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6 知っておられますか?
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結局、私が公爵夫人だと信じてはもらえませんでしたが、サンディさんのお父様であるエルディさんは嫌々といった形ではありましたが、電報をクロフォード家に打ってはくださりました。
電報を打ってくださる方も、私を胡散臭いものを見る様な目で見ておられましたので、クロフォード家の領民ではないというのもありますが、私はどうやら顔が知られていない様ですね。
でも、その方が良いかもしれません。
ラムダ様に捨てられましたが、私の事を知っている方に誘拐されるよりかはマシですものね。
それにしても、ラムダ様、ちょっとやり過ぎだと思います。
旦那様と喧嘩したくらいで、人を捨てるだなんて酷くないですか?
旦那様にめちゃくちゃ怒られていますように!
普通の人ならクビになるでしょうけれど、魔法を解くだけではなく、自分で好きな様に魔法をかけられるのですから、下手に刺激できない状況です。
旦那様もクビにしてしまいたいと思う気持ちはあるでしょうけれど、逆恨みで犬になる魔法をかけられ続けるのも困りますでしょうし。
結局、その日の晩はエルディさんのお宅でお世話になり、泊まらせていただくだけでなく、夕食までご馳走になってしまいました。
エルディさんは私の事を妄想癖がある女性と思っておられて、公爵家の話をすると苦笑するだけでしたので、途中からは、私は話す事を止めてサンディさんの話してくれるお話を聞く事に集中しました。
そして、次の日の朝。
何だか外が騒がしくて、目を覚ましました。
昨日は、空き室のベッドで眠らせていただいたのですが、長い間使われていなかったのか、シーツやマットは湿気を吸っていましたが、外で眠るよりも格段に良いので、本当に助かりました。
寝癖でボサボサの髪、普段はナチュラルメイクですが、化粧道具もないので、ノーメイクの状態で、昨日着ていた服を着て、リビングの方に向かうとエルディさんがいらっしゃいました。
「おはようございます、エルディさん」
「おはようございます、エレノアさん」
挨拶を交わしてからタオルを借りて、バケツにくまれた清潔な水で顔を洗い、鏡を見ながら手櫛で髪を整えました。
「外が騒がしい様ですが…」
「ああ。イジン男爵が来られているみたいです。人を探しておられるそうで…」
「そうなのですね」
その時、玄関の扉が叩かれ、エルディさんが扉に向かって行き、外に向かって声をかけられました。
「誰だ?」
「イジン男爵がお見えだ。扉を開けろ!」
「は、はい!」
エルディさんの怯えた様な声が気になって、玄関の様子が見えるところまで行くと、エルディさんが慌てた様子で扉を開けたところで、護衛らしき若い男性と一緒に気難しそうな小柄の中年の男性が入ってきました。
「人を探しているんだ。お前のところに若い女性がいるようだな?」
「いますが、どうされましたか?」
「クロフォード公爵夫人かもしれない。クロフォード公爵閣下が言うには、気まぐれな猫みたいな性格だが、見た目はとても可愛らしい方らしい」
へーブス伯爵もお髭がありましたが、この人も同じようなハの字型のお髭を持っておられ、イジン男爵は鼻の下にある髭を触りながら続けます。
「そのような若い女性を見なかったか?」
「あ、いえ、その…」
「あの、私がクロフォード公爵夫人です」
2人の元に近寄りながらエルディさんの代わりに、イジン男爵に向かって答えると、彼は訝しげな顔をします。
「どう考えても公爵夫人には見えないが…」
「でしたら、どんな人が公爵夫人に見えるのでしょうか?」
「少なくとも、お前の様な女ではない!」
「困りましたね。私が本人なのですが…。私の様な女性ではないという事は、もしかすると私は、エレノアではないのでしょうか?」
イジン男爵に聞いてみると、彼は怒って言います。
「そうだと言っているだろう! 変わった女だ! 偉そうにしやがって!」
「偉そうにされてるのはあなたですよ」
「俺は偉いからいいんだ!」
「偉ければ何を言ってもいいわけではないでしょう。それに、あなたよりも偉い人はたくさんいますよね?」
イジン男爵は私の問いには答えずに叫びます。
「お前を貴族に反逆した罪で捕らえてやる!」
「それはお断り致します。反逆もしておりませんし」
その時でした。
「エレノア! どこにいるんだ、エレノア!」
朝から近所迷惑になりそうなくらい大きな声で、旦那様が私の名前を呼んで…、ああ、私はエレノアではなかったんでした。
ですので、旦那様がエレノアさんを探しておられる声が聞こえます。
「クロフォード公爵、今、探しておりますので!」
イジン男爵が扉を開けて言うと、旦那様が眉間に深くシワを寄せて近寄ってきます。
「悪いな。エレノアを見つけてくれた者には、必ず褒美を与える」
「あの…」
旦那様がイジン男爵に言った時に、旦那様に話しかけます。
「私の名前はエレノアではないようなのですが、いつ改名したか旦那様は知っておられます?」
「……エレノア!」
私を見た旦那様が一瞬動きを止めた後、人目をはばからずに抱きしめてこられました。
「良かった! 君に何かあったらと…」
「あの、旦那様? 先程も言いましたが、私はエレノアではないようなのですが…。ですよね、イジン男爵?」
旦那様に抱きしめられた状態でイジン男爵の方に目を向けて尋ねると、イジン男爵の額に突然、大粒の汗が吹き出したのでした。
電報を打ってくださる方も、私を胡散臭いものを見る様な目で見ておられましたので、クロフォード家の領民ではないというのもありますが、私はどうやら顔が知られていない様ですね。
でも、その方が良いかもしれません。
ラムダ様に捨てられましたが、私の事を知っている方に誘拐されるよりかはマシですものね。
それにしても、ラムダ様、ちょっとやり過ぎだと思います。
旦那様と喧嘩したくらいで、人を捨てるだなんて酷くないですか?
