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24 すでに威厳があると思いますが
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セレナさんとは少しお話をしてから、部屋に飾る切り花を買って、店主さんやセレナさん達にお礼を伝えた後、私と旦那様は店を出ました。
帰り際にセレナさんと旦那様が話をしておられましたが、話を聞くのも悪いと思ったので、少し離れた場所で待っていました。
馬車に乗り込んで、屋敷に帰るのかと思いましたら、私が食べたいと言ったからか、馬車はカフェに直行し、美味しいケーキとお茶をいただきながら旦那さまと話をする事になりました。
「ラムダはセレナ嬢に認識されてもいないのか」
「そうみたいですね。たぶん、姿も見たことがないようでしたよ」
「話した事もないのに好きなのか? 一目惚れというやつだろうか?」
「そうかもしれませんね。セレナさんは可愛らしいですし」
「可愛いならエレノアも可愛いだろう」
「旦那様は視力検査をされた方が良いと思います」
「そんな事をしなくてもしっかり見えている」
旦那様は私のお皿にイチゴをのせると答えました。
旦那様はショートケーキを選ばれたのですが、ほとんど食べておられず、ケーキを一口サイズに切り分けては、食べ終わった私のお皿にのせてくれます。
何だか餌付けされているようです。
「旦那様も少しは食べて下さい」
「一口は食べた」
「もうお腹がいっぱいなのですか?」
「まあな」
旦那様が頷いたところで、チョコレートケーキが私の前に運ばれてきました。
「旦那様はチョコレートケーキはお嫌いですか?」
「甘いものは苦手だ」
「そうですか。では、護衛に付いてくれているどなたか、私とケーキを半分こしま」
「俺が食べる」
しませんか、と言いたかったのですが、旦那様に遮られてしまいました。
「甘いのが苦手だと言っておられませんでしたか?」
「きっとエレノアと分けるケーキは甘くない」
「甘いですよ」
「誰かと分ける場面を想像したら苦くなる」
「すごいです。スイートなチョコがビターになるわけですね!」
パチパチと手を叩くと、なぜか周りの護衛の方が苦笑して旦那様を見ていて、旦那様も苦虫を噛み潰したような顔になっています。
「では、旦那様、はい、口を開けて下さい!」
「どうするつもりだ?」
フォークで一口分切り分けてから差し出すと、旦那様が焦るので、笑顔で答えます。
「食べさせてさしあげようかと」
「そ、そんな、それは、こんな所では駄目だ」
「そうなのですか! でも、そう言われてみればそうですよね。大の大人が人前でそんな事をすべきではないですよね。きっと小説で読む様な話は学生の方の話なのかもしれません」
「それはフィクションの話だから、大人であってもおかしくはないと思うぞ。それに大人になっても仲が良い人間はそういう事をする人もいるだろう」
「では、私と旦那様は仲が良くない」
「そういう意味じゃない!」
微笑みながら旦那様にケーキを小皿に取り分けて渡すと、少しだけムッとした顔をされました。
難しいです。
何と言えば良かったのでしょうか。
「俺は公爵だし、君は公爵夫人だろう。人に見られてはいけないことでもないが、面白がられる可能性もあるから駄目だ。威厳がないと」
「旦那様は見た目だけで、すでに威厳があると思いますが」
「顔が怖くて悪かったな」
旦那様がご機嫌ななめになってしまわれました。
ここは私が悪いと思いますので、素直に謝る事にします。
「ごめんなさい、旦那様。旦那様の仰りたい事はわかっておりますよ?」
「……ならいいが」
「とにかく、ケーキを食べましょう!」
「そうだな」
そう言って、旦那様はチョコレートケーキをフォークで刺して口に入れて、すぐに難しい顔をされたのでした。
美味しくても甘いものが苦手な方にはそうなってしまうのでしょうね。
私だって美味しくても辛いものを食べた時にはそんな顔になりますから。
久しぶりに旦那様とのゆっくりした時間を過ごしたのですが、旦那様がカフェに寄ったのは、私を喜ばせる為だけではなかった事が、屋敷に帰ってすぐにわかったのです。
「遅かったじゃないですか!」
馬車から降りるなり、ラムダちゃんが屋敷から出てきて文句を言ってきました。
どうやら、扉の前で待っていたようです。
ちゃんと仕事してほしいです。
そう思っていると、ラムダちゃんが言います。
「お願いされていた仕事は終わりました! 今は休憩時間です!」
「ああ、そうだったのですね。それは失礼しました」
「どうして花屋に行くだけで、こんなに時間がかかるんですか!」
「別にいいだろう。帰りにエレノアとカフェに行っていただけだ」
「そ、そんな…! それなら、そうと…!」
ラムダちゃんは旦那様に対しては悲しそうな顔をした後、私の方を向いて叫びます。
「あなたが旦那様を連れ回したんですね!」
「連れ回してはいませんよ」
「違う。俺が連れて行ったんだ」
旦那様が庇って下さいましたが、ラムダちゃんの怒りはおさまりません。
「エレノア様が旦那様を駄目にしているんです! ちゃんと自覚して下さい!」
「自覚はしておりますよ。ですが、あなたにそこまで言われる筋合いはありません。今回に関してもケーキは食べたいと言いましたが、今すぐに連れて行ってくれとは言っておりませんから」
「言い訳ばかりしないで下さい! いつだってエレノア様は」
「酷いです!」
酷いです、という言葉は私が発したものではありませんでした。
