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60 レイハート公爵夫人の時戻し ③
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「遅くなってすまない」
イライアス様が私に近づいてこようとすると、リット殿下がテーブルを回り込み、私に掴みかかろうとした。
「ベェ!」
ベェの鳴き声に背中を押され、立ち上がった私は、持っていたシルバートレイを前に突き出す。
リット殿下の手はシルバートレイに弾かれ、彼は「いてっ!」と叫んで手を引っ込めた。
「リット兄さん、いい加減にしてください」
イライアス様が私の前に立ち、いつもよりも低い声で言った。
私に背を向けているので、イライアス様の表情は見えない。だが、室内の温度が急に下がったかのように肌寒さを感じ、彼が本気で怒っているのだと感じ取れた。
「いい加減にしろとはどういう意味だ? 俺はソラリアと話をしていただけだぞ」
「母上を使って、ミティ嬢を傷つけようとしたのでしょう? それだけでなく、僕の妻にまで乱暴しようとしていた」
「は? 何を言っているのかわからないな」
リット殿下は鼻で笑ったが、私にとってはそんな話ではない。
「何かあったのですか?」
「母上の名で、ミティ嬢宛に毒の付いた手紙が送られた」
眉間に皺を寄せて答えたイライアス様に詳しい話を聞いたところ、今朝、ミティ様の所に手紙が届いたそうだ。
差出人が王妃陛下の名で、何度か見たことのある筆跡だったため、何の疑いもなく使用人が封を切り、ミティ様に手渡すために中身を取り出そうとした。
その時、封筒につけられていた刃が使用人の指を切った。これだけでも驚きなのだが、その刃には毒が塗られていたようで、使用人はその場で倒れ、亡くなってしまったとのことだった。
王妃陛下がここに来られなかったのは、その件で拘束されているからだった。
イライアス様がここに来るのに、少し時間がかかったのは、王妃陛下の話を国王陛下から話してもらっていたからだった。
「母上は手紙は書いたと言っているが、毒の付いた刃物など入れて送らせた覚えはないと言っている。そんな馬鹿なことを指示するはずがないともね」
「母上はミティを嫌っていた。 亡き者にしようとして侍女に指示をしたんだろう」
「すぐに自分が犯人だとわかるようなことをするでしょうか」
私が口を挟むと、リット殿下は眉をひそめた。
「じゃあ、何だ? 母上は誰かにはめられたって言うのか?」
にやにやと笑うリット殿下を見て、今回の犯人は彼だろうと確信した。何も知らなければ、母親が罪に問われたと聞けば驚きのほうが勝つはずだ。
自分を裏切った母親に復讐したかったのかもしれないが、考えることが幼稚すぎるし、人の命をなんだと思っているのか。
時戻しをする前に、もう少し彼の本音を聞き出したかった。
「リット殿下はこれから、王家がどうなっていくと思いますか?」
「……どういう意味だ?」
「王妃陛下が罪に問われたとしたら、責任を取って国王陛下は退位なさるかもしれませんし、ミティ様も命の危険を感じて、王太子妃を辞退なさるかもしれません」
「そうかもな」
「なら、リット殿下は王子ではいられなくなりますね」
「……は?」
私の問いかけが予想外だったのか、リット殿下は眉間に皺を寄せて聞き返した。
イライアス様が私に近づいてこようとすると、リット殿下がテーブルを回り込み、私に掴みかかろうとした。
「ベェ!」
ベェの鳴き声に背中を押され、立ち上がった私は、持っていたシルバートレイを前に突き出す。
リット殿下の手はシルバートレイに弾かれ、彼は「いてっ!」と叫んで手を引っ込めた。
「リット兄さん、いい加減にしてください」
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私に背を向けているので、イライアス様の表情は見えない。だが、室内の温度が急に下がったかのように肌寒さを感じ、彼が本気で怒っているのだと感じ取れた。
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「は? 何を言っているのかわからないな」
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「何かあったのですか?」
「母上の名で、ミティ嬢宛に毒の付いた手紙が送られた」
眉間に皺を寄せて答えたイライアス様に詳しい話を聞いたところ、今朝、ミティ様の所に手紙が届いたそうだ。
差出人が王妃陛下の名で、何度か見たことのある筆跡だったため、何の疑いもなく使用人が封を切り、ミティ様に手渡すために中身を取り出そうとした。
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イライアス様がここに来るのに、少し時間がかかったのは、王妃陛下の話を国王陛下から話してもらっていたからだった。
「母上は手紙は書いたと言っているが、毒の付いた刃物など入れて送らせた覚えはないと言っている。そんな馬鹿なことを指示するはずがないともね」
「母上はミティを嫌っていた。 亡き者にしようとして侍女に指示をしたんだろう」
「すぐに自分が犯人だとわかるようなことをするでしょうか」
私が口を挟むと、リット殿下は眉をひそめた。
「じゃあ、何だ? 母上は誰かにはめられたって言うのか?」
にやにやと笑うリット殿下を見て、今回の犯人は彼だろうと確信した。何も知らなければ、母親が罪に問われたと聞けば驚きのほうが勝つはずだ。
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