旦那様にめちゃくちゃ怒られていますように!
普通の人ならクビになるでしょうけれど、魔法を解くだけではなく、自分で好きな様に魔法をかけられるのですから、下手に刺激できない状況です。
旦那様もクビにしてしまいたいと思う気持ちはあるでしょうけれど、逆恨みで犬になる魔法をかけられ続けるのも困りますでしょうし。
結局、その日の晩はエルディさんのお宅でお世話になり、泊まらせていただくだけでなく、夕食までご馳走になってしまいました。
エルディさんは私の事を妄想癖がある女性と思っておられて、公爵家の話をすると苦笑するだけでしたので、途中からは、私は話す事を止めてサンディさんの話してくれるお話を聞く事に集中しました。
そして、次の日の朝。
何だか外が騒がしくて、目を覚ましました。
昨日は、空き室のベッドで眠らせていただいたのですが、長い間使われていなかったのか、シーツやマットは湿気を吸っていましたが、外で眠るよりも格段に良いので、本当に助かりました。
寝癖でボサボサの髪、普段はナチュラルメイクですが、化粧道具もないので、ノーメイクの状態で、昨日着ていた服を着て、リビングの方に向かうとエルディさんがいらっしゃいました。
「おはようございます、エルディさん」
「おはようございます、エレノアさん」
挨拶を交わしてからタオルを借りて、バケツにくまれた清潔な水で顔を洗い、鏡を見ながら手櫛で髪を整えました。
「外が騒がしい様ですが…」
「ああ。イジン男爵が来られているみたいです。人を探しておられるそうで…」
「そうなのですね」
その時、玄関の扉が叩かれ、エルディさんが扉に向かって行き、外に向かって声をかけられました。
「誰だ?」
「イジン男爵がお見えだ。扉を開けろ!」
「は、はい!」
エルディさんの怯えた様な声が気になって、玄関の様子が見えるところまで行くと、エルディさんが慌てた様子で扉を開けたところで、護衛らしき若い男性と一緒に気難しそうな小柄の中年の男性が入ってきました。
「人を探しているんだ。お前のところに若い女性がいるようだな?」
「いますが、どうされましたか?」
「クロフォード公爵夫人かもしれない。クロフォード公爵閣下が言うには、気まぐれな猫みたいな性格だが、見た目はとても可愛らしい方らしい」
へーブス伯爵もお髭がありましたが、この人も同じようなハの字型のお髭を持っておられ、イジン男爵は鼻の下にある髭を触りながら続けます。
「そのような若い女性を見なかったか?」
「あ、いえ、その…」
「あの、私がクロフォード公爵夫人です」
2人の元に近寄りながらエルディさんの代わりに、イジン男爵に向かって答えると、彼は訝しげな顔をします。
「どう考えても公爵夫人には見えないが…」
「でしたら、どんな人が公爵夫人に見えるのでしょうか?」
「少なくとも、お前の様な女ではない!」
「困りましたね。私が本人なのですが…。私の様な女性ではないという事は、もしかすると私は、エレノアではないのでしょうか?」
イジン男爵に聞いてみると、彼は怒って言います。
「そうだと言っているだろう! 変わった女だ! 偉そうにしやがって!」
「偉そうにされてるのはあなたですよ」
「俺は偉いからいいんだ!」
「偉ければ何を言ってもいいわけではないでしょう。それに、あなたよりも偉い人はたくさんいますよね?」
イジン男爵は私の問いには答えずに叫びます。
「お前を貴族に反逆した罪で捕らえてやる!」
「それはお断り致します。反逆もしておりませんし」
その時でした。
「エレノア! どこにいるんだ、エレノア!」
朝から近所迷惑になりそうなくらい大きな声で、旦那様が私の名前を呼んで…、ああ、私はエレノアではなかったんでした。
ですので、旦那様がエレノアさんを探しておられる声が聞こえます。
「クロフォード公爵、今、探しておりますので!」
イジン男爵が扉を開けて言うと、旦那様が眉間に深くシワを寄せて近寄ってきます。
「悪いな。エレノアを見つけてくれた者には、必ず褒美を与える」
「あの…」
旦那様がイジン男爵に言った時に、旦那様に話しかけます。
「私の名前はエレノアではないようなのですが、いつ改名したか旦那様は知っておられます?」
「……エレノア!」
私を見た旦那様が一瞬動きを止めた後、人目をはばからずに抱きしめてこられました。
「良かった! 君に何かあったらと…」
「あの、旦那様? 先程も言いましたが、私はエレノアではないようなのですが…。ですよね、イジン男爵?」
旦那様に抱きしめられた状態でイジン男爵の方に目を向けて尋ねると、イジン男爵の額に突然、大粒の汗が吹き出したのでした。
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