【完結】捨てられた私が幸せになるまで

風見ゆうみ

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25 それぞれのその後 1

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 レイブンとアメリアがフォーウッド様や、その子分の人達を警察に引き渡し、敵対している公爵家に連絡をしたりしている間に、私とノースは、レイブンの家に行く事になった。

 なぜなら、フォーウッド様が私を見つけて、フォーウッド様を探していたレイブンが彼を不法侵入の現行犯でとりおさえ、その際に私を見つけ出したという事になったから、もう隠れる必要はなくなったのだ。

 もちろん、それ以外にも理由があるのだけれど…。

 ティリー達には改めて、お別れを言うことにして、ノースを休ませる為に、先に連れて帰ってもらう事にした。

 ミントは警察には引き渡さず、南側で裁判をかけられる事になったので、彼女も連れて帰られた。
 ミントの旦那さんは、レイブン達の師匠の屋敷で働いていて、騒ぎを聞きつけた旦那様が、師匠の手を借りて、ミントを迎えに来た。

 レイブンから事情を聞いた旦那さんは、レイブンやノースに向かって、床に額をつけて謝った。
 そして、私にも迷惑をかけたと謝ってくれた。

 ミントは旦那さんと一緒に、南の警察に自首した。
 自首すれば、罪は軽くなるから。

 ミントは私達に謝ってくれた。
 だけど、やった事の罪は重い。
 さすがに、示談にするわけにはいかなかった。



 そして、私がレイブンの家でお世話になり始めて10日後。

 ミントの裁判は始まっていた。
 この国の裁判は、陪審員制。
 裁判に時間をかけられないという事で、始まってから遅くとも七日で終わる。
 
 ミントはすでにニーソン家から解雇はされているけれど、ノースを刺した事に関しては解雇どころでは済まされない事だから、刑事事件として扱われた。

 ミントは、私とノースの事を知って、本当にショックを受けたらしく、法廷に現れた彼女は、まるで別人の様に暗い表情でやつれていたらしい。

 らしい、というのは、私は見に行けていないから。

 私が南に保護されたという話は北側の人間に伝えられているので、私が南の方で姿を見せても、何も問題はないのかもしれないけれど、ヘーベル公爵家が私を狙ってくる可能性があるから、レイブンの家で大人しくしている様にと言われている。

 フォーウッド様が警察に捕まった後は、ヘーベル家がお金をつんで、釈放を試みたけれど、敵対する公爵家が、それを認めなかった為、なんと、ヘーベル家はその公爵家に宣戦布告した。

 正気の沙汰とは思えないけれど、もう自棄になってしまっていたのかもしれない。

 ヘーベル公爵家と敵対している公爵家が戦争を始めたけれど、すぐに勝負がついた。
 なぜなら、ヘーベル家の後釜を狙う公爵家が敵対側についたから。
 何より、敵対側にはフォーウッド様という人質がいるのだから、戦争なんかしなくても勝負は目に見えていた。

 戦争を始めて5日後に、ヘーベル公爵家は白旗をあげた。
 ヘーベル公爵の爵位は当たり前だけれど剥奪され、現在、捕虜として捕まっており、話を聞いたところ、処刑はされずに、敵公爵側の使用人として、こき使われるのではないかという話だった。

 プライドの高いヘーベル元公爵だから、きっと屈辱的なはず。
 ちなみに、ニーソン家で捕まっていたベーゼフさんも、その屋敷に送られたらしい。
 
 シブン様が言うには、どうしても使用人にしてほしいみたいだったから、公爵家の使用人にしてやる事にしたと言っていた。

 ヘーベル公爵家と敵対していた公爵は、南の魔道士に友好的で、シブン様との関係も悪くなかったから、事情を知っているので、多くの人が嫌がる仕事を任せられ、公爵にこき使われる事になるだろうという事だった。

 ヘーベル公爵家が大人しくなったからとはいえ、彼を心酔していた人達からの逆恨みにより、私を狙う可能性もあるし、何より、魔道士を狙う気持ちも消えるわけがないだろうから、しばらく警戒は怠らないようにして、私は屋敷を出る事を控えているのだ。

 今日は、アメリアが私の部屋にやって来てくれたので、ティーテーブルをはさんで向かい合って座り、お茶を飲みながら話をしていた時に、ミントの話題を振ってみた。

「ミントの刑はどうなるかしら」

 アメリアは少し考えた後、口を開く。

「本人が反省しているという事と、ノースが重い罪を望んでいませんので、多少の情状酌量はあると思いますが、今回、ノースを刺した理由が理由です。子供や夫がいるのに、思い込みで暴走し、仲間を刺すだなんてありえません。陪審員の心象は良くないでしょうね」
「そうよね。でも、ミントがあんな行動をするだとは思ってもみなかったわ」
「ノースも彼女が裏切ったとはいえ、反省してくれると思っていたから背を向けたんだと思います。それは仲間だったという信頼からです。それを裏切ったんですから…。普通の精神状態ではなかったんでしょうけど…」
「そうよね。私だって、ノースが背を向けたから良くないだなんて思わないわ。だって、仲間がそんな事をするだなんて思えないもの。それに、何かするなら魔法を使うと思っていたわ」

