婚約解消は諦めましたが、平穏な生活を諦めるつもりはありません!

風見ゆうみ

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25 こんな事になるはずがありません!

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 痛む足では、大して踏ん張りもきかず、私はカーミラ様に連れられ、フレイ様のいる地下牢の所まで来てしまいました。

「可哀想に、あなたのせいでフレイが可愛がっていたメイドは病院に送られたわ」

 3つある地下牢の1つを見つめながら、カーミラ様が言いました。
 メイド達は結局、精神を治療する病院に送られたようですが、未だ、良くはなっていないようです。

「メイドを思いやるような気持ちを他の女性に向けた事はなかったんですか?」
「どうして? 私にとってなんの役に立たない人間がどうなろうが知った事ではないでしょう」
「その理屈ですと、メイドの話は私に必要ありませんが? 彼女達は罰を受けただけです」
「冷たい人ね」
「あなたに言われたくありません」

 話をしていると、突然、声が聞こえてきました。

「誰かいるのか」

 フレイ様の声です。
 私が何も言わずにいると、カーミラ様がフレイ様のいる牢屋に近寄り、鉄格子の隙間から彼に触れようとされましたが、何かに弾かれたように後ろにさがられました。

「ああ、忌々しい! 魔法のせいでフレイに触れてあげられない」

 どうやら、カーミラ様が牢屋の鍵を魔法で壊せないようにしているだけでなく、フレイ様に鉄格子越しでも触れられないようになっているみたいです。

 これもアンジェ様の魔法なのでしょうか。
 彼女に出来ない事はないのかと思ってしまうくらいに、すごいのです。

「母上、どうしてあの女がいるんですか」

 フレイ様は薄汚れた顔をこちらに向け、私を憎々しげに見つめてきます。

「フレイ、あの女がいなくなれば、また今まで通りに戻れるわ。本当はあなたが自分の手で殺したいのだろうけれど、それは出来ないでしょう? だから、私が殺してあげる」

 私を睨みつけたカーミラ様の目は狂気に満ちています。
 
 息子が可愛いのはわかりますが、してはいけない事を叱るのも親ではないのでしょうか。

 カーミラ様がフレイ様の所に行かれたため、私のほうが階段に近い位置にいるので、このすきに逃げようと考えましたが、引きずった足ではすぐに捕まってしまい、カーミラ様は私の髪を引っ張り、フレイ様のいる牢屋の前まで引きずってきました。

 迷いがないせいか、すごい力です。

「他の令嬢の様に何も言わずに大人しくしていれば死なずに済んだのに」

 フレイ様が耳元で囁く様に言いました。

「あなた達がやった事は人として良くない事なのですよ?」
「なんとでも言えばいいわ。あなたがいなくなれば、全て元通りになるのだから」

 カーミラ様がフレイ様の代わりに答えました。

 その自信はどこからくるのでしょうか。
 カーミラ様は正気ではなくなっているようです。
 元々、どこかおかしい方でしたが、ここまでではなかったはずです。
 それだけ、私が来てから彼女の思うように、事が進まなくなったのでしょう。

「お前がいなくなれば、外に出られるんだ!」

 フレイ様はフレイ様で相変わらず、意味のわからない事を言っておられます。

 カーミラ様はドレスをまくり上げたかと思うと、レッグホルスターからナイフを抜かれました。
 
 魔法攻撃が駄目なら、という事でしょうか?

 冷静に考えている場合じゃありません。
 逃げないといけないのですが、背を向けるのも危険な気がしました。

「これは私達家族に対してした事への罰よ!」

 カーミラ様がナイフを両手で持ち、目をつぶって、刃先をこちらに向けて突進して来られた時でした。

「リノア様!」

 ミリー様が階段を駆け下りてきたかと思うと、私を抱き寄せて下さったため、カーミラ様の攻撃から私の身体は避ける事が出来ました。

「すみません、遅くなって! 今日は休みで…って」 

 ミリー様は私の視線の先を見て、言葉を止められました。
 なぜかというと、ナイフの先が、牢屋の中にいるフレイ様の腕をかすめていたからです。

「は、母上」
「……」

 カーミラ様は目をゆっくりと開けられ、自分が傷付けた相手がフレイ様だとわかると、ナイフを落とされて、半狂乱で叫ばれました。

「医者を! 早く医者を呼んで!」
「大丈夫です、母上」

 フレイ様は苦笑されましたが、突然、苦しみ始め、床に倒れられました。

「は、早く医者を呼んで!」
「医者をよぶのはいいですが、男はあなたの魔法で入れませんよ」

 ミリー様がナイフを蹴り飛ばして、カーミラ様から遠ざけて言うと、泣きながら叫ばれます。

「魔法は解除するわ! だからお願い!」

 フレイ様の顔色はどんどん悪くなり、もう意識も途切れてきています。
 腕をただ切られただけで、こんな事になるはずがありません!

「毒を塗ってたんですね…」

 カーミラ様を睨んでから、言葉を続ける。

「解毒の魔法は使えないんですか!?」
「使えないから言ってるんじゃない!」

 この国では回復魔法や解毒魔法を使える人間が少なく、カーミラ様でも無理なようです。
 となると。

「お医者様もそうですが、アンジェ様をお願いします! アンジェ様なら解毒も出来るはずです!」
「アンジェを早く連れて来い!」
「はい!」

 私が叫ぶと、魔法が解除されたため、階段を駆けおりてきたラルフ様が指示をし、ケイン様の返事が上の方から聞こえました。
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