【完結】捨てられた私が幸せになるまで

風見ゆうみ

文字の大きさ
7 / 28

6  誤算(レティシアside)

 自分にとって邪魔であるレティアを追い出したレティシアは、それはもう幸せな気持ちで一杯だった。

 彼女の中では、レイブンは自分に夢中だと思い込んでおり、突然、彼が家に訪ねてくるのも、自分へのプロポーズだと信じて、舞い上がっていたからだ。

 そう、レイブンの父、シブンから、婚約破棄を言い渡されるまでは。

「そちらに契約違反があった為、息子との婚約は破棄させてもらう事にする」
「…どういう事でしょうか?」

 シブンの言葉が信じられず、レティシアは震える声で聞き返した。

 ヘーベル家に、ニーソン家から、シブンにレイブン、そして、2人の護衛だという若い男性と少女がやって来ていた。

 4人を通した応接間で、シブンの向かいにヘーベル公爵が、レイブンの向かいに、レティシアが座っていた。
 護衛の2人は、レイブンとシブンの後ろに立って、レティシア達を見下ろしていた。

 彼女の問いかけに、レイブンが答える。

「君は、俺が今まで過ごしたレティじゃない」
「そ、そんな事があるわけないじゃない! どうしてそんな酷い事を言うの…」

(嘘よ。このわたくしが、あの女に負けるはずなんかない)

「酷い事? それは君の方だろ。俺は人を騙す様な女性と婚約するつもりはない。最初から、君が現れていれば良かっただけの話だ」
「ちょっと待ってくれ。婚約破棄なんてされたら、和平案はどうなるんだ!」

 ヘーベル公爵が叫ぶと、シブンが答える。

「王家の方には、そちら側が裏切ったと連絡させてもらう」
「待ってくれ!」

 ヘーベル公爵は立ち上がり、自分勝手な言葉を続ける。

「そんな事をされたら困る! それに、どうして今まで会ってきたレティシアが別人だとわかるんだ! 証拠もないだろう!」
「魔道士を馬鹿にしているあなたにはわからないでしょうが、流れている魔力が違う」

 レイブンが答えると、ヘーベル公爵は彼を睨みつけた。

(流れている魔力が違うだなんて、どうしたら、そんな事がわかるっていうの!?)

 レティシアは両親の影響もあり、魔道士の事については、魔法が使える平民というくらいの知識しかなかった。

 その為、魔力の流れを感じる事は出来たとしても、それによって個人が識別できるという知識はなかった。

 もちろん、そんな事が出来るのは、魔力量が多く、魔力のコントロールが正確に出来る、一部の魔道士だけなのだが。

「騙していた事はお詫びします。ですから、わたくしと結婚していただけませんか」

(わたくしは、どうしても、レイブン様と結婚したい!)

 そう願ったレティシアの言葉に、ヘーベル公爵の表情が歪んだ。
 けれど、レティシアはそんな事は一切、気にしない。

(このわたくしが頼むのよ。断るはずがないわ)

 レティシアは、レイブンが頷いてくれると、信じて疑わなかった。
 しかし、結果は違った。

「申し訳ないが、お断りする。俺が将来を誓い合ったのは君じゃない」

 レイブンが眉根を寄せ、厳しい口調で放った言葉を聞き、レティシアは叫ぶ。

「顔は同じではないですか! 性格はわたくしの方がよろしくってよ!」

 レティシアの言葉に、レイブンの後ろに立っていた護衛の男が鼻で笑った。
 
「何がおかしくって!?」
「うちの護衛が失礼した。おい、ノース、いいかげんにしろ」

 シブンはレティシアに詫びた後、後ろを振り返り、ノースと呼ばれた男を叱った。

(なんて失礼な男なの!)

「申し訳ございませんでした」

 ノースがレティシアに向けて頭を下げると、すぐに彼女の機嫌は直った。
 なぜなら、よく見てみると、ノースの顔立ちもレティシアにとっては好みだったからだ。

(レイブン様と結婚して、この男を愛人にするのはいいかも! 嫁いでしまったら、わたくしは元公爵令嬢になってしまうけど、レイブン様はいつか大魔道士と呼ばれるようになるだろうし、その夫人なんだから、好き勝手出来るわよね?)

