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35 元婚約者の誤算 〜ロガン視点〜
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まだ、正式に侯爵になれると決まったわけではないのに、兄上は僕たちをオウガ邸から追い出した。
「育ててもらった恩だ」と言って、それぞれの荷物と現金が積まれた馬車に乗せられた。
一時間も経たないうちに着いた場所は、オウガ侯爵家が出資している宿だった。
支配人たちは僕を見て複雑そうな顔をしたが、気にせずに宿屋に滞在することにした。
僕とソレイユの話は領民にも知られている。
どうせ、社交界で流れている噂を鵜呑みにしているんだろう。
本当のことを確かめもしないで、人を判断しただけでなく、態度に出してしまうなんて、接客業には向いてないんじゃないか?
文句を言ってやりたかったが、兄上に報告されても困るのでやめておいた。
両親の部屋と僕の部屋は別々にしてもらえたが、今までに比べたら狭い部屋だった。
ベッドや書物机など、必要最低限な家具しか置かれていない。
二人部屋なのか、ベッドが一つ多いくらいだ。
憂鬱な気分でベッドに寝転んでいると、扉がノックされた。
返事をすると、中に入ってきたのは支配人だった。しかも、誰かを連れてきている。
「面倒を見ていただけませんか」
「は?」
宿屋の前で居座られては営業妨害だと言って、支配人はソレイユを部屋に入れると扉を閉めた。
「なんでお前が! 帰れって言っただろう?」
「あなたのせいで私はこうなったのよ! 絶対に許さない!」
「許さないはこちらの台詞だ!」
どうせなら別室の両親の部屋に放り込めば良かったのに。
「はあーあ。イライアス様がお可哀想。それにお父様だって喜ばないわ」
ソラリアは部屋の奥にある窓に近づき、外を見ながら呟いた。
そういえば、先代のレイハート公爵がソラリアを嫌っていた理由を聞いたことがなかったな。
ちょうどいい機会だし聞いてみよう。
「ソレイユ、知っていたら教えてほしいんだけど、どうして君の父上はソラリアを嫌っていたんだい?」
「ああ、そのこと」
ソレイユは鼻で笑うと、ベッドの上に座り足を組んだ。ドレスをまくりあげて見えた足が艶めかしい。
本来なら、ソラリアのものを拝めていたはずなのに。
「幼い頃のお姉様は気持ち悪いことを言っていたらしいわ」
「気持ち悪いこと?」
「ええ。何もないところを見て、ベェ! って言いながら指さすんですって」
「何かが見えていたってことかい?」
「幻覚を見ていたのよ。お父様はその姿を見て絶望したらしいわ。それで、お母様に私を産ませたの。お母様が亡くなってから、お姉様は変なことを言わなくなったらしいけど、お姉様の子供がおかしなことを言うようになるかもしれないでしょう?」
何もおかしいことなんてないのに、ソレイユは笑いながら言った。
「気持ちは分からないことはないけど、それで差別するのはどうかと思うよ」
答えた時、給仕係の女が訪ねてきた。
「レイハート公爵家の方がラウンジに見えられています」
「すぐ行く!」
やっとソラリアが素直になってくれた。そう思った僕は、あまりにも嬉しくて飛び跳ねてしまった。
呆れた表情の給仕係を押し退けて部屋を出る。
フロントの前にあるラウンジには、赤色の二人掛けのソファとローテーブルが複数置かれている。
ソラリアの姿を探したが、それらしき姿は見当たらない。
席を外しているのかと彼女を呼んだ。
「ソラリア! どこにいるんだ!?」
すると、こちらに背を向けていた男性が立ち上がって振り返った。
相手が誰だか分かり、僕は思わず声を上げる。
「えっ!」
「ソラリアは来てないよ」
僕に微笑みかけたのは、イライアス様だった。
「育ててもらった恩だ」と言って、それぞれの荷物と現金が積まれた馬車に乗せられた。
一時間も経たないうちに着いた場所は、オウガ侯爵家が出資している宿だった。
支配人たちは僕を見て複雑そうな顔をしたが、気にせずに宿屋に滞在することにした。
僕とソレイユの話は領民にも知られている。
どうせ、社交界で流れている噂を鵜呑みにしているんだろう。
本当のことを確かめもしないで、人を判断しただけでなく、態度に出してしまうなんて、接客業には向いてないんじゃないか?
文句を言ってやりたかったが、兄上に報告されても困るのでやめておいた。
両親の部屋と僕の部屋は別々にしてもらえたが、今までに比べたら狭い部屋だった。
ベッドや書物机など、必要最低限な家具しか置かれていない。
二人部屋なのか、ベッドが一つ多いくらいだ。
憂鬱な気分でベッドに寝転んでいると、扉がノックされた。
返事をすると、中に入ってきたのは支配人だった。しかも、誰かを連れてきている。
「面倒を見ていただけませんか」
「は?」
宿屋の前で居座られては営業妨害だと言って、支配人はソレイユを部屋に入れると扉を閉めた。
「なんでお前が! 帰れって言っただろう?」
「あなたのせいで私はこうなったのよ! 絶対に許さない!」
「許さないはこちらの台詞だ!」
どうせなら別室の両親の部屋に放り込めば良かったのに。
「はあーあ。イライアス様がお可哀想。それにお父様だって喜ばないわ」
ソラリアは部屋の奥にある窓に近づき、外を見ながら呟いた。
そういえば、先代のレイハート公爵がソラリアを嫌っていた理由を聞いたことがなかったな。
ちょうどいい機会だし聞いてみよう。
「ソレイユ、知っていたら教えてほしいんだけど、どうして君の父上はソラリアを嫌っていたんだい?」
「ああ、そのこと」
ソレイユは鼻で笑うと、ベッドの上に座り足を組んだ。ドレスをまくりあげて見えた足が艶めかしい。
本来なら、ソラリアのものを拝めていたはずなのに。
「幼い頃のお姉様は気持ち悪いことを言っていたらしいわ」
「気持ち悪いこと?」
「ええ。何もないところを見て、ベェ! って言いながら指さすんですって」
「何かが見えていたってことかい?」
「幻覚を見ていたのよ。お父様はその姿を見て絶望したらしいわ。それで、お母様に私を産ませたの。お母様が亡くなってから、お姉様は変なことを言わなくなったらしいけど、お姉様の子供がおかしなことを言うようになるかもしれないでしょう?」
何もおかしいことなんてないのに、ソレイユは笑いながら言った。
「気持ちは分からないことはないけど、それで差別するのはどうかと思うよ」
答えた時、給仕係の女が訪ねてきた。
「レイハート公爵家の方がラウンジに見えられています」
「すぐ行く!」
やっとソラリアが素直になってくれた。そう思った僕は、あまりにも嬉しくて飛び跳ねてしまった。
呆れた表情の給仕係を押し退けて部屋を出る。
フロントの前にあるラウンジには、赤色の二人掛けのソファとローテーブルが複数置かれている。
ソラリアの姿を探したが、それらしき姿は見当たらない。
席を外しているのかと彼女を呼んだ。
「ソラリア! どこにいるんだ!?」
すると、こちらに背を向けていた男性が立ち上がって振り返った。
相手が誰だか分かり、僕は思わず声を上げる。
「えっ!」
「ソラリアは来てないよ」
僕に微笑みかけたのは、イライアス様だった。
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