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6 誤算(レティシアside)
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自分にとって邪魔であるレティアを追い出したレティシアは、それはもう幸せな気持ちで一杯だった。
彼女の中では、レイブンは自分に夢中だと思い込んでおり、突然、彼が家に訪ねてくるのも、自分へのプロポーズだと信じて、舞い上がっていたからだ。
そう、レイブンの父、シブンから、婚約破棄を言い渡されるまでは。
「そちらに契約違反があった為、息子との婚約は破棄させてもらう事にする」
「…どういう事でしょうか?」
シブンの言葉が信じられず、レティシアは震える声で聞き返した。
ヘーベル家に、ニーソン家から、シブンにレイブン、そして、2人の護衛だという若い男性と少女がやって来ていた。
4人を通した応接間で、シブンの向かいにヘーベル公爵が、レイブンの向かいに、レティシアが座っていた。
護衛の2人は、レイブンとシブンの後ろに立って、レティシア達を見下ろしていた。
彼女の問いかけに、レイブンが答える。
「君は、俺が今まで過ごしたレティじゃない」
「そ、そんな事があるわけないじゃない! どうしてそんな酷い事を言うの…」
(嘘よ。このわたくしが、あの女に負けるはずなんかない)
「酷い事? それは君の方だろ。俺は人を騙す様な女性と婚約するつもりはない。最初から、君が現れていれば良かっただけの話だ」
「ちょっと待ってくれ。婚約破棄なんてされたら、和平案はどうなるんだ!」
ヘーベル公爵が叫ぶと、シブンが答える。
「王家の方には、そちら側が裏切ったと連絡させてもらう」
「待ってくれ!」
ヘーベル公爵は立ち上がり、自分勝手な言葉を続ける。
「そんな事をされたら困る! それに、どうして今まで会ってきたレティシアが別人だとわかるんだ! 証拠もないだろう!」
「魔道士を馬鹿にしているあなたにはわからないでしょうが、流れている魔力が違う」
レイブンが答えると、ヘーベル公爵は彼を睨みつけた。
(流れている魔力が違うだなんて、どうしたら、そんな事がわかるっていうの!?)
レティシアは両親の影響もあり、魔道士の事については、魔法が使える平民というくらいの知識しかなかった。
その為、魔力の流れを感じる事は出来たとしても、それによって個人が識別できるという知識はなかった。
もちろん、そんな事が出来るのは、魔力量が多く、魔力のコントロールが正確に出来る、一部の魔道士だけなのだが。
「騙していた事はお詫びします。ですから、わたくしと結婚していただけませんか」
(わたくしは、どうしても、レイブン様と結婚したい!)
そう願ったレティシアの言葉に、ヘーベル公爵の表情が歪んだ。
けれど、レティシアはそんな事は一切、気にしない。
(このわたくしが頼むのよ。断るはずがないわ)
レティシアは、レイブンが頷いてくれると、信じて疑わなかった。
しかし、結果は違った。
「申し訳ないが、お断りする。俺が将来を誓い合ったのは君じゃない」
レイブンが眉根を寄せ、厳しい口調で放った言葉を聞き、レティシアは叫ぶ。
「顔は同じではないですか! 性格はわたくしの方がよろしくってよ!」
レティシアの言葉に、レイブンの後ろに立っていた護衛の男が鼻で笑った。
「何がおかしくって!?」
「うちの護衛が失礼した。おい、ノース、いいかげんにしろ」
シブンはレティシアに詫びた後、後ろを振り返り、ノースと呼ばれた男を叱った。
(なんて失礼な男なの!)
「申し訳ございませんでした」
ノースがレティシアに向けて頭を下げると、すぐに彼女の機嫌は直った。
なぜなら、よく見てみると、ノースの顔立ちもレティシアにとっては好みだったからだ。
(レイブン様と結婚して、この男を愛人にするのはいいかも! 嫁いでしまったら、わたくしは元公爵令嬢になってしまうけど、レイブン様はいつか大魔道士と呼ばれるようになるだろうし、その夫人なんだから、好き勝手出来るわよね?)
