【完結】レイハート公爵夫人の時戻し

風見ゆうみ

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34  元婚約者からの手紙

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 イライアス様と結婚してすぐは、お互いに意識してぎこちなくなっていたが、仕事の話をしているうちに、いつの間にか普通になっていた。
 ベェとルピは一緒に暮らせることが嬉しいのか、まるで新婚のように二匹で寄り添っており、とても微笑ましい。

 イライアス様と眠るようになって三日経ったが、一緒に眠るだけで体の関係はまだない。
 イライアス様が私と関係を持たない理由は二つあった。
 一つ目は、夫という義務感で私に手を出すことは申し訳ないと思っているようだ。

 政略結婚なら、気持ちがなくても関係ないだろうけれど、イライアス様は気を遣ってくれているらしい。

 そして、理由のもう一つは、お腹の子供と一緒に殺されてしまった、あの時の恐怖や悔しさを思い出すかもしれないということだ。

 二つ目の理由については、実際、自分でもまだわからないところなのだが、絶対に乗り越えなければならないと思う。

 一つ目の理由も結婚が決まった時に、初夜を迎えるのはわかっていたし、気にしなくていいのにと思うのだが、なかなか言い出せずにいた。

 だって、「遠慮なくどうぞ!」なんて言えないでしょう?

 ……言える人もいるかもしれないが、私は言えなかった。
 イライアス様は優しいから口にしないが、私のことを好きではないから手を出さないという可能性もある。
 
 それにルピとベェは意味がわからないから、興味津々で見てくるし、遊んでいるなら自分たちも一緒に遊びたいと言い出す可能性もある。
 小さな子の教育上良くない!
 なんて、もんもんと考えていたある日のことだった。

 イライアス様とダイニングルームで朝食をとっていると、ソレイユとロガンを見張らせている人たちから、同時に連絡が入った。

 リット殿下に見捨てられ、ボロボロになった状態のソレイユが、オウガ侯爵家に押しかけたそうだ。

「僕が君と結婚したことで、母上はソレイユ嬢に興味はなくなっただろうし、リット兄さんも利用価値がないと判断したんだろう」
「リット殿下はソレイユをどう扱うつもりだったのでしょうか」
「ソレイユ嬢を使って、兄さんの弱点であるミティさんを亡き者にするつもりだったんじゃないかな」
「一度、失敗していますよね?」

 前回ではミティ様は殺されてしまったが、今回は私が邪魔したため、ソレイユはマークされることになったし、ミティ様の警備も強化された。

 利用価値なら、その時点でなくなったのではないだろうか。

 その疑問を口にすると、イライアス様は苦笑する。

「ソレイユ嬢が第ニ王子妃になれば、状況は違ってくる。王族だけの集まりなどはあるからね」
「ただ、そうなると、何かしてもすぐに犯人はわかってしまいますわよね。最初から、ソレイユを捨て駒にするつもりだったということでしょうか」
「たぶんね」
「そんな女性を第二王子妃にするなんてと、自分が批判されてしまうのではないでしょうか」
「ミティさんが亡くなったら、ラックス兄さんは公務をこなせないほどにショックを受けると思う。それなら、まだ動けるリット兄さんのほうがマシだろう?」
「……そういうことですか」

 人の命を奪ってまで権力を手にし、魔法使いを絶滅させたい理由はなんなのだろう。

 すっかり冷めてしまった野菜スープを一口飲んだ時、ロガンから私宛の手紙が届いたと連絡があった。

「破り捨てましょうか」
「僕が読んでもいいかな?」

 執事の問いかけに答える前にイライアス様に尋ねられた。

「もちろんです」

 うなずくと、執事はペーパーナイフで封を切り、中に危険なものが入っていないか確認してから、イライアス様に手渡した。

 正面に座るイライアス様の眉間のしわが少しずつ増えていく。
 目の前のパンやベーコンに手を付けないまま、イライアス様を見つめる。
 しばらくすると、読み終えたのか彼は目を上げ、私に話し始める。

「ソレイユ嬢がオウガ侯爵家の門の前で暴れたことで、長男のオウガ卿が怒り、両親とロガン氏を追い出したそうだ。行く当てもないし、こうなったのはソラリアの妹のせいなんだから、君に責任を取れと言っている。レイハート公爵領内の宿屋で君が迎えに来るのを待っているってさ」

 ソレイユとは縁を切っているから、私にはもう関係ない。ソレイユはまだ未成年だが、物事の善悪の判断はつく年齢なんだから、自分の行動は自分で責任を負うべきだ。

 それにしても、まだ侯爵の交代が正式に許されたわけではないのに、父親までも追い出してしまったのは、よっぽど我慢できなかったからなのでしょうね。

 ロガンのお兄様はしっかりした人だった。ちゃんと陛下には連絡を入れているのでしょうね。

「私から断りの手紙を送るべきでしょうか」
「いいよ。僕が話をつけてくる。僕の妻にしつこく付きまとう虫は排除しなくちゃね」

 そう言って浮かべたイライアス様の笑みは、とても冷ややかなものだった。


 
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