ラムダちゃんの動きは止まりましたが、私の体は動きますので慌てて声のした方向に振り返ると、そこにはなぜか、セレナさんが立っていたのでした。
帰り際にセレナさんと旦那様が話をしておられましたが、話を聞くのも悪いと思ったので、少し離れた場所で待っていました。
馬車に乗り込んで、屋敷に帰るのかと思いましたら、私が食べたいと言ったからか、馬車はカフェに直行し、美味しいケーキとお茶をいただきながら旦那さまと話をする事になりました。
「ラムダはセレナ嬢に認識されてもいないのか」
「そうみたいですね。たぶん、姿も見たことがないようでしたよ」
「話した事もないのに好きなのか? 一目惚れというやつだろうか?」
「そうかもしれませんね。セレナさんは可愛らしいですし」
「可愛いならエレノアも可愛いだろう」
「旦那様は視力検査をされた方が良いと思います」
「そんな事をしなくてもしっかり見えている」
旦那様は私のお皿にイチゴをのせると答えました。
旦那様はショートケーキを選ばれたのですが、ほとんど食べておられず、ケーキを一口サイズに切り分けては、食べ終わった私のお皿にのせてくれます。
何だか餌付けされているようです。
「旦那様も少しは食べて下さい」
「一口は食べた」
「もうお腹がいっぱいなのですか?」
「まあな」
旦那様が頷いたところで、チョコレートケーキが私の前に運ばれてきました。
「旦那様はチョコレートケーキはお嫌いですか?」
「甘いものは苦手だ」
「そうですか。では、護衛に付いてくれているどなたか、私とケーキを半分こしま」
「俺が食べる」
しませんか、と言いたかったのですが、旦那様に遮られてしまいました。
「甘いのが苦手だと言っておられませんでしたか?」
「きっとエレノアと分けるケーキは甘くない」
「甘いですよ」
「誰かと分ける場面を想像したら苦くなる」
「すごいです。スイートなチョコがビターになるわけですね!」
パチパチと手を叩くと、なぜか周りの護衛の方が苦笑して旦那様を見ていて、旦那様も苦虫を噛み潰したような顔になっています。
「では、旦那様、はい、口を開けて下さい!」
「どうするつもりだ?」
フォークで一口分切り分けてから差し出すと、旦那様が焦るので、笑顔で答えます。
「食べさせてさしあげようかと」
「そ、そんな、それは、こんな所では駄目だ」
「そうなのですか! でも、そう言われてみればそうですよね。大の大人が人前でそんな事をすべきではないですよね。きっと小説で読む様な話は学生の方の話なのかもしれません」
「それはフィクションの話だから、大人であってもおかしくはないと思うぞ。それに大人になっても仲が良い人間はそういう事をする人もいるだろう」
「では、私と旦那様は仲が良くない」
「そういう意味じゃない!」
微笑みながら旦那様にケーキを小皿に取り分けて渡すと、少しだけムッとした顔をされました。
難しいです。
何と言えば良かったのでしょうか。
「俺は公爵だし、君は公爵夫人だろう。人に見られてはいけないことでもないが、面白がられる可能性もあるから駄目だ。威厳がないと」
「旦那様は見た目だけで、すでに威厳があると思いますが」
「顔が怖くて悪かったな」
旦那様がご機嫌ななめになってしまわれました。
ここは私が悪いと思いますので、素直に謝る事にします。
「ごめんなさい、旦那様。旦那様の仰りたい事はわかっておりますよ?」
「……ならいいが」
「とにかく、ケーキを食べましょう!」
「そうだな」
そう言って、旦那様はチョコレートケーキをフォークで刺して口に入れて、すぐに難しい顔をされたのでした。
美味しくても甘いものが苦手な方にはそうなってしまうのでしょうね。
私だって美味しくても辛いものを食べた時にはそんな顔になりますから。
久しぶりに旦那様とのゆっくりした時間を過ごしたのですが、旦那様がカフェに寄ったのは、私を喜ばせる為だけではなかった事が、屋敷に帰ってすぐにわかったのです。
「遅かったじゃないですか!」
馬車から降りるなり、ラムダちゃんが屋敷から出てきて文句を言ってきました。
どうやら、扉の前で待っていたようです。
ちゃんと仕事してほしいです。
そう思っていると、ラムダちゃんが言います。
「お願いされていた仕事は終わりました! 今は休憩時間です!」
「ああ、そうだったのですね。それは失礼しました」
「どうして花屋に行くだけで、こんなに時間がかかるんですか!」
「別にいいだろう。帰りにエレノアとカフェに行っていただけだ」
「そ、そんな…! それなら、そうと…!」
ラムダちゃんは旦那様に対しては悲しそうな顔をした後、私の方を向いて叫びます。
「あなたが旦那様を連れ回したんですね!」
「連れ回してはいませんよ」
「違う。俺が連れて行ったんだ」
旦那様が庇って下さいましたが、ラムダちゃんの怒りはおさまりません。
「エレノア様が旦那様を駄目にしているんです! ちゃんと自覚して下さい!」
「自覚はしておりますよ。ですが、あなたにそこまで言われる筋合いはありません。今回に関してもケーキは食べたいと言いましたが、今すぐに連れて行ってくれとは言っておりませんから」
「言い訳ばかりしないで下さい! いつだってエレノア様は」
「酷いです!」
酷いです、という言葉は私が発したものではありませんでした。
ラムダちゃんの動きは止まりましたが、私の体は動きますので慌てて声のした方向に振り返ると、そこにはなぜか、セレナさんが立っていたのでした。
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