「もちろん、許すわ」
レティシアが笑顔で言うと、ノースはもう一度、軽く頭を下げた。
「妥協案がある。その条件をのめるなら、王家に報告するのはやめよう」
シブンが言うと、ヘーベル公爵はホッとした様に息を吐き、ソファーに座り直すと先を促す。
「どんな妥協案なんだ?」
「身代わりにしていた少女の名は、レティアだな?」
「そうだ」
「レティアをレイブンと結婚させる。だから、レティアをこちら側に渡せ。王家にはうちの息子がヘーベル家のメイドに恋をしたとでも伝えてやる」
「そんなの駄目よ!」
レティシアは立ち上がって、唾を飛ばしながら叫ぶ。
「レイブン様の妻になるのはこのわたくしです!」
「それは絶対にない」
レイブンがきっぱりと答えて、レティシアを睨んだが、それは逆効果だった。
(ああ、わたくしになびかないなんて。しかも睨んだ姿も素敵! 絶対にわたくしのものにするんだから!)
「わかった。レティアを引き渡そう」
「お父様!?」
「そうしなかったら、今の様な贅沢は出来ないんだ。今回ばかりは我慢してくれ、私の可愛いレティシア」
ヘーベル公爵がレティシアの頬を優しく撫でて言い聞かせようとする。
けれど、レティシアはそんな事を気にしていられる場合じゃなかった。
(レティアを引き渡すですって!? あの子はもう、捨ててしまったわよ!)
レティアを捨てたのは、レティシアの勝手な判断であり、ヘーベル公爵はまだ知らない。
焦ったレティシアは父の手を振り払って立ち上がった。
「私、用事を思い出しましたから失礼いたします 。それから、婚約破棄はわたくしは認めませんので!」
レティシアはレイブンに向かって叫ぶと、彼の返事を待たずに部屋から飛び出した。
(とにかく、レティアを連れ戻さないと。お父様に怒られちゃう!)
レティシアは通りがかったメイドに叫ぶ。
「行きたいところがあるの。馬車を用意させて」
「承知しました!」
(どうして、あの女はわたくしの邪魔ばかりするのよ!)
メイドが慌てて走っていくのを見送りながら、レティシアは大きく息を吐いた。
彼女の中では、レイブンは自分に夢中だと思い込んでおり、突然、彼が家に訪ねてくるのも、自分へのプロポーズだと信じて、舞い上がっていたからだ。
そう、レイブンの父、シブンから、婚約破棄を言い渡されるまでは。
「そちらに契約違反があった為、息子との婚約は破棄させてもらう事にする」
「…どういう事でしょうか?」
シブンの言葉が信じられず、レティシアは震える声で聞き返した。
ヘーベル家に、ニーソン家から、シブンにレイブン、そして、2人の護衛だという若い男性と少女がやって来ていた。
4人を通した応接間で、シブンの向かいにヘーベル公爵が、レイブンの向かいに、レティシアが座っていた。
護衛の2人は、レイブンとシブンの後ろに立って、レティシア達を見下ろしていた。
彼女の問いかけに、レイブンが答える。
「君は、俺が今まで過ごしたレティじゃない」
「そ、そんな事があるわけないじゃない! どうしてそんな酷い事を言うの…」
(嘘よ。このわたくしが、あの女に負けるはずなんかない)
「酷い事? それは君の方だろ。俺は人を騙す様な女性と婚約するつもりはない。最初から、君が現れていれば良かっただけの話だ」
「ちょっと待ってくれ。婚約破棄なんてされたら、和平案はどうなるんだ!」
ヘーベル公爵が叫ぶと、シブンが答える。
「王家の方には、そちら側が裏切ったと連絡させてもらう」
「待ってくれ!」
ヘーベル公爵は立ち上がり、自分勝手な言葉を続ける。
「そんな事をされたら困る! それに、どうして今まで会ってきたレティシアが別人だとわかるんだ! 証拠もないだろう!」
「魔道士を馬鹿にしているあなたにはわからないでしょうが、流れている魔力が違う」
レイブンが答えると、ヘーベル公爵は彼を睨みつけた。
(流れている魔力が違うだなんて、どうしたら、そんな事がわかるっていうの!?)