「もちろん、許すわ」

 レティシアが笑顔で言うと、ノースはもう一度、軽く頭を下げた。

「妥協案がある。その条件をのめるなら、王家に報告するのはやめよう」

 シブンが言うと、ヘーベル公爵はホッとした様に息を吐き、ソファーに座り直すと先を促す。

「どんな妥協案なんだ?」
「身代わりにしていた少女の名は、レティアだな?」
「そうだ」
「レティアをレイブンと結婚させる。だから、レティアをこちら側に渡せ。王家にはうちの息子がヘーベル家のメイドに恋をしたとでも伝えてやる」
「そんなの駄目よ!」

 レティシアは立ち上がって、唾を飛ばしながら叫ぶ。

「レイブン様の妻になるのはこのわたくしです!」
「それは絶対にない」

 レイブンがきっぱりと答えて、レティシアを睨んだが、それは逆効果だった。

(ああ、わたくしになびかないなんて。しかも睨んだ姿も素敵! 絶対にわたくしのものにするんだから!)

「わかった。レティアを引き渡そう」
「お父様!?」
「そうしなかったら、今の様な贅沢は出来ないんだ。今回ばかりは我慢してくれ、私の可愛いレティシア」

 ヘーベル公爵がレティシアの頬を優しく撫でて言い聞かせようとする。

 けれど、レティシアはそんな事を気にしていられる場合じゃなかった。

(レティアを引き渡すですって!? あの子はもう、捨ててしまったわよ!)

 レティアを捨てたのは、レティシアの勝手な判断であり、ヘーベル公爵はまだ知らない。
 焦ったレティシアは父の手を振り払って立ち上がった。

「私、用事を思い出しましたから失礼いたします 。それから、婚約破棄はわたくしは認めませんので!」

 レティシアはレイブンに向かって叫ぶと、彼の返事を待たずに部屋から飛び出した。

(とにかく、レティアを連れ戻さないと。お父様に怒られちゃう!)

 レティシアは通りがかったメイドに叫ぶ。

「行きたいところがあるの。馬車を用意させて」
「承知しました!」

(どうして、あの女はわたくしの邪魔ばかりするのよ!)

 メイドが慌てて走っていくのを見送りながら、レティシアは大きく息を吐いた。

感想 25

あなたにおすすめの小説

処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!

秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。 民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。 「おまえたちは許さない」 二度目の人生。 エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。 彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。 1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。 「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」 憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。 二人の偽りの婚約の行く末は……

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

妹の身代わりに殺戮の王太子に嫁がされた忌み子王女、実は妖精の愛し子でした。嫁ぎ先でじゃがいもを育てていたら、殿下の溺愛が始まりました・長編版

まほりろ
恋愛
 国王の愛人の娘であるアリアベルタは、母親の死後、王宮内で放置されていた。  食事は一日に一回、カビたパンやまふ腐った果物、生のじゃがいもなどが届くだけだった。  しかしアリアベルタはそれでもなんとか暮らしていた。  アリアベルタの母親は妖精の村の出身で、彼女には妖精がついていたのだ。  その妖精はアリアベルタに引き継がれ、彼女に加護の力を与えてくれていた。  ある日、数年ぶりに国王に呼び出されたアリアベルタは、異母妹の代わりに殺戮の王子と二つ名のある隣国の王太子に嫁ぐことになり……。 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※小説家になろうとカクヨムにも投稿しています。 ※中編を大幅に改稿し、長編化しました。2025年1月20日 ※長編版と差し替えました。2025年7月2日 ※コミカライズ化が決定しました。商業化した際はアルファポリス版は非公開に致します。 ※表紙イラストは猫様からお借りしています。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

今、私は幸せなの。ほっといて

青葉めいこ
ファンタジー
王族特有の色彩を持たない無能な王子をサポートするために婚約した公爵令嬢の私。初対面から王子に悪態を吐かれていたので、いつか必ず婚約を破談にすると決意していた。 卒業式のパーティーで、ある告白(告発?)をし、望み通り婚約は破談となり修道女になった。 そんな私の元に、元婚約者やら弟やらが訪ねてくる。 「今、私は幸せなの。ほっといて」 小説家になろうにも投稿しています。

姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました

饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。 わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。 しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。 末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。 そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。 それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は―― n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。 全15話。 ※カクヨムでも公開しています