後悔したくないので言わせてもらいますね

風見ゆうみ

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第二章

2  大丈夫じゃありませんよ

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「あなたがエレノアさん?」

 ミーウ王女殿下は旦那様から体を離し、反省しようとしていた私に近付いてきながら聞いてこられます。

「エレノア・クロフォードと申します。第二王女殿下にお会いできて光栄です」

 さすがの私も挨拶くらいはできますので、カーテシーをすると、ミーウ王女殿下は微笑んで言います。

「あら、思ったよりも可愛くないわね。普通といった感じかしら」
「ありがとうございます。もったいないお言葉です」

 普通という事は悪口ではないですからね。

 けれど、ミーウ王女殿下にしてみれば、悪口だったようで、眉をひそめて言います。

「褒めてなんかいないんだけど?」
「……それは申し訳ございません」

 深々と頭を下げると、旦那様が間にはいってこられました。

「ミーウ王女殿下、本日は失礼させていただきます」
「え? どうして!? まだ会ったばっかりじゃない! もっと、シークスと一緒にお話したいわ!」
「申し訳ございません。本日は気分が優れず…」
「何を言ってるのよ! 一時期は、パーティーに出席する事もなかったじゃないの! せっかく出席してくれる様になったんだから、私と一緒にいるべきだわ!」

 気分が優れないと言っているのに一緒にいろだなんて、ミーウ王女殿下は、私よりも冷たい方なのですね。
 こうなったら、妻として、旦那様を助けなければいけません!

「旦那様! 苦しいです!」
「ど、どうした、エレノア!?」

 私が胸をおさえてしゃがみ込んだので、旦那様の焦った声が聞こえます。

「じ…、持病のしゃくが…」
「持病のしゃく? しゃくとは何だ?」

 旦那様が焦った顔で聞いてこられます。

 持病のしゃく…。
 私も咄嗟に頭に出てきたので、何かはわかりません!

 何だか、胸をおさえたら頭に浮かんできたのです。
 でも、それを今、この場でお伝えする事はできないので、他の言葉で訴えてみます。

「胸が苦しいんです! なので、帰りたいです」
「そ、そうだな…」

 旦那様は頷くと、しゃがみ込んでしまった私の体を抱き上げたのです。

「だ、旦那様!?」
「体調が悪いんだろう? 大人しくしていてくれ」
「待って、シークス! 体調が悪いのなら、休ませてあげた方がいいでしょう! 部屋を用意させるわ。だから、泊まっていくべきよ」
「王女殿下、お気持ちはありがたいのですが、彼女は繊細でして、枕が変わると寝られないのです」

 それは間違っていません。
 ですが、こんなにたくさんの人の前でカミングアウトしなくても!

 で、ですが、ここは旦那様を助けるためです!
 我慢しましょう!

「では、家から枕を持って来ればいいじゃないの!」
「そんな事をするくらいなら、家に帰りたがるのが彼女です」

 なぜか誇らしげな旦那様。

 旦那様、そんなに偉そうな感じで言わないでくださいよ。

「シークス! 私は王女なのよ!? 私の命令に逆らってもいいと思ってるの!?」
「ミーウ、いいかげんにしなさい!」
「……お母様!?」

 なんと、ミーウ王女殿下の背後から現れたのは、王妃陛下でした。
 胸が苦しい設定ですが、治ったふりをして、挨拶をしようとした時、王妃陛下と目が合いました。

 すると、小さく首を横に振られたのです。

 もしかして、挨拶しなくてよいと言ってくださっているのでしょうか?

「だって、お母様、久しぶりにシークスに会えたのよ!? もっともっとお話したい!」
「ミーウ、いいかげんにしなさいと言っているでしょう? クロフォード公爵が奥様に夢中なのは社交界でも有名な話で、私達の耳にも届いているでしょう?」

 そ、そんな噂がまわっているのですか?

 ちらりと旦那様を見上げると、目があった瞬間、照れくさそうな顔をして頷かれました。

 否定しなくて良いんですか…?

「クロフォード公爵、エレノアさんを早くお家に連れて帰っておあげなさい」
「ご厚意に感謝いたします」

 旦那様は私を抱えているためか、軽く頭を下げると「失礼します」と言って歩き出しました。

「旦那様、あの、ありがとうございます。歩けますので…」
「馬車に乗るまではこのままだ…。ところで、エレノア」
「何でしょう?」
「君には持病があったのか?」
「…そうですね。性格が悪いという病気が…」

 ふぅ、とため息を吐くと、旦那様が笑顔で言います。

「大丈夫だ、エレノア。俺はそんな君も好きだからな」

 大丈夫じゃありませんよ。

 旦那様、やっぱり、私の事を性格が悪いと思ってらしたのですね…。





※ 持病のしゃく、ですが、時代劇をよく観ていたせいで、私の頭に思い浮かんだ事がエレノアに○の声の様に届きました。
意味は、胸やお腹のあたりに起こる激痛の総称だそうです。
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感想 59

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みんなの感想(59件)

pinkmoon
2023.07.21 pinkmoon
ネタバレ含む
2023.07.21 風見ゆうみ

そうなんです!
父が時代劇が好きで、子供の頃に観ていたんです。
そのせいで…(^_^;)
私もググってみたんですが、女性の月のものに関しても言うと書いてあって、色々と意味があるんだなあと思いました(*^^*)

ヒロインが変わっておりますので、どういう戦いになるのか(笑)

感想をいただき、ありがとうございました。

解除
2023.06.14 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

2023.06.14 風見ゆうみ

人の心の痛みを知るのは自分が同じ思いをしないといけないかな、と思いまして、この形にしました😅

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

解除
2023.06.14 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

2023.06.14 風見ゆうみ

ハムニャ様

下のとまとめてお返事させていただきますね。
鳴き声って日本と海外とは全然違うので、日本の中でも色々と表現があるのかなと思って聞いてみました。
基本はゴロゴロみたいですね(*^^*)
猫を飼ってた、うちの旦那に聞いても「ゴロゴロだけどゴロゴロではない。文章で表すならゴロゴロ」という曖昧な回答だったので、皆様にも聞いてみた感じです。

教えていただきありがとうございました✨

解除

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