね。しかも、彼は除籍されてますから、両親を恨んでいるはずです。となると、やっぱり命の危険はありますね」
大きく息を吐くと、ラファは眉間にシワを寄せる。
「もし、ベルベッタ嬢が助けを求めてきたら、リーンはどうするつもり?」
「命の危険であるのなら助けざるを得ないですよね。グロールに命乞いをされても助けるつもりはありませんが、ベルベッタ様には大して嫌なことをされてはいません。ですから、見捨てるのもどうかと思うんです」
「少しの意地悪くらいなら気にしないといったところかな」
「はい。グロールやテッジ殿下がわたしに懇願してくるようなことがあったら、久しぶりに笑えそうな気がします」
「……リーン、それは嘲笑になるから、精霊は好まないよ」
ラファの悲しそうな顔を見て気がついた。
――わたし、お姉さまが亡くなってから、ちゃんと笑ったことはあっただろうか。
その時、扉が叩かれ、ラファが返事をすると、入ってきたのは陛下だった。
「リーン、今日、水を汲んでメイドにかけてあげたのか?」
「……はい。メイドが躓いて転んだみたいで膝から血を流していたのでつい……。いけなかったでしょうか」
「いや。そのメイドが言うには朝から熱があったそうなんだ。だけど、リーンに水をかけてもらってから、熱も下がって体調も良くなったと言っている。精霊に聞いてみたところ、リーンの力を今までよりも良いものにしたとはしゃいでいるんだ」
陛下の話を聞いて、わたしはラファと顔を見合わせた。
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