 魔法を使う場合は、魔力の流れが変わるから、ノースもすぐに気付けたはず。
 だけど、まさか、短剣を持っているだなんて、私もノースも思っていなかった。
 甘い考えだと言われてしまえばそうかもしれないけれど、仲間をそんなに簡単に悪人だとは思えない。
 私だって、未だに、ミントがあんな事をしただなんて信じられないもの。

 ただ、ノースは言っていた。
 
『家族の事を一番に考えてほしかった』

 そうよね。
 私もノースも両親と一緒に過ごせた時間が、他の人よりも短い。
 だから、家族と過ごす事の大切さを知っている。

 ミントの子供はまだ小さい。
 だから、出来れば、懲役は短くなる事を祈っている。
 ミントの子供は、これから、大きくなった時に、ミントの件を知る事になるかもしれない。
 それがいじめの原因になったりしなければ良いけれど…。

 そういえば。

「ミントの旦那様は何か仰ってるの?」
「ノースやレティア様に謝りたいとは言っていますが、ミントとこれからどうするかについては、何も聞いていません。こちらから聞く事でもないかと思いますし」
「それもそうね…」

 誤解させてしまった事は申し訳ないと思うけど、こればっかりは、庇ってあげられない。

 ミントはノースを殺すつもりはなかったと証言している。
 頭に血が上って気が付いていた時には刺していたと。

 その為、今回は殺人未遂罪ではなく、傷害罪での起訴になる。
 懲役刑となった場合は、魔道士のみが入る刑務所に入れられ、魔力が封じられた空間で罪を償う事になる。

「そういえば、今日はレイブン様はお出かけされているんですね。ノースと一緒に裁判所ですか?」

 私が暗い表情になったからか、アメリアが明るい声で話題を変えた。

「裁判所ではないみたい。北に行くと言ってたから」
「北に?」

 アメリアが不思議そうに聞き返してきた。

「ええ。そう言っていたわ。用事があるからって」
「今更、北に何の用事があるんでしょうか…」
「わからないけれど、それより、アメリアに聞いてもいい?」
「何でしょう?」
「これは女友達としての会話よ? 嫌だったり不快に思ったりしたら答えなくてもいいから」
「どんな事でしょうか」

 アメリアが緊張した顔で聞いてくるから、申し訳ないなと思いつつも聞いてみる。

「アメリアは、私のお兄ちゃんの事をどう思ってるの?」
「えっ!?」
「あ、その、嫌なら答えなくていいのよ? こんなプライベートな事、私には聞かれたくないならいいの」
「いえ、そういう訳ではないんです! 私、あまり友人とそんな話をした事がないもので…」
「私もないの! 攫われてからは特に、友達なんて出来る環境ではなかったし、で、どうなの?」

 私にしてみれば、友人との人生初の恋バナだから、アメリアがどんな答えを返してきても、ノースには悪いけれど、どっちでも良かった。

 薄情な妹よね。

「…そうですね」

 アメリアが、白い頬をピンク色に染めて、気分を落ち着かせるかの様にお茶を一口飲んでから、カップをソーサーに戻した時だった。

 コンコン。
 
 ノックの音と共に、ノースの声が聞こえた。

「今日の裁判は、終わったぞー! アメリア来てるんだろ? レティア、ちょっとだけ、お兄ちゃんにアメリアという癒やしをくれ!」
「……」

 アメリアが無言で扉の方を睨んだ。

 うーん。
 これは、良くない状況かもしれない。

「あの、アメリア?」
「レティア様」
「…何?」
「申し訳ございません。ないです」
「あ、えっと。今回は、その、たまたまよ。普段は、そうでもないから」
「ないです」

 アメリアは立ち上がると、私に軽く一礼してから、扉に近付いていく。

 ああ、ごめんなさい、お兄ちゃん。
 わざと止めない、私を許してね。

「レティアー! 聞いてる? なぁ、お兄ちゃんと話を」
「うるさいっ!!」

 アメリアが扉を開け、そう叫んだかと思うと、すぐに扉を締めて鍵をかけた。

「ちょ!? アメリア!? 何で怒ってんの!? お前ら、ミントの話を聞きたくねぇの!?」

 ミントの話は聞きたかったけれど、アメリアの頬が、いつもの色に戻るまでは、そのままにさせてもらった。

 だって、結果は逃げないもの。
 今は、友達の方が大事だわ。

 数分後、許されて入ってきたノースは、ミントの刑が確定した事を教えてくれた。

 懲役は二年。
 模範囚であれば、仮釈放も認められるとの事だった。
 
 この頃、レイブンはフォーウッド様の様子を見に行っていて、そこで、レティシア様と遭遇してしまった事を、この時の私は知らなかった。

 
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