レティシアは両親の影響もあり、魔道士の事については、魔法が使える平民というくらいの知識しかなかった。
その為、魔力の流れを感じる事は出来たとしても、それによって個人が識別できるという知識はなかった。
もちろん、そんな事が出来るのは、魔力量が多く、魔力のコントロールが正確に出来る、一部の魔道士だけなのだが。
「騙していた事はお詫びします。ですから、わたくしと結婚していただけませんか」
(わたくしは、どうしても、レイブン様と結婚したい!)
そう願ったレティシアの言葉に、ヘーベル公爵の表情が歪んだ。
けれど、レティシアはそんな事は一切、気にしない。
(このわたくしが頼むのよ。断るはずがないわ)
レティシアは、レイブンが頷いてくれると、信じて疑わなかった。
しかし、結果は違った。
「申し訳ないが、お断りする。俺が将来を誓い合ったのは君じゃない」
レイブンが眉根を寄せ、厳しい口調で放った言葉を聞き、レティシアは叫ぶ。
「顔は同じではないですか! 性格はわたくしの方がよろしくってよ!」
レティシアの言葉に、レイブンの後ろに立っていた護衛の男が鼻で笑った。
「何がおかしくって!?」
「うちの護衛が失礼した。おい、ノース、いいかげんにしろ」
シブンはレティシアに詫びた後、後ろを振り返り、ノースと呼ばれた男を叱った。
(なんて失礼な男なの!)
「申し訳ございませんでした」
ノースがレティシアに向けて頭を下げると、すぐに彼女の機嫌は直った。
なぜなら、よく見てみると、ノースの顔立ちもレティシアにとっては好みだったからだ。
(レイブン様と結婚して、この男を愛人にするのはいいかも! 嫁いでしまったら、わたくしは元公爵令嬢になってしまうけど、レイブン様はいつか大魔道士と呼ばれるようになるだろうし、その夫人なんだから、好き勝手出来るわよね?)
「もちろん、許すわ」
レティシアが笑顔で言うと、ノースはもう一度、軽く頭を下げた。
「妥協案がある。その条件をのめるなら、王家に報告するのはやめよう」
シブンが言うと、ヘーベル公爵はホッとした様に息を吐き、ソファーに座り直すと先を促す。
「どんな妥協案なんだ?」
「身代わりにしていた少女の名は、レティアだな?」
「そうだ」
「レティアをレイブンと結婚させる。だから、レティアをこちら側に渡せ。王家にはうちの息子がヘーベル家のメイドに恋をしたとでも伝えてやる」
「そんなの駄目よ!」
レティシアは立ち上がって、唾を飛ばしながら叫ぶ。
「レイブン様の妻になるのはこのわたくしです!」
「それは絶対にない」
レイブンがきっぱりと答えて、レティシアを睨んだが、それは逆効果だった。
(ああ、わたくしになびかないなんて。しかも睨んだ姿も素敵! 絶対にわたくしのものにするんだから!)
「わかった。レティアを引き渡そう」
「お父様!?」
「そうしなかったら、今の様な贅沢は出来ないんだ。今回ばかりは我慢してくれ、私の可愛いレティシア」
ヘーベル公爵がレティシアの頬を優しく撫でて言い聞かせようとする。
けれど、レティシアはそんな事を気にしていられる場合じゃなかった。
(レティアを引き渡すですって!? あの子はもう、捨ててしまったわよ!)
レティアを捨てたのは、レティシアの勝手な判断であり、ヘーベル公爵はまだ知らない。
焦ったレティシアは父の手を振り払って立ち上がった。
「私、用事を思い出しましたから失礼いたします 。それから、婚約破棄はわたくしは認めませんので!」
レティシアはレイブンに向かって叫ぶと、彼の返事を待たずに部屋から飛び出した。
(とにかく、レティアを連れ戻さないと。お父様に怒られちゃう!)
レティシアは通りがかったメイドに叫ぶ。
「行きたいところがあるの。馬車を用意させて」
「承知しました!」
(どうして、あの女はわたくしの邪魔ばかりするのよ!)
メイドが慌てて走っていくのを見送りながら、レティシアは大きく息を吐いた。
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