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2 何を言っておられるかわかりません
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「ね、猫になってます!」
水面に映る私は髪の色と同じ焦げ茶色と、肌の色である白のニ色の毛を持つ猫でした。
主に焦げ茶色の毛が多く、靴下を履いているみたいに、足の下の方だけ真っ白です。
可愛いです。
自分で言うのもなんなのですが、スタイルの良い猫ちゃんです。
でも、どうして、こんな事に?
一瞬そう思いましたが、考えられる事は一つしかありません。
「ラムダ様!」
ラムダ様の方に振り返り毛を逆立てて怒ると、ラムダ様は困った顔をして後退ります。
「やっぱり、奥様なんですね!? ぼ、僕は何も悪くありません! 怒らないで下さいよ!」
「あなたが原因でしょう! 早く元に戻して下さい!」
「にゃーにゃー言われても何を言っているのかわかりませんよ!」
「にゃーにゃーなんて言ってません! あなたに話しかけているんです!」
「だから言葉がわからないんですって!」
ラムダ様、酷いです!
私の言葉がわからないとはどういう事なのでしょうか!?
言葉がわからないという事は、この人は私にとって敵という事ですか!?
というな、この方は私の味方になる時ってあるのでしょうか?
何にしても許せません!
「一体、あなたは何を考えているんですか!? あなたは私よりも思いやりがありませんね! 旦那様を思う気持ちを、少しは他の人にも向けるべきです!」
「だから、何を言っているのかわからないんですよ! でも、これは奥様の自業自得です! こんな事になったからって、僕を恨まないで下さいよ!」
「絶対にラムダ様のせいでしょう! 恨むなと言うなら、元に戻して下さい! というか、私はどうしたら人間の姿に戻れるのですか!?」
最初から言っておられましたが、ラムダ様は本当に私が何を言っているのかわからないらしく、欲しい答えが出るまでに時間がかかりましたが、何とか答えをくれました。
「たぶん、8時間後には元に戻りますよ。そういう魔法ですから」
そういう魔法?
意味がわかりません!
旦那様がかけられている魔法と同じという事でしょうか?
考えていると、ラムダ様が私を抱き上げようとしてきましたので、その手に猫パンチをして拒否します。
「自分で歩けます」
大人げない態度ではありますが、ラムダ様はどうも信用できません。
だって、私の声が聞こえませんしね。
緑の草をかき分けて、トコトコと屋敷に向かって歩き出すと、屋敷の方から人間の姿に戻った旦那様が走ってきました。
猫の私には気付かずに、私の後ろを歩いていたラムダ様に旦那様が話しかけます。
「ラムダ、エレノアを見ていないか!?」
「……奥様でしたらそこに…」
「どこだ!?」
「ですから、そこに」
ラムダ様が旦那様の足元を指差すと、旦那様は視線を下に落とし、旦那様を見上げていた私と視線を合わせてくれました。
「毛並みの綺麗な可愛い猫だな。迷い猫か?」
「旦那様ぁ。私です! エレノアです!」
「……エレノアの声がした」
旦那様がキョロキョロとあたりを見回しますので、必死にアピールします。
「旦那様! 下です! 猫です! 足元にいる猫が私、エレノアです!」
「……エレノア?」
旦那様の茶色の革靴を、てしてしと前足で何度か叩くと、私だとわかって下さったようでした。
「………本当にエレノアなのか?」
旦那様はしゃがんで、私を見てこられるので、何度も頷きます。
「私です! エレノアです!」
「可愛いがすぎる」
「はい? しっかりして下さい、旦那様。あと、言葉がおかしいですよ。可愛いがすぎるって何ですか」
「君だって俺が犬の時はそうだろう。それに、可愛いがすぎる、はジャスミンが教えてくれたんだ。可愛すぎる時に使うんだそうだぞ」
「褒めていただけるのは有り難いですが、その前に私がなぜ、こうなったかを考えて下さいませ!」
「……そうだな」
旦那様は冷静に、といいますか、自分も経験したからかもしれませんが、すぐに猫が私だと信じてくださり、優しく抱き上げてくれました。
「可愛い。俺のエレノアだと、皆がわかる様に首輪を買わないと」
「旦那様、本当に何を言っておられるかわかりません。あと、私に首輪はいりません」
「いるだろう? こんなに可愛いのだから連れ去られる可能性もあるじゃないか」
「屋敷の敷地内を出ませんのに、連れ去られたりなんかしません! それに首輪をつけても連れ去られたら一緒ですよ!」
「首輪に位置がわかる魔法をかけてもらう。とにかく、ラムダ。事情を説明しろ。それから、この敷地内にオス猫を入れるな」
そんな無茶な…。
敷地内はとても広いので、庭のどこかにオス猫がすでに住んでいてもおかしくありません。
この様子ですと、猫の状態では部屋に軟禁状態になりそうです。
「旦那様。私は猫になっている間は屋敷から出ませんので、ご心配なく」
「そうだな。誘拐されてしまうからな」
「その辺にいる様な猫を誘拐なんてしませんよ。といいますか、旦那様、猫になっても過保護にされる様でしたら、どうなるかわかっておられますね?」
旦那様の腕の中で顔を上げて目を細めて言うと、旦那様はふにゃりと顔を綻ばせるだけでした。
「わかってるよ。それにしても、エレノアは怒っても可愛いな」
「旦那様! ですからそんな問題ではありません!」
「わかってると言ってるだろう?」
旦那様はデレデレの顔になって私の頬を指で撫でます。
全然、理解してくれていません!
