笑い方を忘れたわたしが笑えるようになるまで

風見ゆうみ

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16  助けを求める令嬢 ①

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 テッジ殿下たちは少しでも早くにわたしをエゲナ王国に戻したかったらしく、ベルベッタ様をこちらに送ろうとしていると、精霊たちが教えてくれた。

 そのため、すぐに籍を入れてしまい、結婚発表をすることにした。クリエル王国には新聞社は一社しかないので、そこに連絡して号外を出してもらい、外務担当者にはエゲナ王国を含む各国に結婚の知らせを入れてもらった。

 結婚式はしばらく後になるけれど、マリッジブルーなど感じさせないスピード婚だった。でも、そのおかげで、わたしは急に忙しくなった。今まで、ゲストとして扱われていたが、王太子妃扱いになったため、公務をしなければならない。まずは、妃としてのマナーを覚え、その後は公務に必要な知識を身につけることになった。

 わたしは学校に通っていないため、お姉さまから文字を教えてもらった。文字を覚えて読書ができるようになってからは、好きな本を読むだけで、世界がどんなものなのか、詳しくは知らなかったから、自分の知識が増えていくのが実感できて、とても楽しかった。

 勉強を進めると同時に、わたしは昔のように水を汲む時間を作った。伝染病が広がる前に怪しい症状の人を集めてもらい、わたしの汲んだ水が効くのか試すことになったのだ。
 クリエル王国の人たちは精霊を信じている人が多いこともあり、精霊と話ができる陛下やラファへの信頼は厚い。だから、病気が治るだなんていう胡散臭い水を嫌がることなく飲んでくれた。

 謎の倦怠感などに襲われていた人たちは、水を飲むとすぐに楽になったらしく、とても喜んでくれた。飲むだけで回復するのだから、多くの人が水を欲しがるのか心配していたけれど、国民性なのか、必要としている人に行き渡るようにと、無理に水を欲しがろうとはしなかった。

 井戸水を汲んで、また、新たに症状が現れたら、その人に飲ませるようにと医者に頼み、王城に戻ることにした。帰る道中の馬車の中で、隣に座るラファに話しかける。

「わたしの汲んだ水が病気を治すという話を聞いたら、テッジ殿下たちはどう思うでしょうか」
「君を手放したことを悔しがるんじゃないかな。まあ、まずはベルベッタ嬢が送られてきたみたいだから、そちらから先に相手をしようか」
「……結局は送ってくるんですね」

 結婚の報告をしたにもかかわらず、テッジ殿下たちは諦めることなくわたしとベルベッタ様を交換しようとしているらしい。

「そういえば、わたしが汲んだ水は、エゲナ王国には渡さないのですか」
「たぶん、エゲナ王国の王家が独り占めしようとするだろうから、国としては渡さない。人を雇って、必要としている人がいる場所に持っていってもらうことにする」
「……ありがとうございます」

 エゲナ王国の国民の全てが悪い人ではない。わたしも馬鹿な王族やグロールに関係のない人たちを見殺しにするほど悪い人間じゃない。わたしの汲んだ水がエゲナ王国の王族やグロールたちに渡らなければそれで良い。病気や水の件はラファが手配してくれる人たちに任せて、わたしは自分の敵に集中することにした。



◇◆◇◆◇◆
(視点変更)


 ここ最近、エゲナ王国の周辺国で原因不明の病気が流行り始めていた。確実に効くという薬が見つかっておらず、テッジたち王族やグロールたちは城内から出るのをやめて、城で働く使用人や兵士たちは王城内に閉じ込め、家に彼なくした。出入りしていた業者には門の前で荷物を置いてもらい、お金は後払いという方法を取った。

 これで、病気にはかからないと安心していたテッジたちだったが、そうではなかった。国王に伝染病の症状があらわれ始めたのだ。

 テッジはこのまま父が死に、リーンが戻ってくれば、自分が国王になれると確信していた。リーンはすでにラファエルと結婚してしまっているから、普通なら戻ってくるはずがない。それでも、テッジはリーンが自分の元に戻ってくると信じていた。

「リーン、戻ってこなければ、お前の大事な姉の墓を荒らしてやる」

 テッジがベルベッタに言付けた言葉を口にして、高笑いした時だった。むせてしまったのか、突然、咳が止まらなくなった。

「ど……どうして……っ」

 ゲホゲホと咳き込みながら、テッジはベッドに倒れ込む。

(大丈夫だ。ただ咳き込んだだけだ)

 テッジは涙目になって天井を見つめた。



 
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