水面に映る私は髪の色と同じ焦げ茶色と、肌の色である白のニ色の毛を持つ猫でした。
主に焦げ茶色の毛が多く、靴下を履いているみたいに、足の下の方だけ真っ白です。
可愛いです。
自分で言うのもなんなのですが、スタイルの良い猫ちゃんです。
でも、どうして、こんな事に?
一瞬そう思いましたが、考えられる事は一つしかありません。
「ラムダ様!」
ラムダ様の方に振り返り毛を逆立てて怒ると、ラムダ様は困った顔をして後退ります。
「やっぱり、奥様なんですね!? ぼ、僕は何も悪くありません! 怒らないで下さいよ!」
「あなたが原因でしょう! 早く元に戻して下さい!」
「にゃーにゃー言われても何を言っているのかわかりませんよ!」
「にゃーにゃーなんて言ってません! あなたに話しかけているんです!」
「だから言葉がわからないんですって!」
ラムダ様、酷いです!
私の言葉がわからないとはどういう事なのでしょうか!?
言葉がわからないという事は、この人は私にとって敵という事ですか!?
というな、この方は私の味方になる時ってあるのでしょうか?
何にしても許せません!
「一体、あなたは何を考えているんですか!? あなたは私よりも思いやりがありませんね! 旦那様を思う気持ちを、少しは他の人にも向けるべきです!」
「だから、何を言っているのかわからないんですよ! でも、これは奥様の自業自得です! こんな事になったからって、僕を恨まないで下さいよ!」
「絶対にラムダ様のせいでしょう! 恨むなと言うなら、元に戻して下さい! というか、私はどうしたら人間の姿に戻れるのですか!?」
最初から言っておられましたが、ラムダ様は本当に私が何を言っているのかわからないらしく、欲しい答えが出るまでに時間がかかりましたが、何とか答えをくれました。
「たぶん、8時間後には元に戻りますよ。そういう魔法ですから」
そういう魔法?
意味がわかりません!
旦那様がかけられている魔法と同じという事でしょうか?
考えていると、ラムダ様が私を抱き上げようとしてきましたので、その手に猫パンチをして拒否します。
「自分で歩けます」
大人げない態度ではありますが、ラムダ様はどうも信用できません。
だって、私の声が聞こえませんしね。
緑の草をかき分けて、トコトコと屋敷に向かって歩き出すと、屋敷の方から人間の姿に戻った旦那様が走ってきました。
猫の私には気付かずに、私の後ろを歩いていたラムダ様に旦那様が話しかけます。
「ラムダ、エレノアを見ていないか!?」
「……奥様でしたらそこに…」
「どこだ!?」
「ですから、そこに」
ラムダ様が旦那様の足元を指差すと、旦那様は視線を下に落とし、旦那様を見上げていた私と視線を合わせてくれました。
「毛並みの綺麗な可愛い猫だな。迷い猫か?」
「旦那様ぁ。私です! エレノアです!」
「……エレノアの声がした」
旦那様がキョロキョロとあたりを見回しますので、必死にアピールします。
「旦那様! 下です! 猫です! 足元にいる猫が私、エレノアです!」
「……エレノア?」
旦那様の茶色の革靴を、てしてしと前足で何度か叩くと、私だとわかって下さったようでした。
「………本当にエレノアなのか?」
旦那様はしゃがんで、私を見てこられるので、何度も頷きます。
「私です! エレノアです!」
「可愛いがすぎる」
「はい? しっかりして下さい、旦那様。あと、言葉がおかしいですよ。可愛いがすぎるって何ですか」
「君だって俺が犬の時はそうだろう。それに、可愛いがすぎる、はジャスミンが教えてくれたんだ。可愛すぎる時に使うんだそうだぞ」
「褒めていただけるのは有り難いですが、その前に私がなぜ、こうなったかを考えて下さいませ!」
「……そうだな」
旦那様は冷静に、といいますか、自分も経験したからかもしれませんが、すぐに猫が私だと信じてくださり、優しく抱き上げてくれました。
「可愛い。俺のエレノアだと、皆がわかる様に首輪を買わないと」
「旦那様、本当に何を言っておられるかわかりません。あと、私に首輪はいりません」
「いるだろう? こんなに可愛いのだから連れ去られる可能性もあるじゃないか」
「屋敷の敷地内を出ませんのに、連れ去られたりなんかしません! それに首輪をつけても連れ去られたら一緒ですよ!」
「首輪に位置がわかる魔法をかけてもらう。とにかく、ラムダ。事情を説明しろ。それから、この敷地内にオス猫を入れるな」
そんな無茶な…。
敷地内はとても広いので、庭のどこかにオス猫がすでに住んでいてもおかしくありません。
この様子ですと、猫の状態では部屋に軟禁状態になりそうです。
「旦那様。私は猫になっている間は屋敷から出ませんので、ご心配なく」
「そうだな。誘拐されてしまうからな」
「その辺にいる様な猫を誘拐なんてしませんよ。といいますか、旦那様、猫になっても過保護にされる様でしたら、どうなるかわかっておられますね?」
旦那様の腕の中で顔を上げて目を細めて言うと、旦那様はふにゃりと顔を綻ばせるだけでした。
「わかってるよ。それにしても、エレノアは怒っても可愛いな」
「旦那様! ですからそんな問題ではありません!」
「わかってると言ってるだろう?」
旦那様はデレデレの顔になって私の頬を指で撫でます。
全然、理解してくれていません!
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